1971年8月、ニクソン米大統領は金本位制の廃止(ドルと金の交換停止)を抜き打ちで発表した。ニクソン・ショックだ。その歴史的出来事から半世紀を迎える2021年は、世界の通貨制度にとって転機の年になるかもしれない。
2020年は世界的な株高となった。報道によると、世界の上場企業の株式時価総額は100兆ドル(約1京円)を超え、1年間で約15兆ドル増えた。支えとなったのは、新型コロナウイルスの経済影響を抑えるためとして世界の中央銀行がとった金融緩和策だ。主要9中銀の資産は9.7兆ドル膨らんだ。
しかし株価が高騰し、株を多く保有する富裕層を潤す一方で、人々の持つお金の価値は確実に薄まっている。
中央銀行が金融緩和でお金の量を増やすと、その分、1ドル、1円などお金一単位あたりの価値は薄まる。今はコロナの影響などで物価は下落気味だが、それでもお金の価値は実質薄まっている。もしお金の量を増やしていなければ、物価はもっと下がっていた(お金の価値が上がっていた)はずだからだ。
けれども今後、物価が上昇に転じれば、つまりインフレになれば、お金の価値は名目的にも薄まる。目に見える形でお金の価値が落ちるということだ。
政府・中央銀行は、小幅のインフレは経済にプラスだと根拠のない主張をしてきたが、都市封鎖や自粛要請で経済の足腰が衰えるなか、小幅でもインフレが起これば、国民の暮らしをじわじわと圧迫するだろう。インフレが事実上の税であることに、人々はようやく気づくことになる。
好き勝手にお金の量を増やせる今の通貨制度が続く限り、インフレの脅威はなくならない。経済にバブルをもたらし、政府債務を際限なく膨張させるといった弊害も消えない。
それに危機感を抱き、歯止めをかけようとする動きはある。米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)理事に、金本位制復帰論者であるジュディ・シェルトン氏が指名されたことは、その象徴といえる。
金本位制は、政府・中央銀行が保有する金の量に応じてしか、お金の発行を認めない。有権者にばらまくお金を野放図に増やせない。だから五十年前、それを嫌ったニクソン政権は金本位制を廃止し、福祉や軍事予算の大盤振る舞いに道を開いた。日本など他の先進国もおおむね同じ道を歩み、今では政府の借金を高々と積み上げ、踏み倒す算段を巡らしている。
シェルトン氏を指名したトランプ大統領がホワイトハウスを去ることになり、彼女が理事になれるかどうかは微妙だ。けれどもそれが実現しなくても、バブルの破裂、財政危機の深刻化、インフレの発生といった痛みをきっかけに、今の通貨制度に対する反省機運が高まる可能性はある。
そのとき、金本位制は現実的な選択肢として再び輝きを増すだろう。米国はまだ金本位制の下にあった1950〜60年代にかけて戦後の繁栄を築き、それに先導されて世界経済も高度成長を成し遂げたのだから。
0 件のコメント:
コメントを投稿