「コストプッシュインフレ」という言葉を時々目にする。最近も日銀の植田和男総裁が会見で足元の物価高について質問され、「この原因は海外発のコストプッシュインフレーションでそれは日本の金融政策で直接どうこうするということはなかなかできない」と答えていた。
【速報中】日銀 植田総裁まもなく会見 物価安定は?株価は? #nhk_news https://t.co/UgWiD8UtGY
— NHKニュース (@nhk_news) June 16, 2023
野村証券の「証券用語解説集」で「コストプッシュインフレ」を調べると、「生産コストの上昇により起こるインフレのこと。具体的には、原材料や資源価格の上昇による資源インフレ、賃金の高騰による賃金インフレなどがある」とある。
わかりやすいようで、わからない。コストプッシュインフレは「生産コストの上昇により起こる」というけれど、じゃあ、その「生産コストの上昇」はなぜ起こるのか。つまり、原材料や資源価格の上昇、賃金の高騰はなぜ起こるのか。それを説明してくれなければ、まるで「暑いのは気温が高いから」といわれたようなもので、どうにも腑に落ちない。
コストプッシュインフレに対する疑問はまだある。原材料・資源の値上がりと同時に物価全般が上昇したら、何となく、原材料・資源の値上がりのせいで物価全般が上昇したように見える。だがよく考えると、Aという現象(原材料・資源の値上がり)とBという現象(物価全般の上昇)が同時に起こったからといって、AがBの原因だとは限らない。もしかすると他にCという現象が起きていて、それがAとBに共通する原因かもしれない。
経済ジャーナリストのヘンリー・ハズリットは、賃金と物価の関係について次のように説明する。
「物価と単位労働コストがほぼ同じ上昇を示したり、あるいは特定の年や期間にどちらか一方がより大きな上昇を示したりしたことを示す数値がある場合、これは何が起こったかを説明するものであって、何がその変化の『原因』であったかを説明するものでは必ずしもない。賃金の上昇が物価の上昇を引き起こしたのか、あるいはその逆なのかという疑問に対する答えは、数字からだけでは判断できない」
そのうえでハズリットは、物価上昇の原因は別にあると指摘する。マネーサプライ(通貨供給量)の増加だ。物価上昇に結びつくまでにはタイムラグもあるし、マネーサプライの増加率が物価に正確に比例して反映されるわけでもない。それでもマネーサプライが増えなければ、物価全体は上昇しない。
そうでなければ、たとえば値上がりした原材料・資源の購入にお金を多く支払う分、他の製品・サービスは買えるお金が減って値下がりし、全体では物価に変化はないはずだ。
日銀が本気で物価高を止めたければ、コストプッシュがどうのこうのと言い訳をせず、通貨の供給量を減らせばいい。つまり、金融緩和をやめればいいだけの話だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