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「反インフレ経済勉強会」開講のお知らせ

インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説 (MMT=現代貨幣理論など) によっ...

2023-07-18

忘れられた恐慌

今、経済恐慌が起こったら、政府はどうするだろう。ただちに「経済対策本部」のような組織を立ち上げ、財政支出や金融緩和など、思いつく限りの対策を打ち出し、実行するに違いない。今の世の中では、政府が経済に介入するのは当然で、とりわけ不況時には介入が義務だと信じられているからだ。

ウォレン・ハーディング

しかし、かつてはそうではなかった。不況は政府が介入しなくても自然に回復するし、むしろ介入しないほうが早く立ち直ると認識されていた。事実、恐慌を放置し、それによって深刻な景気後退を短期で脱したケースもある。代表例は、第一次世界大戦(1914~1918年)終結後まもなく、戦時景気の反動で米国を襲った1920年恐慌だ。

1920年恐慌といわれても、聞いたことのない人が多いことだろう。無理もない。10年以上続いた1930~40年代の大恐慌などに比べると、きわめて短期間に終ってしまい、後世の記憶にほとんど残らなかったからだ。いわば「忘れられた恐慌」である。しかし瞬間風速でみた不況の厳しさは、大恐慌をしのいだ。

失業率は4%から12%近くに跳ね上がり、国民総生産(GNP)は推定で1920年の915億ドルから1921年の696億ドルまで24%落ち込んだ。卸売物価指数は1年間で36.8%、消費者物価指数は15.8%下落した。このデフレは大恐慌のどの時期よりも厳しい。また1920年1月から翌年8月にかけて、ダウ・ジョーンズ工業株平均は119.6ドルから63.9ドルまで下落した。47%もの急落である。

このとき新任大統領として登場したのが、「常態に帰れ」をスローガンに当選したウォレン・ハーディング(在任1921~1923年)である。

ハーディングといえば日本ではほとんど無名だが、米国でも愛想はいいが無知で凡庸な人物というイメージが流布している。しかし愚かではなかった。市場経済への介入に反対する古典的な哲学を抱き、政府が身を縮めれば不況は自然に良くなると確信していた。

大統領選中の1920年5月の演説で、こう語っている。

「現在アメリカに必要なことは英雄的行為ではなく療養です。インチキ政策ではなく常態です。改革ではなく復旧です。……手術ではなく安静です」(ポール・ジョンソン『アメリカ人の歴史』)

ハーディング政権が行った政策は、その言葉どおりのものだった。戦争中に膨らんだ財政規模を縮小し、金利を人為的に低く抑えることをやめたのである。連邦政府の支出を1920年の63億ドルから1922年には32億ドルとほぼ半減させた。すべての所得層に対して税率を引き下げ、政府債務を3分の1まで削減した。中央銀行である連邦準備理事会(FRB)は静観し、金融を緩和しようとしなかった。

こうした自由放任政策の結果、1921年の晩夏には早くも経済回復の兆しが見えた。翌年には失業率は6.7%まで低下し、1923年にはわずか2.4%になった。GNPは1922年に741億ドルまで回復した。ハーディングの考えどおり、政府が過保護な介入を控えたことで、市場経済は自らを癒やしたのである。

米作家ジェームズ・グラント氏は、1920年恐慌を描いた著書『忘れられた恐慌』で、こう述べる。

「この物語の主人公は、価格メカニズム、アダム・スミスの見えざる手である。市場経済では、価格が人間の努力を調整する。価格が投資、貯蓄、労働の経路を決めるのである。価格が高ければ生産は促進されるが、消費は抑制される。1920年から21年にかけての恐慌は、物価の急落によって特徴づけられた。しかし、物価と賃金が下落したのはそこまでだった。消費者を買い物に、投資家を資本投下に、雇用主を雇用に誘うのに十分な低さになってから、物価と賃金は下落を止めた。物価と賃金の下落によって、米経済は回復したのである」

興味深いのは日本との対比だ。同じく1920(大正9)年に戦後の反動恐慌に見舞われた日本政府は、自由放任に徹した米国とは対照的に、財政や金融をさらに膨張させた。これに対し米チェース・ナショナル銀行のエコノミストなどを務めたベンジャミン・アンダーソン氏は、のちにこう辛辣に批判した。

「大銀行、寡占企業、政府が結託して市場の自由を損ない、商品価格の下落を阻み、世界の物価は下落しているのに7年間にわたり国内の物価水準をそれより高く保った。この間、日本は繰り返し不況に見舞われ、あげくの果てに1927年(昭和2年)には激しい金融恐慌が起こり、多数の銀行と企業が破綻した。馬鹿げた政策だった。日本は1年分の在庫の損を避けるために、7年を失った」

日本政府は1990年代のバブル崩壊後、財政支出と金融緩和で同じ過ちをさらに大規模に繰り返し、30年を失った。その過ちを反省してもいないから、また恐慌が起こっても、ハーディング大統領のように賢明な対応はまったく期待できない。

<参考資料>
  • ポール・ジョンソン『アメリカ人の歴史』第3巻(別宮貞徳訳、共同通信社、2002年)
  • James Grant, The Forgotten Depression: 1921: The Crash That Cured Itself, Simon & Schuster, 2015. [LINK]
  • Benjamin Anderson, Economics and the Public Welfare: A Financial and Economic History of the United States, 1914-1946, Liberty Fund, 1980. [LINK]
  • Not-So-Great Depression | Cato Institute [LINK]
  • The Forgotten Depression of 1920 | Mises Institute [LINK]

2023-07-17

フラット税が暴政になる時

所得税などの税率を累進課税でなく、一律にするフラットタックス(フラット税)は、うまく使えば減税につながる仕組みだが、必ずそうなるとは限らない。むしろ増税になってしまう場合もある。その皮肉なケースを紹介しよう。舞台は米占領軍支配下のイラクだ。

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倒されるサダム・フセイン像


今から20年前の2003年3月20日、米軍がイラクの首都バグダッドを空爆し、イラク戦争が始まった。独裁者サダム・フセイン大統領の政権は3週間で崩壊し、米国率いる連合国暫定当局(CPA)による統治が始まる。米ブッシュ(子)共和党政権から派遣されたポール・ブレマー代表が2004年1月、イラクに導入したのがフラット税だ。所得税、法人税の税率を15%とした。当時のワシントン・ポスト紙によれば、ブレマー代表は導入を控えた秋、米議会での証言で「イラクの新しい税制は見事なまでにわかりやすい」と自画自賛した。

フラット税の税率15%は、2000年の米大統領戦で出版業者スティーブ・フォーブス氏が提案した17%よりも低い。この税制改革により、フラットになった所得税・法人税のほか、不動産税、自動車販売税、ガソリン税、高級ホテル・レストラン税を残し、他のすべての税を廃止した。

ところがイラクの市民にとっては、増税だった。なぜなら二十数年続いたフセイン政権下で、イラク人は関税以外に税金を払っていなかったからだ。中東諸国でよくあるように、多くの産業が国有化され、政府は石油収入で財源を賄っていた。「フセイン政権は中東の他の国々と同様、徴税をほとんど強制しなかったため、イラクには納税の歴史がない」とポスト紙は書く。

もともと豊かとはいえず、戦争でさらに貧しくなったイラクの庶民には重い税負担だ。税負担を和らげるはずのフラット税は、状況次第で暴政になりうるのだ。一方でブレマー代表は、連合軍当局、軍隊、その請負業者など占領軍関係者を課税から免除した。

税金を取るのが仕事の政府当局が、フラット税の美名を利用して、巧みに税を搾り取ろうとするのは理解できる。だが困ったことに、米国の減税派論客とされる人々までが、イラクのフラット税導入をほめたたえた。

「非常に良いニュースだ」と、全米税制改革協議会議長のグローバー・ノーキスト氏はポスト紙に語った。作家アミティ・シュレーズ氏は「このような低税率は、イラクを香港並み〔の豊かさ〕にするだろう」と英フィナンシャル・タイムズ紙に答えた。保守系シンクタンク、ヘリテージ財団研究員(当時)のダニエル・ミッチェル氏は同財団のホームページで、「イラク経済の回復に役立つ」「米国の対外援助を削減する」などと予想されるメリットを列挙した。残念ながらその後、それらのメリットが実現したという話は聞かない。

ノーキスト氏らが日ごろ展開する減税論には大いに賛成だが、イラクの件については、フラット税という形式に目を奪われて、冷静な判断ができていないように思える。重要なのは税の形式ではない。減税という中身だ。

フラット税を推奨する議論で気になるのは、「税率は高すぎないほうが税収は増える」という点をメリットとして強調することだ。「ラッファー曲線」と呼ばれる説で、高すぎる税率は税収を減らすという。

この説がかりに正しいとして、そこで忘れられている問いがある。「税収が増えるのは、増税ですよね?」という素朴な問いだ。増税になるのに、それを良いことであるかのように語るのはおかしい。

フラット税を支持する減税派はおそらく、「税収が増えたら減税を求める」と答えることだろう。そうするべきだ。だがそれなら初めから、フラット税という形式にこだわらず、減税だけに焦点を絞るのがいい。

<参考資料>
  • U.S. Administrator Imposes Flat Tax System on Iraq - The Washington Post [LINK]
  • Tyranny, Thy Name is Flat Tax | Mises Institute [LINK]
  • If a Flat Tax is Good for Iraq, How About America? | The Heritage Foundation [LINK]

2023-07-15

フラット税より人頭税を!

減税につながるとして注目される税制改革のアイデアに、「フラットタックス」(フラット税)がある。所得税について、所得が増えるほど税率が上がる累進課税をやめ、原則同じ税率にするものだ。しかし、フラット税が本当に減税につながるかどうかは、いろいろ疑問がある。


フラット税の導入を唱える人々は、いくつかの利点をあげる。①簡素で理解・申告しやすい②税理士や弁護士に費用をかけなくて済む③他の税金がなくなる④経済成長を促す⑤公平である——などだ。

しかしこのうち、まず①と②は減税とは関係ない。どんなに税がシンプルでわかりやすく、申告の手間が省けたとしても、払う税金の額が減らなければうれしくないし、富裕層や自営業であれば「これなら税理士を雇って節税できたほうがマシだった」と憤ることだろう。

米経済誌フォーブスを発行する富豪スティーブ・フォーブス氏は1996年と2000年の2回にわたり、一律17%のフラット税を公約に掲げ、米大統領選の共和党予備選に立候補したが、いずれも敗退に終わった。同氏のフラット税案は、富裕層など一部の人には減税となるが、子供税額控除や住宅ローン利子控除といった控除が廃止されるため、それらの控除を享受している人々には増税を意味し、不興を買ったのだ。

フォーブス氏の場合もそうだが、フラット税の導入を唱える人はたいてい、同時に各種控除の廃止を主張する。それによって税制をシンプルでわかりやすくするとともに、控除を受けられない納税者との「不公平」をなくすためだという。

だが「不公平」だから控除をなくすというのは、まるで「一部の奴隷が片足しか鎖につながれていないのは不公平だから、他の奴隷と同じように両足ともつないでやろう」というグロテスクな提案と同じだ。個人の財産権を守る自由主義の原則からは、控除をなくすのではなく、少しでも多くの人に広げるのが筋だろう。控除が廃止されたあげく、フラット税の導入後、税率が引き上げられるという踏んだり蹴ったりの展開だって十分考えられる。

③の「他の税金がなくなる」かどうかも不透明だ。フラット税の多くの案では、法人税と配当への所得課税、所得税と相続税などの二重課税をなくすことがセットにされている。実際になくなれば納税者にとって朗報だが、政治交渉の過程で二重課税の廃止が取り下げられてしまうかもしれない。

④の「経済成長を促す」について、フラット税導入後、経済が成長した例として、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国、ロシアなどがよく言及される。だがそれはフラット税だから成長したというよりも、減税したから成長したと考えるべきだろう。重要なのは税の形式ではなく、減税という中身だ。極端な話、一律15%のフラット税と、1%、2%、3%の累進課税なら、この累進課税のほうが納税者にはありがたい。

⑤の「フラット税は公平」という主張は、もっともらしく聞こえるだけに始末に悪い。累進課税に比べ、一律の税率は公平だと錯覚してしまう。

けれども、よく考えてみてほしい。税は行政サービスの対価だとされる。そうだとすれば、所得の多い少ないにかかわらず、同額でなければならないはずだ。大富豪のイーロン・マスク氏の所得が私の1万倍だとしても、同じパンを買うのに1万倍の値段を払わなければならないのは理不尽である。

もし公平を追求するのであれば、フラット税よりも優れた税がある。全国民に同じ額ずつを課す「人頭税」だ。

フラット税と違い、所得を計算する必要すらない、究極のシンプルだ。所得の少ない人でも払える金額でなければならないから、サブスク方式で月1万円でどうだろう。「高すぎる」という声が多ければ、5000円、あるいはゼロにするのも悪くない。

<参考資料>
  • Tyranny, Thy Name is Flat Tax | Mises Institute [LINK]
  • Flat Tax Folly | Mises Institute [LINK]
  • Rothbard: The Myth of Tax "Reform" | Mises Wire [LINK]
  • The Flat Tax Versus the Flat, Flat Tax | Mises Wire [LINK]

2023-07-13

税の抜け穴を守れ

税法の想定しないやり方で節税を図る「税の抜け穴」は、政治家やメディアによってしばしば非難される。「ずるい」「不道徳」といったイメージを植え付けられ、税の抜け穴を使った節税は「過度な節税」だと批判される(何を超えたら「過度」かという基準ははっきりしない)。


世間一般の認識を前提にすれば、税の抜け穴とは、泥棒が逃げるためにずる賢く準備した、秘密のトンネルのようなものだろう。しかし税が盗みだとしたら、イメージは一変する。泥棒は市民ではなく、政府のほうだ。税の抜け穴とはさしずめ、市民が強盗から逃れるために確保した、貴重な非常口ということになる。

税が一部免除される各種の控除も、税の抜け穴ほどではないが、問題視されることがある。控除を批判する人々によると、控除は特定の集団や産業を優遇する不公平な補助金であって、経済をゆがめる。また、節税のために市民が膨大な時間や労力を浪費する原因となる。控除をなくせば、そうした非効率がなくなり、経済にとって良いことだという。

これらの批判は正しくない。まず、税の免除とは市民が自分のお金を政府に渡さず、自分の手元に残すことだから、政府から恵まれる補助金とは違う。補助金が仲間の市民の犠牲の上に成り立つのに対し、税の免除はそうではない。補助金を受け取る人は税という略奪品の獲得に参加しているが、税を免除される人は略奪から逃れているにすぎない。

次に、控除が経済をゆがめるというが、それ以前に、税そのものが経済をはるかに大きな規模でゆがめている。経済のゆがみをなくしたいのなら、税そのものをできるだけ減らさなければならない。そのためには、控除をなくすのではなく、同様の控除を他にも広げるべきだ。たとえば、住宅ローンの所得控除はマンションなどの購入熱をあおり、経済をゆがめている。このゆがみをなくすには、賃貸住宅にも同様の控除を広げればいい。

それから、節税が時間や労力の浪費だという人々は、人間とは何かを理解していない。経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスが主著『ヒューマン・アクション』で説くように、人間の意識的な行動には目的がある。たとえ一見、不合理なようでも、その人なりの価値判断に基づいて行動している。

もし節税が本当に不合理ならば、誰もそのような無意味な目的にわざわざ時間や労力を使おうとはしないだろう。ところが実際には多くの人が節税に励む。そうである以上、人々は時間や労力というコストにもかかわらず、節税を他の選択肢よりも高く評価していることになる。どこにも不合理な点はない。

節税が不合理な行動だという主張を理解するただ一つの方法は、経済とは雇用を生み出すための機械でしかないと考えることだ。これは政府の経済介入を推奨するケインズ主義の考えである。この考えに立てば、公共事業などの財源が減る一方で、せいぜい税理士の雇用創出にしか役立たない節税は、たしかに不合理でしかないだろう。

だが、このケインズ主義の考えは、経済が価値を生み出すかどうかを完全に見落としている。たとえ穴を掘って再び埋めるような、何の価値も生まない事業であっても、お金が使われ、人々が雇用され、賃金が支払われればそれでいいのだ。しかし、それでは長期の経済発展は望めない。

個人の私有財産を擁護する資本主義の原則に立てば、税の抜け穴や控除はなくすべきではない。守り、むしろ増やすべきだ。控除が広がれば広がるほど、それが一部の人だけの特権だという誤解も消えていくだろう。

お金は政府に渡すのではなく、個人の手元に残したほうが合理的に使われ、経済を発展させる。税の抜け穴や免除はその助けとなる。ミーゼスが喝破したように、資本主義は税の抜け穴を通して呼吸しているのである。

<参考資料>
  • ミーゼス『ヒューマン・アクション』(村田稔雄訳、春秋社、2008年)
  • A Flat Tax Is Not More "Efficient" Than a Tax System with Loopholes | Mises Wire [LINK]
  • What Ludwig von Mises Taught Gottfried Haberler and Paul Samuelson about Tax Loopholes | Mises Wire [LINK]

2023-07-11

税は盗みである

税金について考える際、まず理解しておかなければならないことが一つある。それは「税は盗みである」ということだ。

驚いたかもしれないが、事実だ。オンライン国語辞典で、「強盗」の意味を調べてみよう。「暴力や脅迫などの手段で他人の金品を奪うこと」とある。課税とはまさしく、政府が「暴力や脅迫などの手段で他人の金品を奪うこと」に他ならない。税の支払いを拒否すれば、政府から脅されるし、暴力によって逮捕・投獄される。したがって、課税は強盗である。すなわち、税は盗みである。


もちろん課税は、合法である。だからといって、その本質が盗みであることに変わりはない。合法かどうかと、倫理的に正しいかどうかは、別の話だ。たとえば、政府が人を殺すときには、それは殺人ではなく、「戦争」や「騒乱の鎮圧」という高尚で合法な行為とされるが、倫理の原則に照らせば、その本質が殺人であることに変わりはない。税も同じことだ。

税は盗みだという身も蓋もない真実に対し、税を肯定する側は様々な反論を試みるだろう。主に予想される三つの反論を検討してみよう。

第一に、「国民は公共サービスを利用することによって、税金を払うことに同意しているのだから、税は盗みではない」という反論はどうだろうか。

もし「政府の福祉」や「政府の学校」などの公共サービスを利用しない人が、その分の税金(社会保険料を含む)を支払わなくてよいのであれば、公共サービスの利用は、そのサービスに対する支払い(納税)に同意することを意味するかもしれない。しかし実際には、政府は国民が公共サービスを利用しようとしまいと、納税を強制する。したがって、政府サービスを利用しているかどうかは、納税に同意しているかどうかを示さない。

また「政府の領土」にとどまり続けることも、税への同意を示すものではない。というのも、政府は国内の土地すべてを所有しているわけではない。むしろ多くは私有地である。自分の土地に住んでいる人に対し、「金を払うか、さもなければその土地から出ていけ」と他人が要求することはできない。政府にはそのような横暴が許されているけれども、その横暴を国民が辛抱しているからといって、それは同意を意味しない。

第二に、「政府は法律によって財産権を定義する。政府が法律で決めれば、あなたが税金として支払うお金は、そもそもあなたのものではなく、政府のお金である」という反論はどうだろうか。

たとえば、あなたが19世紀の米国南部の奴隷だとしよう。あなたが主人の同意なしに主人から逃げようとしたとする。これは「奴隷の身体は奴隷自身のものではなく、主人のものである」という当時の法律の趣旨に違反する。だからといって、逃亡は倫理的に間違ってはいない。同様に、政府が法律で決めさえすれば人のお金を他人(政府)のものにできるという考えは、正しくない。

第三に、「税金は、政府が法と秩序を提供する対価だ。政府は泥棒ではない。泥棒は価値あるサービスを提供しない」という反論はどうか。

私があなたに刃物を突きつけ、1万円を奪ったとしよう。それと引き換えに、私のサイン入り色紙を1枚置いていく。後日、刃物を持っていない私を見たあなたは、私を泥棒と呼び、金を返せと要求する。私は答える。「泥棒とは人聞きの悪い。たしかに君はその色紙を欲しがらなかったが、それは1万円よりずっと価値があるんだ」

この返事にあなたは当惑するだろう。私が引き換えに良いものをあげたかどうかは問題ではないし、その色紙が本当に1万円以上の価値があるかどうかも問題ではない。重要なのは、私があなたの同意なしにあなたのお金を奪ったということだ。かりにその後、私が有名人になり、メルカリで3万円の値段が付いたとしよう。それでも、私が泥棒であることに変わりはない。

同様に、たとえ政府の提供する「法と秩序」に高い価値があったとしても、本人の同意なしにお金を奪うのは、盗みである。

リバタリアニズム(自由主義)の思想家、マレー・ロスバードはこう断じる。「純粋な意味では、そして簡潔に言えば、課税は窃盗である。とはいえ、それは犯罪者として一般に認められる者でも望むべくもない、とてつもなく巨大な規模の窃盗ではある。それは、国家の居住者の、あるいは被治者の、財産の強制的没収である」(『自由の倫理学』)

そう、税は盗みである。この事実を理解すれば、目から鱗が落ちるように、政治・経済の現実がはっきりと見えてくる。

<参考資料>
  • ロスバード『自由の倫理学』(森村進他訳、勁草書房、2003年)
  • Taxation Is Robbery | Mises Institute [LINK]
  • Is Taxation Theft? | Libertarianism.org [LINK]

2023-07-09

ケイトー研究所に何が起こったか?

軍需産業の出資を受けていないシンクタンクでも、戦争は影を落とす。

4月下旬、ウクライナ戦争をめぐる論戦をウォッチしているリバタリアン(自由主義者)にとって、ショッキングな「事件」があった。米シンクタンク、ケイトー研究所のテッド・ガレン・カーペンター主任研究員の辞職である。
カーペンター氏といえばケイトー研究所で長年、外交問題の専門家として論陣を張ってきた人物だ。米国の海外軍事介入に対する厳しい批判で知られ、今回のウクライナ戦争でも、バイデン政権に戦争への関与をやめるよう求めるとともに、支援を受けるウクライナのゼレンスキー政権についても「偽りの民主主義」だと公然と批判してきた。

今回の辞任について、カーペンター氏から公式の説明はないようだが、ネット上には、同氏のものとされる「37年間を経て、ケイトー研究所における研究者としての私の役割は終わりを迎えた。ウクライナ政府やそれに対する米国の支援を批判することが、キャリアにとって致命的となる可能性があるという厳しい現実を知った」というコメントが出回っている。

少なくとも、ケイトー研究所の上層部とカーペンター氏の間に主張をめぐる対立があったことは、想像に難くない。同研究所は1974年、リバタリアン思想家で反戦平和を強く説いた故マレー・ロスバード氏らによって設立されたが、近年は反戦に距離を置く。今でもリバタリアンのシンクタンクという色彩は強いものの、こと外交政策に関しては、ベテランであるカーペンター氏、ダグ・バンドウ氏の2人を除いては、戦争を推進する政府側の立場に近づいていた。

20年前のイラク戦争時には、戦争に反対したチャールズ・ペナ、アイバン・エランド両研究員が辞職している。戦争支持派である幹部のトム・パーマー、ブリンク・リンゼイ両氏との対立の結果だとみられている(リンゼイ氏は現在ニスカネン・センターに移籍)。

トム・パーマー氏は、自由主義について優れた著作はあるものの、昨年、日本人中心のオンライン会議で同氏のウクライナ戦争に関する講演を聴いたところ、ウクライナ政府と米国の軍事支援を納得のいく根拠もなしに支持しており、あきれた記憶がある。あれがリバタリアン本来の見解だと誤解されたら、天国のロスバード氏はさぞ無念だろう。

幸いカーペンター氏はケイトー研を辞職後、ロスバード氏の流れをくむ反戦派シンクタンクであるランドルフ・ボーン研究所(アンチウォー・ドット・コムの運営団体)、リバタリアン研究所それぞれの主任研究員になり、変わらず健筆を振るっている。

戦争は政治の延長だというクラウゼヴィッツの指摘を人々が忘れ、一切の妥協を許さず、平和よりも勝利を求める熱狂が世論を支配する昨今、それに反する主張を行うのは、カーペンター氏が職を失ったように、様々な困難が伴う。しかしこんなときだからこそ、戦争という最大の自由侵害に勇気あるノーを突きつける、反戦派リバタリアン・シンクタンクの活躍に期待したい。

2023-07-08

軍産複合体とシンクタンク

軍需産業が出資する米シンクタンクは戦争研究所だけではない。米クインシー研究所が最近公表した調査によれば、主要シンクタンクの多くが軍需産業を資金源としている。しかも軍需産業とつながりのあるシンクタンクのほうが、メディアで多く取り上げられる傾向がある。
クインシー研究所によれば、資金提供者が特定できた27のシンクタンクのうち、77%にあたる21が軍需産業から資金提供を受けていた。残念ながら、資金提供者の開示は任意であるため、シンクタンクの資金源のうち軍需産業からの資金が占める割合を知ることはできない。

続いて同研究所は、2022年3月1日〜2023年1月31日の11カ月間、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル各紙に掲載されたウクライナ戦争報道を調べ、33の主要シンクタンクのいずれかが言及されるたびに数え上げた。最も多く言及された15のシンクタンクのうち、軍需産業から資金援助を受けていないのはヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)だけだった。軍需産業とつながりのあるシンクタンクが引用される頻度は、つながりのないシンクタンクの7倍にも達した。

引用回数の第1位は、ともに157回の戦略国際問題研究所(CSIS)と大西洋評議会だった。両シンクタンクは、軍需産業のレイセオン社とロッキード・マーチン社から数十万ドルを受け取っている。両社はウクライナ戦争の結果、国防総省からすでに数十億ドルの契約を獲得している。

大西洋評議会は長い間、北大西洋条約機構(NATO)の頭脳の役割を果たしている。メディア監視団体FAIRが指摘するように、NATOのロシア国境への拡大は、ロシアがウクライナ侵攻を決定する重要な要因となった。

CSISはニューヨーク・タイムズの記事(2016年8月7日)で、資金提供元である軍需産業の優先度を反映した報告書などを作成したことが明らかになっている。CSISはまた、軍需産業の「推奨を押し進めるために、国防総省高官や議会スタッフとの会合を開始した」とされる。

クインシー研によれば、因果関係は不明ながら、「軍需産業と資金面でつながりのあるシンクタンクは、軍需産業を利するような政策を支持することが多い」。例えば、大西洋評議会のある記事(2023年2月6日)は「クレムリン(ロシア)とのいかなる妥協」にも反対するよう述べ、別の記事(同1月16日)では、ウクライナには「ロシアの重要インフラを破壊し、モスクワなどの都市を暗闇に陥れる権利がある」と主張している。

第5位(101回引用)のアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)は今年に入り、「ネオコン・ファミリー」の一員であるフレデリック・ケーガン上席フェローのコメントがウォールストリート・ジャーナル紙にたびたび引用された。それによれば、「戦車と装甲兵員輸送車は必要不可欠」であり、米国がそれらの供与に同意すれば、「ウクライナは現在保有する戦車兵器の多くを反攻作戦に投入し、リスクを冒す余裕が生まれる」という。AEIは、米国がウクライナに戦術核兵器を供与することまで提案している。

なお調査を実施したクインシー研究所自身は、大富豪ジョージ・ソロス氏の「オープン・ソサエティー財団」や、「ロックフェラー兄弟財団」などから出資を受けている。

冷戦時代、アイゼンハワー米大統領は、軍部と軍需産業とが結びつき、政治・社会に大きな影響を及ぼす体制を「軍産複合体」(Military-industrial complex=MIC)と呼び、警戒を促した。しかしその後、軍産複合体は解体されるどころか、議会(Congress)、情報機関(Intelligence)、メディア(Media)、学会(Academia)を取り込み、さらにシンクタンク(Think tank)を組み入れて肥大化した。「MICIMATT」(ミシマット)と呼ばれる。

「ミッキーマウス」のように読むと覚えやすいらしいが、全然かわいくない。それどころか、人類の安全を脅かす怪物だ。

2023-07-07

シンクタンクにご用心

朝日新聞デジタルは6月30日、「ウクライナ軍、ほぼ全戦線で主導権を握ったか 米シンクタンク分析」と題する記事を掲載した。「米シンクタンク『戦争研究所』(ISW)は29日、ロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍が、ほぼ全戦線で主導権を握ったとの見方を示した」という書き出しで、記事のほぼすべてが米シンクタンク、戦争研究所の主張をそのまま紹介したものとなっている。
戦争研究所は朝日に限らず、ウクライナ戦争を報じる日本の大手メディアに毎日のように登場している。日本だけではない。本国の米メディアでの露出も当然多い。たとえばCNNテレビは7月6日、「ウクライナの反転攻勢が思惑通りに進まない理由」という記事で、「ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦争研究所(ISW)の分析によると、前線の戦略的要衝の一部では防衛線が何重にも敷かれ、ウクライナ軍は突破に大変難航しているという」と同研究所の見方を紹介する。

ウクライナ軍の優勢を伝えた朝日の記事からわずか1週間後、CNNでは一転して苦戦を伝える一貫性のなさはともかく、戦争研究所が引っ張りだこである様子はよくわかる。同研究所は、ウクライナを支援しロシアを敵視する西側政府に都合のよい「分析」をこまめに提供し、メディアに重宝がられてきた。

ところで、この戦争研究所、どのような組織か知ったうえで報道に接している人は、果たしてどれだけいるのだろうか。

まず、理事会メンバーを見てみよう。同研究所のホームページによると、以下のとおりだ。

  • ジャック・キーン(元米陸軍大将)=会長
  • キンバリー・ケーガン=創設者・所長
  • ケリー・クラフト(元国連大使)
  • ウィリアム・クリストル(評論家)
  • ジョー・リーバーマン(元米上院議員)
  • ケビン・マンディア(マンディアント社)
  • ジャック・マッカーシー(A&Mキャピタルパートナーズ社)
  • ブルース・モスラー(クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド社)
  • デビッド・ペトレイアス(元米陸軍大将)
  • ウォーレン・フィリップス(CACIインターナショナル社)
  • ウィリアム・ロベルティ(元米陸軍大佐、アルバレス・アンド・マルサル社)

タカ派で知られたリーバーマン元議員、アフガニスタン駐留米軍司令官や米中央情報局(CIA)長官を務めたペトレイアス氏をはじめ政府・軍関係者のほか、企業関係者が多くを占めるが、シンクタンクの性格を象徴するのは、ケーガン所長、クリストル氏の2人だ。

ウィリアム・クリストル氏は、ネオコンを代表する知識人の1人である。ネオコンとは「新保守主義者」と訳され、軍事行動によって力ずくでも米国の価値観や民主主義を海外に広げようとする特異な思想を抱く。クリストル氏は1990年代半ば以降、雑誌「ウィークリー・スタンダード」を創刊し編集長を務めたほか、シンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクト」(PNAC)を設立し、2003年に始まったイラク戦争を強く後押しした。

一方、キンバリー・ケーガン(旧姓ケスラー)氏は歴史学者出身。エール大学の学生時代、夫フレデリック・ケーガン氏(アメリカン・エンタープライズ研究所=AEI=上席フェロー)と知り合った。フレデリック氏の兄は、ウィリアム・クリストル氏と並ぶネオコン論客ロバート・ケーガン氏(ブルッキングス研究所上席フェロー)であり、ロバート氏の妻は対ロシア強硬策を主張するビクトリア・ヌーランド米国務次官だから、キンバリー氏は言論界と政界にまたがる「ネオコン・ファミリー」の一員ということになる。

次に、戦争研究所の出資者を見てみる。現在の出資者にはゼネラル・ダイナミクス(軍事用重機)やゼネラル・モーターズ(子会社で軍用車を製造)が名を連ねるほか、過去にもレイセオン・テクノロジーズ(ミサイル)、ノースロップ・グラマン(戦闘機、軍艦)、パランティア・テクノロジーズ(データ解析で敵の位置情報を把握)といった軍需産業が出資していた。

戦争が長引くほど儲かる軍需産業に出資を仰ぎ、好戦的なネオコン知識人によって運営されるシンクタンクが、戦争をあおらない客観的な分析をするとは考えにくい。ところがメディアはそうした戦争研究所の実態について一言も語らず、その主張を垂れ流す。まともとは思えない。

2023-07-06

ハイパーインフレにどう備えるか

ハイパーインフレは二つの意味で怪物に似ている。「そんなものが出るはずはない」と多くの人が笑う。そして実際に出現すると、笑った人も笑わなかった人も餌食になる。


現代の経済学の教科書の多くは、ハイパーインフレは物価が1カ月に50%以上上昇したときに起こると述べている。しかし毎月50%の物価上昇ということは、年間インフレ率が1万2900%近くになることを意味する。例えば、コーヒー1杯の値段が1年以内に300円から約3万9000円に上昇することになる。これは完全に異常だ。

インフレが異常な領域に突入しないうちに歯止めをかけるには、月50%の物価上昇というハイパーインフレの基準は高すぎる。もっと低く、例えば月3%の物価上昇が続いた時点でハイパーインフレと呼ぶべきだろう。

ハイパーインフレを止めることはできるのか。答えは、理論的にはイエスだ。中央銀行がマネーサプライ(通貨供給量)の拡大を止めればいい。しかし、これは現実にはたやすくない。多くの人々が政府からの財政支出に依存しており、その財源の多くは事実上、中央銀行が国債を購入する財政ファイナンスによって賄われている。だから人々は少なくとも当初は、たとえ物価上昇率が拡大しても、金融緩和が続くことを好む。

しかし金融緩和による通貨価値の下落は、ある臨界点を超えると、経済・社会に大きな混乱をもたらす。

通貨が安くなると、国内に入ってくるあらゆるものの価格を押し上げる。米国の場合、ヘリテージ財団のエコノミスト、ピーター・セントオンジ氏が論じるように、ドル安で最初に跳ね上がるのはガソリン、暖房用燃料、食料品などの値段だ。次に、自動車、鉄鋼やコンクリートなどの建設資材、衣料品、家具、テレビ、コンピューター、医療機器などが続くだろう。

そしてクライマックスである資本流出が始まる。外国人が神経質になれば、ドルだけでなくドル建ての資産も売り始める。とくに流動性の高い株式、社債、国債などだ。米国株は約40%、社債は約3分の1をそれぞれ外国人が保有している。外国人が逃げ出せば、どちらの相場も急落する。そうなれば確定拠出年金(401k)はほぼ半分になり、企業の借入コストはありえないレベルにまで上昇する恐れがある。米国債も3分の1は外国人が所有しており、その額は8兆ドルを超える。外国人が国債を投げ売りし始めれば、米国債の元利払いは年間数千億ドルも高騰する可能性がある。

こうした混乱を鎮めるために、中央銀行である連邦準備理事会(FRB)がさらに何兆ドルもの資金を経済に流入させれば、物価上昇は一気に加速する。ハイパーインフレの怪物が人々のドアをノックし、最後にはドアを蹴破るだろう。

独エコノミストのトルステン・ポライト氏は「いつ起こるかはわからないが、私の考えでは、不換紙幣制度でハイパーインフレが起こる可能性は非常に高い」としたうえで、「ドルやユーロなどの政府通貨を信用しないことだ。可能な限りお金を持たないこと」とアドバイスする。

同氏によれば、当座の支払いに必要な預金以外は、お金を再配分するのが最善である。例えば、コインや延べ棒の形で現物の金や銀にする。あるいは株式を購入する。専門家でない場合は、世界分散株式投資の上場投資信託(ETF)や投資信託でもいい。

「生産資本(すなわち株式)に投資し、貴金属を現物で(すなわちコインや延べ棒として)保有することは、多くの人々にとって、簡単かつ実行可能で低コストな投資戦略だ。お金の購買力が絶えず、さらには加速して破壊される影響から、少なくとも部分的に逃れるのに役立つだろう」とポライト氏は述べる。

2023-07-05

マイルドインフレの破壊力

インフレは、速度別に分類されることがある。緩やかな順にいうと、「マイルドインフレ」(クリーピングインフレともいう)は物価上昇率が年数%、「ギャロッピングインフレ」は年10%超〜数十%程度、そして「ハイパーインフレ」は1カ月に50%以上とされる。


このうち最も緩やかなマイルドインフレは、オンライン百科事典のウィキペディアにもあるように、経済が健全に成長しているとみなされ、望ましい状態といわれることが多い。実際、日銀を含む世界の中央銀行の多くは、年2%のインフレを実現するという目標を掲げている。

誰もが恐ろしいと思うハイパーインフレに比べ、マイルドインフレはその名のとおり穏健で、良いことだと信じている人が多い。政府やメディアもそう信じ込ませようとしている。しかしマイルドインフレはある意味で、ハイパーインフレよりも悪質だ。

マイルドインフレの物価上昇は、大したことはないように見えるかもしれない。しかし時間の経過とともに、お金の購買力は想像以上に低下する

年2%のインフレだと5年後には9%、10年後には18%の購買力が失われる。

年5%の場合、5年後には22%、10年後には39%の購買力が破壊される。

年10%になると、5年後には38%、10年後には61%の購買力が消滅する。

ハイパーインフレは誰が見ても異常で、経済に悪影響を及ぼすとわかる。これに対しマイルドインフレは良いことだと信じられ、政府によって推奨さえされているから、なかなか歯止めがかからない。ハイパーインフレよりも長期間続く可能性が大きい。その結果、上記のように、知らないうちにお金の価値がかなりの割合で奪われていく。

ハイパーインフレが劇薬だとすれば、マイルドインフレはじわじわ回る毒のようなものだ。しかも経済にとって「良い薬」だとして飲まされるのだから、なおさら怖い。

「お金の価値が多少減っても、マイルドインフレで経済が成長し、収入が増えればいいじゃないか」と思うかもしれない。しかし、政府が信じ込ませようとしている説とは違い、インフレと経済成長は関係ない。言い換えれば、デフレ(物価の下落)と経済の縮小は関係ない

米国、英国の歴史上、それぞれの黄金時代といえる19世紀後半の経済的な繁栄は、デフレの下で実現した。また、米ミネアポリス連銀のエコノミストが日米欧17カ国について、少なくとも過去100年のデータを調べたところ、デフレ期の90%近くが不況でなかった。

こうした事実にもかかわらず、政府・中央銀行は「デフレは悪」との迷信に基づいてマイルドインフレを目標に掲げ、金融緩和によってお金の価値を日々破壊し続けているのである。

2023-07-04

物価上昇はなぜ「インフレ」か?

「インフレ」とは学校で誰もが教わり、メディアでもしばしば目にする経済の基本用語であるにもかかわらず、正しく理解している人は少ない。たとえば、そもそもなぜ「インフレ」という言葉が「物価の上昇」を意味するのだろうか。


英語のinflation(インフレーション)という名詞の元になった動詞inflate(インフレート)をオンライン英和辞書で調べると、最初の意味に「〈気球・肺・救命具などを〉ふくらませる、(空気・ガスで)膨張させる、拡張する」とある。グーグルで「inflate」と入れて画像検索してみると、風船を膨らませている写真がぞろぞろ出てくる。これがinflateという言葉の本来のイメージなのだ。

しかし「膨らませる」という語がどうして「物価の上昇」を意味するのだろう。「膨張」と「上昇」は似ているようで全然別の言葉だ。物価は「上昇する」のであって、「物価が膨張する」はおかしい。

じつは経済学の世界でも、かつてinflationは文字どおり「膨張」の意味で使われていた。何が膨張するのか。世の中に出回るお金の量、経済用語でいう通貨供給量(マネーサプライ)だ。

手持ちのお金の量が増えれば、多くのお金を払ってでもほしい商品を買おうとする人が増えるから、商品の値段は上昇する。つまり通貨量の膨張は原因で、物価の上昇はその結果だ。インフレという言葉はもともと通貨量膨張という原因を指したのに、いつの間にかその結果にすぎない物価上昇を意味する言葉に変わってしまったのだ。

「言葉の意味の移り変わりはよくある話」と思うかもしれない。だがこの変化には「実害」がある。

以前は政府・中央銀行が通貨量を膨張させると、それだけで不当な行為として非難を浴びた。お金全体の量が増えると、人それぞれが保有するお金の価値が薄まってしまうからだ。

商品の供給量が変わらないか減っているときは、他の条件に変化がない限り、お金の量が増えると物価が高くなるので、お金の価値が薄まったことに気づきやすい。人の目が欺かれやすいのは、生産活動が盛んで商品の量が増えている時期だ。お金の量が同じだけ増えても物価は上昇せず、影響が目に見えにくい。だが実際にはお金の所有者は見えない損失を被っている。本来なら商品の量が増えたおかげで物価が下がり、同じ金額で買える商品が増える、つまり、保有するお金の価値が高まっていたはずだからだ。

言葉の指す内容がすり変わるにつれ、それまで通貨量の膨張そのものに向けられていたインフレ批判が、その一つの結果にすぎない物価上昇に向かうようになってしまった。この違いは大きい。なぜなら「物価上昇さえ招かなければ通貨量をいくら膨張させても問題ない」という言い逃れの余地が生まれるからだ。

事実、現在ではこうした詭弁が経済学者や評論家によって広められ、「日本は物の供給能力が余っているのでお金の量を増やしてもインフレにはならない」などという主張のおかしさに誰も気づかない。お金の量を増やすことそのものが、インフレなのに。通貨量膨張を指す言葉が消えると同時に、私たちはそれを批判する発想そのものを失ってしまったのだ。

経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは、こうした変化について次のように嘆いている。

「これまでインフレーションという語で表わしてきた内容を表せる適当な用語が、もはやなくなってしまった。命名できない政策と闘うことは、不可能である。政治家や著述家が、貨幣の巨額追加発行という便法に疑問をもっても、公衆が、認め理解できるような用語を使うことは、もはや、できなくなっている」(『ヒューマン・アクション』)

物価が上昇してから、ようやく批判を始めても、もはや手遅れだ。

2023-07-03

コストプッシュインフレの嘘

「コストプッシュインフレ」という言葉を時々目にする。最近も日銀の植田和男総裁が会見で足元の物価高について質問され、「この原因は海外発のコストプッシュインフレーションでそれは日本の金融政策で直接どうこうするということはなかなかできない」と答えていた。

野村証券の「証券用語解説集」で「コストプッシュインフレ」を調べると、「生産コストの上昇により起こるインフレのこと。具体的には、原材料や資源価格の上昇による資源インフレ、賃金の高騰による賃金インフレなどがある」とある。

わかりやすいようで、わからない。コストプッシュインフレは「生産コストの上昇により起こる」というけれど、じゃあ、その「生産コストの上昇」はなぜ起こるのか。つまり、原材料や資源価格の上昇、賃金の高騰はなぜ起こるのか。それを説明してくれなければ、まるで「暑いのは気温が高いから」といわれたようなもので、どうにも腑に落ちない。

コストプッシュインフレに対する疑問はまだある。原材料・資源の値上がりと同時に物価全般が上昇したら、何となく、原材料・資源の値上がりのせいで物価全般が上昇したように見える。だがよく考えると、Aという現象(原材料・資源の値上がり)とBという現象(物価全般の上昇)が同時に起こったからといって、AがBの原因だとは限らない。もしかすると他にCという現象が起きていて、それがAとBに共通する原因かもしれない。

経済ジャーナリストのヘンリー・ハズリットは、賃金と物価の関係について次のように説明する。

「物価と単位労働コストがほぼ同じ上昇を示したり、あるいは特定の年や期間にどちらか一方がより大きな上昇を示したりしたことを示す数値がある場合、これは何が起こったかを説明するものであって、何がその変化の『原因』であったかを説明するものでは必ずしもない。賃金の上昇が物価の上昇を引き起こしたのか、あるいはその逆なのかという疑問に対する答えは、数字からだけでは判断できない」

そのうえでハズリットは、物価上昇の原因は別にあると指摘する。マネーサプライ(通貨供給量)の増加だ。物価上昇に結びつくまでにはタイムラグもあるし、マネーサプライの増加率が物価に正確に比例して反映されるわけでもない。それでもマネーサプライが増えなければ、物価全体は上昇しない。

そうでなければ、たとえば値上がりした原材料・資源の購入にお金を多く支払う分、他の製品・サービスは買えるお金が減って値下がりし、全体では物価に変化はないはずだ。

日銀が本気で物価高を止めたければ、コストプッシュがどうのこうのと言い訳をせず、通貨の供給量を減らせばいい。つまり、金融緩和をやめればいいだけの話だ。

2023-07-01

黒船来航と避戦外交

1853(嘉永6)年6月、米国の東インド艦隊司令官ペリーが、軍艦4隻を率いて浦賀(神奈川県横須賀市)に来航した。そのうち2隻は巨大な蒸気艦のミシシッピー号とサスケハナ号で、当時の世界最大・最先端の戦艦だった。黒船来航である。

幕末外交と開国 (講談社学術文庫)

ペリーはフィルモア大統領の国書を提出して開国を要求した。ペリーが再来日した翌年、幕府は日米和親条約を結んだ。英国、ロシア、オランダとも同様の条約を結び、二百年以上にわたる「鎖国」に終止符を打つ。

幕末開国について、これまでは次のような理解が支配的である。①徳川幕府は無能無策だった②そこにペリーの強力な軍事的圧力がかかった③このため日米和親条約は極端に不平等な条約となった——。

幕府無能無策説は、幕府を倒して成立した明治政権下で強くなった。前政権を打倒した正統性を補強するため、幕府の無能無策を喧伝したのである。歴史学者の加藤祐三氏は「この政治的キャンペーンを、現代人がそのまま事実と受け取るのは愚かである」と指摘する(『アジアと欧米世界』)。

日米和親条約の内容や締結の経緯を詳しくみると、幕府無能無策説には疑問符がつく。たとえば、19世紀は戦争の時代である。戦争に敗北すると「敗戦条約」を結び、賠償金を払い、領土を割譲した。アヘン戦争の南京条約がその典型だ。さらに厳しい場合には、条約さえ結ぶことなく、国家の主権の三権(立法・司法・行政)をすべて失い、植民地となった。インド、インドネシアがその例である。

しかし日本は圧倒的な軍事力を擁する米国と戦争にならず、そのおかげで、賠償金支払いや領土割譲を強いられることなく、植民地にもならなかった。日米和親条約はたしかに不平等な面はあったものの、戦争を伴わない「交渉条約」であり、アジア諸国の多くが経験した植民地や敗戦条約に比べて、不平等性ははるかに弱かった。

そうした結果を導いたのは、一つには江戸幕府が事前に情報を収集・分析し、それに基づいて、戦争を回避する「避戦」の方針を早くに固めたことにある。もう一つ、米国側にも戦争を避けたい事情があった。それぞれみていこう。

まず米国側の事情である。ペリーの任命の形式は、米外交では異例だった。条約締結の使節派遣は通常、国務省の所轄である。ペリーの場合は、フィルモア大統領により、海軍省所管の東インド艦隊司令長官に任命された。海軍の作戦行動の一環として、日本との条約交渉を行うよう指示を受けている。

米憲法では交戦権(宣戦布告権)は大統領にはなく、上院に属する。ペリーは出航前に、大統領による「発砲厳禁」の至上命令を、国務長官代理コンラッドからあらためて受けた。英国のように内閣が交戦権を持つ国とは違って、米国はもともと「砲艦外交」を行うことはできなかったのである。

しかもフィルモア大統領は選挙を経ていない。タイラー大統領の副大統領として当選し、大統領が途中で死去したため、憲法に従って、その残任期間だけ大統領に昇格した。タイラーはウィッグ党(共和党の前身)で、議会の多数派は民主党だった。議会と協議のうえで使節派遣を行う余地はなかった。

ペリーはそれ以外にも制約を抱えていた。最先端技術の蒸気船は、石炭補給路を断たれれば、巨大な漂流物となる。また当時の国際法では、二カ国が戦争状態になった場合、第三国が中立宣言をすると、交戦国の船は中立宣言をした国(植民地を含む)の港には入港できず、物資の補給が断たれる。

次に、日本側の対応である。幕府は対外策の決定に、日本に来航する異国船と接して得た直接情報と、間接情報として長崎に入る海外情報を生かしていた。海外情報には中国船・オランダ船が長崎にもたらす書籍類と、幕府が提出を義務づけた風説書(最新情報)とがある。

ペリー来航が予想もしない青天の霹靂であったなら、突然に姿を見せた黒船艦隊に、ただ慌てふためくばかりだったに違いない。しかし幕府は事前に情報を得ていた。アヘン戦争から十年後、オランダ商館長にクルチウスが着任し、1852年4月7日付で風説書を長崎奉行に提出した。ペリー来航の一年以上も前である。

風説書には「北アメリカ共和政治の政府が日本国へ使節を送り、日本国との通商を望んでいる」とあった。そのうえで「帆船4隻が唐国に集結しており、さらにアメリカ海軍は数隻の蒸気船を増派する予定」で、「ミシシッピー号にペリー司令長官が乗っている」と述べていた。

老中首座(現在の総理大臣)でまだ三十代の若さの阿部正弘は、この秘密情報を有力大名に共有したうえで熟慮を重ね、戦争回避の原則を立てた。戦力からみれば、海軍を持たない幕府が、米国の巨大艦隊に対抗する方法は皆無といえる。軍事的対決を回避し、外交により対処するしかない。

幕府の避戦の方針は、ペリー来航の十年以上前から徐々に培われていた。アヘン戦争における中国敗戦の情報を日本の教訓としてとらえ、外国船が沿岸に近づいた場合の対応を変更した。1842年、それまでの強硬な打払令(文政令)を撤回し、天保薪水令に切り替えたのである。発砲せず、必要な物資を与えて帰帆させる穏健策だった。

ペリーが初めて浦賀沖に来航したとき、幕府側は天保薪水令に従い、大砲などで攻撃しなかった。そして、浦賀奉行所のオランダ通詞(通訳)の堀達之助が与力の中島三郎助とともに小さな番船で旗艦サスケハナ号に近づくと、「I can speak Dutch!(自分はオランダ語が話せる)」と英語で叫んだ。甲板に立つ水平には英語しか通じないだろうと推測し、あえて英語を使った。あらぬ誤解や小競り合いを避けるためである。最初の出会いで発砲外交を避けることができたのは、その後の平和な交渉を象徴する出来事だった(加藤祐三『幕末外交と開国』)。

また、ペリー艦隊が補給線を持たず、戦争になる可能性は小さいことを、ペリーとの交渉にあたった林大学頭の家臣が明白に指摘していた。このような情報分析を踏まえ、また米国側の戦争を避けなければならない制約もあって、幕府はペリー側と穏健に交渉を進めることができたのである。

地政学リスクが高まる昨今の世界情勢では、日本が戦争に巻き込まれる可能性を否定できない。それどころか、最近の日本政府は自分からあえて戦争に巻き込まれようとしているようにすら見える。江戸幕府の避戦外交から学ぶべき点は少なくない。

<参考文献>
  • 加藤祐三・川北稔『アジアと欧米世界』(世界の歴史)中央公論社
  • 加藤祐三『幕末外交と開国』講談社学術文庫
  • 加藤祐三『開国史話』神奈川新聞社

2023-06-30

ドル覇権が自壊する日

繁栄を極めた古代ローマ帝国は、財政政策の誤りによって自滅した。遠征に伴う巨額の軍事費、豪勢な建築物に充てる公共事業費などが膨らみ、それを賄うために代々の皇帝は銀貨に含める銀の量を徐々に減らすという安易な策を続けた。その結果、通貨の信用が失われ、物価の高騰が止まらなくなる。通貨の信用失墜とともに、ローマ帝国自身も衰亡の道を歩んでいった。
21世紀の現在、もう一つの巨大な「帝国」がローマと同じ道をたどろうとしている。アメリカ合衆国だ。

米ドルは第二次世界大戦後、英ポンドから基軸通貨の地位を奪い、世界経済に君臨してきた。だがその価値はほぼ一貫して下がり続けている。米消費者物価指数をもとに計算すると、1945年当時の1ドルは、購入できる物・サービスの量でみて、2023年現在の約16.90ドルに相当する。言い換えれば、現在の1ドルは1945年当時の約6%の価値しかない。

ドルの価値の毀損が加速したのは、1971年夏、当時のニクソン大統領が金とドルとの交換を停止、つまり金本位制から離脱した「ニクソン・ショック」以降だ。米国は中央銀行(連邦準備理事会=FRB)を通じて好きなだけ不換紙幣のドルを作り、それによって世界中から物やサービスを買えるようになった。いわば「打ち出の小槌」を手に入れたのだ。

打ち出の小槌を手に入れて、それを我慢して使わないほど自制心のある人は多くない。とりわけ、何かとカネの入り用な政治家先生だとしたら、どうなるかは目に見えている。「権力は腐敗する。絶対権力は絶対に腐敗する」という英思想家アクトンの言葉どおりだ。

大統領をはじめとする米国の政治家は、建前では政府から独立したことになっているFRBに対し陰に陽に圧力をかけ、あるいはFRB側が忖度して、ドルを刷りまくった。政府は新たに作ったお金を何に使ったのか。戦争と福祉だ。ニクソン氏の前任であるジョンソン大統領が「偉大な社会」と銘打って始めた福祉国家は、今ではすっかり米社会に定着し、財政を圧迫している。米軍は自国の防衛に関係あるとは思えないような世界の隅々にまで介入し、多額の軍事費を浪費している。

その結果が、デフォルト(債務不履行)寸前まで膨らんだ巨額の政府債務と、94%の価値を失ったドルだ。エコノミストのパトリック・バロン氏は「米国はドルの供給を制御することで購買力を守るという責任を果たしていない」と批判する

このままだと、ドルの覇権が崩れ去る日は遠くないかもしれない。それは米国と政治的・軍事的対立を深めるロシアや中国のせいではない。ローマの愚かな皇帝たちと同じく、目先の利益にしか関心のない政治家たちが通貨の価値を失わせたことで招いた、自壊なのだ。

2023-06-29

徴兵制は奴隷制

自由主義(リバタリアニズム)の原則からは、自衛権を個人の手に取り戻したうえで、リバタリアンの経済学者マレー・ロスバード氏が言うように、外敵の脅威を本当に感じるのなら、自分たちの財布から金を出し、必要な軍事防衛を賄えばよい。そして自分たちで戦うか、代わりに進んで戦ってくれる誰かを雇うかすればよい。それが理想だが、すぐには実現できそうにない。政府が自衛権を独占する現状で、それでもできることはある。徴兵制の拒否だ。
徴兵制が個人の生命・身体に対する侵害であることは、言うまでもないだろう。リバタリアンの米評論家、ジェイコブ・ホーンバーガー氏は「徴兵制は軍事的な奴隷制の一種である。市民が政府による殺戮のために自分の時間と労働力を提供するよう強制されるからだ」と述べる

戦争中のウクライナとロシアは、ともに徴兵制を敷いている。とくに苦戦が伝えられるウクライナは、徴兵担当官が路上の市民を無理やり連れ去るか、連れ去ろうとする様子が、ソーシャルメディア動画にいくつもアップされている。徴兵制の下では「合法」なやり方なのだろうが、それだけに徴兵制の暴力的な本質が迫ってくる。こうした事実は、ウクライナ応援団と化した欧米や日本のメディアではまったく報じられない。ロシアも徴兵制を実施している点では同罪だ。

日本は、ただでさえ自衛官が「慢性的な人材不足」にあるうえ、「台湾有事は日本有事」などと言って、わざわざ他国の紛争に首を突っ込もうとしている。いずれ徴兵制導入の議論が高まってもおかしくない。そのとき自由主義者は、市民の先頭に立って反対しなければならないだろう。

おそらくそのときには、政府が市民の自由を奪おうとする際にいつもそうするように、メディアを利用して大々的なキャンペーンを繰り広げるはずだ。たとえばアジア・太平洋戦争末期の航空特攻や人間魚雷があらためて美談に仕立て上げられ、人々の愛国心や闘争心をかき立てる一方で、徴兵制に反対する少数派は非国民やスパイ呼ばわりされることだろう。そんな中で抵抗を貫くのはたやすくない。

そんなときは、ある偉大な人物のことを思い出そう。ベトナム戦争の際に米軍の徴兵を拒んだ伝説のボクサー、モハメド・アリ氏だ。

アリ氏はベトナム戦争が激化した1967年、米軍への入隊を求められたが、自分の信仰(イスラム教)に反するとして拒否した。「俺はあいつらベトコン(北ベトナムが支援した南ベトナムのゲリラ)に何の恨みもないんだよ」とも述べた。同氏ほどの著名な人物で、他に徴兵を拒否した者は誰一人いなかった。アリ氏は徴兵を回避した罪で有罪判決を受けた後、ボクシングのライセンスを停止され、ヘビー級王者のタイトルを剥奪される。

それでもアリ氏はめげず、戦争反対の発言を続けた。やがて彼の発言の影響力もあり、ベトナム戦争の支持率は低下していった。

政府やメディアにあおられ、「何の恨みもない」はずの外国人と戦えと叫ぶ人々は、いつの時代も世間の多数派を占める。一方、そうした大勢に抗し、アリ氏のように孤独な戦いを続ける人は少ない。どちらの道を選ぶのか、自由主義者の真価が問われる。

2023-06-28

「普通の市民」に武装権を!

自衛権が本来国のものではなく、個人のものだといっても、丸腰では武器を持つ相手から身を守れない。したがって個人に武装する権利が認められなければならない。これは自由主義(リバタリアニズム)から導かれる当然の帰結だ。
何をとんでもないことを言い出すのかと思うかもしれない。しかし少なくとも、同盟国である米国と「価値観を共有」すると信じる人々は、この考えを馬鹿馬鹿しいと笑うことはできないはずだ。個人の武装権は、アメリカ合衆国憲法で保障された権利だからである。

合衆国憲法修正第2条は、「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、 侵してはならない」と定める。銃規制が強まる中でいろいろ議論はあるようだが、今でもこの定めによって、銃器を持つ権利は個人の憲法上の権利と認められている。

米国に限らない。自由主義発祥の地の一つであるフランスも、申告によって合法的な銃の使用が可能だ。第二次世界大戦中には、米英から供給された銃でナチス・ドイツに対する抵抗運動(レジスタンス)を繰り広げたことでも知られる。同じ欧州のフィンランド、スウェーデン、スイスなども銃保有率が高い。

一方、ドイツはナチス政権下で銃規制が進み、銃を没収された。もしユダヤ人市民が銃を持ち続けていたら、ホロコースト(大虐殺)の犠牲にならずに済んだかもしれない。沖縄戦のさなか、旧日本軍に殺害された沖縄県民にも同じことがいえる。

保守派の政治家はしばしば、日本は「普通の国」にならなければならないと説く。具体的には、必要に応じて軍事力を行使できる国になりたいということだ。

しかし、もし「普通の国」が必要に応じて軍事力を行使できる国ならば、その前に、その権利を政府に与えた主権者であるすべての市民に、同様の権利を認めなければならないはずだ。すなわち、武器を保有し、必要に応じてそれを使用する権利である。

そんなことを認めたら、真っ昼間から銃弾が飛び交う無法地帯になると、猛反対されそうだ。しかし銃保有率の高いフィンランドやスウェーデンスイスで乱射事件はほとんど起こらない。乱射事件が大きく報じられる米国でも、銃の販売数が増加するにつれ、殺人率はむしろ低下しているとの指摘もある。

日本を「普通の国」にする前に、まずは日本人に武装を認め、「普通の市民」にしよう。そうすれば、万が一外敵から攻められたとき、自衛隊が近くにいなくても、自分で自分の身を守ることができる。そして沖縄戦を教訓に、日本政府の暴力からも身を守ることができるだろう。

2023-06-27

「国の自衛権」という嘘

政府が「自衛戦争」を行う根拠は、「国の自衛権」にあるとされる。しかし、この「国の自衛権」という、世間で当然視される概念は、個人の自由を尊重する自由主義(リバタリアニズム)の原理にはそぐわないものだ。
防衛省・自衛隊ホームページの「憲法と自衛権」というコーナーでは、「平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています」と述べた直後に、すかさずこう付け加える。「もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません」

たいていの人はこの文章を読んで、「そりゃそうだよ、主権国家なんだから、自衛権があって当たり前」と思うことだろう。沖縄をはじめ国内に外国の軍事基地だらけで、そこから外国の大統領が出入国管理なしで堂々と出入りし、その大統領から「私が彼(日本の首相)を説得した結果、日本は防衛費を飛躍的に増やした」などと内政干渉の内幕をばらされてしまうような国が、果たして主権国家といえるかどうかはともかく、「国の自衛権」という考えは、自由主義からは出てこない。

自由主義において、権利が帰属する主体はあくまで個人である。代表的な権利は、自分の生命・身体・財産に対する権利だ。これらの権利を政府による侵害から防ぐ。これが自由主義の出発点である。当然、これらの権利を自衛する権利も、第一義的には政府ではなく、個人に属する。もし国が「自衛権」を持つとしたら、それは外敵の攻撃に際し、個人から権利行使の代行を委託されたものと解釈しなければならない。

さて、政府のあらゆる事業に共通する問題がここで生じる。一口に「自衛」といっても、そのニーズは個人によって千差万別だ。熱烈な愛国者で最後まで敵と戦うという人もいるだろう。家族の命が守れるなら戦場に行くという人もいるだろう。戦争の途中でもうやめたいと考える人もいるだろう。税金を余分に払う代わりに兵役は免除してもらいたい人もいるだろう。最初から戦うのはパスして外国に逃れたいという人もいるだろう。政府はこのような多様なニーズに、コネなどによる不正手段を別にすれば、対応できない。

自衛権が個人に属したままならば、それをどのような形で行使するか(あるいは行使しないか)は、個人が各自のニーズに合わせて自由に選択できる。国にいったん自衛権の行使代行を委託した後でも、その委託を取り消し、「自衛戦争」から離脱することができるはずだ。ところが実際には、そんなことは許されない。敵前逃亡として射殺される恐れすらある。

「政府は盗賊だ」と自由主義者は言う。もしそれを本当に信じるのなら、大切な自衛権を政府という盗賊にやすやすと引き渡すことはできないはずだ。

2023-06-26

政府は国民を守らない

少なからぬ自由主義者(リバタリアン)は、無能な政府が教育や医療やインフラ整備を独占することは批判しても、なぜかもっと重要な外交や防衛に関しては、その同じ政府の独占をあっさり認めてしまう。ことに「自衛戦争」の話になると、完全に白旗を上げて、これはもう政府の出番だ、つべこべ言うのはやめようと口をつぐむ。
しかし政府は、教育や医療やインフラ整備と同じく、「自衛戦争」においても無能である。その典型例を、現代史をまともに学んだ日本人なら知っているはずだ。アジア・太平洋戦争末期の沖縄戦である。

沖縄が6月23日、沖縄戦で犠牲になった人々を悼む「慰霊の日」を迎えたのを機に、大手各紙は社説で沖縄を取り上げた。

アジア・太平洋戦争には大きく、アジア諸国に対する侵略戦争という側面と、欧米諸国との植民地争奪戦争という二つの側面があるが、沖縄戦だけに限定すれば、日本を米軍の侵攻から守る「自衛戦争」だったとみることはできるだろう。

しかしその現実はどうだったか。毎日新聞の社説が述べるように、日米双方で約20万人が犠牲となり、うち一般住民の死者は約9万4000人に上った。「米軍の本土上陸を遅らせるため、沖縄での持久戦に持ち込もうとした旧日本軍の作戦が悲惨な結果を招いた」とされる。

日本政府は、時間を稼いであわよくば「天皇制護持」を条件とする和平交渉につなげようと、守るべき自国民である沖縄の人々を「捨て石」として使ったのだ。住民の中には、日本軍によって、戦火を避けていたガマ(自然の洞窟)を追い出されたり、「集団自決」に追い込まれたり、スパイ扱いされて殺された人々もいた。作家の故・司馬遼太郎氏は自分の軍隊経験に照らして、「軍隊はそれ自体を守るものであって、国民を守るものではない」と断言し、本土決戦が行われていたならば、沖縄と同じことが本土でも起こったであろうと述べている(新崎盛暉他『観光コースでない沖縄』)。

ところが司馬氏がかつて籍を置いた産経新聞は、「県民守り抜く決意新たに」と題し、玉城デニー知事に対し「中国や北朝鮮の脅威を直視し、政府や自衛隊と協力して県民を守り抜く態勢を整えてほしい」と注文をつけた。よく言えたものだ。

中国や北朝鮮を挑発していらざる「脅威」を招いているのは米国と日本だという事実はさておき、日本政府が沖縄県民や日本国民を「守り抜く」ことなどありえない。それは沖縄戦の歴史が証明しているし、司馬氏の言葉をもじっていうならば、政府はそれ自体を守るものであって、国民を守るものではないからだ。

2023-06-23

米財務省、制裁がドル覇権を脅かすと認める

多くの国が代替決済手段を選択し、準備資産の中でドル以外の保有を増やしている、とイエレン長官は認めた

RT
(2023年6月14日)

イエレン米財務長官は13日、米下院金融サービス委員会で国際金融システムの現状について議論した際、米国の制裁によって多くの国がドルに代わる決済手段を求めていることを認めた。
脱ドルのリスクについて質問されたイエレン長官は、世界経済におけるドルの利用が減少していることを認めた。

「我々の制裁措置の影響を受けることを恐れている国々が、ドルに代わるものを探しているのは驚くべきことではない。それは単に予期しなければならないことだ」と同長官は述べた。

ビセンテ・ゴンザレス下院議員から、フランスのような伝統的な同盟国でさえドル以外の取引を行っており、米国は対外政策における制裁の利用を減らすべきではないかと質問されたイエレン氏は、ほとんどの国にとってドルの利用に対する「意味のある回避策はない」と述べた。イエレン氏は世界の準備資産の中でドル離れが進んでいることは認めたが、ドルが支配的な通貨としての地位を維持する可能性が高いとの考えを示した。

「時が経つにつれ、各国が保有する準備資産に占める他の資産の割合が徐々に増えていくと予想される。多様化を望むのは自然なことだ。……しかしドルが世界の金融システムで今の役割を果たしているのは、他の国には真似のできない非常に優れた理由があるからだ。……どの国にとっても、ドルを回避する方法を考案するのは容易ではない」とイエレン長官は述べた。同長官によれば、ドルの主な強みは「流動性の高い開かれた金融市場、強力な法の支配、資本規制の不在」であり、「どの国も真似できない」という。

米国の広範な制裁措置により、この1年で貿易決済においてドル離れを始める国が増加している。例えば、ウクライナに関連したロシアへの制裁は、ロシアの外貨準備の半分を凍結し、ロシアの銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)を通じて取引を行う能力を制限した。

