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インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説 (MMT=現代貨幣理論など) によっ...

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2021-01-23

バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽

異様な迫力に満ちた「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」。バルトークのこの曲はスイスの異色の富豪、パウル・ザッハーの依頼で書かれました。ザッハーはワインガルトナーに指揮を学んだ後、製薬大手ロシュ社オーナーの未亡人と結婚して巨万の資産を手中に収め、同時代の作曲家への作品委嘱を盛んに行います。なかでもバルトークは、元恋人といわれるヴァイオリニスト、シュテフィ・ゲイエルがザッハーの創設したバーゼル室内管弦楽団でコンサートマスターを務めた縁もあり、ザッハーと親しい関係にありました。ザッハーが同管弦楽団の創立十周年演奏会に新作を書いてくれないかと手紙を送ったところ、バルトークはすぐさま承諾の返事を送り、わずか二カ月で書き上げたといいます。難解とされる現代音楽も、政府に頼らず、民間の力で世に送り出せるという証拠です。さらに後日、この曲はスタンリー・キューブリック監督の映画「シャイニング」で使われ、ファンの裾野を広げることになります。


<参考文献>
「特集=パトロンと音楽」(モーストリー・クラシック 2020年12月号)

2021-01-22

ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

ヨハン・シュトラウス1世「ラデツキー行進曲」は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートで最後を飾る曲として有名。軽快な曲調や明るい手拍子と裏腹に、政治的な因縁に彩られた曲でもあります。北イタリアの独立運動を鎮圧したオーストリアのラデツキー将軍を称えて作曲されましたが、イタリア側から見れば悲劇の歴史で、この曲をタブー視する向きもあるといいます。一方、オーストリアではその後ナチス・ドイツに併合された際も、国家を象徴する曲として尊ばれました。ナチスは国を奪われたオーストリア人の不満を和らげるため、シュトラウス家のユダヤ系の出自に細工までして同家の音楽を利用したのです。そして2020年、ウィーン・フィルはニューイヤーコンサートで使用する同曲の楽譜を一新しました。それまでの版の編曲者であるオーストリア出身の作曲家ベーニンガーがナチスに入党し、党の文化・音楽活動に協力していたことを問題視したためです。


<参考文献>
「特集=ウィンナ・ワルツとニューイヤー・コンサート」(モーストリー・クラシック 2021年2月号)

2021-01-21

ペルト:主よ、平和を与えたまえ

「主よ、平和を与えたまえ」は2004年にペルトが作曲した男女混声合唱曲。エストニア出身のペルトは同年3月11日にスペインのマドリードで起こった列車爆破テロ事件の2日後、犠牲者をしのんで作曲に取りかかったと言います。同年7月1日にバルセロナで開いた平和コンサートで披露されました。ラテン語の歌詞は聖書に基づく6〜7世紀の賛美歌で、「主よ、平和を与えたまえ、我らが日々に/他に誰がいましょう/我らがために戦う方/あなた以外に、我らが神よ」と歌います。のちにオーケストラ伴奏付き、器楽版など他のバージョンも作られていますが、やはりオリジナルのアカペラ版の味わいは格別です。191人が死亡、2000人以上が負傷した列車爆破テロ事件は、スペインでは2001年9月11日の米同時多発テロと並び、「3・11事件」と呼ばれるほど衝撃的な出来事で、毎年、ペルトのこの曲が追悼のために演奏されているそうです。

2021-01-20

ヴィヴァルディ:グローリア

「グローリア」(作品番号 RV 589)はヴィヴァルディの宗教作品でとくに有名な楽曲。カトリック教会のミサ曲のうち、グローリア(栄光頌)と呼ばれる歌詞に曲をつけたものです。冒頭部分は新約聖書「ルカによる福音書」の「いと高き神に栄えあれ、地に平和あれ、人に恵みあれ」に由来します。この言葉はキリスト生誕の際、天使の大軍が発したとされ、古くから平和思想を表す言葉として有名なようです。たとえば、ヴィヴァルディよりおよそ二百年前の哲学者エラスムスは聖書のこの言葉を引用し、「キリスト生誕の際、天使が歌ったのは戦争の栄光でも勝利の歌でもなく、平和の賛美歌だった」と述べています。影響は文化にも及び、日本でも、最近再評価の機運が高まる作家、小松左京が戦争をテーマとしたSF短編「地には平和を」を残しています。ヴィヴァルディのこの楽曲で、「地に平和あれ」と歌う第2楽章は、とりわけ美しく、平和の祈りにふさわしいものです。

2021-01-19

プーランク:平和への祈り

シャルル・ドルレアン(オルレアン公)は15世紀フランスの王族で詩人。ジャンヌ・ダルクが活躍した百年戦争のさなか、聖母マリアに「平和への祈り」を捧げます。「すべてを破壊し尽くす戦争をなくしてくださいますよう/祈りに倦まれませぬよう/平和の祈りを、平和の祈りを/平和こそ喜ばしい真の宝なのですから」。プーランクがフランスの新聞でこの詩を読んだ1938年9月29日は、折しもミュンヘンで主要国首脳会議が開かれ、ヒトラー率いるドイツと戦争の緊張が高まっていました。プーランクはさっそく詩に曲をつけます。彼自身の日記によれば、情熱と、それから何よりも謙虚さの表現に苦心したといいます。敬虔なカトリック信者を両親に持つ彼にとって、謙虚さこそは「祈りの最もすばらしい特質」だったからです。しかしその祈りも虚しく、一年後、ドイツのポーランド侵攻とそれに対する英仏の宣戦布告により、世界は未曾有の戦禍に引き込まれていきます。

2021-01-18

ヘンデル:組曲「王宮の花火の音楽」

1748年、八年に及んだオーストリア継承戦争がようやく終結し、英王室は翌年、盛大な祝典を催します。祝典の花火大会のためにヘンデルが作曲したのがこの音楽です。本番の一週間前にヴォクソール庭園で行った公開リハーサルに一万二千人以上が詰めかけるほどの話題となりましたが、残念なことに、4月27日にグリーンパークで開いた本番は、イベントとしてはさんざんでした。花火の打ち上げにもたついたうえ、パビリオンに火がつき、焼け落ちてしまったのです。ヘンデルは祝典の一カ月後、孤児院の慈善演奏会で再びこの曲を演奏します。初演では国王ジョージ二世の意向に従い、勇壮な響きを出すため管楽器と打楽器のみが使われましたが、慈善演奏会ではヘンデルの望みどおり弦楽器を加えた編成で演奏されました。第三楽章「平和(La paix)」の穏やかな調べは、長い戦争が終わった喜びを静かに噛みしめるようです。

2021-01-17

ヴォーン・ウィリアムズ:われらに平和を与えたまえ

「われらに平和を与えたまえ(ドナ・ノビス・パーチェム)」の歌詞には19世紀英国の政治家、ジョン・ブライトの議会演説の一節が使われています。ブライトはリチャード・コブデンとともに「反穀物法同盟」を結成し、自由貿易の拡大に力を注いだことで有名ですが、同時に熱心な反戦活動家でもありました。演説は戦争の惨禍を「死の天使」にたとえ、クリミア戦争への英国の参戦を批判したものです。「死の天使が国中を飛んでいる。その羽ばたきがほとんど聞こえるだろう。古来、死の天使が見逃し、通り過ぎた者は誰もいない」。緊張感あふれる音楽から戦争の恐怖が伝わってきます。ヴォーン・ウィリアムズは、陶工から身を起こした実業家ウェッジウッド、進化論を唱えたダーウィンの子孫であり、その自由主義的な出自から、同じく自由主義者のブライトに注目したのかもしれません。