アイゼンハワー米大統領は1961年の退任演説で「軍産複合体の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにせねばなりません」(豊島耕一・佐賀大名誉教授の訳による)と警鐘を鳴らしました。これが「軍産複合体」という言葉が広く知られるようになったきっかけです。
軍産複合体とは、軍と軍需産業が結びつき、政治や経済に大きな影響を及ぼす体制のことです。その歴史は古くはありません。アイゼンハワー大統領が演説で述べたように、第二次世界大戦中、米国には軍事に特化する産業はありませんでした。ゼネラル・モーターズ(GM)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ダウ・ケミカルといった民需産業が、戦時中に兵器を生産したのです。
専門の軍需産業が台頭したのは、むしろ戦争が終わってからです。ソ連との冷戦に対応するという大義名分の下、「巨大な規模の恒常的な軍事産業を創設」(アイゼンハワー大統領)したのです。
よく誤解されますが、軍需産業は、政府の経済介入を排除する「新自由主義」の産物ではありません。民需産業と違い、消費者の自由な選択に支えられてはいません。軍需産業を支えるのは、税金を原資とする軍の予算です。
アイゼンハワー大統領の警告から半世紀以上、ソ連崩壊による冷戦終結からも四半世紀がたった今、米軍産複合体は衰えるどころか、逆に力を増しているようです。
日経電子版の記事が伝えるとおり、トランプ政権は7月、国防総省や陸軍の重要ポストに軍需産業出身者を多数送り込みました。すでに軍事費の拡大を追い風に、ロッキード・マーチンなど軍需産業の業績は軒並み好調です。そこへ北朝鮮との緊張が加わり、株価も上昇しています。
北朝鮮をめぐっては、同国の核・ミサイル開発と米韓合同軍事演習の同時停止という緊張緩和の道も模索されています。しかし、もし緊張緩和が業績や株価にマイナスなら、軍産複合体がそれを望むとは思えません。
日本では北朝鮮が軍事力をちらつかせると「挑発」、米国の場合は「圧力」と表現し分けるなど、勧善懲悪のわかりやすい構図にあてはめた解説が少なくありません。日経電子版の記事がその一端を明らかにしたように、米朝間の緊張にはもっと込み入った、生臭い背景があるはずです。(2017/08/13)
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