輸出規制をめぐって米国と争っている中国も、貿易決済における人民元の比率を高めている。中国の国営石油会社中国海洋石油(CNOOC)は最近、仏石油大手トタルエナジーズと初の人民元建て液化天然ガス(LNG)取引を完了した。

US Treasury admits sanctions threaten dollar hegemony — RT Business News [LINK]

2023-06-22

脱ドル化、予想より早く起こる可能性

スプートニク
(2023年6月15日)

制裁措置や貿易禁止をきっかけに、ロシアを含む多くの国々が、欧米による「武器化」の進む米ドルへの依存から脱却する取り組みを加速させている。BRICS諸国の最近の動きは、世界経済における米ドルの優位がいずれ根こそぎ失われることを期待させるものだ。
脱ドル化は、ほとんどの人が考えているよりもずっと早く起こる可能性がある。ネトリー・グループのマイケル・ゴダード社長は、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPEIF)でそう述べた。

世界でも例のないグローバル経済・ビジネスイベントである同フォーラムは6月15日に2日目を迎え、米ドルの覇権を離れようとする国々の間で最近話題になっている「脱ドル化」に焦点を当てている。この動きはBRICS諸国が主導している。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカという世界最大の途上国経済圏で構成されており、米主導の経済秩序から脱却するために、共通通貨の導入を検討している。

アルゼンチン、イラン、インドネシア、トルコ、サウジアラビア、エジプトなど、BRICSへの加盟を希望する国が続々と現れており、脱ドルの流れはさらに強まりそうだ。

「BRICSの新通貨は、議論されているように、金や資産バスケットなど何らかの資産に裏打ちされたもので、貿易の基礎として、BRICS諸国や新加盟国がそれを用いて貿易すれば、貿易に使われるドルの量をほぼ直ちに減少させるだろう。そして数年の間に、それは大きく加速するだろう」。マイケル・ゴダード氏はスプートニクに語った。

しかし世界の準備通貨であるドルを捨てるという希望を抱くのであれば、「実際には〔ドルに代わる〕準備通貨が必要だ」とも明言した。現時点でのドルの圧倒的な優位は、米国の債券市場にあるとゴダード氏は述べ、こう付け加えた。

「BRICSがそれを再現し、さらにそれを置き換える方法の一つは、債券市場をリンクさせ、政府や国民が新しい通貨建ての債券を実際に購入することだ。そうすれば、多くの人が考えているよりもずっと早く、脱ドル化が実現すると思う」

BRICS通貨に懐疑的で、加盟国の経済が大きく異なることを警告する人たちに対して、ゴダード氏は、この「格差」をうまく克服する方法を列挙する。その一つは、BRICSが「金か信頼できる商品バスケットに裏打ちされた通貨」を作り、「世界の80%と取引する」やり方だ。

「米国、英国、欧州以外のほとんどの人は、ドルに代わる通貨を望み、制裁を受けたり、資産を凍結されたりするリスクを負いたくないと思っていると思う。その勢いが通貨を根付かせ、成長させると思う」とゴダード氏は締めくくった。

BRICSのメンバーであろうと、他の国であろうと、あるいは米国の現在の同盟国でさえも、米国の外交政策に反対するほど大胆であれば、米国はいつでもその国に対する制裁手段としてドルを振りかざすことができるし、実際振りかざす。それを認識する必要があると、ロシア安全保障会議のセルゲイ・バフルコフ副長官は警告する。

米国の直接の指示に従いたくない国は、様々な制裁や禁止措置に直面し、経済に深刻な影響を被る恐れがあると、バフルコフ氏はサンクトペテルブルク・フォーラムに合わせてスプートニクに語った。具体的には、ドルの流動性の制限、決済の問題、貿易の制限、課された制裁に伴う膨大な問題をもたらすかもしれない、と同氏は述べた。この脅威は米国の同盟国にも存在し、多くの国にとって米国の政策に縛られ続けることは経済的に不利になりつつあるとし、欧州の不況はその顕著な例だと付け加えた。

つまり重要なのは、主権の強化、国益に基づく交流、互いに利益のあるに重きを置き、ドル発行によって他人のルールを押し付けようとする試みを拒否することだ。そうバフルコフ氏は強調した。

今日、多くの人がすでに理解しているように、脱ドル化の流れは非常に活発に進行していると、バフルコフ副長官は述べた。

二つの国が交流し、貿易などを行う場合、なぜ片方が会計単位にすぎない別の手段の仲介を必要とするのかと、ロシア会計検査院の検査官、ドミトリー・ザイツェフ氏は考察する。ドルに代わるBRICS通貨は、試しに使ってみるには便利な仕組みかもしれないと同氏は同意したが、他の手段も含めて模索の幅を広げるよう勧めた。

「これこそ多極化、多中心的な考え方が求めるものだ」とザイツェフ氏は強調した。

De-Dollarization ‘Could Happen Much Quicker Than Most Think’ [LINK]

2023-06-21

平和の大統領を!

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年6月19日)

1962年のキューバ危機以来、いつになく核戦争に近づいているというのが大方の意見だ。キューバのソ連ミサイルが米ソの核戦争を引き起こしそうになった、あの運命の日よりも、今のほうが近いと主張する人さえいるだろう。
当時言われたのは、共産主義と生死をかけた戦いのさなかにあり、一歩たりとも領土を譲ることはできない。さもなければドミノ倒しで「赤〔共産主義〕」に支配されることになるということだった。

キューバをめぐる米ソ対立の最中に徴兵された私にとって、その危機は非常に現実味のあるもので、人類絶滅の危機に瀕していると誰もが感じていた。

幸い、当時のホワイトハウスには、核の瀬戸際外交の危うさを理解している大統領がいた。ケネディ大統領は、ピッグス湾事件という愚かなキューバ侵攻を中止したことを決して許さないタカ派に囲まれながらも、電話を取ってソ連のニキータ・フルシチョフ〔最高指導者〕と話し合い、その結果世界を救うことができた。

ケネディ大統領はソ連がキューバからミサイルを撤去する代わりに、トルコから米国のミサイルを撤去することに同意したと、今では歴史家が教えてくれている。外交が適切に機能することを示す典型的なケースである。

しかし現在のホワイトハウスには、ケネディ大統領のような人物がいないことは明らかである。ロシアと対立する正当な理由として、ソビエト帝国や共産主義イデオロギーに直面することはもはやないが、バイデン政権は依然として米国を核紛争に引きずり込もうとしている。なぜ、私たちを危険にさらすのだろうか。それは冷戦時代に否定された「ドミノ理論」である。もし私たちがロシアと「最後のウクライナ人」まで戦わなければ、プーチン〔ロシア大統領〕がすぐにドイツを行進することになるという。

これはバイデン氏がロシアの報復を恐れ、ウクライナには軍服と医療品しか送らないと約束したことから始まった。そこから対戦車ミサイル、多連装ロケットランチャー、パトリオットミサイル、ブラッドレー戦闘車、数百万発の弾薬に至った。バイデン政権は先週、ウクライナに劣化ウラン弾を送ることを発表したが、これは今後何千年も地球を毒するものだ。長距離地対地ミサイル「ATACMS」が近々納入されるとの噂があり、これによりロシアの奥深くまで攻撃することができる。

どうやら、F16戦闘機も届くようだ。

米国のエスカレーション(紛争激化)の根拠として言われているのは、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナの戦争機構を直接支援したことに対してロシアがNATOに直接報復しなかったので、ロシアは決して報復しないに違いないというものだ。

それは本当に賢明な賭けなのだろうか。米国製のF16戦闘機がNATOの基地から飛び立ち、NATOの操縦士がウクライナのロシア人、あるいはロシアそのものを攻撃することがロシアに対する宣戦布告であることは、多くの人にとって明らかだ。

それは第三次世界大戦を意味する。冷戦の間、私たちが何とか避けてきたことだ。

議会は沈黙し、あるいは従順で、米国の戦略的目標がはっきりしないまま、私たちは災厄に向かって突き進んでいる。バイデン氏は、あるいは実際に事を運んでいるのが誰であれ、まっすぐに前進している。

米大統領選挙に突入した今、ひとつだけ明らかなことがある。キューバ危機の際のケネディと同じことをしてくれる、平和の大統領が必要なのである。手遅れにならないことを祈るばかりだ。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : We Need a Peace President [LINK]

2023-06-20

NATOと永久戦争への道

作家・投資家、デビッド・サックス
(2023年6月16日)

米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は6月14日の記事で、来月〔リトアニアの首都〕ビリニュスで開く北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(サミット)でウクライナのNATO加盟のタイムテーブルを発表するよう、バイデン〔米大統領〕に圧力がかかっていると報じた。
おそらくそれにバイデン氏は後ろ向きで、NATO同盟国の中で「孤立」しているようだ。記事の見方は、同じ記事の最後の段落(かつて〔政治評論家〕ノーム・チョムスキー氏は最初に読めと言った)とも矛盾する。そこではNATOへの加盟が「プーチン氏に戦争続行・激化の動機を与える可能性がある」と「静かに主張する国々もある」と認めている。

実際、ロシアはすでにウクライナのNATO加盟をまったく容認できず、存亡の危機であると宣言しており、その防止を主要な戦争目的の一つにしている。戦争が終わればウクライナがNATOに加盟するというビリニュス宣言は、戦争が永遠に続くことを事実上確実にする。また、平和実現のための西側諸国の重要な交渉材料であるウクライナの中立をテーブルから外してしまうことになる。

バイデン氏への「圧力」は、ゼレンスキー〔ウクライナ大統領〕と一部のNATO東側諸国、とくにポーランドとバルト3国から来ていることは明らかだ。ゼレンスキー氏は2週間前、最終的な加盟について確固たるシグナルがない限り、ウクライナはビリニュス・サミットへの出席さえしないだろうと述べた。NATOの前事務総長で、現在ゼレンスキー氏の顧問であるアナス・ラスムセン氏は「NATOがウクライナの明確な前進に合意できない場合、いくつかの国が個別に行動を起こす可能性がある」とまで脅した。とくに「ポーランドは本気で突入を検討」し、NATOとロシアの直接戦争の引き金となりかねない。

NYTの記事は、ストルテンベルグ現事務総長が、ウクライナのNATO加盟に向けた具体的なタイムテーブルの必要性について強硬派に同意していることを示唆しているが、ストルテンベルグ氏は13日にバイデン大統領との共同演説で、そうした約束をしていない。14日に同氏とNATOは、ウクライナのNATO加盟に関する具体的な日程はビリニュスでの議題にはならないと明らかにしている。ストルテンベルグ氏は「ウクライナの未来はNATOにある」という4月のコメントを繰り返し、ウクライナが「NATOと完全に相互運用できるようになる」ための「複数年プログラム」について加盟国の合意が得られると述べたが、それ以上具体的なことは約束しなかった。

どうやら「孤立」しているのはゼレンスキー氏とロシア国境沿いの同盟国であって、バイデン大統領ではないらしい。

ストルテンベルグ氏の個人的見解がどうであれ、近い将来ウクライナ〔の加盟〕を認めるかどうかという問題でNATOが分裂していることを同氏は知っている。NYT紙でさえ、ドイツ、ハンガリー、トルコの3カ国を挙げているが、これらの国の首脳は将来の特定の時期における加盟に間違いなく反対するだろう。さらに多くの首脳が内々に懸念を表明しており、バイデン氏もその1人であるように見える。

バイデン氏の言動は全般にタカ派だが(そして私は、今回の戦争に至るまでの数カ月、良い外交をしていれば戦争を完全に回避できたと言い続けている)、米国をロシアとの直接戦争に突入させたくないという希望において、みごとなまでに一貫性を保ってきた。ラスムセン氏の脅しは、全加盟国がいずれかの加盟国の軍事防衛を保証する同盟において、代理戦争がいかにたやすく現実の戦争に発展しうるかを示している。同氏のような外国人が、既存の保証を利用して米国を脅迫し、無謀な行動を取らせることができるのであれば、米国民は〔加盟国の1つに対する攻撃をNATO全体への攻撃とみなす、北大西洋条約〕第5条の新たな保証が賢明かどうか疑問を抱き始めるかもしれない。

ポーランドやウクライナという尻尾が、米国という犬を第三次世界大戦に駆り立てるようなことがあってはならない。

バイデン政権の外交政策担当者の一部、たとえばブリンケン国務長官は、NATO加盟がもたらす安全保障をウクライナに与えることよりも、ウクライナに「イスラエルの地位」を与えるという別のアイデアを推し進めている。これは武器、弾薬、資金を含む長期の安全保障(イスラエルの場合は10年間隔)で、現在の反攻の運命や選挙日程に左右されないというものだ。つまり、米国は反攻が失敗しても支援を見直すことはない。実際、厄介な有権者が考えを変えたとしても、支援はなくならないだろう。バイデン氏の「民主主義のための戦争」は、選挙に左右されるにはあまりにも重要だ。

しかし、ここに古典的な「おとり商法」を見る向きもあるだろう。昨年、ウクライナがハリコフとケルソン周辺の土地を奪還した後、米国民はウクライナ側が2023年の春から夏にかけて仕事を終わらせると保証された。この新たなウクライナの反攻は、ロシアの領土獲得を後退させ、おそらくはクリミアに対するロシアの支配を脅かし、それによってロシアを交渉のテーブルに着かせ、戦争を終わらせる。多くの米国人は、この根拠に基づいてウクライナへの1000億ドル以上の予算計上を支持した。暗黙の了解として、これは1回限りの出費であり、新たな永久戦争における毎年の予算計上の基準にはならない、ということだった。

今、反攻緒戦の苦戦とビリニュスでの複数年契約の提案を考え合わせれば、これが嘘か夢物語だったことは明らかである。しかし、これはいつも起こることなのではないだろうか。政府は迅速かつ容易な勝利を約束して我々を戦争に引きずり込み、いったん戦争に巻き込まれると、米国の信頼が危機に瀕するため、どんな犠牲を払っても撤退することはできないと言う。ベトナム、アフガニスタン、イラクの再来である。ただし今回は核武装した敵がいるため、戦争がいつ第三次世界大戦に発展するかわからないというリスクが高い。

NATO加盟国の間で現在行われている議論の中で最も無意味なのは、スケジュールの有無にかかわらず、ウクライナがNATOに加盟するというビリニュス宣言は、戦場におけるウクライナの運命が大きく転換しない限り、実行できない約束だということだろう。このような宣言は、2008年のブカレスト・サミットでの宣言と同じく、ウクライナのNATO加盟を保証することはできない。ただロシア側が必要な限り戦争を継続させ、NATO加盟の阻止を断固として決意していることだけは確かである。

つまり、ウクライナのNATO加盟を「いつか」認めるという我々の主張が意味するのは、第三次世界大戦に巻き込まれたくないという我々の(賢明な)願望とあいまって、「いつか」は決して訪れないということだ。現実的な達成の道筋が見えないのに、なぜ約束を続けるのだろうか。なぜ、いずれにせよほとんど理論上のものにすぎない、NATOの「開かれた扉」という原則をめぐって争うのか。ウクライナが実際に同盟に参加するには、大陸全体の混乱を引き起こすことが避けられないが、そもそもNATOは、そうした混乱を避けるために設立されたのである。

ビリニュスで会談する首脳らはそうした疑問を抱かないかもしれないが、彼らを裁く未来の歴史家はきっと疑問に思うだろう。

Will upcoming NATO summit launch forever war in Europe? - Responsible Statecraft [LINK]

2023-06-19

ナチス復活とメディア

ライター、ブライス・グリーン
(2023年6月12日)

ニューヨーク・タイムズ紙は、ウクライナ軍の写真にナチスのシンボルがたびたび現れる理由を説明しようとする記事(2023年6月5日)で、ウクライナのナチスを軽視し、あるいは祝福する路線を続けている。タイムズ紙は、このようなイメージは「西側ジャーナリスト」を「困難な立場」に追い込むとコメントした。記事中、ウクライナの報道担当者によれば、記者たちはウクライナ兵にナチスの記章を外すよう頼んでから写真を撮ったという。
見出しはこうだ。「ウクライナの前線におけるナチスのシンボルは、歴史の茨の道を照らし出す」。タイムズの袖見出しによれば、最大の懸念は、ウクライナにおけるナチズムの証拠が「ロシアのプロパガンダをあおる危険がある」という恐れである。

「複雑な関係」


問題は、「ウクライナ軍とナチスのイメージとの複雑な関係、第二次世界大戦中のソ連とドイツ双方の占領下で築かれた関係」だという。この関係は「微妙」だとタイムズ紙はいう。プーチン〔ロシア大統領〕が非ナチ化という戦争目的を明言しているためだ。

タイムズ紙の記者トーマス・ギボンズネフ氏は、ウクライナが多くの場合ナチスのシンボルを「受け入れている」にもかかわらず、同国には非ナチ化が必要だという考えを否定する。ゼレンスキー現大統領がユダヤ人であるという理由からだ。この説得力のない議論は、ゼレンスキー氏の血筋にかかわらず、同氏が極右・ネオナチ勢力を主要構成員とする権力構造の中心に位置していることが十分に立証されているため、さらに説得力を欠く。

