旧優生保護法に基づく強制不妊手術の実態が明らかにされ、問題となっている。
きっかけは今年1月、不妊手術を強制された宮城県の女性が、国を相手に損害賠償を求める初の訴訟を仙台地裁に起こしたことだ。5月には東京、宮城、北海道に住むいずれも70代の男女3人が東京、仙台、札幌の各地裁に提訴。厚生労働省は救済に向けた実態調査を始め、全国の都道府県・市区町村に調査書を配布した。
優生保護法は「不良な子孫の出生を防止」などを目的に、終戦後まもない1948年に施行された。遺伝性の疾患や精神障害、知的障害などと診断され、都道府県の審査会で「適当」とされた場合、本人の同意がなくても不妊手術ができた。1996年に母体保護法に改正されるまで、全国で少なくとも男女1万6475人が不妊手術を強いられたとされる。
マスメディアでも報じられるように、優生保護法の前身は戦時中の1940年に制定された国民優生法で、国民優生法はナチスドイツの断種法(1933年)をモデルとした。このことから、優生保護法とはナチスの人種差別的・軍国主義的な思想が生んだものと思い込む人も少なくないだろう。
しかし、それは正しくない。ナチスの断種法にはさらにルーツがある。20世紀初めの米国である。
人類の遺伝的素質を向上させ、劣悪な遺伝的素質を排除することを目的とした優生学は、19世紀後半、英国の人類学者フランシス・ゴルトンによって提唱された。ゴルトンは進化論で有名なチャールズ・ダーウィンのいとこにあたる。
20世紀に入る頃、優生学は米国に伝わる。当時の米国社会は、急増する移民や農村から都市への人口流入により不安定化していた。こうした社会の変化に脅威を感じたのは、白人の支配層である。変わりゆく国をなんとか自分たちの権益を守るかたちで制御したいという彼らの意向と、新興の学問だった遺伝学とが結びつき、現在の科学的知見からは考えられないような優生保護政策が実践されるに至る。
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インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説 (MMT=現代貨幣理論など) によっ...
2020-07-23
2020-07-22
フェイクニュース規制は、フェイクニュース以上に危険だ…政府は国民の言論統制に利用
米フェイスブックにフェイク(偽)ニュースが蔓延したとされる問題をきっかけに、SNS(交流サイト)上の偽ニュースに対する規制論が強まっている。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は4月10~11日に開かれた米議会公聴会で、個人情報流出に加え、偽ニュースの蔓延について謝罪。人工知能(AI)などを使った対策の強化を説明した。政治的広告に対する規制強化の動きには「なんらかの規制は避けられない」と受け入れる姿勢を示した。
しかし、もし規制強化が実現したら、一番痛手を被るのはフェイスブックではなく、そのシェアを奪おうとする新興SNSや独立系ニュースサイトだろう。ザッカーバーグ氏自身が指摘したとおり、小規模な会社は資本力が弱く、規制の負担に耐えきれないからだ。規制強化はフェイスブックなどSNS大手の市場支配をむしろ強めることになる。
それ以上に気がかりなのは、偽ニュースの規制が言論・報道の自由の抑圧につながる恐れだ。
ザッカーバーグ氏はAIで偽ニュースを見分けるというが、実際にはそう簡単ではない。日本経済新聞によれば、同社のAI開発責任者、アレクサンドル・ルブリュン氏は「AIは学習して不適切かどうかを判断するため、新手の投稿には対処できない」と述べる。
そのうえ、AIによる判断にはある種の危うさがつきまとう。2016年の米大統領選後、米カーネギーメロン大学のコンピューター科学者、ディーン・ポマロー氏は「フェイクニュース・チャレンジ」というプロジェクトを立ち上げ、ニュースの真偽を見分ける手法を公募。17年6月までに世界各地の80チームが参加し、優秀だった上位3チームには合計2000ドル(約21万円)の賞金が与えられた。
問題はニュースの真偽を見分ける方法だ。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、各チームは「検証された記事のデータベース」を基にAIで判定するという。「検証された記事」とは常識で考えれば、大手新聞、雑誌、テレビなど主流メディアの報道だろう。
もしそうだとすれば、真偽の判定は不安が残るといわざるをえない。主流メディアの報道はいつも正しいどころか、大きな誤りを犯す場合が少なくないからだ。
米政府は2003年のイラク戦争で、イラクが大量破壊兵器を保有していると主張し、安保理決議のないまま、攻撃を開始。だが、開戦の理由とした大量破壊兵器は最終的に見つからなかった。当時、米欧の主流メディアは政府の言い分を無批判に垂れ流し、不正な戦争に加担した。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は4月10~11日に開かれた米議会公聴会で、個人情報流出に加え、偽ニュースの蔓延について謝罪。人工知能(AI)などを使った対策の強化を説明した。政治的広告に対する規制強化の動きには「なんらかの規制は避けられない」と受け入れる姿勢を示した。
しかし、もし規制強化が実現したら、一番痛手を被るのはフェイスブックではなく、そのシェアを奪おうとする新興SNSや独立系ニュースサイトだろう。ザッカーバーグ氏自身が指摘したとおり、小規模な会社は資本力が弱く、規制の負担に耐えきれないからだ。規制強化はフェイスブックなどSNS大手の市場支配をむしろ強めることになる。
それ以上に気がかりなのは、偽ニュースの規制が言論・報道の自由の抑圧につながる恐れだ。
ザッカーバーグ氏はAIで偽ニュースを見分けるというが、実際にはそう簡単ではない。日本経済新聞によれば、同社のAI開発責任者、アレクサンドル・ルブリュン氏は「AIは学習して不適切かどうかを判断するため、新手の投稿には対処できない」と述べる。
そのうえ、AIによる判断にはある種の危うさがつきまとう。2016年の米大統領選後、米カーネギーメロン大学のコンピューター科学者、ディーン・ポマロー氏は「フェイクニュース・チャレンジ」というプロジェクトを立ち上げ、ニュースの真偽を見分ける手法を公募。17年6月までに世界各地の80チームが参加し、優秀だった上位3チームには合計2000ドル(約21万円)の賞金が与えられた。
問題はニュースの真偽を見分ける方法だ。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、各チームは「検証された記事のデータベース」を基にAIで判定するという。「検証された記事」とは常識で考えれば、大手新聞、雑誌、テレビなど主流メディアの報道だろう。
もしそうだとすれば、真偽の判定は不安が残るといわざるをえない。主流メディアの報道はいつも正しいどころか、大きな誤りを犯す場合が少なくないからだ。
米政府は2003年のイラク戦争で、イラクが大量破壊兵器を保有していると主張し、安保理決議のないまま、攻撃を開始。だが、開戦の理由とした大量破壊兵器は最終的に見つからなかった。当時、米欧の主流メディアは政府の言い分を無批判に垂れ流し、不正な戦争に加担した。
2020-07-21
米国、トランプ保護主義政策の「不吉な末路」…「世界大恐慌」の歴史的検証より予想
トランプ米政権は3月23日、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動した。それぞれ25%、10%の追加関税を課す。主な輸入相手である欧州連合(EU)やカナダなど7カ国・地域は関税の適用を一時的に猶予する一方、日本や中国には適用する。
これを受け、同日の米株式相場はダウ工業株30種平均がほぼ4カ月ぶりの安値に下落。中国が米国製品への関税引き上げ計画を準備していると発表し、株式市場に米中貿易戦争への懸念が強まった。
この展開は不吉な連想を誘う。1929年から30年代に世界を襲った大恐慌の前夜にも、米国の保護主義的な貿易政策に対し株式相場が神経質に反応する時期があったからだ。今後を占う参考とするため、当時を振り返ってみよう。
これを受け、同日の米株式相場はダウ工業株30種平均がほぼ4カ月ぶりの安値に下落。中国が米国製品への関税引き上げ計画を準備していると発表し、株式市場に米中貿易戦争への懸念が強まった。
この展開は不吉な連想を誘う。1929年から30年代に世界を襲った大恐慌の前夜にも、米国の保護主義的な貿易政策に対し株式相場が神経質に反応する時期があったからだ。今後を占う参考とするため、当時を振り返ってみよう。
2020-07-20
「男女の経済格差は存在しない」論者が、公開討論で圧勝してしまった事件
男女間の経済的な格差はしばしば問題視される。賃金の格差、企業内における地位の格差などだ。厚生労働省の調査(2016年)によると、フルタイムで働く女性の平均賃金は男性の賃金の73%。縮小傾向にはあるものの、欧州各国などと比べると格差はなお大きいとされる。
左翼知識人や過激なフェミニストは、男女間の経済格差は、家庭や学校での性差別的な教育や、資本主義の仕組みに原因があると批判する。フランスの作家、ボーボワールの「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という言葉は、そうした見方をよく表す。
けれどもこうしたイデオロギー的な見方に対しては、近年活発な脳科学や進化心理学の研究に基づき、異論が唱えられている。男性と女性の脳組織には顕著な違いがあり、興味や関心、知能や感情などさまざまな面に影響を及ぼすのだ。
こうした科学的事実の指摘は、今なお一種のタブーだ。ベストセラーになった橘玲氏の著書『言ってはいけない』(新潮新書)によれば、米ニューヨーク・タイムズの女性記者は、社会的成功を手にした高学歴の女性たちが自らの意思で続々と家庭に戻っていく現象について「男と女は生まれながらにしてちがっている」と記事で述べ、女性差別を正当化するものとして反響を巻き起こした。
欧米でも大学やメディアは左翼の支配力が今でも強く、その価値観に反する発言はしにくいのが実情だ。ところが最近、公の場で男女格差をはじめとするタブーに正面から挑戦し、脚光を浴びる知識人がいる。カナダの心理学者、ジョーダン・ピーターソン氏だ。
左翼知識人や過激なフェミニストは、男女間の経済格差は、家庭や学校での性差別的な教育や、資本主義の仕組みに原因があると批判する。フランスの作家、ボーボワールの「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という言葉は、そうした見方をよく表す。
けれどもこうしたイデオロギー的な見方に対しては、近年活発な脳科学や進化心理学の研究に基づき、異論が唱えられている。男性と女性の脳組織には顕著な違いがあり、興味や関心、知能や感情などさまざまな面に影響を及ぼすのだ。
こうした科学的事実の指摘は、今なお一種のタブーだ。ベストセラーになった橘玲氏の著書『言ってはいけない』(新潮新書)によれば、米ニューヨーク・タイムズの女性記者は、社会的成功を手にした高学歴の女性たちが自らの意思で続々と家庭に戻っていく現象について「男と女は生まれながらにしてちがっている」と記事で述べ、女性差別を正当化するものとして反響を巻き起こした。
欧米でも大学やメディアは左翼の支配力が今でも強く、その価値観に反する発言はしにくいのが実情だ。ところが最近、公の場で男女格差をはじめとするタブーに正面から挑戦し、脚光を浴びる知識人がいる。カナダの心理学者、ジョーダン・ピーターソン氏だ。
2020-07-19
銀行の「錬金術」が金融危機をもたらす…リスクは一般庶民に転嫁されている
2018年は世界的な金融危機を引き起こしたリーマン・ショックから数えて10年目に当たる。当時は米欧の大手銀行数行が破綻や経営危機に陥り、国際金融システムが崩壊する危機に瀕したばかりか、大恐慌の再来まで危ぶまれた。現在、危機は脱したようにみえる。しかし、金融危機の原因を私たちは本当に理解しているだろうか。
リーマン・ショックで08年9月に倒産したリーマン・ブラザーズは米大手証券会社。しかし当時はそれ以外に、庶民が日ごろ利用する銀行でも預金引き出しが殺到する取り付け騒ぎが起こり、破綻に追い込まれている。
米インディマック・バンコープは住宅ローンを広く取り扱っていた地方銀行で、サブプライムローン(信用度の低い個人向けの住宅融資)問題の影響から経営が悪化。08年6月に取り付け騒ぎに見舞われ、7月に破綻した。英中堅銀行ノーザン・ロックも前年の07年9月、店頭やインターネット口座に預金者が殺到し、08年2月に国有化される(12年に英ヴァージン・グループが買収)。
およそ10年後の現在、主要国は好景気を謳歌して株価は高騰し、金融危機はすっかり影を潜めたかに見える。しかし、私たちは危機の本質を本当にわかっているのだろうか。
リーマン・ショックで08年9月に倒産したリーマン・ブラザーズは米大手証券会社。しかし当時はそれ以外に、庶民が日ごろ利用する銀行でも預金引き出しが殺到する取り付け騒ぎが起こり、破綻に追い込まれている。
米インディマック・バンコープは住宅ローンを広く取り扱っていた地方銀行で、サブプライムローン(信用度の低い個人向けの住宅融資)問題の影響から経営が悪化。08年6月に取り付け騒ぎに見舞われ、7月に破綻した。英中堅銀行ノーザン・ロックも前年の07年9月、店頭やインターネット口座に預金者が殺到し、08年2月に国有化される(12年に英ヴァージン・グループが買収)。
およそ10年後の現在、主要国は好景気を謳歌して株価は高騰し、金融危機はすっかり影を潜めたかに見える。しかし、私たちは危機の本質を本当にわかっているのだろうか。
2020-07-18
安倍政権の賃上げ圧力は、大量失業を招く
政府が企業に対し、賃上げの圧力を強めている。報道によれば、特定の条件を満たした大企業に適用している法人税優遇措置について、賃上げが不十分な場合に停止し、実質的に増税する方向で与党と調整に入ったという。
しかし政治の力で無理に賃金を引き上げると、労働コストの上昇を受けて企業が雇用に慎重になり、労働者は職を得るチャンスが小さくなってしまう。悪くすると、多数の失業者が生じかねない。
政府による賃上げ圧力は経済史上、最悪の事態の一因となったことがある。有名な大恐慌だ。
大恐慌当時、米国の失業率が25%にも達したことはよく知られる。この原因について、当時のハーバート・フーバー大統領が自由放任主義者で、必要な不況対策を何も打たなかったからとよく説明される。しかし昨年10月24日の本連載記事『政府の経済政策で経済悪化いう事実』でも指摘したように、近年、事実は逆であることがわかってきた。
フーバー政権は実際には、さまざまな不況対策を講じた。そしてそれが逆効果となり、経済の自律的な回復を妨げてしまったのである。そうした政策の1つが、賃金決定に対する政府の介入だった。
大恐慌の発端となったニューヨーク株暴落から1カ月後の1929年11月21日、フーバー大統領はホワイトハウスに自動車王ヘンリー・フォードをはじめとする米産業界の大物たちを集め、次のような「過激な提案」を行った。
「賃金は現状を維持しなければならない。(略)産業界は状況を『緩和する』のを支援すべきである。苦しい企業は最悪でも労働時間を削減して雇用を共有してほしい。しかし、一般的な方向は高賃金を維持しつつ雇用を押し上げることにある」(『アメリカ大恐慌・上巻』<アミティ・シュレーズ著/田村勝省訳/NTT出版>)
強制ではなかったが、大統領の要請を受け、会議に出席した経営者らは賃下げをしないと誓い、全米の経営者に同調を呼びかけた。なかでもヘンリー・フォードは、労働者が自分たちのつくった製品を購入するのに十分な賃金を払わなければならないという持論に基づき、勇敢にも賃上げを表明した。
フーバーの介入に喜んだのは労働組合である。当時の労組は弱体で、組織率は労働者の7%にすぎず、業界全体に最低賃金を強制する力がなかった。そこへ政府が組合の代わりに、最低賃金を事実上強制してくれたのである。
1930年10月、米労働総同盟(AFL)は年次総会にフーバーを招き、ウィリアム・グリーン議長が「(大統領は)偉大な影響力を発揮され、賃金水準を維持し、下落を防ぐことに貢献されました」とその政策をほめそやした。
しかし政治の力で無理に賃金を引き上げると、労働コストの上昇を受けて企業が雇用に慎重になり、労働者は職を得るチャンスが小さくなってしまう。悪くすると、多数の失業者が生じかねない。
政府による賃上げ圧力は経済史上、最悪の事態の一因となったことがある。有名な大恐慌だ。
大恐慌当時、米国の失業率が25%にも達したことはよく知られる。この原因について、当時のハーバート・フーバー大統領が自由放任主義者で、必要な不況対策を何も打たなかったからとよく説明される。しかし昨年10月24日の本連載記事『政府の経済政策で経済悪化いう事実』でも指摘したように、近年、事実は逆であることがわかってきた。
フーバー政権は実際には、さまざまな不況対策を講じた。そしてそれが逆効果となり、経済の自律的な回復を妨げてしまったのである。そうした政策の1つが、賃金決定に対する政府の介入だった。
大恐慌の発端となったニューヨーク株暴落から1カ月後の1929年11月21日、フーバー大統領はホワイトハウスに自動車王ヘンリー・フォードをはじめとする米産業界の大物たちを集め、次のような「過激な提案」を行った。
「賃金は現状を維持しなければならない。(略)産業界は状況を『緩和する』のを支援すべきである。苦しい企業は最悪でも労働時間を削減して雇用を共有してほしい。しかし、一般的な方向は高賃金を維持しつつ雇用を押し上げることにある」(『アメリカ大恐慌・上巻』<アミティ・シュレーズ著/田村勝省訳/NTT出版>)
強制ではなかったが、大統領の要請を受け、会議に出席した経営者らは賃下げをしないと誓い、全米の経営者に同調を呼びかけた。なかでもヘンリー・フォードは、労働者が自分たちのつくった製品を購入するのに十分な賃金を払わなければならないという持論に基づき、勇敢にも賃上げを表明した。
フーバーの介入に喜んだのは労働組合である。当時の労組は弱体で、組織率は労働者の7%にすぎず、業界全体に最低賃金を強制する力がなかった。そこへ政府が組合の代わりに、最低賃金を事実上強制してくれたのである。
1930年10月、米労働総同盟(AFL)は年次総会にフーバーを招き、ウィリアム・グリーン議長が「(大統領は)偉大な影響力を発揮され、賃金水準を維持し、下落を防ぐことに貢献されました」とその政策をほめそやした。
2020-07-17
ノーベル賞で脚光の行動経済学は、政府権力と人々を誤った方向に導く危険
2017年のノーベル経済学賞に10月9日、米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が選ばれた。同教授は行動経済学の研究で有名である。しかし最近ブームになっているこの学問は、注意しないと政府権力に都合よく利用されてしまう危険をはらんでいる。
同賞を選考するスウェーデン王立科学アカデミーはセイラー氏について「人は完全に合理的には行動せず、社会的な公平性を認識して選択する」ことを明らかにしたと評価した。ここでも述べられたように、行動経済学の特徴は「人は完全に合理的には行動しない」と強調するところにある。
しかし、ここには少なくとも2つの問題がある。
1つは、行動経済学が「不合理」とみなす人の行動は、本当に不合理なのかという点である。たとえば、行動経済学で人の不合理さを示す証拠としてよく挙げられる例に「リンダ問題」がある。次のような問題だ。
リンダという女性がいます。彼女は独身で聡明、率直にものを言う性格。大学では哲学を専攻し、人種差別や民族差別などの社会問題に深くかかわっていました。さて、より可能性が高いのは次のどちらでしょうか?
(A)リンダは銀行の窓口係である。
(B)リンダは銀行の窓口係であり、フェミニズム運動の活動家である。
実験してみると、多くの人はBと答える。しかしそれはおかしいと行動経済学者は言う。BはAの部分集合なので、Bの確率がAより高いことはありえない。「銀行の窓口係であり、フェミニズム運動の活動家」よりも「銀行の窓口係」のほうが必ず多い。だから正しい答えはAである。
なぜこのように単純な間違いをしてしまうのか。行動経済学者によれば、それはリンダの説明文が、人々が持つフェミニズム運動家のイメージにぴったりと一致するからである。
このように、ある特徴を過大評価してしまう思考の癖を、リンダ問題を考案した心理学者で行動経済学の先達、ダニエル・カーネマン(2002年ノーベル経済学賞授賞)は代表性ヒューリスティック(検索容易性)と呼ぶ。カーネマンは、人は個人的な経験則に認知や思考が引っ張られがちになると強調する。それだけ人は不合理というわけだ。
しかし、そう決めつけることに対しては、同じ心理学者から批判がある。英心理学者のポール・グライスは、言葉には文字どおりの意味だけでなく、言外の含みがあるとして、リンダ問題を次のように批判する。
問題を読んだ人々が、リンダの人格に関する情報は回答に関係あるから書かれていると考えるのは自然なことだ。いきおい、問題にある「可能性」の定義を厳密な数学的定義とは違うものだと推量する。なぜなら、数学的に答えたら、人格の情報が無意味になってしまうからだ。
グライスのこの意見には説得力がある。だとすれば、人々が「可能性」を数学的意味でなく、話としてもっともらしいという意味と解釈しても、必ずしも不合理とはいえない。
興味深いことに、ドイツの心理学者、ゲルト・ギーゲレンツァーらの研究によれば、リンダ問題の質問を「可能性」ではなく「相対度数(特定の区分に属するデータの数が全体に占める割合)」と改めて尋ねたところ、正答率が大きく上昇したという。
つまり人は、質問の表現や形式から最も妥当と思われる回答をしており、むしろきわめて合理的ともいえる。その意味で、人は不合理だと強調する行動経済学は偏った議論に走る恐れがある。
同賞を選考するスウェーデン王立科学アカデミーはセイラー氏について「人は完全に合理的には行動せず、社会的な公平性を認識して選択する」ことを明らかにしたと評価した。ここでも述べられたように、行動経済学の特徴は「人は完全に合理的には行動しない」と強調するところにある。
しかし、ここには少なくとも2つの問題がある。
1つは、行動経済学が「不合理」とみなす人の行動は、本当に不合理なのかという点である。たとえば、行動経済学で人の不合理さを示す証拠としてよく挙げられる例に「リンダ問題」がある。次のような問題だ。
リンダという女性がいます。彼女は独身で聡明、率直にものを言う性格。大学では哲学を専攻し、人種差別や民族差別などの社会問題に深くかかわっていました。さて、より可能性が高いのは次のどちらでしょうか?
