麻生太郎副総理兼財務相がナチス・ドイツの独裁者ヒトラーを例示して「動機が正しくても駄目だ」と発言、撤回したことが問題となっています。
社民党の又市征治幹事長は「ナチス・ドイツの独裁者をひきあいに政治家の心構えを説くのは言語道断であり、断じて許されない」と批判。共産党の志位和夫委員長は「動機が邪悪だったからこそホロコースト(ユダヤ人大虐殺)という残虐な結果が引き起こされた」と指摘しました。
撤回は正しいし、批判ももっともです。しかし、与野党の政治家がホロコーストの真の教訓を理解しているかは疑問です。
恐ろしいホロコーストを引き起こした要因はいくつかありますが、その一つは経済的な成功者に対する嫉妬心です。
近代欧州の夜明け、フランス革命が起きて王政が壊されると、それまでゲットー(特別居住区)に隔離されていたユダヤ人が解放され、市民権を与えられます。その中から一気に社会的上昇を果たし、資本主義の先頭に立つ者が多数出てきます。
「これがキリスト教徒にはまったく面白くないんです」と歴史学者で東大教授の石田勇治氏は指摘します。「やつらに市民権を与えなければよかった」と声が上がります。ヒトラーはそうした大衆の嫉妬心に付け入ってユダヤ人差別を煽り、政治的支持を獲得していったのです。
2015年、ホロコーストをテーマとしたドキュメンタリー映画『SHOAH ショア』(クロード・ランズマン監督)が日本で20年ぶりに再上映され、東京都内の映画館に観に行ったことがあります。4部構成で計9時間27分にも及ぶ大作で、加害者側、被害者側それぞれの当事者に膨大な聞き取りを行い、大虐殺の実像を浮かび上がらせます。
第2部で印象的な場面があります。大虐殺を生き延びたユダヤ人男性が、かつて滞在したポーランドの村を訪ね、住民たちと再会。カトリック教会の前で男性を囲んだ村人たちに、映画スタッフが「ユダヤ人はなぜあんな目にあったと思いますか」と尋ねると、ある女性がこう答えます。「金持ちだったから」
ホロコーストを擁護する発言とはいえません。それでもナチス・ドイツが大虐殺を決断・実行した背景に、経済的に成功したユダヤ人に対する大衆の嫉妬心があったことを十分うかがわせます。
野党の左派政党は福祉の財源として富裕層に対する課税強化を訴えます。政府・与党はタックスヘイブン(租税回避地)を利用した富裕層の税逃れを非難します。そこに大衆の嫉妬心への迎合がないとは思えません。
ヒトラーが悪だと本当に信じるなら、嫉妬心という危険な炎を煽る政治を続けることはできないはずです。(2017/08/31)
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