ゼレンスキー氏の主要な支持者の一人である〔実業家〕イーホル・コロモイスキー氏は、かつてタイムズ紙(2019年3月15日)が「ネオナチの準軍事組織」と表現し、ウクライナ軍に統合されている組織、アゾフ大隊の支援者でもあった。

これらの事実はいずれも〔ロシアの〕違法な侵攻を正当化するものではない。しかし米報道機関において重要な事実が意図的に抑制・省略されているのは明らかであり、紛争の原因や解決の可能性に関する読者の理解が損なわれている。

「プーチン擁護派」のレッテルを貼られるという絶え間ない脅威は、最高レベルのリベラルな既存組織にさえも、ゾッとするような影響を生み出している。タイムズ紙によれば、

旧来、憎悪のシンボルを非難してきたユダヤ人団体や反ヘイト団体でさえ、ほとんど沈黙を保っている。ロシアのプロパガンダを受け入れていると見られることを内心懸念している指導者もいる。

タイムズの記事は、ジャーナリストが現実を報道することに不安を感じていることを認める。記事中のウクライナの報道担当者によると、ある時、匿名の報道機関の記者が撮影前、兵士にナチスのシンボルを取り外させたという。これはジャーナリストが明らかに政治的な理由のために、現実の描写を故意に歪めたという重大な疑惑である。

ホロコーストのパイオニア


タイムズ紙は、ナチスの隠蔽を正当化する資格のある人物を見つけた。

ウクライナの歴史家であり宗教学者でもあるイホル・コズロフスキー氏は、シンボルにはウクライナ独自の意味があり、他の場所でどのように使われていたかではなく、ウクライナ人がどのように見ていたかによって解釈されるべきであると述べる。

「シンボルは、地球の他の地域でどのように使われているかとは無関係に、どんな地域やどんな歴史の中でも生きることができる」

ナチスのシンボルがウクライナでどのように使われたかを「地球の他の地域」と区別することは、ウクライナのナチズムが他の場所よりも何らかの形で穏健であったことを示唆する。しかし実際には、ウクライナはユダヤ人大量虐殺の先駆けであり、推定150万人、つまりホロコーストによるユダヤ人犠牲者の4人に1人が殺された場所である。これらの殺害は主にウクライナの民族主義民兵によって行われ、ホロコーストに参加したこれら部隊の生存者は、2019年にウクライナから退役軍人の地位を与えられ、政府の給付を受けることができるようになった。

CIAのナチス


コズロフスキー氏は弁護の一環として、こうしたウクライナのナショナリストたちの戦後の反ソ連闘争に言及する。

今日、新しい世代がロシアの占領と戦う中で、多くのウクライナ人は、この戦争を第二次世界大戦中とその直後の独立のための闘いの継続とみなしている。

コズロフスキー氏とタイムズは、この「独立のための闘い」のファシスト的性格を省いている。今日ではほとんど認識されていないが、米国には西・東欧で元ナチスを訓練し、反共産主義の準軍事組織として活動させるという、大胆な政策があった。これは決して「ウクライナ独自」ではない。

ウクライナでは共産主義に対抗する民族主義運動の一環として、元ナチス親衛隊(SS)やナチスの情報部隊が米中央情報局(CIA)から支援を受けていた。今日ウクライナで見られるナチスは、これらのネットワークや組織の直系の子孫である。タイムズ紙がこの歴史に言及することを拒否したとしても、これらのシンボルは、米国が支援したナチス運動に明確にルーツを持っており、現在のナチスを擁護することは、より一層ひどいことである。

この戦争における多くの事実と同様に、ウクライナのナチス問題とその起源は、米国の企業メディアによって記憶の彼方に追いやられてしまった。印象的なのは、開戦前にウクライナのナチス問題を認める報道がいかに一般的であったか、そしてその問題が米議会で認識されていたことである。

しかしタイムズの報道で再確認されたように、米国のジャーナリストは、この戦争で正しいチームに属することが、読者に出来事の正確なイメージを提示することよりも重要だと判断した。このタイムズ紙の新たな記事は、この戦争や他の多くの戦線における米国の政策に対する合意をでっち上げるうえで、ジャーナリストが果たす役割を際立たせている。たとえそれがナチス民兵の復活を意味しようともである。

NYT on Ukraine's Nazi Imagery: It's 'Complicated'  - FAIR [LINK]

2023-06-16

カラー革命という内政干渉

オーストリア経済センター、チェン・ウェイミン
(2023年6月14日)

最近、米国の海外に対する関心はロシアに集中しているが、米政府の目により大きな魚として映っているのが中国だ。米国は一方ではウクライナ紛争に次々と援助を注ぎ込んでいるが、他方では太平洋を隔てて競合する超大国に警告を発している。しかし世界の他の国々と同様、中国も過去数十年間、米国の軽率な外交政策と介入主義を見続けてきた。そして今、中国もまた米国に警告を発している。

警鐘を鳴らす


中国は最近、古代シルクロードが中国帝国と西方の文化を結んだ歴史的な都市、西安で2日間の中国・中央アジアサミットを開催して終了した。習近平国家主席は中央アジア諸国の首脳を前に、投資計画、自由貿易、科学技術交流、観光・農業の振興、安全保障協力などを通じた、中国と近隣地域との今後の関わり方について発言した。

そして最後のポイントとして、習氏は米国に目を向け、言葉を濁すことなくこう言った。「〔中国が2023年3月に発表した〕グローバル・セキュリティ・イニシアティブに基づいて行動し、地域諸国の内政に干渉したり、カラー革命を起こそうとしたりする外部の企てに断固として立ち向かうべきだ」。この発言で習氏は米国を批判し、米政府がここ数十年目立たないように行ってきた類の干渉に対して警告を発した。

カラー革命の背景


カラー革命は、ソビエト連邦とその影響圏が崩壊した後の90年代初頭から一貫して観察されてきた。この革命は、名目上民主的でない国々で、自由を実現するために草の根の民衆運動が行われるのが特徴である。これらの運動は一般に、既存の政府体制の打倒や変更を目的とした大規模な抗議活動、デモ、市民抵抗運動を伴う。陰謀論や偽情報として理解されず無視されることも多いが、米政府は数十カ国でいわゆるカラー革命に資金を提供し、指導してきた。とくにロシアや中国の近隣やその周辺の重要な地理的位置で親中露に傾いている国々である。

カラー革命を起こす仕組みは非政府組織(NGO)である。NGOは表面的には民主主義制度、市民社会、統治改善の推進を謳っているが、全米民主化基金(NED)や〔ジョージ・ソロス氏が保有する〕オープン・ソサエティ財団のような団体は、政情不安をあおり、国内制度や選挙を混乱させ、親米派の指導者を政権に就かせるという決定的な役割を担ってきた。このように、民主主義と自由を守るという名目で、アメリカ帝国の名の下に、選挙と主権を損なうのがカラー革命である。

中国の外交政策


中国の権威主義的な指導はさておき、中国の外交政策は、国際関係における米国の「自分のやり方しか認めない」(あるいはそれ以下)の手法に代わるものを提供している。米国の介入主義とは対照的に、中国の外交政策はいわゆる平和共存5原則(主権と領土保全の相互尊重、相互不侵略、内政不干渉、平等と相互利益、平和共存)を軸にしている。この原則は1950年代半ば、共産主義の新政府である中華人民共和国が外国と友好を深めようとしたときに生まれた。

中国が他国の内政に干渉しないことを約束し、国家主権を尊重することは、欧米諸国やその組織と比較して、国際協力や開発に対する中国流のやり方の重要な特徴となってきた。今、中国はさらに一歩進んで、同盟国と協力し、国内問題を米政府が資金を提供するNGOのような外国の影響から共同で守る可能性があるようだ。

注目すべきこと


中国の首脳がカラー革命に対して明確に発言したのは、これが初めてではないだろう。ウズベキスタンのサマルカンドで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議で、習近平氏は中央アジア、ロシア、インド、パキスタン、イランの指導者に「カラー革命を引き起こす外部勢力の試みを許さないことが重要」と警告し、加盟国は「いかなる口実でも他国の問題への干渉に共同で反対する」べきだと述べた。

繰り返しになるが、これらの国はいずれも、我々西側諸国が見習いたいと思うような政権で運営されているわけではない。しかしこれらの国を密かにジェファーソニアン共和国〔=米国流の自由主義的な国〕に変えようとするのは卑劣であり、これらの国が米国とその価値観に完全に不信感を抱くよう仕向けることになる。結局のところ、ウクライナを引き裂いた10年で2回のカラー革命〔2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン革命〕は、現在のロシアとの紛争の大きな要因になった。

皮肉なことに、中国は国家主権のもとで経済協力を行い、平和を促進する国になっている。一方、米国は「ルールに基づく国際秩序」を守ると主張し、世界中で政府を転覆させ、経済の混乱をもたらし、卑劣な戦争と軍国主義を繰り広げている。米中間の緊張と対立が予測可能な将来にわたって激化し続けるなか、多くの国が事業活動における中国の手法を支持し始め、世界の舞台ですでに揺らいでいる米国の影響力に反撃する自信を持つようになるかもしれない。米政府は、このままカラー革命のシナリオを実行し続けることは危険を高めると考えるかもしれない。

China Calls Out the USA for Instigating the Infamous Color Revolutions | Mises Wire [LINK]

2023-06-15

第2次世界大戦は「善対悪」の戦いか?

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年6月8日)

〔経済学者〕ポール・クルーグマン氏は、6月6日のノルマンディー上陸作戦79周年を記念する米紙ニューヨーク・タイムズのコラムで、第2次世界大戦に関する欧米の利己的な決まり文句をほぼすべて首尾よく再掲した。クルーグマン氏によれば、「第2次世界大戦は、悪に対する善の戦いであることが明らかな数少ない戦争の一つだった」。大多数の米国人が同氏に同意すると考えて差し支えないが、その説明はひどく不正確である。
連合国を聖人扱いする一部のアナリストとは異なり、クルーグマン氏は少なくとも「善人も決して完全な善ではなかった。米国人はまだ基本的な権利を否定され、時には肌の色を理由に虐殺された。英国はまだ広大な植民地帝国を支配し、時には残酷に支配していた」と認めている。しかし不思議なことに同氏は、第2次大戦の大同盟の第3のメンバーであるスターリンのソ連の存在によって、大戦が善と悪との存亡を賭けた清き戦いだったという考えを台無しにするという重要な点を無視している。ケイトー研究所の研究者ジーン・ヒーリー氏は、スターリンは20世紀の大量殺戮オリンピックの銀メダリストに値すると正確に指摘する。

スターリンが「良い側」のメンバーである場合、クルーグマン氏や他の物書きは自分の論説を考え直す必要がある。クルーグマン氏は記事の後半で、1930年代にスターリンがウクライナで行った残虐行為に言及しているが、それは大戦中にナチス・ドイツの侵攻を支持したウクライナ人と、ナチスのシンボルや価値観を受け入れることに浮かれている現在のウクライナ人を免責するだけだ。クルーグマン氏は、大戦におけるスターリンの重要な役割が、大戦に関する単純化された「善と悪」の物語を損なうものであることを認めない。

あの恐ろしい世界的な大虐殺をより正確に表現するならば、それは悪と大きな悪との対立であった。クルーグマン氏は明らかに、大戦中に行われた連合国の戦争犯罪を一切取り上げていない。だが都市人口集中地区への集中爆撃作戦を承認した英米首脳らの行動を弁解することは不可能である。推定8万〜13万人が死亡した東京大空襲、戦争末期のドレスデン大空襲、広島・長崎への原爆投下を命じた首脳らは、「善人」ではなかった。これら攻撃の犠牲者の大半は軍人ではなく、罪のない民間人だった。このような行為は今日紛れもなく戦争犯罪であり、当時もそうだったはずである。

しかし米国をはじめとする西側の識者は、泥沼の武力闘争を善対悪の戦い以外のものとして描くのは大いに困るようだ。ベトナム戦争、米主導の2度の対イラク戦争、リビアやシリアの内戦に対する米国の干渉政策も、同じように単純化された物語がメディアの扱いと世論を支配した。

第2次世界大戦を善対悪の戦いとして描くことは、クルーグマン氏の真の政策課題への道を開く。同氏は、ウクライナの軍事攻撃は「ノルマンディー作戦に相当する道徳的なもの」だと主張し、ウクライナ政府を「不完全だが本物の民主主義国家であり、大きな民主主義共同体に加わることを望んでいる」と表現する。逆に「プーチン〔大統領〕のロシアは悪意ある厄介者であり、世界中の自由の友はその完敗を望まなければならない」と述べる。ウクライナとロシアの間に「道徳的な対等性」はありえないと確信を込めて主張する。

現実には、ウクライナは単なる「不完全な民主主義国家」にはほど遠い。ゼレンスキー大統領は、腐敗し権威主義を強める政権を仕切っている。人権侵害はまったく当たり前のことになっている。米首脳とそのそのお抱え報道機関がベトナム、セルビア、イラク、リビア、シリアとの対決を悪に対する聖なる十字軍として描いたように、同じ脚本がロシア・ウクライナ戦争に関しても使われている。クルーグマン氏は同じ目的のために、北大西洋条約機構(NATO、ウクライナを代理人として使用)とロシアの間の権力闘争を、欺瞞に満ち理想化された第2次大戦の道徳的枠組みに露骨にはめ込もうとしている。

第2次世界大戦をもっと冷静かつ現実的に検証すれば、こうした世論操作の試みに対して米国民(および他の西側の人々)が免疫をつけるのに役立つだろう。第2次大戦は、自由と民主主義を守る諸国が、絶対的な悪の勢力に対して行った崇高な十字軍ではなかった。ファシスト勢力の描写は正確だが、連合国を美化するのは現実をグロテスクに歪曲している。

Paul Krugman's World War II is a Propagandistic Fairy Tale | The Libertarian Institute [LINK]

2023-06-14

帝国主義リバタリアンという矛盾

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月31日)

「リバタリアン(自由主義者)の原則や立場に賛成だ。外交政策を除いては」と言われて困ったことが何度もある。その態度はたいてい、冷戦時代やソ連崩壊後の世界情勢に対する米政府の軍国主義的な取り組みを、忠実に支持することを意味する。外交政策を例外とするリバタリアンは、冷戦時代の北大西洋条約機構(NATO)を支持するだけでなく、1990年代後半からの東欧へのNATO拡大を擁護するのが普通である。
タカ派リバタリアンはまた、「テロとの戦い」を声高に支持したが、それはサダム・フセイン打倒のためにイラクへの軍事行動を求めたブッシュ政権の宣伝キャンペーンを含む。当時ケイトー研究所の副所長であり、現在は名ばかりのリバタリアン系シンクタンクであるニスカネン・センターで同様の役職にあるブリンク・リンゼー氏は、タカ派が採用した論理を典型的に示している。リンゼー氏の警告によれば、「全体主義的なイスラム主義の野蛮人こそ、明確な現在の危険である。彼らとの戦いを遂行するには、多くの戦線で前進しなければならない。まず最も明白なのは、テロ組織そのものを追及することだ。大量破壊兵器をテロリストの手に渡さないよう、あらゆる努力を払わなければならない。今、イラク、イラン、北朝鮮のようなならず者国家との対決に注目が集まるのは当然だ。そのような国家は武装解除されなければならない。つべこべ言わずにだ」。米主導のイラク侵攻の3カ月以上前に書いた文章で、リンゼー氏はこう断言した。「アフガニスタンやイラクのように、紛争が避けられない場合、その政策は米国の武力に頼ることになる」

別の記事でリンゼー氏はさらに率直に、イラクに対する武力聖戦を望んでいる。「9・11テロが起こらず、アルカイダという存在がなかったとしても、イラクに対する軍事行動を支持するだろう。結局、1991年の湾岸戦争を支持したのは、サダム・フセイン政権が核の野望を果たす前に打倒するためだった」

さらに最近では、自称リバタリアンの何人かが、ロシアと対立するウクライナを熱心に支持している。〔国際学生団体〕スチューデンツ・フォー・リバティの〔ウェブサイト「自由を学ぶ」で、米リバタリアン党古典的自由派会長の〕ジョナサン・ケーシー氏は、ロシアの行動は全くいわれのないものだというバイデン政権の立場に共鳴した。ケーシー氏が率直に述べるには、「侵略がNATOによって引き起こされたという考えは完全に否定されなければならない」し、それどころか「NATOはロシアにとって想像上の脅威でしかなかった。NATOへの非難は、ロシアの侵略を弁解する都合の良い方法にすぎない」。

