経済学者、ジョセフ・サレルノ
(2021年8月21日)
戦争のコストは膨大である。インフレ(通貨供給量の膨張)は、政府が国民からこのコストを隠そうとする手段である。戦争は兵士の生命と身体を破壊するだけでなく、交戦国の蓄積された資本ストックをじわじわと消費することによって、結局は民間人の生命を縮め、粗末にする。
The costs of war are enormous, and inflation is a means by which governments attempt, more or less successfully, to hide these costs from their citizens. | Joseph T. Salernohttps://t.co/V3pIfROfub
— Mises Institute (@mises) August 23, 2021
戦争によって生産的な富が甚だしく破壊される事実は、もし開戦の際、政府に増税以外の手段がなければ、たちまち明らかになる。政府は貨幣供給を自由に膨張させる能力によって、物価、利益、賃金の上昇、金利の安定、株式相場の好況というベールの下に、その破壊を隠すことができるのだ。
国民は、貨幣供給量の膨張が物価全般の上昇として現れた後でも、物価高の原因は必要資材の一時的な不足のせいだとか、悪徳な戦争成金や転売屋の策略だと誤解する可能性がある。しかし軍産複合体と無関係な労働者や投資家が、通貨価値の下落が戦争経済につねにつきまとう特徴だと認識し、実質賃金の侵食と利益の幻想をはっきりと痛感するのは、時間の問題にすぎない。
政府は、戦争費用を正しく計算する日をさらに先延ばしにするために、価格統制を実施する。価格統制によって生じるのが避けられない、品物や労働力の不足と非効率の結果、政府は生産、流通、労働に対する統制を必死に導入して急拡大し、市場経済とその資本構造はほとんど残らないまでになる。この過程の最終結果は、生産資源がまだ名目上、私的に所有されているにもかかわらず、国家が事実上すべての重要な生産決定を行う権限を奪い取った経済である。すべてを覆う戦争経済は結局、ファシズム経済にたどり着かざるをえない。
米ジャーナリスト、ジョン・フリンは「悪いファシズムとは、戦争で我々の敵になるファシズム政権である。良いファシズム政権とは、我々の味方である」と書いている。しかし、すべての戦争経済は、結局はファシズム経済であり、そうなる運命にある。
インフレは、戦争に伴う膨大なコスト、とりわけ国家が生産的富をしだいに破壊する事実を、政府が国民に隠そうとする手順の重要な第一段階である。インフレは、戦争動員によって引き起こされた資本減少の危機を覆い隠すために欠かせない。さもなければ、資本の破壊は貨幣計算によってすぐに明らかにされる。インフレが現実の経済にベールをかけていなければ、戦争がもたらすとされる栄光に対する国民の熱狂は、金利高騰、株式・債券相場の急落、企業倒産、取り付け騒ぎの蔓延によって、急激に損なわれるだろう。財産没収に等しい内容と税率の税が課されることになるのは、言うまでもない。
通貨供給量の膨張が戦争の実質コストを覆い隠す手段になるという事実は、価値中立な経済理論からの推論であり、戦争は通貨膨張以外の財政手段で賄われるべきだという価値判断を論理的に含意するものではない。戦争資金をどのように調達すべきか、また、戦争を行うべきかどうかは、政治倫理理論に照らしてのみ解決されうる問題である。もちろん、そうした理論が広義の「帰結主義」(行為を道徳的に判断する際に、その行為から生じる結果を考慮に入れる立場)であり、政府の諸政策の結果に関する経済学および他の関連科学の明確な結論を、その定式化において考慮に入れることを否定しているのではない。
実際、オーストリア学派経済理論によれば、「公共財」の概念そのものが成り立たず、国防は他の望ましい財と同じく、市場経済によって最も効率的に供給することができるし、供給される。ここから導かれるのは、地域の犯罪者や外国の侵略者に対する身体・財産の防衛は自由な市場経済に任せるべきだという、政治倫理論の構築である。
(次より抄訳)
War and the Money Machine: Concealing the Costs of War beneath the Veil of Inflation | Mises Institute [LINK]
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