(A)リンダは銀行の窓口係である。
(B)リンダは銀行の窓口係であり、フェミニズム運動の活動家である。
実験してみると、多くの人はBと答える。しかしそれはおかしいと行動経済学者は言う。BはAの部分集合なので、Bの確率がAより高いことはありえない。「銀行の窓口係であり、フェミニズム運動の活動家」よりも「銀行の窓口係」のほうが必ず多い。だから正しい答えはAである。
なぜこのように単純な間違いをしてしまうのか。行動経済学者によれば、それはリンダの説明文が、人々が持つフェミニズム運動家のイメージにぴったりと一致するからである。
このように、ある特徴を過大評価してしまう思考の癖を、リンダ問題を考案した心理学者で行動経済学の先達、ダニエル・カーネマン(2002年ノーベル経済学賞授賞)は代表性ヒューリスティック(検索容易性)と呼ぶ。カーネマンは、人は個人的な経験則に認知や思考が引っ張られがちになると強調する。それだけ人は不合理というわけだ。
しかし、そう決めつけることに対しては、同じ心理学者から批判がある。英心理学者のポール・グライスは、言葉には文字どおりの意味だけでなく、言外の含みがあるとして、リンダ問題を次のように批判する。
問題を読んだ人々が、リンダの人格に関する情報は回答に関係あるから書かれていると考えるのは自然なことだ。いきおい、問題にある「可能性」の定義を厳密な数学的定義とは違うものだと推量する。なぜなら、数学的に答えたら、人格の情報が無意味になってしまうからだ。
グライスのこの意見には説得力がある。だとすれば、人々が「可能性」を数学的意味でなく、話としてもっともらしいという意味と解釈しても、必ずしも不合理とはいえない。
興味深いことに、ドイツの心理学者、ゲルト・ギーゲレンツァーらの研究によれば、リンダ問題の質問を「可能性」ではなく「相対度数(特定の区分に属するデータの数が全体に占める割合)」と改めて尋ねたところ、正答率が大きく上昇したという。
つまり人は、質問の表現や形式から最も妥当と思われる回答をしており、むしろきわめて合理的ともいえる。その意味で、人は不合理だと強調する行動経済学は偏った議論に走る恐れがある。
2020-07-15
マイナス金利という「壮大な社会実験」の末路…バブル崩壊という最悪のシナリオ
日本銀行が2016年2月16日にマイナス金利を導入してから1年半余り。住宅ローン借り換えが活発になるなど効果が指摘される一方で、金融機関の収益性悪化といった副作用もみられる。
マイナス金利は目新しい試みのように思われているが、この奇抜な政策のアイデアは昔からあり、戦前の大恐慌時に欧州の一部地域で短期間実施されたこともある。日本の今後を占ううえで、参考になるだろう。
マイナス金利の起源は、シルビオ・ゲゼルという一風変わった人物である。
1862年にベルギーに生まれ、事業家となったゲゼルは、一時移住したアルゼンチンで経済危機を目の当たりにした。そこで金融問題への関心を深め、帰国後、金融の研究に専念する。1919年、社会主義革命で成立したバイエルン・レーテ共和国の金融担当大臣に就任するが、任期は1週間にも満たなかった。
ゲゼルは、経済が停滞するのは人々が現金を貯め込むからだと考えていた。現金保有のコストが上昇すれば経済成長は加速するはずであるとして、「減価する貨幣」という概念を提唱した。使わずに保有していると、お金としての値打ちが下がっていく貨幣である。
具体的な仕組みとして、「スタンプ貨幣」を提案した。一定期間ごとに紙幣に一定額のスタンプを貼らないと、使用できなくする。通常はお金を銀行に預けておくと一定の利子が付くのに対し、スタンプ貨幣は保有していると逆にコストがかかるから、マイナス金利と実質同じといえる。
ゲゼルは1930年に死去するが、その後、米国のアービング・フィッシャーや英国のジョン・メイナード・ケインズら著名な経済学者がゲゼルの考えを熱心に支持した。
さて、ゲゼルの死の2年後、彼のアイデアを実行に移すチャンスが訪れる。
オーストリアはザルツブルク近郊の町ヴェルグルに、ゲゼル理論を信奉するウンターグッゲンベルガーという鉄道工夫がいた。彼は町長に選出され、町が大恐慌のあおりで不況に苦しんでいた1932年8月、ゲゼル理論の実践に乗り出す。
町は道路の整備、橋やスキーのジャンプ台建設などの公共事業を始め、当時いた4300人の町民のうち1500人を雇い入れた。そして賃金の支払いのために、町独自の労働証明書といわれる地域通貨を発行する。公共事業に従事した労働者だけでなく、町長をはじめとする町の職員も給与の半分をこれで受け取った。
この地域通貨の特徴は、毎月1%減価していくところにあった。月末に減価分に相当するスタンプを町当局から購入して貼らないと、額面価額を維持できない。
地域通貨は、非常な勢いで町を巡り始める。お金を早く使ってしまえば、スタンプ代を払わなくて済むからである。失業はみるみる解消していったという。
評判を聞きつけて町を訪れたある学者は、町の様子をこう記している。
「以前はそのひどい有様で評判の悪かった道路が、いまでは立派な高速道路のようである。市庁舎は美しく修復され、念入りに飾り立てられ、ゼラニウムの咲き競う見事なシャレー風の建物である」(河邑厚徳他『エンデの遺言』<NHK出版>)
こうした成果は「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれ、今でもスタンプ貨幣を支持する根拠とされることが多い。
マイナス金利は目新しい試みのように思われているが、この奇抜な政策のアイデアは昔からあり、戦前の大恐慌時に欧州の一部地域で短期間実施されたこともある。日本の今後を占ううえで、参考になるだろう。
「ヴェルグルの奇跡」
マイナス金利の起源は、シルビオ・ゲゼルという一風変わった人物である。
1862年にベルギーに生まれ、事業家となったゲゼルは、一時移住したアルゼンチンで経済危機を目の当たりにした。そこで金融問題への関心を深め、帰国後、金融の研究に専念する。1919年、社会主義革命で成立したバイエルン・レーテ共和国の金融担当大臣に就任するが、任期は1週間にも満たなかった。
ゲゼルは、経済が停滞するのは人々が現金を貯め込むからだと考えていた。現金保有のコストが上昇すれば経済成長は加速するはずであるとして、「減価する貨幣」という概念を提唱した。使わずに保有していると、お金としての値打ちが下がっていく貨幣である。
具体的な仕組みとして、「スタンプ貨幣」を提案した。一定期間ごとに紙幣に一定額のスタンプを貼らないと、使用できなくする。通常はお金を銀行に預けておくと一定の利子が付くのに対し、スタンプ貨幣は保有していると逆にコストがかかるから、マイナス金利と実質同じといえる。
ゲゼルは1930年に死去するが、その後、米国のアービング・フィッシャーや英国のジョン・メイナード・ケインズら著名な経済学者がゲゼルの考えを熱心に支持した。
さて、ゲゼルの死の2年後、彼のアイデアを実行に移すチャンスが訪れる。
オーストリアはザルツブルク近郊の町ヴェルグルに、ゲゼル理論を信奉するウンターグッゲンベルガーという鉄道工夫がいた。彼は町長に選出され、町が大恐慌のあおりで不況に苦しんでいた1932年8月、ゲゼル理論の実践に乗り出す。
町は道路の整備、橋やスキーのジャンプ台建設などの公共事業を始め、当時いた4300人の町民のうち1500人を雇い入れた。そして賃金の支払いのために、町独自の労働証明書といわれる地域通貨を発行する。公共事業に従事した労働者だけでなく、町長をはじめとする町の職員も給与の半分をこれで受け取った。
この地域通貨の特徴は、毎月1%減価していくところにあった。月末に減価分に相当するスタンプを町当局から購入して貼らないと、額面価額を維持できない。
地域通貨は、非常な勢いで町を巡り始める。お金を早く使ってしまえば、スタンプ代を払わなくて済むからである。失業はみるみる解消していったという。
評判を聞きつけて町を訪れたある学者は、町の様子をこう記している。
「以前はそのひどい有様で評判の悪かった道路が、いまでは立派な高速道路のようである。市庁舎は美しく修復され、念入りに飾り立てられ、ゼラニウムの咲き競う見事なシャレー風の建物である」(河邑厚徳他『エンデの遺言』<NHK出版>)
こうした成果は「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれ、今でもスタンプ貨幣を支持する根拠とされることが多い。
2020-07-14
TPP、発効不透明のまま6千億円の対策費=税金投入 安倍政権の「自由貿易」の正体
環太平洋経済連携協定(TPP)や経済連携協定(EPA)は自由貿易だと政府やマスコミは宣伝し、国民の多くもそうだと信じている。しかしそれは嘘であり、誤りである。
自由貿易とは、国語辞典「大辞林」(三省堂)によれば、「国家が商品の輸出入についてなんらの制限や保護を加えない貿易。輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態」をいう。日本と欧州連合(EU)がこのほど大枠合意したEPAは、どう見てもこの定義には当てはまらない。
報道によれば、交渉が難航していたチーズは、日本側が一定枠を設け15年かけて関税を無税にするという。EU産チーズはおもに29.8~40%の関税がかかっているが、大枠合意では低関税輸入枠をつくる。税率を段階的に引き下げて16年目にゼロにし、枠の数量は2万トンから16年目に3万1000トンまで引き上げる。対象はモッツァレラなどソフト系チーズだ。
しかし、消費者への恩恵は限られそうである。枠を超えた分は今の高関税が残るうえ、そもそも3万1000トンという輸入枠自体、チーズ全体の消費量の7%(想定ベース)にすぎないからだ。消費者は安くふんだんに手に入ると思っていた欧州産チーズがどこに行っても見当たらず、困惑することだろう。
報道によれば、日欧EPAの大枠合意は、チェダーなどハード系チーズの関税撤廃に応じる代わりに、ソフト系の関税を一定程度残したTPPとの「バランス」も考慮されたらしい。本当の自由貿易なら、消費者はそのような政治判断に基づいてチーズを選んだりしない。そもそも16年も先に日本がどんな政権になっているかさえ定かでなく、政治環境の変化でEPAそのものが反故になる可能性だってある。
日欧EPAではこのほか、マカロニ、スパゲッティ、ビスケット、トマトソースなども関税撤廃の対象になっているが、目玉とされるチーズですら上記のような実情だから、ほかは推して知るべしだろう。
自由貿易とは、国語辞典「大辞林」(三省堂)によれば、「国家が商品の輸出入についてなんらの制限や保護を加えない貿易。輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態」をいう。日本と欧州連合(EU)がこのほど大枠合意したEPAは、どう見てもこの定義には当てはまらない。
報道によれば、交渉が難航していたチーズは、日本側が一定枠を設け15年かけて関税を無税にするという。EU産チーズはおもに29.8~40%の関税がかかっているが、大枠合意では低関税輸入枠をつくる。税率を段階的に引き下げて16年目にゼロにし、枠の数量は2万トンから16年目に3万1000トンまで引き上げる。対象はモッツァレラなどソフト系チーズだ。
しかし、消費者への恩恵は限られそうである。枠を超えた分は今の高関税が残るうえ、そもそも3万1000トンという輸入枠自体、チーズ全体の消費量の7%(想定ベース)にすぎないからだ。消費者は安くふんだんに手に入ると思っていた欧州産チーズがどこに行っても見当たらず、困惑することだろう。
報道によれば、日欧EPAの大枠合意は、チェダーなどハード系チーズの関税撤廃に応じる代わりに、ソフト系の関税を一定程度残したTPPとの「バランス」も考慮されたらしい。本当の自由貿易なら、消費者はそのような政治判断に基づいてチーズを選んだりしない。そもそも16年も先に日本がどんな政権になっているかさえ定かでなく、政治環境の変化でEPAそのものが反故になる可能性だってある。
日欧EPAではこのほか、マカロニ、スパゲッティ、ビスケット、トマトソースなども関税撤廃の対象になっているが、目玉とされるチーズですら上記のような実情だから、ほかは推して知るべしだろう。
2020-07-13
米トランプ政権のパリ協定離脱は正しい…地球温暖化論は間違っている可能性
米トランプ政権が6月、気候変動対策の国際的枠組みである「パリ協定」から離脱すると表明し、「人類の未来に対する背信行為」(毎日新聞社説)などと非難を浴びている。米国内でも一部の保守系メディアを除き、批判が多い。ニューヨーク・タイムズは「同盟国を動揺させ、ビジネス界に背き、競争力や雇用を脅かし、米国のリーダーシップを無駄にする」などと論じた。
しかし、これらの批判は本当に正しいのだろうか。
多くのメディアでは「温暖化はでっち上げ」というトランプ大統領の発言を「非科学的」と切り捨て、「温暖化の進行は、科学的知見に基づく国際社会の共通認識」(前出・毎日新聞社説)と強調する。地球温暖化に関する主流派の主張によれば、温暖化は水資源の不足や穀物生産の減少などで人間の生存や地球の生態系に悪影響をもたらし、途上国での貧困拡大や地域紛争につながる危険もあるとされる。
だが、この主張にはさまざまな懐疑論が唱えられている。「そもそも気温は上昇していない」「温暖化の原因は人為的な温室効果ガスの増加ではなく、自然の活動」「なぜ数十年以上も先の気候が正しく予測できるのか」――などだ。
懐疑論のなかには誤りもあるかもしれないが、すべてを「非科学的」と決めつけるのは乱暴に思える。4月3日に配信された日本経済新聞の記事は「人為的な二酸化炭素の排出を気候変動の主因とする温暖化論はいまだ仮説の域を出ていない」と冷静に述べている。
筆者は科学の専門家ではないので、地球温暖化に関する主流派の主張が正しいかどうかこれ以上議論するつもりはない。しかし間違いなくいえるのは、もしかりに主流派の主張が正しいとしても、パリ協定を支持しなければならない理由にはならないということだ。
なぜなら、パリ協定は科学研究の結果だけを述べた論文ではなく、特定の政策を実行するよう求めた政治文書だからである。科学と政治は違う。別々の独立した問題だ。
同協定には、「すべての国に削減目標の作成と提出、5年ごとに現状より向上させる見直しを義務づける」「先進国に途上国支援の資金拠出を義務づける」「先進国は現在の約束よりも多い額を途上国に拠出する」といった義務が盛り込まれている。
地球温暖化は正しいと主張する科学者の多くは、当然のようにパリ協定を支持する。同協定が義務づける政策によって、人間や環境への悪影響が防げると信じているからだ。しかし科学者は科学の専門家ではあっても、経済や政治の専門家ではない。パリ協定の政策が正しいかどうかは、経済や法の原理に照らして考えなければならない。
しかし、これらの批判は本当に正しいのだろうか。
多くのメディアでは「温暖化はでっち上げ」というトランプ大統領の発言を「非科学的」と切り捨て、「温暖化の進行は、科学的知見に基づく国際社会の共通認識」(前出・毎日新聞社説)と強調する。地球温暖化に関する主流派の主張によれば、温暖化は水資源の不足や穀物生産の減少などで人間の生存や地球の生態系に悪影響をもたらし、途上国での貧困拡大や地域紛争につながる危険もあるとされる。
だが、この主張にはさまざまな懐疑論が唱えられている。「そもそも気温は上昇していない」「温暖化の原因は人為的な温室効果ガスの増加ではなく、自然の活動」「なぜ数十年以上も先の気候が正しく予測できるのか」――などだ。
懐疑論のなかには誤りもあるかもしれないが、すべてを「非科学的」と決めつけるのは乱暴に思える。4月3日に配信された日本経済新聞の記事は「人為的な二酸化炭素の排出を気候変動の主因とする温暖化論はいまだ仮説の域を出ていない」と冷静に述べている。
筆者は科学の専門家ではないので、地球温暖化に関する主流派の主張が正しいかどうかこれ以上議論するつもりはない。しかし間違いなくいえるのは、もしかりに主流派の主張が正しいとしても、パリ協定を支持しなければならない理由にはならないということだ。
なぜなら、パリ協定は科学研究の結果だけを述べた論文ではなく、特定の政策を実行するよう求めた政治文書だからである。科学と政治は違う。別々の独立した問題だ。
同協定には、「すべての国に削減目標の作成と提出、5年ごとに現状より向上させる見直しを義務づける」「先進国に途上国支援の資金拠出を義務づける」「先進国は現在の約束よりも多い額を途上国に拠出する」といった義務が盛り込まれている。
地球温暖化は正しいと主張する科学者の多くは、当然のようにパリ協定を支持する。同協定が義務づける政策によって、人間や環境への悪影響が防げると信じているからだ。しかし科学者は科学の専門家ではあっても、経済や政治の専門家ではない。パリ協定の政策が正しいかどうかは、経済や法の原理に照らして考えなければならない。
2020-07-12
トランプ大減税策、殺到する批判は間違い…米国と世界の経済を活性化させる可能性大
トランプ米政権が大胆な税制改革案を発表し、メディアから「金持ち優遇」などと批判を浴びている。
改革案の目玉は法人税率の引き下げ。35%から一気に世界最低となる15%に引き下げる。所得税は7段階ある税率区分を3段階に簡素化する。最高税率を39.6%から35%に引き下げる一方、基礎控除を2倍に広げることで中低所得層に目配りする。相続税廃止も打ち出した。
毀誉褒貶の激しいトランプ政権だが、今回の税制改革案については、後述するひとつの気がかりな点を除き、素直に評価すべきだろう。もし社会を物質的に豊かにし、貧困をなくしたいのなら、民間の活力を高めなければならない。企業や個人に対する減税は、そのために最も有効な手段のひとつである。
改革案に対するメディアの批判には何種類かあるが、そのいずれも的外れなものだ。まず、大幅な法人減税は自国の利益しか考えない「自国第一主義」であり、多国籍企業の税逃れを防ぐための国際協調に水を差すという批判だ。しかし、これはそもそも、合法的な節税を「税逃れ」とまるで悪事のように呼び、さらに税を絞り取ろうとすること自体が間違っている。
本連載の以前の回でパナマ文書問題を取り上げた際にも指摘したように、法人税の引き下げは、一般市民にとってマイナスではない。むしろプラスである。企業は投資に回せるお金が増えて生産力が高まり、消費者に安くて質の良い製品・サービスを提供できるからだ。政府のお役所仕事より効率的なのは間違いない。
次に、所得税の最高税率の引き下げや相続税廃止が「金持ち優遇」という批判だ。確かに、金持ち優遇であることは事実である。だが、それは悪いことではない。金持ちの多くは企業のオーナー、つまり投資家だ。投資で得た利益が減税によって多く手元に残るようになれば、投資に対する意欲が高まり、やはり製品・サービスの供給増につながる。
それから、「減税分の財源を示さないのは無責任」という批判がある。しかしトランプ政権は財源を一応示している。経済成長による自然増収だ。ムニューシン財務長官は、改革案に盛り込まれた大型減税で米経済は2年以内に3%の成長を達成できるとして、結果的に税収が増えると主張している。
ただし、自然増収だけで減税分の財源をまかなえるか、やや不透明なのも事実だ。財源が足りなくなり、何かほかの増税(インフレ税という見えない税金を含む)で帳尻を合わせるのでは意味がない。
財源を確実にするには、政府が使うお金を減らすこと、つまり支出削減が欠かせない。しかし今のところ、米政府からは具体的な削減策が聞こえてこない。むしろトランプ大統領は、軍事費や公共事業費を積極的に増やす姿勢を示している。これが最初に述べた「気がかりな点」である。
改革案の目玉は法人税率の引き下げ。35%から一気に世界最低となる15%に引き下げる。所得税は7段階ある税率区分を3段階に簡素化する。最高税率を39.6%から35%に引き下げる一方、基礎控除を2倍に広げることで中低所得層に目配りする。相続税廃止も打ち出した。
毀誉褒貶の激しいトランプ政権だが、今回の税制改革案については、後述するひとつの気がかりな点を除き、素直に評価すべきだろう。もし社会を物質的に豊かにし、貧困をなくしたいのなら、民間の活力を高めなければならない。企業や個人に対する減税は、そのために最も有効な手段のひとつである。
改革案に対するメディアの批判には何種類かあるが、そのいずれも的外れなものだ。まず、大幅な法人減税は自国の利益しか考えない「自国第一主義」であり、多国籍企業の税逃れを防ぐための国際協調に水を差すという批判だ。しかし、これはそもそも、合法的な節税を「税逃れ」とまるで悪事のように呼び、さらに税を絞り取ろうとすること自体が間違っている。