ケーシー氏は少なくとも、ウクライナへの米国の軍事介入をストレートに主張することからは距離を置いた。しかし他の「リバタリアン」はもっとずけずけと、ロシアとウクライナの戦争に関し積極策を望んでいる。ケイトー研究所のカルチュラル・スタディーズ研究員であるキャシー・ヤング氏はこの選択肢を熱心に支持し、ロシアを米国にとって危険で手強い敵として悪者扱いするキャンペーンを展開している。ダーラム米特別検察官の待望の報告書で完全に否定された「ロシアゲート」陰謀説を擁護し、ウクライナをロシアに対する将棋の駒として利用する米・NATOの代理戦争を支持することにもためらいはない。軍事援助に関しても、米国は「ウクライナの勝利のために、十分な量を、迅速に提供する必要がある」と主張する。驚くことに同氏は、何千もの核兵器を持ち、ウクライナを重要な安全保障上の関心事と考える国〔=ロシア〕に対し代理戦争を仕掛けることによって米国が被る、様々な危険に気づいていないようだ。

「外交政策を除けば」と但し書きをする自称リバタリアンには、戸惑いと落胆を感じる。それは「ステーキやハンバーガーを食べる以外はベジタリアン」と言うのと同じだ。米国が世界中で秘密任務や明白な軍事介入を果てしなく行い、それでも自由な国に向かって前進できると考えるのは、良くいっておめでたい。世界中で介入を繰り広げる外交政策は、他のすべての意義ある政治的、経済的、社会的価値を台無しにする。

そのような外交政策には、巨大な軍隊と巨額の税金が必要だ。米国は世界帝国を安上がりに運営することはできないからだ。1945年以降、米国がグローバル安全保障の「義務」を担って以来、連邦政府の規模と費用が爆発的に増大したのは偶然ではない。今日、米国の軍事費は2位以下の10カ国を合わせたよりも多い。

介入主義外交政策の弊害は経済面にとどまらない。同盟国や傀儡国のために世界各地で迅速に介入するには、意思決定の一元化が必要である。その結果、危険なほど強大な権力を握る帝国大統領が誕生し、憲法に定める権力分立を崩壊させてしまった。特に議会の戦争権限と、議会が大統領の軍事的冒険主義に対して行使しうる抑制力が衰えた。また中央情報局(CIA)を筆頭に恐るべき監視機構が拡大し、主流の外交政策に異議を唱えるような米国人をスパイし、嫌がらせをするのも、その現れである。

タカ派リバタリアンは目を覚まさなければならない。自由主義を推進しながら、その目的を根本から損ないかねない国際問題への取り組みを支持することはできない。ウクライナに関する政策は、米政府を縮小し、規制を緩和するという目標にどれだけ真摯に取り組んでいるかを示す最新の試金石である。今回もまた、あまりにも多くのリバタリアンが、そのテストにみごとに落第している。

No, It Is Not Possible to be an Imperial Libertarian – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2023-06-13

バイデン氏のナチスの盟友

米退役軍人・非営利団体代表、ダン・マックナイト
(2023年6月7日)

慈善団体や非営利団体にお金を寄付しようと決めたとき、その団体が寄付に値するかどうかを判断するために、ある程度の調査をするに違いない。
慈善団体Xがお金を多く与えるのは人々か、それともその団体の幹部か。団体Yは努力を示す実績があるのか、それとも口先だけなのか。

例えば、私が示すことができるのは、州兵保護法案に関する20の法案番号、委員会の公聴会や退役軍人の証言の動画、アリゾナ、モンタナ両州での前例のない勝利であり、これらはすべて過去6カ月間で、私の非営利団体「部隊を故郷に」が成し遂げたことだ。

〔この寄稿を掲載した〕リバタリアン研究所も、読者から寄せられた寄付金によって、同様の成功を収めることができるに違いない。

残念ながら米政府は、何十億ドルもの資金を提供する前に、こうした調査を行うことはない。

これは何も新しいことではない。

レーガン政権は1980年代、議会の目を盗み、中米最悪の類の死の部隊〔ニカラグアの反革命ゲリラ「コントラ」〕に資金を提供した。この連中は内戦を戦っていないときは、暇さえあれば修道女を虐殺していた。

オバマ政権はシリアの反体制派に何十億ドルもの資金と武器を与えたが、そのほとんどがイラクで米兵を殺害した〔国際テロ組織〕アルカイダ関連組織だった。

そして今、バイデン大統領は数十億ドルを贈ろうとしている。ナチスにだ。

これは冗談ではない。

ドイツのナチ党、武装親衛隊、強制収容所の看守が使用した鉤十字などのシンボルの刺青や制服のパッチは「現在前線で戦う(ウクライナの)兵士の制服に一定の頻度で見られる」と米紙ニューヨーク・タイムズは今、認めている。

戦争党は第三次世界大戦を戦うために突撃隊が必要になり、第二次世界大戦からナチスを呼び寄せたのだ。

1年以上にわたって、ウクライナ政権のソーシャルメディアのボット(自動プログラム)や雇われたロビイストは、第三帝国の紋章を誇らしげに掲げる兵士たちの写真を消そうとしては、失敗を繰り返してきた。

タイムズ紙はこう続ける。

どの写真でも、制服姿のウクライナ人は、あるシンボルのパッチを付けている。ナチス・ドイツによって悪名高くなり、それ以来、極右ヘイト集団の図像の一部となった、あのシンボルだ。

旧来、憎悪のシンボルを非難してきたユダヤ人団体や反ヘイト団体でさえ、ほとんど沈黙を保っている。ロシアのプロパガンダを受け入れていると見られることを内心懸念している指導者もいる。

米国のいわゆる「記録の新聞」〔ニューヨーク・タイムズ紙の異名〕が、完全に事実として正しいと認めていることが、「ロシアのプロパガンダ」でもある。このパラドックスを解き明かしてみてほしい。

これはタイムズ紙がついに取り上げようと決めたずっと前から存在していた問題だ。アゾフ大隊のようなネオナチ部隊は、米政府が仕組んだ2014年のウクライナのクーデター以降、ウクライナの軍に組み込まれていた。

この過激な極右派が〔ウクライナの〕ゼレンスキー大統領に対してどれだけの影響力を持つかについては、未解明の問題さえある。

そして、これはまさにバイデン氏と軍産複合体が1000億ドル以上の資金を提供した相手、〔ナチス・ドイツの独裁者〕アドルフ・ヒトラーの子分どもだ。

この状況を終わらせるには、2つの方法しかない。

ウクライナでの戦争が北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間で激化し続け、完全な核ハルマゲドンに見舞われるか……

あるいは戦争が終わり、ウクライナが壊滅し、分割され、怒り狂った武装十分のナチスの狂信者たちが、資金提供者である我々に恨みを抱くようになるかだ。

そうなると人類滅亡のほうがましだと思えてくるね。

Biden's Nazi Allies | The Libertarian Institute [LINK]

2023-06-12

ロシアを悪とみなすな ケネディ演説の教訓

米誌ネーション発行人、カトリーナ・バンデン・ヒューベル
コラムニスト、ジェームズ・カーデン
(2023年6月9日)

米国のジョン・F・ケネディ大統領が、ワシントンにあるアメリカン大学のキャンパスで行われた卒業式で、冷戦と冷戦思考に対する痛烈な批判を述べてから、6月10日で60年になる。
その中でケネディは、核時代における平和のあり方について構想を語っている。

「我々はどのような平和を求めるのだろうか」とケネディは問いかけた。

米国の戦争兵器によって世界に強制されるパックス・アメリカーナではない。墓場の平和でも、奴隷の安全でもない。本物の平和だ。地上の生活を生き甲斐のあるものにし、人間や国家が成長し、希望を持ち、子供たちのためにより良い生活を築くことができるような平和だ。単に米国人のための平和ではなく、すべての男女のための平和、単に我々の時代における平和ではなく、あらゆる時代のための平和だ。

ケネディにとって核戦争の危機は、前年10月のキューバ危機で米国とソ連がその寸前まで迫るものだった。そのため敵対するソ連との平和を追求することが必須となった。しかしこのことは若い大統領を、自国の国家安全保障・軍事・情報体制と、おそらく致命的なまでに対立させることになった。

だがアメリカン大学でケネディは、健全で合理的、そして何よりも倫理的な冷戦政策を米国民に直接訴えかけた。

平和は理性ある人間の必要かつ理にかなった目的である。平和の追求は戦争の追求ほど劇的ではないと理解しているし、平和を求める者の言葉はしばしば耳に入らない。しかし、これほど緊急の課題はない。

そしてケネディは大統領就任後、国防総省と米中央情報局(CIA)を大いに困惑させながら、平和追求の最もありえないパートナーを見つけた。ソ連のニキータ・フルシチョフ(最高指導者)である。ケネディとフルシチョフは一連の米ソ危機(ピッグス湾、ウィーン・サミット、ベルリン危機)を通じて信頼関係を築き、キューバ・ミサイル危機の際には、人類を終末から遠ざけるのに貢献した。この危機の後、2人は核実験禁止条約に向けて動き始めた。

ケネディは、前進のためには、自分が見られたいと思うように相手を見ること、つまり共感が必要であることを理解した。

ケネディは言った。「どんな政府も社会制度も、その国民が美徳を欠くとみなさなければならないほど邪悪ではない」

だから違いに目を奪われることなく、共通の利益に注意を向け、違いを解決する手段にも目を向けよう。もし今、違いをなくすことができなくても、少なくとも多様性のために世界を安全にする手助けはできるはずだ。詰まるところ、我々の最も基本的な共通点は、全員がこの小さな惑星に住んでいるということだ。我々は皆、同じ空気を吸っている。我々は皆、子供たちの未来を大切に思っている。そして我々は皆、死すべき存在なのだ。

現在敵対するロシアに対するこのような考え方が、バイデン米政権の権力中枢に欠けているのは明らかだ。

実際ケネディの演説は、それから数十年の間に、最近の民主党政権がいかに間違った方向に進んできたかを示す重要な指標となるものだと思う。私たちはプーチン〔ロシア大統領〕の侵略をはっきり非難する一方で、戦争を防ぎ、終わらせる外交手段を追求しなかった米政権に心を痛めている。

今日私たちは、核兵器によるエスカレーション(激化)に近い状況に立たされている。米政権が自ら設定したレッドライン(越えてはならない一線)を無視し、ウクライナへのF16戦闘機の供与に同意することでタカ派に屈しているからだ。60年前のこの日に伝えられたケネディ大統領のメッセージが、何らかの形で政府内外の新しい世代に理解され、戦争と平和の行方に影響を与えることを願うばかりである。

What kind of peace do we seek? At 60, JFK's speech never gets old - Responsible Statecraft [LINK]

2023-06-11

【コラム】ダムの破壊、ジャーナリズムの崩壊

木村 貴

ロシア軍が支配するウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所の巨大ダムが6月6日、爆発で決壊した。同水力発電所はロシア軍占領下にあり、ダムの貯水池からザポロジエ原子力発電所に給水している。水位が低下し冷却水が確保できなくなれば、原子力災害につながる恐れがある。ダムの水が流れ込むドニエプル川の下流で浸水被害も広がっている。
誰がダムを破壊したのか、真相は不明だ。ウクライナが「ロシアのテロリストが爆発を起こした」と非難する一方、ロシアは「ウクライナ側による破壊行為だ」と主張している。ところが日本の大手メディアは、十分な根拠もなくロシアが「犯人」だとほとんど決めつけたり、破壊したのが誰であれ、とにかくロシアが悪いと無茶な主張をしたりしている。

大手各紙は6月7〜8日、それぞれ社説でダム破壊問題を取り上げた。点検してみよう。

日本経済新聞は「ダム爆破は人道危機であり環境破壊だ」と題し、「深刻な人道危機であり、ウクライナ国土のさらなる荒廃を招くものだ。決して容認できない」と強調する。破壊の犯人については「ロシアにとっては下流地域を洪水にすることでウクライナの反転攻勢を阻むことができる一方で、実効支配するクリミア半島への水供給は制限される」としたうえで、「ロシア、ウクライナともに相手の破壊工作だと非難しており、真相は不明だ」と述べる。

ダム破壊によってロシアが得る利益(下流地域を洪水にすることでウクライナの反転攻勢を阻む)だけでなく、不利益(実効支配するクリミア半島への水供給は制限される)も挙げているのはバランスが取れている。もっとも、ダムはロシア軍が支配しているのだから、洪水にしたければ水門を開放するだけでいいのに、なぜわざわざ貴重なインフラであるダムを破壊したのか、という大きな疑問が残る。

また日経は「真相は不明だ」と認めながら、社説の後半では「そもそもロシアがウクライナに侵攻し、ダムを占拠しなければこのような惨事は起きなかった。〔略〕悲劇を繰り返さないためにはロシア軍の即時撤退が不可欠だ」とロシアを非難する。この「そもそもロシアが」論は、あとであらためて検討しよう。

朝日新聞は「巨大ダム決壊 国際法無視は許されぬ」というタイトルで、ダム決壊が「意図的な破壊行為だとすれば、重大な戦争犯罪である。被害の拡大を防ぐ努力とともに、真相の究明と責任者の処罰が必要だ」と訴える。ウクライナとロシアは非難の応酬に終始しているとしたうえで、「根拠を示さずにウクライナを非難する姿勢は説得力を欠く。国際的な調査団の受け入れなどを検討するべきだ」とロシアの説明責任を強調する。

朝日は、ロシアが「根拠を示さずにウクライナを非難する」というが、根拠を示さず相手を非難しているのは、ウクライナも同じだ。また「国際的な調査団の受け入れ」については、すでに6日開いた国連安全保障理事会の緊急会合でロシアのネベンジャ国連大使が国連のグテレス事務総長に「客観的な評価」を求めているが、そもそも国連側にやる気があるのかという問題がある。それというのも国連はこれまで、ウクライナの首都キーウ(キエフ)に近いブチャでロシア軍が市民を虐殺したとされる「ブチャの虐殺」や、ロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム」の爆破について、ロシアから調査を求められたにもかかわらず、拒否しているからだ。

一方、トルコのエルドアン大統領は7日、ウクライナのゼレンスキー大統領、ロシアのプーチン大統領と個別に電話会談を行い、ダムの決壊について調査を行う国際的な委員会の設置を提案した。ところがウクライナはこれを「ロシアを甘やかすためのゲームにすぎない」(クレバ外相)として拒否している

2023-06-09

露、ウクライナ南部で大規模攻撃を撃退 ショイグ国防相が発表

反攻の「本命」開始か

アンチウォー・ドット・コム
(2023年6月8日)

ロシアのショイグ国防相は8日、西側メディアがウクライナの反攻が正式に始まったと報じる中、ロシア軍がウクライナ南部ザポリージャ州でウクライナの攻撃を撃退したと発表した。
ロシアのタス通信によると、ショイグ氏は「午前1時30分、敵は第47機械化旅団から最大1500人の兵士と150個の装甲を率いて、我々の防御を突破しようと試みた」と述べた。

ロシア軍総司令官を務めるショイグ氏は「敵は四方すべてで足止めされ、多くの死傷者を出して退却した」と述べた。同氏によれば、ウクライナは「30台の戦車、11台の歩兵戦闘車、最大350人の人員」を失った。

ショイグ氏の主張は、ウクライナ指導部が攻撃計画について沈黙を守っているため、確認されていない。米政府関係者はニューヨーク・タイムズ紙に対し、ウクライナの反攻の「本命」が始まっているようだと述べた。

米当局者は今週初め、東部ドネツク州の戦線沿いで攻撃が報告されたことから、ウクライナの攻勢が始まった可能性が高いと述べた。しかし西側メディアは8日、ウクライナの反攻が今、正式に始まったとする報道であふれかえった。

ウクライナの反攻は、ロシアが確保したクリミア半島からロシア本土への陸橋を切断するため、南部のザポリージャ地方とケルソン地方に集中するとみられていた。

米国と北大西洋条約機構(NATO)はウクライナの反攻準備を支援しており、ドイツ製のレオパルド戦車と米国製のブラッドレー戦闘車がザポリージャの前線近くで目撃されたという報告もある。ミリー米統合参謀本部議長は5日、米国とNATOがウクライナに提供してきた大規模な支援について「訓練や弾薬、助言、情報、その他」などと説明した。

Russia Says It Repelled Large Ukrainian Attack in Southern Ukraine - News From Antiwar.com [LINK]

2023-06-08

NATO前事務総長「一部加盟国、ウクライナに派兵検討」

リバタリアン研究所
(2023年6月7日)

北大西洋条約機構(NATO)の元文民トップは、近く開催されるNATOサミット(首脳会議)で同盟諸国がウクライナに重要な誓約をしない場合、一部の東欧諸国はウクライナに派兵する用意があると警告している。
NATO前事務総長で、現在はウクライナのゼレンスキー大統領の顧問を務めるアナス・ラスムセン氏は、7月に〔リトアニアの首都〕ビリニュスで開くサミットでウクライナが期待できる支援の程度を測るため、欧米を回っている。ラスムセン氏によれば、「ポーランドは、ウクライナがビリニュスで何も得られなかったら、有志連合の結成を真剣に検討すると思う。ポーランドの感情を過小評価すべきではない。ポーランドは西欧があまりにも長い間、ロシアの真の心理に対する自分たちの警告に耳を傾けなかったと感じている」

