2022-10-21

インフレ税で人々を貧しくする政府

アナリスト、アンドレ・マルケス
(2022年8月15日)

供給ショック(財・サービスの供給を変化させ、その価格を変化させるような突発的な出来事)は経済の一部の価格を上昇させるが、財やサービスの価格全体を上昇させるわけではない。ある財の供給ショック(価格が上がる)があっても、通貨供給量が変わらなければ、経済における様々な財やサービスの需要と供給の新しい均衡が生まれる(通貨供給量は同じで、個人は予算配分を変えなければならないので、需要が少なくなる財の価格は下がる)。

これらの財の供給ショックが終われば、供給が増え、価格が下がる(再び需給均衡が変化する)。国のすべての(あるいはほとんどすべての)価格を同時に上昇させることができるのは、流通するお金が増えた場合だけである。お金の価値が下がり、財やサービスの支払いに必要な通貨単位が増えるからだ。

インフレーション(訳注・通貨供給量の増大。インフレの本来の意味)とそれに伴う物価の上昇は、偽装された税である。米政府は支出を増やし、財政赤字を増やした。そこで国債を増発し、そのほとんどがマネタリーベース(M0)の増加を通じ、連邦準備理事会(FRB)に買い取られた。そして政府は新しく作られたお金を使い、国に流通するお金の量(M1、M2)を増やした。これは物価を上昇させる傾向がある。

なお、政府は支出を増やす際、同じ規模の増税をしなかった。それでも政府支出増加のコストは、国民が支払う(政府が与えるものはどれも無料ではない。所得が低く、税金で最も苦しむ貧困層であってもだ)。税金によってではなく、通貨量の増大のために起こった物価上昇によってである。

また、政府の借り入れはそれ自体ではインフレを招かないことも覚えておこう。国債がすべて市場(投資家や金融機関)に吸収されるなら、中央銀行による新たなお金の創出はないからだ。

しかしこの場合でも、政府が借金をすると、生産的な投資(経済の生産性を上げ、物価を下げることができる)に使われるはずの資源を流用してしまうので、経済はダメージを受ける。さらに、政府が負債を抱えることは、利子コストを意味する。その利子(負債が大きくなるほど増加する傾向がある)を支払うために、政府はしばしば増税やさらなる借金をする。金利コストは、政府が経済から収奪する資源を増やすことになる。

物価上昇はすべての人、特に(資産の少ない)貧しい人々や中流階級を苦しめる。物価上昇のせいで、個人は予算削減を余儀なくされ、商品やサービスの購入量が減る。生活水準は下がる。せいぜい、以前より貯金を減らして予算を減らさないのが精一杯だ。

また物価上昇により、貧困層や下流中産階級は、より大きな影響を受ける。なぜなら、(所得に予算削減をしないだけの余裕がある)富裕層や上流中産階級が貯蓄や投資を減らすことになるからだ(もちろん彼ら自身はこの変化をほとんど感じていないが、国全体でみれば貯蓄や投資が大きく削減される)。経済への投資が減れば、生産性は上がらず(あるいは下がり)、中長期では物価が上昇しがちになる。

しかし富裕層や上流中産階級であっても、インフレーションによる物価上昇の影響を強く受けることがある。たとえば、小売業を想像してみよう。物価が上昇すれば、個人(とくに大多数を占める貧困層や中流以下の層)は特定の商品を買わなくなる(何しろ、そうしない余裕があるほど所得が高くないのだ)。

したがって、もし値上げをしても、インフレによって生産者や小売業者のコストが上がることも考慮すると、企業の利益は減少する(あるいは赤字になる)。数カ月前、米ディスカウントストア大手ターゲットが減益になったのもこのためである。大規模小売企業のオーナーや商品を生産する企業は利益が減り(あるいは損失が生じ)、これら企業の株式を購入する投資家や金融機関も損失を被る(株式の価値が下がり、企業は配当を減らすか無配にする傾向にあるため)。

したがって、政府が引き起こしたインフレによって、誰もが損をすることになる。しかし、最も被害を受けるのは貧困層と中流以下の人々である。

政府はいつも、貧しい人々や中流階級を助けると主張する。しかし政府のコスト(税金、負債、規制、インフレ)のほとんどを負担しているのは、まさにこの人たちなのである。結局のところ、中流階級以上の富裕層は、弁護士や会計士、税理士を頼り、税金を少なくするために資産を配分することができる(すべて合法的に)。

富裕層が節税するのは良いことだ(そうでなければ、経済への投資はさらに減り、物価はさらに上昇することになる)。金を大量に購入したり、インフレの程度の小さい通貨で値付けされた資産に投資したり、その他の資産防衛策に頼ったりすることもあるだろう。

最貧困層は実際には、政府にお金を払っている。貧しい人々や中流以下の人々が豊かになれないのは、ほとんどの場合、まさに政府のせいなのだ。貧困を永続させるのは政府である。貧困層を助けるふりをして、自分の存在を正当化している。結局のところ、政府によって生み出された通貨のインフレーションがなければ、経済の生産性が上がるにつれて物価は下がる傾向にあるから、生活水準は上がるだろう。

(次より抄訳)
Inflation Makes People Poorer (And It's the Government's Fault) | Mises Wire [LINK]

0 件のコメント: