科学の役割の一つは、不可能を教えることにあります。たとえば近代以前、金以外の金属から金をつくる錬金術が盛んに試みられましたが、現代の自然科学により、それは不可能であることが明らかになっています。
経済学も社会科学という科学の一翼を担います。ところが自然科学と違い、経済学を生業とする経済学者やエコノミストはあまり不可能について語りません。それどころか、まるで錬金術師のように、奇跡は可能だと語る人が少なくありません。
「穴を掘って埋め戻すだけで経済は良くなる」「お札を刷ってばらまけば経済は回復する」「増税してベーシックインカムに充てれば貧困はなくなる」--。経済学者やエコノミストの中にもこう主張する人がいます。しかしこれらの政策はせいぜい一時の効果しかありません。無から有は生まれないからです。
けれども腐っても鯛です。できないことはできないとはっきり言う、本物の経済学者はいます。ZUU onlineによると、「最低賃金の引き上げが産業をロボット化に追いやり、結果的に失業者を生みだしている」との報告書を、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)などの経済学者が発表したそうです。
政府関係者を含め、最低賃金の引き上げは貧しい人を救うと信じる人が少なくありません。しかしそれは誤りです。最低賃金を義務づければ、熟練労働者は高い賃金を得られますが、未熟練労働者は労働市場から排除されます。またLSEの経済学者がいうように、機械化が進み失業が増えます。
米ジョージ・メイソン大学人文研究所が運営するウェブサイト、ラーン・リバティの記事が述べるように、経済学者の仕事は、市民を啓蒙し、無知から守ることです。「タダ飯なんて虫のいいものはない」と言われて、喜ぶ人はいません。だからこそ嫌われ役を引き受け、経済に奇跡はないと説き続けることが、経済学者やエコノミスト、経済ジャーナリストの使命でしょう。(2017/09/12)
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