【キーワード】トレードオフ(tradeoff)とは、私たちが何かを手に入れようとする時、必ず別の何かを諦めなければならないという、逃れることのできない「二者択一」の関係を指します。この概念は、オーストリア学派経済学の核心である「人間の行為」を理解する上で非常に重要です 。なぜなら、私たちの周りにある資源や時間には限りがある一方で、かなえたい欲望には限りがないからです 。何か一つの目的を達成するために自分の能力や時間、お金を使えば、それを別の目的のために使うことは物理的に不可能になります 。
例えば、あなたが休日を家でゆっくり過ごすと決めたなら、その同じ時間を使って車で遠出することはできません 。また、手元にある1万円でおいしい食事をすれば、そのお金で新しい本を買うことはできなくなります 。貯金をする場合でも、今そのお金を使って楽しむことを将来のために諦めるという選択が必要です 。このように、私たちの人生は朝起きてから寝るまで、常に無数のトレードオフの連続で成り立っています 。何かを選び取るということは、同時に「選ばなかった方」を捨てる行為でもあるのです 。
経済学では、この時に諦めた選択肢の中で最も価値が高いものを「機会費用」と呼びます 。プロの職人に頼めば50万円かかる家の修理を、自分で道具を揃えて10万円で済ませたとしましょう。一見すると40万円得したように思えますが、もし修理に100時間を費やし、その時間を使って仕事で80万円稼げたはずだとしたら、実は目に見えない大きな損失を出していることになります 。自分自身の時間という最も希少な資源をどう配分するかという問いにおいて、トレードオフの視点は欠かせません 。
この考え方は、政府の政策を評価する際にも役立ちます 。例えば、政府が特定の研究に多額の税金を投じると決めた時、そのお金は他の医療や教育に使えたはずのものです。オーストリア学派は、目に見える成果だけでなく、その裏で何が犠牲になったのかという「見えないコスト」を直視すべきだと説きます 。私たちは魔法使いではないため、すべての望みを同時にかなえることはできません。自分にとって何が本当に大切なのかを順位づけし、納得のいく選択を積み重ねていくことこそが、経済的に生きるということの正体なのです 。