「官民ファンドなんて必要なのか」。産業革新機構によるベンチャー投資のお粗末な成績を日本経済新聞の記事で知った読者の多くは、そう感じたに違いありません。そうした中、民間で取れないリスクを取る使命があるから、損はやむをえないと擁護する意見もあるようです。
記事によると、官民ファンドである革新機構は、ベンチャー投資事業でこれまでに全株を手放した23件のうち元が取れたのは4件どまり。けれども、これに対して革新機構には言い分があるようです。
志賀俊之会長は「『負け』が増えたのは反省だ」と認めつつも、創業間もない企業の支援で民間よりリスクを取っていると弁明しています。
日本は超低金利なのに、企業や金融機関がリスクを避けるのは問題だという考えもあるようです。そうだとすれば、官民ファンドはあっていいということになります。
しかし、これらの弁明や考えは正しくありません。なぜなら、リスクは取ればいいというものではないからです。
民間企業はやみくもにリスクを取るわけではありません。つねにリターンとの見合いで考えます。見合うだけのリターンが得られないと考えれば、リスクは取らない。それが正しい経営判断です。
ところが官民ファンドの場合、志賀会長の言う「創業間もない企業の支援」といった大義名分が最優先され、リターンは二の次です。政治家の圧力もあるらしい。しかも失敗しても資金に困らない。これでは損失続きとなるのも当然です。そんなリスクの取り方は無謀でしかありません。
たとえ超低金利でも、リスクに見合ったリターンが得られるとは限りません。そうだとすれば、リスクを避ける企業や金融機関を臆病者呼ばわりするべきではありません。皮肉なことに、民間の慎重な判断が正しいことは、革新機構のお寒い成果から明らかです。
最後に、「政府の仕事は金儲けではないから、損失は問題でない」と考える人もいるかもしれません。ベンチャー投資がそもそも政府のやるべき仕事なのか疑問ですが、もしそうなら、官民ファンドなどという天下りに都合のいい中途半端で不透明な形にせず、純粋な公共事業としてやるべきでしょう。損失は納税者がすべてかぶることになりますが……。
いずれにせよ、官民ファンドはいらないのです。(2017/08/07)
0 件のコメント:
コメントを投稿