2023-05-01

報道機関の失われた良心

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年4月24日)

米紙ニューヨーク・タイムズをはじめとする既成の報道機関が、ジャック・テシェイラ容疑者を追跡する当局に奴隷のように協力したことで、ジャーナリズムの良心は最悪の水準に陥った。同容疑者は、米国と北大西洋条約機構(NATO)の高官がウクライナ戦争などについて嘘をついていたことを明らかにしたリーク元だとみられている。残念ながらこの事件は、その数カ月前に始まり、現在も続いているジャーナリズムの重大な不正行為に関するもう一つの話題、ノルドストリーム・パイプライン爆破事件の欠陥報道をも凌駕してしてしまった。
しかしノルドストリーム事件に関する報道機関のひどいやり方を忘れてはならない。なぜなら欧米(とくに米国)のジャーナリストが外交政策や国家安全保障問題に関し、政府の薄っぺらい公式見解をいかに喜んでおうむ返しするかが浮き彫りになったからである。2022年9月に起こった爆弾テロであるノルドストリーム事件はロシアが引き起こした可能性が高いというバイデン米政権の主張には、それなりに独立した有能な報道機関であっても重大な疑問を呈するはずだった。しかし予想どおり、ニューヨーク・タイムズはすぐに政府の示した疑惑に同調した。他のエリート報道機関もこれに続き、ロシア政府の犯行だということに何の疑いも抱かないところもあった。

その疑惑に大きな疑念を抱く理由はいくつもあり、結局、政府幹部でさえ、ロシアが有罪だという「決定的な証拠」がないことを認めた。どんな犯罪でも、優秀な捜査官が最初に問うのは「cui bono(誰が得をするのか)」である。その点では、ロシアは容疑者リストのはるか下に位置していただろう。

ロシアの投資家は、ノルドストリーム1と完成したばかりのノルドストリーム2の建設に何十億ドルも注ぎ込んでいた。しかし今ではこれらのパイプラインは北海の底で無用の長物と化した。米国内のロシア嫌いのタカ派は、短期ではロシアの経済的利益が損なわれるものの、プーチン(露大統領)は欧州諸国への天然ガスの流れを断ち、ウクライナの戦争支援を続けるなら痛みを与えることができると示そうと、この措置をとったのだと主張した。しかしこの説を支持する当局者やアナリストは、パイプラインのバルブを閉めれば同じ結果が得られるのに、なぜロシアが自国の貴重なインフラを破壊するのかを説明しなかった。さらに悪いことに、当局者らにそのような質問をしたジャーナリストはほとんどおらず、ましてや首尾一貫した答えを求めることはできなかった。

「誰が得をするのか」の問いを投げかければ、ロシアが容疑者から外れることはなかったかもしれないが、他の関係者がもっと上位に来るはずだ。例えば、欧州大陸への天然ガスの供給元として、他の候補が挙げられていた。英国やノルウェーなどのNATO加盟国や米国がそれに該当する。またウクライナは、ロシアとの極めて破壊的な戦争に巻き込まれていたため、動機としてはもっともな容疑者であった。敵対するロシアを経済的、外交的に弱体化させることは、明らかにウクライナの利益になる。しかしウクライナにはこのような高度な攻撃を実行する能力がない、というのが主な反論であった。

ジャーナリズムの調査から浮かび上がる第一容疑者は、米国だったろう。実際、米国が単独で、あるいは少数のNATO同盟国と共同で行ったとする証拠の量は相当なものであった。それにもかかわらずニュースメディアの大半は、この説をロシアのプロパガンダにすぎないと手厳しく断じた。FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏は、この説に異を唱え、適切な質問をした数少ない著名ジャーナリストである。

欧州諸国へのロシアのエネルギーパイプラインの存在に断固として反対する米国の態度は、40年以上も前にさかのぼる。ロナルド・レーガン政権は、西ドイツがパイプラインの建設を承認したことに猛反発した。欧州の非共産圏の大部分が、地政学的に敵対する国からのエネルギー供給に依存を高めることになると考えたからである。キャスパー・ワインバーガー、ジョージ・シュルツ両元国務長官はそれぞれの回顧録で、欧州の同盟国を説得して方向転換させることができなかったことへの政権の苛立ちを語っている。ワインバーガー氏は実際、欧州のソ連へのエネルギー依存をやめさせたいと狂信的なまでに考えていた。

米政府の不満は、時間の経過とともに解消されることはなかった。ドナルド・トランプ政権は、最新かつ最大の天然ガスパイプラインであるノルドストリーム2の完成を阻止しようとし、バイデン政権も当初はそうしていた。ノルドストリーム2はロシアとドイツを直接結び、バルト三国や東欧の忠実な米従属国を迂回するため、とくに好ましくないものと考えられていた。なかでもウクライナの収入に壊滅的な影響を与えるものだ。

米国の長年の政策が一貫してノルドストリーム・パイプラインを敵視していただけでなく、爆発に至るまでの数カ月、バイデン政権の言葉遣いは容赦なく威嚇的だった。ロシアが2022年2月にウクライナへの侵攻を開始する前から、バイデン大統領は米国がノルドストリーム2に「終止符を打つ」と平然と述べている。決定権はドイツにあるのに、どうしてそんなに自信があるのかと記者が詰め寄ると、バイデン氏は、米国はその目的を達成するという明白な「約束」で応えた。

米国の著名な報道機関の多くは、その後の破壊工作の第一容疑者はロシアであるという政府の立場を支持したが、欧州をはじめとする世界各国の報道機関は、より懐疑的な見方を示した。2023年2月、著名な調査ジャーナリストであるセイモア・ハーシュ氏が、ノルウェーと組んだ米国の犯行であることを示す長大な記事を発表すると、その警戒感はさらに強くなった。ホワイトハウスは、ハーシュ氏の記事はまったくの虚偽だとただちに非難し、米エリートマスコミの多くが、ハーシュ氏の暴露を驚くほど小さく報道し、敬意を払わなかったことが印象的である。

しかしハーシュの記事は、欧米の一般大衆に十分な共感を与えたようで、米国はその公式見解を変更した。ウォロディミル・ゼレンスキー政権とはまったく関係のない悪質なウクライナ人がパイプラインを破壊したという説を展開したのである。このような話は最初から信憑性に欠ける。NATOの複数の国の情報機関に傍受されることなく、少数のフリーランスのアマチュアが自家用ヨットでこのような高度な作戦を実行できたという考えは、ほとんどお笑いぐさとなった。

しかしエリートメディアの主要メンバーは、米政府の発表に従順だった。その多くは、事実と関係なくロシアを非難することに固執するタカ派であった。

ノルドストリーム破壊工作の報道は、数十年前から続く長いシリーズの一つのエピソードだった。そこでは独立したジャーナリストであるはずの人々が、米政府公認の物語を伝えるだけの存在であることに満足しているように見える。その特徴は、米政府によるバルカン半島での人道的十字軍、イスラム世界での政権交代戦争、ロシアに対し激化する挑発行為(NATOの拡張など)の報道で、あまりにも顕著だ。知的な調査や精査の欠如は、今や本当に不名誉な水準に達している。

Bombing Journalistic Integrity - The American Conservative [LINK]

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