本連載の以前の回でパナマ文書問題を取り上げた際にも指摘したように、法人税の引き下げは、一般市民にとってマイナスではない。むしろプラスである。企業は投資に回せるお金が増えて生産力が高まり、消費者に安くて質の良い製品・サービスを提供できるからだ。政府のお役所仕事より効率的なのは間違いない。
次に、所得税の最高税率の引き下げや相続税廃止が「金持ち優遇」という批判だ。確かに、金持ち優遇であることは事実である。だが、それは悪いことではない。金持ちの多くは企業のオーナー、つまり投資家だ。投資で得た利益が減税によって多く手元に残るようになれば、投資に対する意欲が高まり、やはり製品・サービスの供給増につながる。
それから、「減税分の財源を示さないのは無責任」という批判がある。しかしトランプ政権は財源を一応示している。経済成長による自然増収だ。ムニューシン財務長官は、改革案に盛り込まれた大型減税で米経済は2年以内に3%の成長を達成できるとして、結果的に税収が増えると主張している。
ただし、自然増収だけで減税分の財源をまかなえるか、やや不透明なのも事実だ。財源が足りなくなり、何かほかの増税(インフレ税という見えない税金を含む)で帳尻を合わせるのでは意味がない。
財源を確実にするには、政府が使うお金を減らすこと、つまり支出削減が欠かせない。しかし今のところ、米政府からは具体的な削減策が聞こえてこない。むしろトランプ大統領は、軍事費や公共事業費を積極的に増やす姿勢を示している。これが最初に述べた「気がかりな点」である。
2020-07-11
「英国のEU離脱で孤立=欧州の悲劇」論のデタラメ…欧州経済全体に多大な利益
英国政府が欧州連合(EU)に離脱を正式に通知した。昨年6月の国民投票で決定した方針に従うものだ。通知から離脱までは原則2年で、期間延長がなければ、2019年3月にEUを離脱する。同国のメイ首相は離脱交渉の基盤を固めるため、6月8日に総選挙に踏み切る。
英国のEU離脱について、主流メディアではほぼ批判一色だ。たとえば英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は離脱通知を論評する3月30日付の社説で「離脱は英国にとって悲劇となるが、欧州にとっても悲劇となる」と述べた。
しかし、EU離脱を非難する主流メディアの主張は正しくない。そこでは言葉の意味が意図的にぼかされている。
主流メディアでよく見かける表現は、「離脱によって英国は欧州で孤立する」というものだ。EUを離れることは欧州を離れるに等しく、欧州の経済から切り離されるに等しいというイメージが煽り立てられる。
だが政治的な独立は、経済的な孤立を意味しない。EUは欧州と同じではないし、EUを離れても欧州の経済と縁を切ることにはならない。EU非加盟のノルウェーは、主要貿易相手国に英国、ドイツ、オランダ、スウェーデン、フランスなどEU加盟国が並ぶ。同じくスイスも、ドイツ、イタリア、フランスなどと活発に貿易を行う。
むしろ主流メディアの主張とは逆に、欧州の政治統合をめざすEUを離れ、政治的に独立する国が増えれば、欧州の経済には有益といえる。政治的な独立は、経済的な相互依存を強めるからだ。
EUによる政治統合を支持する人々は、中央集権化が貿易と平和を促進すると主張する。だが実際には、政治統合で事実上の国家の規模が大きくなるほど、保護主義と戦争のリスクが高まる。政治統合で巨大な超国家が成立すると、貿易戦争に伴う経済的孤立に耐えられるようになる。超国家を構成する一部の国が他の国を戦争に引き込み、自国の対立のコストを他の国に押しつけやすくなる。
これに対し、小規模な国家は経済的に孤立する余裕がない。自国の資源や人材だけでは経済を支えられないからだ。だから他の国と経済的な相互依存の関係を築く。この関係を断つことは経済的な自滅を意味するから、戦争を抑制するようになる。
巨大な超国家はそれを構成する諸国家に対し、政策の国際的な「調和」を求める。だから超国家のなかで生きる市民は、ブリュッセルにあるEU本部の官僚たちが絶えず発する規則のような、面倒で複雑なルールから逃げることができない。
英国のEU離脱について、主流メディアではほぼ批判一色だ。たとえば英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は離脱通知を論評する3月30日付の社説で「離脱は英国にとって悲劇となるが、欧州にとっても悲劇となる」と述べた。
しかし、EU離脱を非難する主流メディアの主張は正しくない。そこでは言葉の意味が意図的にぼかされている。
主流メディアでよく見かける表現は、「離脱によって英国は欧州で孤立する」というものだ。EUを離れることは欧州を離れるに等しく、欧州の経済から切り離されるに等しいというイメージが煽り立てられる。
だが政治的な独立は、経済的な孤立を意味しない。EUは欧州と同じではないし、EUを離れても欧州の経済と縁を切ることにはならない。EU非加盟のノルウェーは、主要貿易相手国に英国、ドイツ、オランダ、スウェーデン、フランスなどEU加盟国が並ぶ。同じくスイスも、ドイツ、イタリア、フランスなどと活発に貿易を行う。
むしろ主流メディアの主張とは逆に、欧州の政治統合をめざすEUを離れ、政治的に独立する国が増えれば、欧州の経済には有益といえる。政治的な独立は、経済的な相互依存を強めるからだ。
EUによる政治統合を支持する人々は、中央集権化が貿易と平和を促進すると主張する。だが実際には、政治統合で事実上の国家の規模が大きくなるほど、保護主義と戦争のリスクが高まる。政治統合で巨大な超国家が成立すると、貿易戦争に伴う経済的孤立に耐えられるようになる。超国家を構成する一部の国が他の国を戦争に引き込み、自国の対立のコストを他の国に押しつけやすくなる。
これに対し、小規模な国家は経済的に孤立する余裕がない。自国の資源や人材だけでは経済を支えられないからだ。だから他の国と経済的な相互依存の関係を築く。この関係を断つことは経済的な自滅を意味するから、戦争を抑制するようになる。
巨大な超国家はそれを構成する諸国家に対し、政策の国際的な「調和」を求める。だから超国家のなかで生きる市民は、ブリュッセルにあるEU本部の官僚たちが絶えず発する規則のような、面倒で複雑なルールから逃げることができない。
2020-07-10
【トランプを支持し貧困化&職を失う米国国民】企業競争力低下で生活低下、保護主義の罠
自由貿易を批判し、保護主義を主張するトランプ米新大統領が経済政策の見直しに着手したことで、世界で保護主義に対する警戒感が広がっている。いつもは自由貿易にそれほど好意的でない日本のマスコミでさえ、トランプ氏のあからさまな保護主義に当惑し、慌てて自由貿易の価値を説くほどだ。
一方、自由貿易に否定的な一部の知識人は、トランプ氏の大統領選出に力を得て、保護主義の復権をいっそう声高に唱えている。たとえば日本で人気のある仏歴史学者エマニュエル・トッド氏は、「相互協力的な保護主義について議論を始めなければならない時期に来ていることを理解できるエリートが世界中で必要とされている」(2016年12月14日付毎日新聞)と主張する。
しかし、惑わされてはいけない。経済の道理に照らして、保護主義は社会にとって決してプラスにならない。自由貿易でなければ人々は豊かになれない。経済学者はさまざまな問題で必ず意見が食い違うと冗談の種にされるが、保護主義の誤りに関してはほぼ全員一致で同意する。
なぜ経済的に自由貿易が優れているか、理屈は簡単だ。商品の製造やサービスの提供は、ごく単純なもの以外、ひとりではできない。複雑な仕組みで高度な知識・技術を必要とするものほど、専門の知識・技能を持つ多くの人で手分けしたほうが効率的だ。これを分業という。
ひとつの会社の中でも多くの人がさまざまな仕事を分業しているし、会社同士の取引も分業のひとつのかたちだ。それをけしからんと否定する人はいないだろう。しかし、自由貿易とは、国境を越えた分業にすぎない。分業の相手がたまたま外国の人や会社というだけだ。
世界にはさまざまな技能や強みを持つ個人や会社が、多数存在する。だから分業は同じ国の中だけで行うよりも、世界に広げたほうがより大きな効果を発揮する。戦後自由貿易を推進したシンガポールや香港、ドイツや日本が飛躍的な経済発展を遂げたのは、その何よりの証拠だ。統計的にも、貿易の自由度と国の繁栄には強い相関関係がある。
一方、自由貿易に否定的な一部の知識人は、トランプ氏の大統領選出に力を得て、保護主義の復権をいっそう声高に唱えている。たとえば日本で人気のある仏歴史学者エマニュエル・トッド氏は、「相互協力的な保護主義について議論を始めなければならない時期に来ていることを理解できるエリートが世界中で必要とされている」(2016年12月14日付毎日新聞)と主張する。
しかし、惑わされてはいけない。経済の道理に照らして、保護主義は社会にとって決してプラスにならない。自由貿易でなければ人々は豊かになれない。経済学者はさまざまな問題で必ず意見が食い違うと冗談の種にされるが、保護主義の誤りに関してはほぼ全員一致で同意する。
なぜ経済的に自由貿易が優れているか、理屈は簡単だ。商品の製造やサービスの提供は、ごく単純なもの以外、ひとりではできない。複雑な仕組みで高度な知識・技術を必要とするものほど、専門の知識・技能を持つ多くの人で手分けしたほうが効率的だ。これを分業という。
ひとつの会社の中でも多くの人がさまざまな仕事を分業しているし、会社同士の取引も分業のひとつのかたちだ。それをけしからんと否定する人はいないだろう。しかし、自由貿易とは、国境を越えた分業にすぎない。分業の相手がたまたま外国の人や会社というだけだ。
世界にはさまざまな技能や強みを持つ個人や会社が、多数存在する。だから分業は同じ国の中だけで行うよりも、世界に広げたほうがより大きな効果を発揮する。戦後自由貿易を推進したシンガポールや香港、ドイツや日本が飛躍的な経済発展を遂げたのは、その何よりの証拠だ。統計的にも、貿易の自由度と国の繁栄には強い相関関係がある。
2020-07-08
トランプの米国第一主義=「反戦主義」批判は見当違い…米国建国の精神そのもの
米国のドナルド・トランプ新大統領が打ち出した「米国第一主義」が、内外のメディアから批判されている。トランプ氏の米国第一主義は中身が雑多で、そのなかには保護貿易など誤った政策も含まれるのは事実だ。しかし本来の米国第一主義とは、ある種の外交政策を指す。その部分まで一緒くたに叩くのは、適切といえない。
トランプ氏は大統領選中から、米国は国外で余計な軍事介入をしないという姿勢を強調している。日本や韓国には米軍駐留経費の全額負担を求め、応じなければ撤退も辞さない構えを示した。これにメディアは衝撃を受け、「過激」「無責任」などと非難する。
しかし余計な軍事介入をしないという考えは、最近の米国からは想像しにくいかもしれないが、過去には同国で有力な外交方針だった。それどころか、建国時にさかのぼる伝統的な外交政策なのだ。
初代大統領ジョージ・ワシントンは1796年の退任挨拶で、外交政策の理念をこう述べている。
「我が国にとって優れた外交方針とは、諸外国と通商関係を広げながら、できる限り政治的なつながりを持たないことである。(略)世界のどの国々とも永続的な同盟を結ばないようにするのが、我が国の真の政策である」
これは、非同盟主義と呼ばれる考えである。ワシントンは「米国第一主義」という言葉を使ってはいないが、意味するところは変わらない。米国自身の問題を第一に考え、他国の問題に巻き込まれかねない政治・軍事同盟を結ばないということだ。
ワシントンが当時意識したのは、独立を果たしたばかりの米国と欧州諸国との関係である。もし欧州諸国の一部と同盟を結べば、自国の平和と繁栄を犠牲にしてまで、欧州の野望や利益、世論や気まぐれに巻き込まれかねないと恐れた。
トランプ氏は大統領選中から、米国は国外で余計な軍事介入をしないという姿勢を強調している。日本や韓国には米軍駐留経費の全額負担を求め、応じなければ撤退も辞さない構えを示した。これにメディアは衝撃を受け、「過激」「無責任」などと非難する。
しかし余計な軍事介入をしないという考えは、最近の米国からは想像しにくいかもしれないが、過去には同国で有力な外交方針だった。それどころか、建国時にさかのぼる伝統的な外交政策なのだ。
初代大統領ジョージ・ワシントンは1796年の退任挨拶で、外交政策の理念をこう述べている。
「我が国にとって優れた外交方針とは、諸外国と通商関係を広げながら、できる限り政治的なつながりを持たないことである。(略)世界のどの国々とも永続的な同盟を結ばないようにするのが、我が国の真の政策である」
これは、非同盟主義と呼ばれる考えである。ワシントンは「米国第一主義」という言葉を使ってはいないが、意味するところは変わらない。米国自身の問題を第一に考え、他国の問題に巻き込まれかねない政治・軍事同盟を結ばないということだ。
ワシントンが当時意識したのは、独立を果たしたばかりの米国と欧州諸国との関係である。もし欧州諸国の一部と同盟を結べば、自国の平和と繁栄を犠牲にしてまで、欧州の野望や利益、世論や気まぐれに巻き込まれかねないと恐れた。
2020-07-07
そもそも原発が完全民間なら、危険な運営や国民への高負担ツケ回しも起こらないのは自明
原発問題が相変わらず日本を揺さぶっている。政府は昨年12月、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉を決定した。核燃料サイクルの中核施設とされたが、1兆円以上の国費を投じて250日しか稼働できなかった。
政府は同月、東京電力福島第一原発事故の処理費用について、従来の見込みの約2倍となる21.5兆円に膨らむとの試算を公表。追加費用を電気料金への上乗せで賄う方針を提言案に明記した。
昨年は運転開始から40年前後たった老朽原発の延命も相次ぎ、世論では賛否が対立した。2011年3月の福島第一原発事故からやがて6年にもなろうとするのに、原発問題は解決の糸口さえ見えない。
その最大の原因は、エネルギー問題とは経済問題であるにもかかわらず、経済問題は市場に任せるという基本を推進派も反対派も忘れていることにある。市場に任せなければならない最大の理由は、コストの見極めだ。政府の算定では本当のコストがわからない。
原発の発電費用について政府は、福島第一原発の事故処理費倍増を反映させても1キロワット時当たり10.2〜10.4円と、液化天然ガス(LNG)火力(13.7円)や石炭火力(12.3円)、水力(11円)など他の発電手段に比べ安いと主張する。
これに対し立命館大学の大島堅一教授は「架空の前提に基づくため実態を反映していない」と批判する。政府試算は事故がほとんど起きない前提なので、福島原発にかかる費用がいくら膨らんでもほぼ影響しない。安全対策強化に伴う世界的な建設費の高騰も反映されていないという。
大島教授が原発の建設費や投じられてきた税金、事故の賠償など実際にかかった費用を積み上げ、原発の過去の発電量で割って試算したところ、発電費用は1キロワット時当たり12.3円と政府試算を上回った(2016年12月11日付東京新聞記事より)。
政府は原発を推進したい立場だから、原発のコストをできるだけ小さく見せたい意図が働いても不思議ではない。かりにそうした意図がないとしても、将来に対する見通しの甘さからコストの見積もりを誤る恐れがある。
政府は同月、東京電力福島第一原発事故の処理費用について、従来の見込みの約2倍となる21.5兆円に膨らむとの試算を公表。追加費用を電気料金への上乗せで賄う方針を提言案に明記した。
昨年は運転開始から40年前後たった老朽原発の延命も相次ぎ、世論では賛否が対立した。2011年3月の福島第一原発事故からやがて6年にもなろうとするのに、原発問題は解決の糸口さえ見えない。
その最大の原因は、エネルギー問題とは経済問題であるにもかかわらず、経済問題は市場に任せるという基本を推進派も反対派も忘れていることにある。市場に任せなければならない最大の理由は、コストの見極めだ。政府の算定では本当のコストがわからない。
原発の発電費用について政府は、福島第一原発の事故処理費倍増を反映させても1キロワット時当たり10.2〜10.4円と、液化天然ガス(LNG)火力(13.7円)や石炭火力(12.3円)、水力(11円)など他の発電手段に比べ安いと主張する。
これに対し立命館大学の大島堅一教授は「架空の前提に基づくため実態を反映していない」と批判する。政府試算は事故がほとんど起きない前提なので、福島原発にかかる費用がいくら膨らんでもほぼ影響しない。安全対策強化に伴う世界的な建設費の高騰も反映されていないという。
大島教授が原発の建設費や投じられてきた税金、事故の賠償など実際にかかった費用を積み上げ、原発の過去の発電量で割って試算したところ、発電費用は1キロワット時当たり12.3円と政府試算を上回った(2016年12月11日付東京新聞記事より)。
政府は原発を推進したい立場だから、原発のコストをできるだけ小さく見せたい意図が働いても不思議ではない。かりにそうした意図がないとしても、将来に対する見通しの甘さからコストの見積もりを誤る恐れがある。
2020-07-06
トランプ大統領誕生めぐる米国政治の壮大なプロレス…大きな/小さな政府議論のデタラメ
ドナルド・トランプ氏(共和党)の米大統領就任を今月20日に控え、新政権の経済政策に関する議論がメディアでは活発だ。その際、よく使われる決まり文句がある。「共和党は伝統的に『小さな政府』を求める」というものだ。
たしかに共和党の政治家はよく、自分たちは「小さな政府」をよしとし、経済活動は民間に原則任せると口にする。一方、ライバルである民主党も、共和党は「小さな政府」にこだわり、福祉政策に後ろ向きだと批判する。
しかし事実に照らせば、世間に流布される説や建前とは裏腹に、共和党は昔も今も「小さな政府」の党だったことはない。むしろ逆に「大きな政府」の党だったとすらいえる。
まず最近の事実を確かめよう。米教育団体のミーゼス研究所によれば、ニクソン以降オバマまで計8人の大統領について任期中(会計年度とのずれは調整)の連邦政府支出の伸び率をみると、一番低いのはブッシュ父(共和党)の2%である。支出が減ってはいないものの、これだけ見ると、共和党は相対的に「小さな政府」の党のように思える。
しかし一方、伸び率がもっとも大きかった上位2人はブッシュ息子(46%)、レーガン(19%)で、どちらも共和党である。
1980年代に大統領を務めたレーガンは、「小さな政府」路線を推し進めた代表的な政治家だと、いまだに信じている人が多い。しかし実際にはレーガンは多額の政府予算を使い、米国が現在直面する債務問題の発端をつくった。
マザー・ジョーンズ誌によると、レーガン政権下で連邦政府職員数はおよそ32万4000人増加し、約530万人となった。これは冷戦で軍を増強したからだけではない。増加人数に占める軍関係者の割合は26%にすぎない。むしろ民主党のクリントン政権下で、政府職員数は過去数十年で最も少なくなった。
レーガンといえば、規制緩和を推進したイメージがあるかもしれない。しかし具体例として有名な航空業の規制緩和は、レーガン政権ではなく、前任のカーター民主党政権によって行われたものだ。
ブッシュ息子の金遣いの荒さは、レーガンを上回る。2008年のリーマン・ショック後に不良資産救済プログラム(TARP)、大手自動車会社の救済、財政出動による大規模な景気対策などを相次いで実行したのは記憶に新しい。
上述のミーゼス研究所によれば、政府支出の対国内総生産(GDP)比率をみると、共和党と民主党の差はそれほど大きくない。それでも共和党が民主党に比べ、ことさら熱心に「小さな政府」を求めた形跡は見当たらない。
たしかに共和党の政治家はよく、自分たちは「小さな政府」をよしとし、経済活動は民間に原則任せると口にする。一方、ライバルである民主党も、共和党は「小さな政府」にこだわり、福祉政策に後ろ向きだと批判する。
しかし事実に照らせば、世間に流布される説や建前とは裏腹に、共和党は昔も今も「小さな政府」の党だったことはない。むしろ逆に「大きな政府」の党だったとすらいえる。
まず最近の事実を確かめよう。米教育団体のミーゼス研究所によれば、ニクソン以降オバマまで計8人の大統領について任期中(会計年度とのずれは調整)の連邦政府支出の伸び率をみると、一番低いのはブッシュ父(共和党)の2%である。支出が減ってはいないものの、これだけ見ると、共和党は相対的に「小さな政府」の党のように思える。
しかし一方、伸び率がもっとも大きかった上位2人はブッシュ息子(46%)、レーガン(19%)で、どちらも共和党である。
1980年代に大統領を務めたレーガンは、「小さな政府」路線を推し進めた代表的な政治家だと、いまだに信じている人が多い。しかし実際にはレーガンは多額の政府予算を使い、米国が現在直面する債務問題の発端をつくった。
マザー・ジョーンズ誌によると、レーガン政権下で連邦政府職員数はおよそ32万4000人増加し、約530万人となった。これは冷戦で軍を増強したからだけではない。増加人数に占める軍関係者の割合は26%にすぎない。むしろ民主党のクリントン政権下で、政府職員数は過去数十年で最も少なくなった。
レーガンといえば、規制緩和を推進したイメージがあるかもしれない。しかし具体例として有名な航空業の規制緩和は、レーガン政権ではなく、前任のカーター民主党政権によって行われたものだ。
ブッシュ息子の金遣いの荒さは、レーガンを上回る。2008年のリーマン・ショック後に不良資産救済プログラム(TARP)、大手自動車会社の救済、財政出動による大規模な景気対策などを相次いで実行したのは記憶に新しい。
上述のミーゼス研究所によれば、政府支出の対国内総生産(GDP)比率をみると、共和党と民主党の差はそれほど大きくない。それでも共和党が民主党に比べ、ことさら熱心に「小さな政府」を求めた形跡は見当たらない。
2020-07-05
配偶者控除、「主婦の特権」との批判は完全に間違った奴隷根性…一生税に苦しむ人々
2017年度税制改正の内容が固まった。今回、注目点の一つとなったのは配偶者控除の見直しである。
配偶者控除とは、配偶者(妻)の収入が103万円以下の場合、世帯主(夫)の給与所得から38万円を引き、世帯主の納税額を少なくする仕組み。主婦の妻がパートで働く場合、世帯全体の手取り額が減るのを防ごうと、自らの収入を103万円以下に抑えようとしてしまう。これは「103万円の壁」と呼ばれ、女性の社会進出を阻む原因とされてきた。
今回の見直しでは、控除を受けられる配偶者の年収を103万円以下から150万円以下に引き上げたうえで、世帯主の年収に基づく所得制限を新たに導入することになった。
ところで配偶者控除をめぐる議論で、気になる表現がある。配偶者控除は「主婦の特権」というものだ。
なるほど、共働きで夫婦とも稼ぎが多ければどちらにも税がかかるのに、妻が主婦で一定以下のパート収入しかなければ税控除を受けられるから、特権に見えるのも無理はない。しかし、その見方は果たして正しいだろうか。「主婦の特権」をなくすため、控除を廃止したり控除の条件を厳しくしたりするべきだろうか。
配偶者控除に限らず、税控除や免税、ある種の節税などが特権と批判されるケースは少なくない。
たとえば超高層のタワーマンションを使った節税だ。景観のよい高層階の部屋は、低層階と同じ面積でも取引価格が高い。一方で、部屋にかかる相続税や固定資産税は面積で決まるため、取引価格の割に税金が安い。このため富裕層の間で節税策として購入する動きが広がり、「富裕層の特権」と非難された。
政府はこうした声を受け、2018年以降に引き渡す新築物件を対象に高層階の固定資産税と相続税を引き上げる。これは富裕層の特権を許さない政策として喜ぶべきだろうか。
配偶者控除とは、配偶者(妻)の収入が103万円以下の場合、世帯主(夫)の給与所得から38万円を引き、世帯主の納税額を少なくする仕組み。主婦の妻がパートで働く場合、世帯全体の手取り額が減るのを防ごうと、自らの収入を103万円以下に抑えようとしてしまう。これは「103万円の壁」と呼ばれ、女性の社会進出を阻む原因とされてきた。
今回の見直しでは、控除を受けられる配偶者の年収を103万円以下から150万円以下に引き上げたうえで、世帯主の年収に基づく所得制限を新たに導入することになった。
ところで配偶者控除をめぐる議論で、気になる表現がある。配偶者控除は「主婦の特権」というものだ。
なるほど、共働きで夫婦とも稼ぎが多ければどちらにも税がかかるのに、妻が主婦で一定以下のパート収入しかなければ税控除を受けられるから、特権に見えるのも無理はない。しかし、その見方は果たして正しいだろうか。「主婦の特権」をなくすため、控除を廃止したり控除の条件を厳しくしたりするべきだろうか。
配偶者控除に限らず、税控除や免税、ある種の節税などが特権と批判されるケースは少なくない。
たとえば超高層のタワーマンションを使った節税だ。景観のよい高層階の部屋は、低層階と同じ面積でも取引価格が高い。一方で、部屋にかかる相続税や固定資産税は面積で決まるため、取引価格の割に税金が安い。このため富裕層の間で節税策として購入する動きが広がり、「富裕層の特権」と非難された。
政府はこうした声を受け、2018年以降に引き渡す新築物件を対象に高層階の固定資産税と相続税を引き上げる。これは富裕層の特権を許さない政策として喜ぶべきだろうか。
2020-07-04
トランプで戦争懸念浮上の米国、リンカーン=奴隷解放の英雄は嘘だった!多数の人命犠牲
米国の政権交代が来年1月に迫り、歴史上の「偉大な大統領」に言及する政治家やメディアが増えてきた。
新大統領就任が決まったドナルド・トランプ氏自身、大統領選終盤の10月下旬、かつて同じ共和党のエイブラハム・リンカーン元大統領が「人民の人民による人民のための政治」を唱えたペンシルベニア州のゲティスバーグで演説し、リンカーンを模範にアメリカの分断に立ち向かいたいと強調した。
リンカーンといえば、米国でアンケート調査などに基づき歴代大統領を業績でランキングすると、つねに首位を争うほど評価が高い。そのほかジョージ・ワシントン、ウッドロウ・ウィルソン、フランクリン・ルーズベルトなども上位の常連だ。
さて、米国で「偉大」と称えられるこれらの大統領には、ある共通するキーワードがある。それは「戦争」だ。
ワシントンはアメリカ独立戦争で司令官を務め、初代大統領に就いた。リンカーンは南北戦争で北軍を指揮して勝利を収める。ウィルソン、ルーズベルトはそれぞれ第一次、第二次世界大戦時の大統領である。
戦時の大統領は美化されやすい。特に昔の戦争であるほど、戦場や銃後の悲惨な記憶は薄れ、戦争の指導者が英雄として崇拝されがちである。だからランキング上位の大統領は、その業績を冷静に検証すると、必ずしも良い大統領だったといえないどころか、むしろその正反対である場合が少なくない。
上述した4人の「偉大な」大統領のうち、建国の父であるワシントンも美化と無縁ではない。それでも総合的に判断して、良い意味で「偉大な大統領」だったといっていいだろう。だが他の3人となると、話は別だ。以下、トランプ氏が称えたリンカーンを中心に説明しよう。
新大統領就任が決まったドナルド・トランプ氏自身、大統領選終盤の10月下旬、かつて同じ共和党のエイブラハム・リンカーン元大統領が「人民の人民による人民のための政治」を唱えたペンシルベニア州のゲティスバーグで演説し、リンカーンを模範にアメリカの分断に立ち向かいたいと強調した。
リンカーンといえば、米国でアンケート調査などに基づき歴代大統領を業績でランキングすると、つねに首位を争うほど評価が高い。そのほかジョージ・ワシントン、ウッドロウ・ウィルソン、フランクリン・ルーズベルトなども上位の常連だ。
さて、米国で「偉大」と称えられるこれらの大統領には、ある共通するキーワードがある。それは「戦争」だ。
ワシントンはアメリカ独立戦争で司令官を務め、初代大統領に就いた。リンカーンは南北戦争で北軍を指揮して勝利を収める。ウィルソン、ルーズベルトはそれぞれ第一次、第二次世界大戦時の大統領である。
戦時の大統領は美化されやすい。特に昔の戦争であるほど、戦場や銃後の悲惨な記憶は薄れ、戦争の指導者が英雄として崇拝されがちである。だからランキング上位の大統領は、その業績を冷静に検証すると、必ずしも良い大統領だったといえないどころか、むしろその正反対である場合が少なくない。
上述した4人の「偉大な」大統領のうち、建国の父であるワシントンも美化と無縁ではない。それでも総合的に判断して、良い意味で「偉大な大統領」だったといっていいだろう。だが他の3人となると、話は別だ。以下、トランプ氏が称えたリンカーンを中心に説明しよう。
2020-07-03
トランプ候補の主張の一部は真実である…安直なポピュリズム批判こそ反理性的
「ポピュリズム」という言葉がメディアを一段と賑わせている。ポピュリズムはマスコミによって「大衆迎合主義」という悪いイメージの言葉に翻訳され、「反理性的」「無責任」などと非難される。しかし、これらの非難を鵜呑みにして、ポピュリズムがすべて間違っていると決めつけるのは、思考停止でしかない。
11月8日に投票される米大統領選に共和党候補として臨む不動産王ドナルド・トランプ氏、国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めた英国、欧州で勢力を伸ばす左右の急進政党。過激発言を繰り返して「フィリピンのトランプ」とも呼ばれるロドリゴ・ドゥテルテ大統領――。これらの話題をひっくるめて、「世界はポピュリズムに席巻されている」と警告する論調が目立つ。
たしかにポピュリズムを唱えているとされる政治家(ポピュリスト)の主張には、露骨な外国人差別など理解しがたいものもある。しかし、だからといって、すべてが間違っているわけではない。
たとえばトランプ氏は米連邦準備理事会(FRB)を批判し、オバマ政権の意向に沿って金利を低く抑え、「虚偽の株式相場」をつくり出したと指摘した。これは、それほど非難されるようなことだろうか。
もちろん、中央銀行は政治から独立しているというのが建前だし、金融緩和の目的は株価を上げることではないとFRBは主張する。しかし、日本のアベノミクス(安倍政権の経済政策)にしてもそうだが、現実には政府の支配下にある中央銀行がしばしば政府の意を汲んで行動するのは、公然の秘密である。トランプ氏はその事実をおおっぴらに述べたにすぎない。
またトランプ氏は外交政策で、必要性のない戦闘のため米兵を派遣しない「アメリカ・ファースト」(米国第一)を基本方針に掲げた。マスコミでは「孤立主義」と叩かれたが、これも特段おかしな主張ではない。トランプ氏が「アメリカ・ファースト」によって批判したのは、これまで米国の外交政策に影響力を及ぼしてきたネオコン(新保守主義者)や軍事介入を支持する共和党主流派である。彼ら外交エリートはイラク戦争をはじめとする軍事介入で次々と新たな問題を生み出し、新たな軍事介入の必要に迫られてきた。
