異様な迫力に満ちた「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」。バルトークのこの曲はスイスの異色の富豪、パウル・ザッハーの依頼で書かれました。ザッハーはワインガルトナーに指揮を学んだ後、製薬大手ロシュ社オーナーの未亡人と結婚して巨万の資産を手中に収め、同時代の作曲家への作品委嘱を盛んに行います。なかでもバルトークは、元恋人といわれるヴァイオリニスト、シュテフィ・ゲイエルがザッハーの創設したバーゼル室内管弦楽団でコンサートマスターを務めた縁もあり、ザッハーと親しい関係にありました。ザッハーが同管弦楽団の創立十周年演奏会に新作を書いてくれないかと手紙を送ったところ、バルトークはすぐさま承諾の返事を送り、わずか二カ月で書き上げたといいます。難解とされる現代音楽も、政府に頼らず、民間の力で世に送り出せるという証拠です。さらに後日、この曲はスタンリー・キューブリック監督の映画「シャイニング」で使われ、ファンの裾野を広げることになります。
(ナクソス・ミュージック・ライブラリーに投稿)
<参考文献>
「特集=パトロンと音楽」(モーストリー・クラシック 2020年12月号)
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