2023-07-08

軍産複合体とシンクタンク

軍需産業が出資する米シンクタンクは戦争研究所だけではない。米クインシー研究所が最近公表した調査によれば、主要シンクタンクの多くが軍需産業を資金源としている。しかも軍需産業とつながりのあるシンクタンクのほうが、メディアで多く取り上げられる傾向がある。
クインシー研究所によれば、資金提供者が特定できた27のシンクタンクのうち、77%にあたる21が軍需産業から資金提供を受けていた。残念ながら、資金提供者の開示は任意であるため、シンクタンクの資金源のうち軍需産業からの資金が占める割合を知ることはできない。

続いて同研究所は、2022年3月1日〜2023年1月31日の11カ月間、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル各紙に掲載されたウクライナ戦争報道を調べ、33の主要シンクタンクのいずれかが言及されるたびに数え上げた。最も多く言及された15のシンクタンクのうち、軍需産業から資金援助を受けていないのはヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)だけだった。軍需産業とつながりのあるシンクタンクが引用される頻度は、つながりのないシンクタンクの7倍にも達した。

引用回数の第1位は、ともに157回の戦略国際問題研究所(CSIS)と大西洋評議会だった。両シンクタンクは、軍需産業のレイセオン社とロッキード・マーチン社から数十万ドルを受け取っている。両社はウクライナ戦争の結果、国防総省からすでに数十億ドルの契約を獲得している。

大西洋評議会は長い間、北大西洋条約機構(NATO)の頭脳の役割を果たしている。メディア監視団体FAIRが指摘するように、NATOのロシア国境への拡大は、ロシアがウクライナ侵攻を決定する重要な要因となった。

CSISはニューヨーク・タイムズの記事(2016年8月7日)で、資金提供元である軍需産業の優先度を反映した報告書などを作成したことが明らかになっている。CSISはまた、軍需産業の「推奨を押し進めるために、国防総省高官や議会スタッフとの会合を開始した」とされる。

クインシー研によれば、因果関係は不明ながら、「軍需産業と資金面でつながりのあるシンクタンクは、軍需産業を利するような政策を支持することが多い」。例えば、大西洋評議会のある記事(2023年2月6日)は「クレムリン(ロシア)とのいかなる妥協」にも反対するよう述べ、別の記事(同1月16日)では、ウクライナには「ロシアの重要インフラを破壊し、モスクワなどの都市を暗闇に陥れる権利がある」と主張している。

第5位(101回引用)のアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)は今年に入り、「ネオコン・ファミリー」の一員であるフレデリック・ケーガン上席フェローのコメントがウォールストリート・ジャーナル紙にたびたび引用された。それによれば、「戦車と装甲兵員輸送車は必要不可欠」であり、米国がそれらの供与に同意すれば、「ウクライナは現在保有する戦車兵器の多くを反攻作戦に投入し、リスクを冒す余裕が生まれる」という。AEIは、米国がウクライナに戦術核兵器を供与することまで提案している。

なお調査を実施したクインシー研究所自身は、大富豪ジョージ・ソロス氏の「オープン・ソサエティー財団」や、「ロックフェラー兄弟財団」などから出資を受けている。

冷戦時代、アイゼンハワー米大統領は、軍部と軍需産業とが結びつき、政治・社会に大きな影響を及ぼす体制を「軍産複合体」(Military-industrial complex=MIC)と呼び、警戒を促した。しかしその後、軍産複合体は解体されるどころか、議会(Congress)、情報機関(Intelligence)、メディア(Media)、学会(Academia)を取り込み、さらにシンクタンク(Think tank)を組み入れて肥大化した。「MICIMATT」(ミシマット)と呼ばれる。

「ミッキーマウス」のように読むと覚えやすいらしいが、全然かわいくない。それどころか、人類の安全を脅かす怪物だ。

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