2018-08-08

仮想通貨の夢と悪夢

技術革新は人間の暮らしを豊かにする可能性を秘めています。しかし、悪用されれば逆に災いをもたらします。

たとえば航空技術の場合、1903年にライト兄弟が世界初の本格的な有人飛行に成功したわずか約10年後、第一次世界大戦で爆撃機として利用されました。空を飛ぶ夢が、降り注ぐ爆弾という悪夢に転じたのです。

仮想通貨も今、夢と悪夢の分かれ目にさしかかっているようです。

金融情報ブログ「ゼロヘッジ」によると、中国は、仮想通貨ビットコインなどの中核技術であるブロックチェーンを課税に利用する方針を表明しました。詳細は不明ですが、中央銀行である中国人民銀行はすでに独自の仮想通貨を開発し、実証実験に入っており、今回の課税構想と連動しているとみられます。

中国に限らず、英国、オランダ、カナダなど中央銀行がみずから仮想通貨の発行を検討する動きは世界に広がっています。日銀は仮想通貨発行の具体的計画はないとしていますが、研究は熱心にしているようです。

もともとビットコインなどの仮想通貨は、オープンなコンピューター・ネットワークで運営され、中央集権的な管理主体が存在しないことが特徴とされてきました。しかし実際には、それ以外の方向に発展する可能性もあります。

銀行がクローズドなネットワークで運営する仮想通貨は、銀行が中央で管理主体の役割を果たします。それでも複数の銀行が競争すれば、完全な中央集権にはなりません。

しかし中央銀行が仮想通貨を発行し、通貨市場を事実上独占すれば、究極の中央集権が実現します。中央銀行は、タンス預金に逃げられることなくマイナス金利を実行できるばかりか、個人や企業の経済活動をすべてつぶさに把握できるようになります。

中央銀行がそうした情報を直接利用することはないにせよ、徴税・捜査当局など国から情報提供の要請があれば、公的機関である以上、断れないでしょう。そうなればあらゆるプライバシーが国に筒抜けです。

近未来に現れるかもしれないそのような体制に対し、経済学者の野口悠紀雄氏は、英国の作家ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描いた、全国民の生活を仔細に観察できる全能の独裁者「ビッグ・ブラザー」そのものだと警鐘を鳴らします(『ブロックチェーン革命』、日本経済新聞出版社)。

しかし「Medium」のブログ記事が指摘するように、日本では仮想通貨が非中央集権であることの重要性に対する関心はきわめて薄いようです。仮想通貨の悪夢を私たちは食い止めることができるでしょうか。(2017/08/08

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