軍需産業の出資を受けていないシンクタンクでも、戦争は影を落とす。
4月下旬、ウクライナ戦争をめぐる論戦をウォッチしているリバタリアン(自由主義者)にとって、ショッキングな「事件」があった。米シンクタンク、ケイトー研究所のテッド・ガレン・カーペンター主任研究員の辞職である。
“From Beijing’s perspective, the idea of Russia being eliminated as another player in the international system would give the U.S. an overwhelming edge that would be threatening to China.”
— The American Conservative (@amconmag) March 9, 2023
Ted Galen Carpenter: pic.twitter.com/rmRVIhkkRg
カーペンター氏といえばケイトー研究所で長年、外交問題の専門家として論陣を張ってきた人物だ。米国の海外軍事介入に対する厳しい批判で知られ、今回のウクライナ戦争でも、バイデン政権に戦争への関与をやめるよう求めるとともに、支援を受けるウクライナのゼレンスキー政権についても「偽りの民主主義」だと公然と批判してきた。
今回の辞任について、カーペンター氏から公式の説明はないようだが、ネット上には、同氏のものとされる「37年間を経て、ケイトー研究所における研究者としての私の役割は終わりを迎えた。ウクライナ政府やそれに対する米国の支援を批判することが、キャリアにとって致命的となる可能性があるという厳しい現実を知った」というコメントが出回っている。
少なくとも、ケイトー研究所の上層部とカーペンター氏の間に主張をめぐる対立があったことは、想像に難くない。同研究所は1974年、リバタリアン思想家で反戦平和を強く説いた故マレー・ロスバード氏らによって設立されたが、近年は反戦に距離を置く。今でもリバタリアンのシンクタンクという色彩は強いものの、こと外交政策に関しては、ベテランであるカーペンター氏、ダグ・バンドウ氏の2人を除いては、戦争を推進する政府側の立場に近づいていた。
20年前のイラク戦争時には、戦争に反対したチャールズ・ペナ、アイバン・エランド両研究員が辞職している。戦争支持派である幹部のトム・パーマー、ブリンク・リンゼイ両氏との対立の結果だとみられている(リンゼイ氏は現在ニスカネン・センターに移籍)。
トム・パーマー氏は、自由主義について優れた著作はあるものの、昨年、日本人中心のオンライン会議で同氏のウクライナ戦争に関する講演を聴いたところ、ウクライナ政府と米国の軍事支援を納得のいく根拠もなしに支持しており、あきれた記憶がある。あれがリバタリアン本来の見解だと誤解されたら、天国のロスバード氏はさぞ無念だろう。
幸いカーペンター氏はケイトー研を辞職後、ロスバード氏の流れをくむ反戦派シンクタンクであるランドルフ・ボーン研究所(アンチウォー・ドット・コムの運営団体)、リバタリアン研究所それぞれの主任研究員になり、変わらず健筆を振るっている。
戦争は政治の延長だというクラウゼヴィッツの指摘を人々が忘れ、一切の妥協を許さず、平和よりも勝利を求める熱狂が世論を支配する昨今、それに反する主張を行うのは、カーペンター氏が職を失ったように、様々な困難が伴う。しかしこんなときだからこそ、戦争という最大の自由侵害に勇気あるノーを突きつける、反戦派リバタリアン・シンクタンクの活躍に期待したい。
0 件のコメント:
コメントを投稿