「国の借金が国民1人当たり***万円」という表現に腹を立てる人が少なくありません。増税を狙う財務省が、マスコミを通じて的外れな表現で国民の不安をいたずらに煽っているというのです。
財務省が増税をしたがっているのは事実ですし、国の財政状況は深刻だと強調する背景に増税の意図があるのもたしかでしょう。増税はまっぴらです。しかしだからといって、財政が深刻でないわけではありません。同じく「国の借金が国民1人当たり***万円」という表現が的外れだともいえません。
時事通信の報道によると、財務省は10日、国債と借入金などの残高を合計した「国の借金」が6月末時点で過去最高の1078兆9664億円になったと発表しました。7月1日時点の人口推計(1億2675万人)を基に単純計算すると、「国民1人当たりの借金は約851万円になる」といいます。
この表現に対し、ネット上などでいつもの批判の声が上がっています。代表的なのは「国債は政府の借金(負債)で、国民の借金ではない。国民からみればむしろ資産」というものです。
この指摘は間違っていません。政府は国民に国債を売ってお金を借り、国民は政府から国債を買ってお金を貸しています(外国人が約1割を保有していますが比率が低いので無視します)。借りたお金は負債であり、貸したお金は資産です。
しかし問題は、借りたお金を政府がどうやって返すかです。企業であれば、社債を売って借りたお金はさまざまな事業で稼いで返します。けれども政府の場合、収入を得る方法は実質一つしかありません。国民への課税です(お金の発行によるお金の価値の下落という「見えない税」を含みます)。
普通の資産なら、増えればうれしいものです。しかし、国債残高が過去最大になり、国民の資産が増えたと躍り上がって喜んでいる人は見当たりません。財務省やマスコミに騙されているからでしょうか。まさか。国債という資産が増えるほど、将来払わされる税金が増えることを知っているからです。
国民1人当たり約851万円という数字は、形式的には政府の借金でも、実質的にその借金を払うのは国民ですから、国民の借金と呼ぶのは的外れではありません。
もし野放図に政府の借金を膨らませた政治家や官僚、そこから利益を得た一部の人々だけが返済の義務を負うのなら、国民1人当たりの額など気にしなくてよいでしょう。しかし残念ながら、ツケを払うのは、何の責任もない将来世代を含むすべての国民です。その理不尽に対する怒りを忘れないために、「国民1人当たりの借金」報道は必要です。(2017/08/11)
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