94年前の1923年(大正12)9月1日、相模湾北西部を震源地とするマグニチュード7.9の大地震が関東地方南部を襲いました。関東大震災です。
政治の世界では、震災時のデマが原因で虐殺された朝鮮人犠牲者に対する追悼文を小池百合子東京都知事が断ったことが問題となっていますが、関東大震災は経済的にも大きな教訓を残しました。震災手形です。
関東大震災の震災手形は、震災によって悪影響を受けた企業が手形を銀行に割り引いてもらえ、また銀行がその手形を日銀に持って行くと、さらにそれを割り引いてくれるというものでした。
ところが震災手形の中には、震災以前に、振出人が第一次世界大戦終結後の「反動恐慌」などのために打撃を受け、焦げ付いていた手形も便乗していました。このため回収が進まず、不良債権が日本経済の重しとなっていきます。最後は1927年(昭和2)の金融恐慌を引き起こしました。
本当に実力のある企業であれば、災害で一時苦境に陥っても、やがて自力で立ち直るはずです。しかし政治が介入すると、往々にして実力のない企業まで救済することになり、経済を不効率にします。そのツケはいつか誰かが払うことになります。多くの場合、それは納税者です。これが震災手形の教訓です。
関東大震災から一世紀近くがたとうとする今、日本は震災手形の教訓を忘れつつあるようです。
2011年の東日本大震災を受け、政府は、被災した企業の復旧費用を公費で助成するグループ補助金制度を特例として新設しました。今年4月時点で、東日本大震災では5000億円近くの交付が決定。2例目となる熊本地震では熊本・大分両県で500億円近い交付が決まりました。
けれども補助金が本当の意味で復興に役立っているかは疑問です。今年4月の日経電子版の記事は、東北では補助金を受けながら、過大投資などが響いて経営破綻した企業も出始めていると伝えています。
「震災前から経営が苦しかった企業も、大多数は補助金を得て設備を復旧した。本来なら赤字企業は事業を縮小し、収益力の高い企業に集約すべきだった」。宮城県内の経営コンサルタントが指摘する実態は、震災手形で企業を救済して問題を先送りし、破綻に向かった、かつての日本の姿そのものです。(2017/09/01)
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