【キーワード】無人島に漂流したロビンソン・クルーソーが、素手で魚を捕るよりも、あえて空腹を我慢して網を作る時間を作ったらどうなるでしょうか。実はこの「網」こそが、私たちの生活を豊かにする鍵である「資本財(capital goods)」の正体なのです。
資本財とは、将来的に私たちが直接消費する「消費財」を作り出すために使われる、人間によって作られた「中間的な財」のことを指します。オーストリア学派の視点では、これは単なる機械や道具といった「物」としての側面だけでなく、私たちの目的を達成するための「時間」を節約し、生産性を高めるための手段として捉えられます。
例えば、手で直接リンゴを摘む代わりに、長い棒を作って叩き落とすとします。この棒はそれ自体を食べることはできませんが、リンゴをより効率的に手に入れる助けになります。オーストリア学派の創始者であるメンガーは、リンゴのように直接欲求を満たすものを「低次の財」、棒のようにそれを作るための手段を「高次の財」と呼び、資本財を生産プロセスの時間的な段階として位置づけました。
ここで非常に重要なのが「時間」との関係です。資本財を作るためには、今すぐ手に入る満足を後回しにする「貯蓄」が必要です。今の消費を控えて、将来のより大きな収穫のために労力を投資する。これをオーストリア学派では「迂回生産」と呼びます。直接的な方法よりも遠回りな方法をとることで、結果としてより多くの、あるいはより質の高い物を得ることができるようになるのです。いわば「急がば回れ」です。
資本財は単なる数字の塊ではなく、それぞれが特定の目的のために組み合わされた「構造」を持っています。例えば、パンを焼くためのオーブンは、小麦粉という別の資本財があって初めてその価値を発揮します。このように、一人ひとりの人間が持つ将来の計画に合わせて、複雑に絡み合いながら私たちの生活を支えているのが、オーストリア学派が解き明かした資本財の真の姿なのです。
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