英国のEU離脱(ブレグジット)に対しては、主流メディアが「離脱したら英国経済に大きな悪影響を及ぼす」と反対論を繰り広げた。しかし、この言い分こそ経済の道理に反する。EUから離脱すれば、加盟国との貿易は縮小するかもしれない。だが、EU以外との貿易がそれ以上に活発になれば、英国経済はむしろ今よりも繁栄することが可能だ。EUの各種規制、関税・貿易政策、極めて保護主義的な農業政策を脱することもできる。欧州でもっとも豊かな国のひとつである、スイスとノルウェーはEUに加盟していない。
ポピュリズムにはしばしば、「反理性的」という罵声が浴びせられるが、ポピュリズムの批判者である主流政治家やマスコミの主張を冷静に比較すると、以上のように、むしろ批判側こそ道理に反し「反理性的」である場合が少なくない。
11月8日に投票される米大統領選に共和党候補として臨む不動産王ドナルド・トランプ氏、国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めた英国、欧州で勢力を伸ばす左右の急進政党。過激発言を繰り返して「フィリピンのトランプ」とも呼ばれるロドリゴ・ドゥテルテ大統領――。これらの話題をひっくるめて、「世界はポピュリズムに席巻されている」と警告する論調が目立つ。
たしかにポピュリズムを唱えているとされる政治家(ポピュリスト)の主張には、露骨な外国人差別など理解しがたいものもある。しかし、だからといって、すべてが間違っているわけではない。
たとえばトランプ氏は米連邦準備理事会(FRB)を批判し、オバマ政権の意向に沿って金利を低く抑え、「虚偽の株式相場」をつくり出したと指摘した。これは、それほど非難されるようなことだろうか。
もちろん、中央銀行は政治から独立しているというのが建前だし、金融緩和の目的は株価を上げることではないとFRBは主張する。しかし、日本のアベノミクス(安倍政権の経済政策)にしてもそうだが、現実には政府の支配下にある中央銀行がしばしば政府の意を汲んで行動するのは、公然の秘密である。トランプ氏はその事実をおおっぴらに述べたにすぎない。
またトランプ氏は外交政策で、必要性のない戦闘のため米兵を派遣しない「アメリカ・ファースト」(米国第一)を基本方針に掲げた。マスコミでは「孤立主義」と叩かれたが、これも特段おかしな主張ではない。トランプ氏が「アメリカ・ファースト」によって批判したのは、これまで米国の外交政策に影響力を及ぼしてきたネオコン(新保守主義者)や軍事介入を支持する共和党主流派である。彼ら外交エリートはイラク戦争をはじめとする軍事介入で次々と新たな問題を生み出し、新たな軍事介入の必要に迫られてきた。
英国のEU離脱(ブレグジット)に対しては、主流メディアが「離脱したら英国経済に大きな悪影響を及ぼす」と反対論を繰り広げた。しかし、この言い分こそ経済の道理に反する。EUから離脱すれば、加盟国との貿易は縮小するかもしれない。だが、EU以外との貿易がそれ以上に活発になれば、英国経済はむしろ今よりも繁栄することが可能だ。EUの各種規制、関税・貿易政策、極めて保護主義的な農業政策を脱することもできる。欧州でもっとも豊かな国のひとつである、スイスとノルウェーはEUに加盟していない。
ポピュリズムにはしばしば、「反理性的」という罵声が浴びせられるが、ポピュリズムの批判者である主流政治家やマスコミの主張を冷静に比較すると、以上のように、むしろ批判側こそ道理に反し「反理性的」である場合が少なくない。
2020-06-30
政府の経済政策は、経済を悪化させるという歴史的事実…不況期は「何もしない」が最善
今から87年前の1929年10月24日といえば、経済の歴史で最も重要な日付のひとつである。「暗黒の木曜日」と呼ばれるこの日、ニューヨーク市場で株式相場が暴落し、史上最大規模の世界恐慌(大恐慌)の始まりを告げたからだ。
一般に流布する説によれば、大恐慌発生時の米大統領フーバー(共和党、任期1929年3月〜33年3月)は自由放任主義を信じ、経済対策をやらなかったため不況を深刻にしたといわれる。
しかし、それは嘘である。これから述べるように、フーバーは政府による経済介入を積極的に行い、それが裏目に出て、不況を大恐慌に悪化させてしまったのだ。
たとえばフーバーは公共事業に消極的だったといわれるが、それは事実に反する。むしろすばやく行動した。
フーバーは暴落翌月の11月23日、州知事全員に電報を打ち、州の公共事業計画を拡大するよう協力を求めた。知事らは協力を誓い、同24日、商務省は州と公共事業で協力するための組織を設立する。
一方、連邦政府の建造物計画に4億ドルを増額するよう議会に提案し、12月3日、商務省は公共事業計画を促進するため公共工事局を新設する。さらに船舶連盟を通じて造船への補助金を増やし、公共事業にさらに1億7500万ドルの予算増額を求めた。
翌30年6月末には、フーバーは州と市に対し、さらに公共事業を拡大し失業を解消するよう要請している。7月3日、議会はコロラド川のダム建設など9億1500万ドルもの巨額の公共事業予算を承認した。このダムはフーバーの名にちなんでフーバーダムと呼ばれる。
フーバーは政府による公共工事だけでなく、民間投資の維持・拡大も促した。29年11月、ホワイトハウスの閣議室に鉄道会社の社長らを集め、建設・改修投資の続行と拡大を要請した。これを受けて鉄道会社側は10億ドルの支出計画を発表した。これは同年に連邦政府が予算を割り当てた全プロジェクトの3分の1強に相当する大きな金額だった(『アメリカ大恐慌・上巻』<アミティ・シュレーズ著/田村勝省訳/NTT出版>)。
会計年度ごとの政府支出をみると、30年度(29年7月~30年6月)から34年度(33年7月~34年6月)まで、公共工事を含む連邦政府支出はほぼ一貫して増加している。30年度(33億ドル)から32年度(47億ドル)にかけては42%も増えた。33年度には前年度比6100万ドル(1.3%)減っているが、同年度が始まるのは32年7月1日で、すでに大恐慌に入って3年近い。そのときまでフーバーは財政支出を着実に増やしたのである。
財政収支をみると、30年度こそクーリッジ前政権から引き継いだ黒字を維持したものの、31年度は赤字に転じ、32年度には赤字額が国内総生産(GDP)の4%に達した。国内総生産が4年間で3割近く急減した影響もあるが、一方で財政赤字の絶対額も5億ドル(31年度)から27億ドル(32年度)へと5倍強に跳ね上がっており、対GDP比率を押し上げた(『学校で教えない大恐慌・ニューディール』<ロバート・マーフィー著/マーク・シェフナー他訳、大学教育出版>)。
財政赤字の対GDP比4%という数字は、減税やイラク戦争で赤字が大きく膨らんだジョージ・ブッシュ(子)時代の3.6%(2004年度)を上回る高水準である。フーバーの政策は、積極的な財政出動を唱えるケインズ主義そのものの対応だったといえる。
一般に流布する説によれば、大恐慌発生時の米大統領フーバー(共和党、任期1929年3月〜33年3月)は自由放任主義を信じ、経済対策をやらなかったため不況を深刻にしたといわれる。
しかし、それは嘘である。これから述べるように、フーバーは政府による経済介入を積極的に行い、それが裏目に出て、不況を大恐慌に悪化させてしまったのだ。
積極的な公共投資
たとえばフーバーは公共事業に消極的だったといわれるが、それは事実に反する。むしろすばやく行動した。
フーバーは暴落翌月の11月23日、州知事全員に電報を打ち、州の公共事業計画を拡大するよう協力を求めた。知事らは協力を誓い、同24日、商務省は州と公共事業で協力するための組織を設立する。
一方、連邦政府の建造物計画に4億ドルを増額するよう議会に提案し、12月3日、商務省は公共事業計画を促進するため公共工事局を新設する。さらに船舶連盟を通じて造船への補助金を増やし、公共事業にさらに1億7500万ドルの予算増額を求めた。
翌30年6月末には、フーバーは州と市に対し、さらに公共事業を拡大し失業を解消するよう要請している。7月3日、議会はコロラド川のダム建設など9億1500万ドルもの巨額の公共事業予算を承認した。このダムはフーバーの名にちなんでフーバーダムと呼ばれる。
フーバーは政府による公共工事だけでなく、民間投資の維持・拡大も促した。29年11月、ホワイトハウスの閣議室に鉄道会社の社長らを集め、建設・改修投資の続行と拡大を要請した。これを受けて鉄道会社側は10億ドルの支出計画を発表した。これは同年に連邦政府が予算を割り当てた全プロジェクトの3分の1強に相当する大きな金額だった(『アメリカ大恐慌・上巻』<アミティ・シュレーズ著/田村勝省訳/NTT出版>)。
会計年度ごとの政府支出をみると、30年度(29年7月~30年6月)から34年度(33年7月~34年6月)まで、公共工事を含む連邦政府支出はほぼ一貫して増加している。30年度(33億ドル)から32年度(47億ドル)にかけては42%も増えた。33年度には前年度比6100万ドル(1.3%)減っているが、同年度が始まるのは32年7月1日で、すでに大恐慌に入って3年近い。そのときまでフーバーは財政支出を着実に増やしたのである。
財政収支をみると、30年度こそクーリッジ前政権から引き継いだ黒字を維持したものの、31年度は赤字に転じ、32年度には赤字額が国内総生産(GDP)の4%に達した。国内総生産が4年間で3割近く急減した影響もあるが、一方で財政赤字の絶対額も5億ドル(31年度)から27億ドル(32年度)へと5倍強に跳ね上がっており、対GDP比率を押し上げた(『学校で教えない大恐慌・ニューディール』<ロバート・マーフィー著/マーク・シェフナー他訳、大学教育出版>)。
財政赤字の対GDP比4%という数字は、減税やイラク戦争で赤字が大きく膨らんだジョージ・ブッシュ(子)時代の3.6%(2004年度)を上回る高水準である。フーバーの政策は、積極的な財政出動を唱えるケインズ主義そのものの対応だったといえる。
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