【キーワード】ケインズ経済学(Keynesian economics)とは、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズの思想に基づき、政府がお金の使い方を調整することで不況を乗り越えようとする考え方です。この学派では、経済を個人の行動の集まりとしてではなく、社会全体の需要や供給といった大きな塊、つまり「マクロ」の視点で捉えるのが特徴です。具体的には、景気が悪くなって失業者が増えるのは、社会全体の「需要」が足りないからだと考えます。そのため、政府がわざと税金以上の支出を行う「財政赤字」を出して公共事業などにお金を使い、無理やりにでも需要を作り出すことでフル雇用を目指すべきだと提唱します。逆に、世の中にお金が回りすぎて物価が上がるインフレの時には、政府が人々の使えるお金を吸い上げることで、過剰な支出を抑える役割を担うべきだとされています。
しかし、こうしたケインズ的な政策には多くの批判も存在します。例えば、自由な市場を重視するオーストリア学派の視点から見ると、政府が借金をしてまでお金を使うことは、本来なら民間の工場や設備に使われるはずだった貴重な資源を政府が奪い取ってしまう行為に他なりません。これを「クラウディングアウト」と呼び、将来の世代が受け継ぐはずの工場や機械が減ってしまい、結果として未来を貧しくさせる要因になると指摘されています。また、政府は民間企業のように利益を出す必要がないため、その支出が本当に国民の役に立っているのかを測る客観的なものさしを持っていません。そのため、どれほど人助けをしたいと願っても、実際には目隠しをしたまま飛行機を操縦しているような危うい状態にあるといえます。
さらに、ケインズ経済学は経済を数式やグラフで説明しようとしますが、これは人間の複雑な行動を単純化しすぎているという批判もあります。現実の経済は、何百万もの異なる個人が、それぞれの目的を持って行動する結果として成り立っています。これらを「消費者」や「労働」といった一括りの言葉で処理し、政府がコントロールできると考えるのは、傲慢な姿勢といえるでしょう。たとえ政府の介入によって一時的に景気が良くなったように見えても、それは市場が本来持っている調整機能を歪めているだけであり、長期的にはより大きな不況を招く恐れがあるのです。私たちは、目に見える政府の支出だけでなく、その裏側で失われている民間の可能性や将来の負担にも目を向ける必要があります。