2018-06-30

輸入を許したら負けなのか

貿易交渉に関する政府の言い分を聞いていると、ある間違った考えが頭にすり込まれそうになります。それは「輸入は悪」「輸入を許したら負け」という考えです。

日経電子版によれば、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉で、EU側がチーズに対する関税の早期削減・撤廃を要求するのに対し、日本政府は「環太平洋経済連携協定(TPP)以上の譲歩はできない」と反論しているそうです。「譲歩」という表現が示すのは、「輸入を増やしたら負け」という考えです。

しかしもちろん、この考えは正しくありません。消費者の立場からみれば、購入できるチーズの選択肢が広がるのは、良いことです。悪いことでも負けでもありません。

消費者ではなく、国産チーズの生産・販売にかかわる農家や企業からみれば、チーズの輸入拡大は、たしかに「悪いこと」でしょう。しかし、だからといって政治の力に頼って輸入を妨げ、消費者の選択肢を奪う権利はないはずです。日本が市場経済の国なら、輸入を認め、市場競争で勝負するのが筋でしょう。

日本政府が欧州案を突っぱねられない場合、チーズの成分などをもとに関税上のチーズの区分けを細かくし、国産と競合しにくい品目のみ関税を撤廃する案が浮上しているそうです。やれやれと言いたくなります。

こうした政治的事情による細かい無数のルールを盛り込むから、貿易交渉は長い時間がかかり、協定の文書はとても読み通せない膨大なものになるのです。(2017/06/30

2018-06-29

タンス預金は悪なのか

ビットコインなど仮想通貨が金融の最先端として話題となる昨今、タンス預金というといかにも時代遅れのダサいもののように思われています。それどころか最近は、マイナス金利政策の効果をそぐので、経済にとって悪だという意見も目にします。タンス預金って、そこまで責められなければならないものなのでしょうか。

本日付日経の「経済教室」(白井さゆり・慶応義塾大学教授)は、この問題について考えるヒントになります。マイナス金利政策の効果が今一つな日本と対照的に、スウェーデンでは効果が出ているそうです。その理由の一つは、スウェーデンはデジタル通貨社会への移行が進み、そもそもタンス預金にする現金が少ないからだといいます。

もし日本政府が通貨のデジタル化を推し進め、極端な場合、現金を廃止してしまえば、タンス預金はできなくなり、マイナス金利政策の効果は今より大きくなるでしょう。

ただし、それが私たち市民にとって良いことかどうかは別問題です。銀行が預金金利をマイナスにしたり、諸手数料を引き上げて実質マイナスにしたりしても、黙って耐えるしかないのですから。

言うまでもありませんが、お金は私たちの大切な財産です。金融政策に都合が良くないとか、ダサいとかいう理由だけでタンス預金を厄介扱いする風潮には、ちょっと待ったと言いたくなります。(2017/06/29