「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」 。言論の自由の原則を端的に示した、仏哲学者ボルテールの言葉です。ふだんは多くの人が称賛する言葉ですが、いざとなるとあっさり忘れ去られてしまいます。
米南部バージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義団体と反対派の衝突事件が波紋を広げるなか、影響力のある人権団体、米自由人権協会(ACLU)の態度が議論を呼んでいます。白人至上主義者の言論の自由を強く擁護しているからです。
自由人権協会は、白人至上主義者のジェイソン・ケスラー氏が呼びかけ、今回の衝突事件の発端となった「右派の団結」集会をめぐり、事前にシャーロッツビル市当局が許可を取り消そうとした際、裁判所に不服を申し立て、認められています。当日に州が非常事態を宣言し、集会を中止した後には、ツイッターで「言論の自由の保護が十分でなかった」と指摘しました。
同協会は、トランプ大統領による移民の入国規制やトランスジェンダーの軍入隊拒否に抗議しており、リベラルなイメージを抱く人が少なくありません。それだけに、白人至上主義者の言論の自由を擁護する姿勢は、リベラルな支持者から「なぜシャーロッツビルのナチスを擁護するのか。寄付金を無駄遣いしてほしくない」などと非難を浴びています。
しかし、「左」だけでなく「右」の側にも立つ同協会の態度は、言論の自由の擁護という点で首尾一貫しています。驚くかもしれませんが、同協会は以前から、白人至上主義を掲げるKKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチの言論の自由を守れと主張しています。
いくら言論の自由が大切でも、極右や人種差別主義者の言論まで守るのはいきすぎだと感じるかもしれません。実際、米国でも日本でも、ヘイトスピーチの規制を支持する人は少なくありません。リベラルな人ほどその傾向が強いように見えます。
しかし、「悪い言論」に言論の自由はない、規制してよいという考えが広まったとき、言論の自由は本当に守られるのでしょうか。
著書『暴露——スノーデンが私に託したファイル』(新潮社)が邦訳されているジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド氏は自由人権協会の姿勢を支持し、こう指摘します。
「政府の力を強化してネオナチや白人至上主義の主張を抑え込もうとすれば、裏目に出て、それらの極右運動を逆に強めるだろう。国家による検閲を今日支持する人々は、明日は自分がその標的となる。そのとき防ぐ手立てはもはやない」(2017/08/19)
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