ラスムセン氏によれば、NATOがリトアニア・サミットでウクライナに十分強く関与できない場合、ポーランドとバルト3国はウクライナに軍隊を派遣する可能性がある。「もしNATOがウクライナの明確な前進に合意できない場合、いくつかの国が個別に行動を起こす可能性があるのは明らかだ。ポーランドがウクライナへの具体的な支援に積極的なことは周知のとおりだ。ポーランドが国単位でさらに強く関与し、それにバルト諸国が続き、もしかしたら軍隊が進攻する可能性も排除できない」

NATO加盟国は数カ月前から、ビリニュス・サミットでウクライナの地位をどのように格上げするかについて議論してきた。一部の西欧諸国と米国はこれに同意せず、ロシアとの戦争に議論を集中させようとしている。

「ブカレスト9」と呼ばれるNATO内の東欧諸国の小グループは6日、声明を発表し、ウクライナ加盟の道筋をつけるよう求めた。「ビリニュスでウクライナとの政治的関係を新たなレベルに格上げし、条件が整えば同国のNATO加盟につながる新たな政治的軌道を開始するよう期待している。ウクライナがその道を歩めるよう支援を継続する」と声明は述べている。

フランスのマクロン大統領は先月、同国はウクライナの完全な加盟を支持しないと述べた。同大統領はNATOに対し「イスラエルに提供される安全保障と完全な加盟の間に何かを構築する」よう求めた。

NATO加盟国の間では、重要な複数年の関与の一部としてウクライナを武装させることに合意があるようだ。「米国と同盟国は、現在の戦場におけるウクライナのニーズを満たすと同時に、今後何年にもわたって侵略を抑止・防御できる戦力を構築する手助けをしている」とブリンケン米国務長官は2日、フィンランドでの講演で述べた。「つまり長期的な資金で、将来のウクライナ軍の構築を支援するということだ」

ラスムセン氏によると、マクロン氏はこの問題について譲る兆しがある。今ではフランスを含め、「スタートは遅かったが、この考えの背後に勢いがついている」という。またドイツなど一部の加盟国が、ウクライナに加盟の道筋をつけるとロシアを刺激しかねないと考えていると指摘した。

しかしラスムセン前事務総長は、ウクライナに軍隊を派遣すると脅す加盟国が、ドイツや他の加盟国に対し、ウクライナ加盟の道筋を早く整えるよう働きかけると考えている。

Former NATO Head: Some NATO Countries Are Considering Sending Troops to Ukraine | The Libertarian Institute [LINK]

2023-06-07

ザポロジエ原発に給水のダム爆破

ウクライナとロシア、互いを非難

アンチウォー・ドット・コム
(2023年6月6日)

ウクライナ南部ドニエプル川沿いにあるノバ・カホフカ・ダムが6日、破壊された。ウクライナとロシアは攻撃について互いを非難しているが、ロシアはダムの破壊によってより多くの影響を被ることになる。
ダムは1950年代にソ連によって建設され、1年以上にわたってウクライナ戦争の最前線に置かれてきた。高さは100フィート近く、幅は1万フィート以上ある。水力発電所として建設され、2000平方キロメートルを超えるカホフカ貯水池を作り出した。欧州最大の原子力発電所であるザポロジエ原発(ZNPP)とクリミア半島は、この貯水池から給水されている。

6日朝、爆発がダムを切り裂き、下流で洪水が始まったと伝えられている。攻撃が意図的なものであったかどうかは不明。英BBCは、ダムは先週中に破損していたと指摘した。

ダム破壊の最も直接の影響は周辺地域の洪水で、少なくとも1万6000人が避難すると予想されている。ウクライナ政府関係者によると、すでに8つの町が一部または完全に浸水しているという。ロシアが支配する地域では、洪水はさらにひどくなると予想されている。

また、この地域では、洪水による環境破壊や、水力発電所で使用されている多量の工業用潤滑剤も問題になりそうだ。

もう一つの懸念は、ロシア軍が支配しているザポロジエ原発だ。カホフカ貯水池は、この巨大な発電所に冷却水を供給していた。国連の核監視団体である国際原子力機関(IAEA)は「状況を注意深く監視している」が、「直ちに核安全上のリスクはない」と述べている。

うウクライナは直ちにロシアを非難し「テロ攻撃と戦争犯罪」と呼んだ。ウクライナ国防省は、ロシアがこの地域の戦術的防衛としてダムを破壊したことを示唆した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ人によるダムの破壊の実行は不可能だと主張した。「ロシアは1年以上にわたってダムとカホフカ水力発電所全体を支配してきた。外部から砲撃でどうにかして爆破することは物理的に不可能だ」とし、「ロシア占領軍が機雷を仕掛け、爆破したのだ」と述べた。

しかしウクライナのアンドリー・コバルチュク少将が昨年、米紙ワシントン・ポストに語ったところによれば、昨年のウクライナの反攻の際、ダムへの攻撃を検討したという。ポスト紙によれば、「コバルチュク氏は川を氾濫させようと考えた。ウクライナ側はノバ・カホフカ・ダムの金属製の水門の1つにHIMARS(高機動ロケット砲システム)で試験攻撃を行い、3つの穴を開け、ドニエプル川の水を十分に上げてロシアの横断を妨げつつ、近くの村を水浸しにしないかどうかを確認したという。試験は成功したとコバルチュク氏は語った」

ロシアのペスコフ大統領報道官は、ダム破壊の背後にはウクライナ勢力がいると述べた。「〔プーチン〕大統領は、国防省や他の機関を通じて、カホフカ水力発電所の周辺で起きていることについて報告を受けている。現時点ですでに、ウクライナ側による意図的な妨害行為だと明確に言うことができる」と述べた。

ダムへの攻撃は、ウクライナにおけるロシアの関心の核心に影響を与えることになる。カホフカ貯水池は、全長250マイルの北クリミア運河を通じ、ロシアが2014年に併合したクリミア半島に水を供給している。ウクライナ侵攻前、ロシアはウクライナに対し、クリミアに水を供給する灌漑システムを開放したままにするよう定期的に要求を出していた。

ペスコフ報道官は、ウクライナの攻撃の動機の一部はクリミアから水を奪うことだと述べた。「貯水池の水位が下がっているため、(北クリミア)運河への水の供給が激減している」とし、「この妨害行為は明らかに、2日前に大規模な攻撃作戦を開始したウクライナ軍が、その目的を達成できないことにも起因している。彼らの作戦は停滞している」と付け加えた。

Critical Dam in Southern Ukraine that Provides Water to Crimea Destroyed - News From Antiwar.com [LINK]

2023-06-06

仏、NATOの日本事務所開設に反対

マクロン大統領、北大西洋にとどまるべきだと考える

アンチウォー・ドット・コム
(2023年6月5日)

フランスのマクロン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)が日本に連絡事務所を開設する計画に反対し、同盟は北大西洋にとどまるべきだと考えている。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が5日報じた。
NATOがアジア太平洋に初の事務所を開設しようとするのは、米国が西側の同盟国をこの地域の対中国戦略にもっと関与させようとする計画の一部である。NATOの日本事務所開設計画は、5月上旬に日経アジアによって初めて報道され、中国から反発を招いた。

関係筋がFT紙に語ったところによれば、フランスの立場が、数カ月続いている日本事務所に関するNATOの協議を複雑にしている。ある仏政府関係者によると、フランスはNATO憲章が同盟の地理的範囲を北大西洋に限定すると考えている。

マクロン氏は、NATOが北大西洋を越えて拡大すべきだとは思わないと公言している。「もし……我々がNATOに領域と地理を拡大するよう働きかけるなら、大きな間違いを犯すだろう」と先週述べた。

新しい連絡事務所の開設には、NATO加盟国31カ国すべての同意が必要であり、フランスはこの動きを阻止する可能性があることを意味する。マクロン大統領が、台湾をめぐる中国との紛争に欧州は米国に追随すべきではないと発言してから約2カ月後に、フランスの見解が報道されたことになる。

NATOはここ数年、中国に目を向けており、中国はNATOにこの地域から手を引くよう繰り返し警告してきた。中国外務省の毛寧報道官〔副報道局長〕は先月、「NATOがアジア太平洋に東進し、地域問題に干渉し続ければ、地域の平和と安定を損ない、陣営対立を煽ることになるのは避けがたい。地域諸国は強い警戒心を求められる」と述べた。

France Objects to NATO Opening Liaison Office in Japan - News From Antiwar.com [LINK]

2023-06-05

米国務長官、停戦の呼びかけ拒否 「ウクライナの軍備増強を支援」

外交より軍国主義の優先求める

アンチウォー・ドット・コム
(2023年6月2日)

米国はウクライナの武装に力を注ぎ、戦争を交渉による解決に持ち込もうとしないと、米外交官トップが発言した。ブリンケン米国務長官は和平協議が始まる前に、ウクライナの軍備を大幅に拡張する計画を打ち出した。
ブリンケン氏は2日にフィンランドで行った演説で、米国は「同盟国や協力国とともに、今日も、明日も、必要な限り、ウクライナの防衛支援に固く関与する」と述べた。同氏は続けて、「有意義な外交と真の平和の前提条件は、将来の侵略を抑止・防御することができる、強いウクライナだと信じる」と述べた。

ブリンケン氏は、戦闘を一時的にでも休止するという考えを否定した。「停戦を呼びかける国もあるだろう。そして表面的には、それは賢明で魅力的にさえ思える。何といっても、戦争当事者に武器を捨てさせたいと思わない人はいないだろう。殺戮がなくなることを望まない人はいないだろう。しかし停戦は単に現在の戦線を凍結し、プーチン〔露大統領〕は奪った領土の支配を強化できるようになる。それはロシアによる領土の奪取を正当化することになる。侵略者にほうびを与え、被害者を罰することになる」

ブリンケン長官は、ウクライナの将来の軍事力について野心的なビジョンを提示した。「米国と同盟国は、現在の戦場におけるウクライナのニーズを満たすと同時に、今後何年にもわたって侵略を抑止し、防御することができる戦力を構築する支援を行っている。それは長期の資金、最新の戦闘機を中心とした強力な空軍、統合された航空・ミサイル防衛ネットワーク、先進的な戦車や装甲車、弾薬を生産する国家能力、部隊や装備を戦闘可能な状態に保つ訓練や支援など、未来のウクライナ軍の構築を支援するということだ」

ブリンケン氏の構想する抑止力を構築するのに、どれだけの時間がかかるかは不明だ。米国の武器備蓄は、ウクライナ軍の戦闘を維持するのに十分な軍備を移送しようとするため、減少している。米国はさらに、台湾への武器供与を大幅に増やす計画がある。

ブリンケン氏によれば、「ウクライナへの支援によって、中国やその他の国からの潜在的な脅威に対応する能力は弱まったわけではなく、むしろ強化された」という。米紙ウォールストリート・ジャーナルは昨年11月、「米政府と議会関係者は、ウクライナの紛争によって台湾向けの約190億ドルの兵器の滞留が悪化し、台湾の武装化をさらに遅らせることを恐れている」と報じた。

さらにホワイトハウスは、ウクライナでのこのような大規模な軍備増強に対して、議会で必要な支持を得られないかもしれない。ブリンケン氏は「米国ではこの支持は超党派である」と断言した。しかし下院外交委員会委員長のマイケル・マッコール議員(共和党、テキサス州)は5月初め、今後のウクライナ支援は、同国が長い間計画していた反攻作戦の成功が条件となると述べた。

マッコール議員の発言以降、ウクライナは〔東部ドネツク州の要衝〕バフムトを含め、ロシア軍に徐々に多くの領土を奪われている。ゼレンスキー〔ウクライナ大統領〕は西側支援国の忠告にもかかわらず、数カ月にわたる戦闘でバフムトに限りない資源を投入した。ホワイトハウスは今、反攻が失敗することを覚悟している。

ブリンケン氏が示した米国の戦略は、ウクライナを武装させ、ロシアを弱体化させることだ。同氏は「ロシアは現在、ウクライナへの全面侵攻前よりも軍事的、経済的、地政学的に著しく悪化している。プーチン大統領はすべての大陸でロシアの影響力を低下させている」と述べた。

しかし米欧州軍のカボリ司令官は議会で4月、ロシアの地上軍は昨年ウクライナ侵攻を開始する前よりも「現在の方が大きい」と発言している。

ホワイトハウスがクレムリンを孤立させようとする一方で、ロシアは〔南半球を中心とする新興・途上国〕グローバルサウスとの関係を発展させることで、西側の制裁を乗り越えてきた。ロシア政府関係者は2日、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)を含むBRICS連合のメンバー候補と会談した。イランのライシ大統領は昨年9月、プーチン氏との会談で「イランやロシアなど米国から制裁を受けている国同士は、多くの問題や課題を克服し、関係を強化することができる」と述べた。

ブリンケン長官はバイデン米政権が軍国主義的手法に関与していることを正当化しようと、ウクライナ侵攻の前にホワイトハウスがクレムリンに意味のある外交を試みたと主張している。同長官によれば、「バイデン大統領はプーチン大統領に、我々はお互いの安全保障上の懸念について話し合う用意があると伝えた。このメッセージは、ラブロフ露外相と直接会うことも含め、繰り返し再確認したものだ。我々は緊張を緩和するための提案を書面で提示した。同盟国や協力国とともに、北大西洋条約機構(NATO)・ロシア理事会(NRC)、欧州安保協力機構(OSCE)、国連、米国の直接のルートなど、戦争を防ぐためにあらゆる場を利用した」という。

バイデン政権高官のデレク・ショレ氏〔国務省顧問〕は2022年4月、プーチン氏の関心の核心であるウクライナのNATO加盟について、ホワイトハウスがクレムリンとの交渉を拒否したことを認めた。同氏は「我々はロシア側に対し、真の懸念と思われる問題については対話する意思があることを明確にした」と述べ、米政府は「ウクライナの将来」がその問題の一つとは考えておらず、NATO加盟の可能性は「問題ではない」と付け加えた。

Blinken Dismisses Calls for a Ceasefire, Says US Must Build Up Ukraine’s Military - News From Antiwar.com [LINK]

2023-06-04

【コラム】戦争をやめたがらない人たち

木村 貴

「くらたま」こと漫画家の倉田真由美氏のツイートが話題になっている。5月31日の2本の投稿をまとめて引用しよう。

もし自国で戦争始まったら、「絶対勝ちたい」より「一刻も早く戦争やめてくれ」だよ。だから「頑張れよ!」と背中押しながら武器をくれる国なんか、ありがたいわけない。/自分や自分の大切な人たちの命を懸けていいものなんか、この世にない。
ウクライナ戦争を念頭に置いているとみられるが、全く同感だ。最初の投稿は、自分が交戦国の一庶民、あるいは一兵士だと想像してみればいい。戦争の始まった当初こそ、気分が高揚して「絶対勝ちたい」と思ったとしても、戦争が長引き、戦争を続けること自体が自分や家族の生命・財産を脅かすようになれば、たとえそれが「自衛戦争」(自国民の生命・財産を脅かす「自衛戦争」とは形容矛盾だが)であっても、「一刻も早く戦争やめてくれ」と願うようになる人は少なくないだろう。安全地帯の他国から「頑張れよ!」と励まされ武器を渡されても、その武器の使用によって即座に戦争が終わる(人類全体も終わるかもしれないが)保証でもない限り、ありがた迷惑でしかないはずだ。

2本目の「命を懸けていいものなんか、この世にない」という投稿は、最初の投稿の趣旨を踏まえれば、自分や大切な人の命を、戦争によって無理やり犠牲にさせられることへの批判と読むべきだろう。返信や引用リツイートで「自分の大切な人のためなら自分の命は懸けられる」「妻、母。私は命を懸ける」などと自分に酔ったように書いている人たちは、戦争とは何かをわかっていない。戦争は自分の愛する人を守るためにあるのではない。たとえ愛する人を犠牲にしようとも、政府が守れと命じたものを守るためにある。

ところが倉田氏のツイートにコメントした人の多く(いわゆる「保守」が中心のようだ)は、そうした戦争の冷酷な本質を理解していない。そのうえ、政府やメディアの喧伝する「ウクライナは善、ロシアは悪」という単純な図式を無邪気に信じ込んでいる。そして戦争をやめようというくらたまさんを偉そうに非難する。おめでたい限りで、これこそ本当の「お花畑」である。その中には著名な言論人や、プロパガンダを嘘だと知りつつ、それに乗っかって戦争をあおる悪質な専門家もいる。「戦争をやめたがらない人」を何人か紹介しよう。