朝日新聞デジタルは6月30日、「ウクライナ軍、ほぼ全戦線で主導権を握ったか 米シンクタンク分析」と題する記事を掲載した。「米シンクタンク『戦争研究所』(ISW)は29日、ロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍が、ほぼ全戦線で主導権を握ったとの見方を示した」という書き出しで、記事のほぼすべてが米シンクタンク、戦争研究所の主張をそのまま紹介したものとなっている。
ウクライナ軍、ほぼ全戦線で主導権を握ったか 米シンクタンク分析https://t.co/7hcsnw8faj #ウクライナ情勢
— 朝日新聞国際報道部 (@asahi_kokusai) June 30, 2023
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は29日、ロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍が、ほぼ全戦線で主導権を握ったとの見方を示しました。
戦争研究所は朝日に限らず、ウクライナ戦争を報じる日本の大手メディアに毎日のように登場している。日本だけではない。本国の米メディアでの露出も当然多い。たとえばCNNテレビは7月6日、「ウクライナの反転攻勢が思惑通りに進まない理由」という記事で、「ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦争研究所(ISW)の分析によると、前線の戦略的要衝の一部では防衛線が何重にも敷かれ、ウクライナ軍は突破に大変難航しているという」と同研究所の見方を紹介する。
ウクライナ軍の優勢を伝えた朝日の記事からわずか1週間後、CNNでは一転して苦戦を伝える一貫性のなさはともかく、戦争研究所が引っ張りだこである様子はよくわかる。同研究所は、ウクライナを支援しロシアを敵視する西側政府に都合のよい「分析」をこまめに提供し、メディアに重宝がられてきた。
ところで、この戦争研究所、どのような組織か知ったうえで報道に接している人は、果たしてどれだけいるのだろうか。
まず、理事会メンバーを見てみよう。同研究所のホームページによると、以下のとおりだ。
- ジャック・キーン(元米陸軍大将)=会長
- キンバリー・ケーガン=創設者・所長
- ケリー・クラフト(元国連大使)
- ウィリアム・クリストル(評論家)
- ジョー・リーバーマン(元米上院議員)
- ケビン・マンディア(マンディアント社)
- ジャック・マッカーシー(A&Mキャピタルパートナーズ社)
- ブルース・モスラー(クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド社)
- デビッド・ペトレイアス(元米陸軍大将)
- ウォーレン・フィリップス(CACIインターナショナル社)
- ウィリアム・ロベルティ(元米陸軍大佐、アルバレス・アンド・マルサル社)
タカ派で知られたリーバーマン元議員、アフガニスタン駐留米軍司令官や米中央情報局(CIA)長官を務めたペトレイアス氏をはじめ政府・軍関係者のほか、企業関係者が多くを占めるが、シンクタンクの性格を象徴するのは、ケーガン所長、クリストル氏の2人だ。
ウィリアム・クリストル氏は、ネオコンを代表する知識人の1人である。ネオコンとは「新保守主義者」と訳され、軍事行動によって力ずくでも米国の価値観や民主主義を海外に広げようとする特異な思想を抱く。クリストル氏は1990年代半ば以降、雑誌「ウィークリー・スタンダード」を創刊し編集長を務めたほか、シンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクト」(PNAC)を設立し、2003年に始まったイラク戦争を強く後押しした。
一方、キンバリー・ケーガン(旧姓ケスラー)氏は歴史学者出身。エール大学の学生時代、夫フレデリック・ケーガン氏(アメリカン・エンタープライズ研究所=AEI=上席フェロー)と知り合った。フレデリック氏の兄は、ウィリアム・クリストル氏と並ぶネオコン論客ロバート・ケーガン氏(ブルッキングス研究所上席フェロー)であり、ロバート氏の妻は対ロシア強硬策を主張するビクトリア・ヌーランド米国務次官だから、キンバリー氏は言論界と政界にまたがる「ネオコン・ファミリー」の一員ということになる。
次に、戦争研究所の出資者を見てみる。現在の出資者にはゼネラル・ダイナミクス(軍事用重機)やゼネラル・モーターズ(子会社で軍用車を製造)が名を連ねるほか、過去にもレイセオン・テクノロジーズ(ミサイル)、ノースロップ・グラマン(戦闘機、軍艦)、パランティア・テクノロジーズ(データ解析で敵の位置情報を把握)といった軍需産業が出資していた。
戦争が長引くほど儲かる軍需産業に出資を仰ぎ、好戦的なネオコン知識人によって運営されるシンクタンクが、戦争をあおらない客観的な分析をするとは考えにくい。ところがメディアはそうした戦争研究所の実態について一言も語らず、その主張を垂れ流す。まともとは思えない。
0 件のコメント:
コメントを投稿