2018-08-26

銀行はなぜ破綻する

信用を失った銀行に預金者が払い戻しを求めて殺到することを「取り付け騒ぎ」といいます。銀行にとってきわめて深刻な事態です。預金の払い戻しに応じることができず、破綻する恐れが大きいからです。

最近では、銀行ではありませんが、カナダ最大の住宅ローン会社、ホーム・キャピタル・グループに取り付け騒ぎが起こって経営危機に陥り、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が救済する出来事がありました。

しかしそもそも、なぜ銀行は預金の払い戻しに応じることができないのでしょうか。たとえば、倉庫会社は顧客から多くの物品を預かっていますが、預かった物品を返すことができず倒産したという話は聞いたことがありません。

銀行と倉庫会社の違いは何でしょう。倉庫会社は預かった物品を必ず倉庫に保管しているのに対し、銀行は預かったお金の大半を貸し出しに回してしまいます。預金者から一斉に預金の払い戻しを求められても、貸したお金は急には返してもらえないので、払い戻しに応じられず破綻するのです。

もし銀行が倉庫会社のように、預かったお金をいつでも返せるように手元に置いておけば、たとえ多数の預金者が一斉に押しかけようと、払い戻せなくなることはないはずです。しかし実際には貸し出しに回して手元にないので払い戻せない。これが銀行が破綻する根本の理由です。つまり自業自得です。群集心理に駆られた預金者が悪いわけではありません。

おそらく金融に知識のある人ほど、この説明に戸惑うことでしょう。求められればすぐに返さなければならない預金を、返してもらえるまでに時間のかかる貸し出しに回す、つまり「短期で借りて長期で貸す」商売は、どの銀行もやっている普通のビジネスだ。それを否定したら銀行業は成り立たないし、経済にも大打撃になる。素人考えはやめてほしい——。こんな反論が目に浮かびます。

しかし「短期で借りて長期で貸す」ビジネスモデルこそ金融危機をもたらす元凶だという指摘は、決して素人考えではありません。金融を知り尽くしたプロが言っています。英国の中央銀行、イングランド銀行の前総裁マーヴィン・キング氏です。

キング氏は著書『錬金術の終わり』(日本経済新聞出版社)で、リスクの高い長期の資産に投資しながら、預金は安全だと装うのは、錬金術に等しいまやかしだと批判します。そのうえで新たな銀行システムのモデルとして、1933年に米国の著名な経済学者らによって提唱された「シカゴプラン」を紹介します。

シカゴプランとは、預金の100%を裏付ける流動資産を払い戻しの備えとして銀行に保有させる案です。実行すれば取り付け騒ぎはなくなり、それが生み出す不安定性も消えるとキング氏は説明します。

世界を金融危機に陥れたリーマン・ショックから来年で10年になりますが、金融緩和などの対症療法ばかりで、根本にはメスが入らないままです。このままでは危機の再来を否定できません。(2017/08/26

0 件のコメント: