ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月9日)
米国の外交政策史上、とくに大きなダメージを与えたのが、アイゼンハワー大統領によるドミノ理論(ある一国が共産主義化すればドミノ倒しのように隣接する国々も共産主義化するという理論)である。この理論を採用したことで、米国はベトナムへの軍事介入という大失敗にまっしぐらとなった。この単純な理論は、ベトナムの失敗の後、笑いものとなったが、その信奉者は存在し続けている。さらに悪いことに、ロシアと中国に対する米政府の現在の態度に関して、完全に復活したように見える。
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— Ron Paul Institute (@RonPaulInstitut) May 10, 2023
アイゼンハワー大統領が初めてその主張を展開したのは、1954年4月7日の記者会見である。それによれば、崩壊しつつあるフランスのインドシナ植民地帝国において共産主義勢力が権力を握るのを防ぐことが、より広い範囲で重要である。同大統領は、後に有名になるイメージを引き合いに出した。「ドミノの列があり、最初の1個を倒すと、最後の1個は間違いなくあっという間に倒れてしまう。だから崩壊が始まれば、きわめて深刻な影響を及ぼす」
同大統領は悪夢のようなシナリオを紡ぎ出した。ベトナムで共産主義が成功すれば、「インドシナ半島、ビルマ、タイ、(マレー)半島、それに続いてインドネシアが失われる」。そして共産主義の脅威は「日本のいわゆる島嶼防衛網、台湾、フィリピン、そして南方へ進出し、オーストラリアとニュージーランドを脅かす」のである。日本でさえも、共産主義世界に目を向ける以外の選択肢はないだろう。その結果、「(ベトナムの)喪失がもたらすかもしれない結果は、自由世界にとって計り知れないものとなる」。
アイゼンハワー氏とその助言者らは、基本的な点を無視していた。国家はドミノではない。それぞれの国は、独自の伝統、価値観、利益、優先順位を持つユニークな社会である。ある国で政治的、イデオロギー的な結果が生じたからといって、同じ結果が近隣の国、ましてやもっと遠くの国で起こるとは限らない。
米外交のタカ派メンバーや欧州、東アジアの関係者は、ロシアと中国に関してこの現実を無視するようになっている。もしロシアがウクライナとの戦争に成功すれば、ロシアは欧州全域に悲惨な脅威をもたらすというのが、北大西洋条約機構(NATO)のお偉いさんたちの決まり文句になっている。それどころかロシアが勝てば、「ルールに基づく」国際体制全体の安定を脅かすという。
経済規模がスペインよりわずかに大きく、軍事予算が米国の10分の1以下である国がそのような脅威をもたらすという考えは、一見して不合理に思えるはずである。米国が関与しなくても、ロシア軍は欧州のNATO圏全体はもちろん、欧州の主要国1つですら征服することは困難だろう。
さらにこの考えは、ウクライナが文化上・安全保障上の理由からロシアにとって非常に重要だという広範な証拠を無視している。とくにロシアの指導者らは、米国がウクライナをNATOの対ロシア軍事資産にすることを許そうとはしなかったのである。だからといってロシアが同様の骨折りをし、リスクを冒してまで、欧州の他地域に対し地政学的な攻勢をかけると考える理由はまったくない。かりにウクライナがロシアの現在の軍事作戦に敗れたとしても、ポーランド、バルト3国、スロバキアが次の拡張の標的になると考える確かな理由はないだろう。ましてドイツ、フランス、イタリアといった大国は言うまでもない。
米国でも、とくに反中のタカ派が増え、対中政策について同様の単純な考えが浸透し始めている。その根底にあるのは、もし中国が力づくで台湾を支配することに成功すれば、中国は東アジア全域に拡張政策の脅威を及ぼし、世界の覇権を握る候補になるだろうという仮説である。ロシアについてドミノ理論を唱えるアナリストが、ロシアにとってのウクライナの重要性を無視するのと同様に、中国が台湾を獲得すれば拡張政策に走ることになると主張する人々は、中国の指導者と国民にとって台湾が特別な存在であることを無視している。多くの中国人にとって台湾は、1949年に共産党の勝利で終わった中国本土の内戦で、最後に解決されなかった領土問題である。また台湾は、中国の「長い屈辱の世紀」の間に外国(日本)が盗んだ領土とみなされている。
台湾を取り戻すことは、他のどんな領土的野心よりもはるかに大きな重要性を持っている。中国が世界をリードする大国となり、米国の覇権を弱めたいと考えているのは確かだが、その目標が自動的に不正な拡張政策につながるわけではない。さらに、ロシアが欧州の経済・軍事大国の存在によって力を制限されているのと同様に、中国も日本、インド、インドネシアなど、その野心を制限する動機を持つ近隣の主要国に直面することになるだろう。
1950年代にアイゼンハワー大統領が発表したドミノ理論は、単純でナンセンスなものだった。現在ゾンビのようによみがえった理論も同様に現実離れしている。元祖ドミノ理論のように米国を不必要で悲惨な紛争に巻き込むことのないよう、断固として否定する必要がある。
The Zombie Domino Theory Returns - Antiwar.com Original [LINK]
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