2018-09-09

仮想通貨のディストピア

民間で運営されるオープンな分権システムか、政府・中央銀行が独占管理する究極の中央集権か——。8月8日付の投稿で、仮想通貨は夢と悪夢の分かれ目にさしかかっているようだと書きました。気がかりなことに、現実は悪夢に向かって少しずつ近づいています。

日経電子版の記事によると、世界の中央銀行が、法的な裏付けを持つデジタル通貨の発行を相次ぎ検討し始めています。日銀のリポートによれば、狙いは「金融政策の有効性を守る」ことです。立派な大義名分です。けれどもそれが国民にとって良いこととは限りません。

金融政策の大前提は、国民が中央銀行の発行するお金(法定通貨)を使うことです。民間の仮想通貨のほうが多く利用されるようになれば、法定通貨の金利の上げ下げや発行量の増減で物価や消費をコントロールできなくなります。中央銀行が面白くないのは当然です。

しかし忘れてならないのは、もし円などの法定通貨から民間仮想通貨に利用がシフトしたら、それは国民の選択の結果だということです。

銀行に預けても利息がほとんどつかない。ATMからは1日50万円しか引き出せない。外国に送金するとべらぼうな手数料を取られる。そのうえ税務署に情報が筒抜けかもしれない。まだ一部の人々にせよ、国民はそんな法定通貨や、政府・中央銀行の支配下にある銀行システムに愛想を尽かし、民間仮想通貨を選ぼうとしているのです。

もし中央銀行の発行するデジタル法定通貨が、上記のような現行の法定通貨の欠点をなくしたものなら結構なことです。ATMの引き出し制限はなくなり、外国送金手数料も安くなるかもしれません。

しかし超低金利とプライバシーの不安は変わらないか、むしろ悪化するでしょう。デジタル法定通貨はそもそも金融政策という名のゼロ金利やマイナス金利から逃がさないために導入するのだし、あらゆる取引履歴を捕捉されてしまうからです。仮想通貨の未来が暗鬱なディストピアに転じてよいはずはありません。(2017/09/09

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