インフレは、速度別に分類されることがある。緩やかな順にいうと、「マイルドインフレ」(クリーピングインフレともいう)は物価上昇率が年数%、「ギャロッピングインフレ」は年10%超〜数十%程度、そして「ハイパーインフレ」は1カ月に50%以上とされる。
このうち最も緩やかなマイルドインフレは、オンライン百科事典のウィキペディアにもあるように、経済が健全に成長しているとみなされ、望ましい状態といわれることが多い。実際、日銀を含む世界の中央銀行の多くは、年2%のインフレを実現するという目標を掲げている。
誰もが恐ろしいと思うハイパーインフレに比べ、マイルドインフレはその名のとおり穏健で、良いことだと信じている人が多い。政府やメディアもそう信じ込ませようとしている。しかしマイルドインフレはある意味で、ハイパーインフレよりも悪質だ。
マイルドインフレの物価上昇は、大したことはないように見えるかもしれない。しかし時間の経過とともに、お金の購買力は想像以上に低下する。
年2%のインフレだと5年後には9%、10年後には18%の購買力が失われる。
年5%の場合、5年後には22%、10年後には39%の購買力が破壊される。
年10%になると、5年後には38%、10年後には61%の購買力が消滅する。
ハイパーインフレは誰が見ても異常で、経済に悪影響を及ぼすとわかる。これに対しマイルドインフレは良いことだと信じられ、政府によって推奨さえされているから、なかなか歯止めがかからない。ハイパーインフレよりも長期間続く可能性が大きい。その結果、上記のように、知らないうちにお金の価値がかなりの割合で奪われていく。
ハイパーインフレが劇薬だとすれば、マイルドインフレはじわじわ回る毒のようなものだ。しかも経済にとって「良い薬」だとして飲まされるのだから、なおさら怖い。
「お金の価値が多少減っても、マイルドインフレで経済が成長し、収入が増えればいいじゃないか」と思うかもしれない。しかし、政府が信じ込ませようとしている説とは違い、インフレと経済成長は関係ない。言い換えれば、デフレ(物価の下落)と経済の縮小は関係ない。
米国、英国の歴史上、それぞれの黄金時代といえる19世紀後半の経済的な繁栄は、デフレの下で実現した。また、米ミネアポリス連銀のエコノミストが日米欧17カ国について、少なくとも過去100年のデータを調べたところ、デフレ期の90%近くが不況でなかった。
こうした事実にもかかわらず、政府・中央銀行は「デフレは悪」との迷信に基づいてマイルドインフレを目標に掲げ、金融緩和によってお金の価値を日々破壊し続けているのである。
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