戦略コンサルタント、オスカー・シルバ・バラダレス
(2022年10月5日)
先日行われたウクライナ四地域のロシア加盟式典で、プーチン大統領は、現在のロシアの苦闘の理由、敵の性格と正体、さらに重要なこととして、ウクライナで進行中の軍事衝突を超えてロシアが西洋と対峙する、次の段階への土台を築く演説を行った。 プーチンは演説の中で現在の戦いを、ロシアが中心となりディープステート(闇の政府)に立ち向かう世界規模の戦いだとはっきり定義した。ディープステートは西側を牛耳る究極の存在で、軍事、経済、文化、社会などあらゆる手段を用いて世界一極支配を維持しようとしているという。
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— Ron Paul Institute (@RonPaulInstitut) October 5, 2022
プーチンの言葉は、西側諸国、グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)、ロシアという三地域の聴衆に向けられた。プーチンは中世の歴史に立ち返り、帝国主義戦争、人種差別、奴隷制を通じた米州、アジア、アフリカにおける西洋の資源開発、植民地主義の起源と影響を思い起こさせた。 また、20世紀における米国とその同盟国による軍事行動、第二次世界大戦末期のドイツと日本、1950年代の韓国、1960〜70年代のベトナム、最近のイラク、リビア、シリア、アフガニスタンにおける冒険の失敗について触れた。さらに、1990年代のロシアの悲惨な日々や、ロシアをまとまりがなく無抵抗で、天然資源を安く貢がせるカモにしようとする欧米列強の試みも取り上げた。ロシア人へのメッセージは、民族主義的、宗教的な色彩が強く、人口減少の脅威に対する呼びかけとして、伝統的家族観の擁護に触れた。また、西側諸国が自己保存と覇権の目標を達成するために使用している重要な手段の一つとして、米国の通貨印刷を挙げ、紙は人間を養うことも暖めることもできないと念を押した。
この演説は、地政学的な大戦におけるロシアの立場を示すものと狭くとらえがちだが、プーチンが行ったのは、国際的な対立を歴史的、文化的に深く位置づけたことであり、世界中に間違いなく訴える。批判する側からすれば、プーチンがロシアを悪意のない存在に描いたのは、第二次世界大戦後、ソ連の司令塔を通じて東欧諸国を服従させた役割を隠す皮肉な策略に見えるだろうが、それでも南側諸国は違った見方をしているはずだ。
プーチンの西側に対する痛烈な攻撃は、複数の武器を組み込んである。まず、伝統的な家族観、結婚観、性愛観に反するグローバリズムにうろたえる、保守層を取り込む。また左派の色彩を帯び、富の格差を悪化させる同じグローバリズムに反対する。さらにリバタリアン(自由主義者)への訴えもあり、西側の生んだ全体主義の例として、緊急事態の強制、メディア統制、他国への制裁発動に言及する。プーチンのおもな標的は米英を中心とするアングロサクソンの体制であり、西側諸国にくさびを打ち込むため、ハンガリーやイタリアなどで共感を得ている主権に焦点を当て、ドレスデン、ハンブルク、ケルン、広島、長崎での第二次世界大戦の爆撃の恐怖を思い起こさせることで、ドイツと日本の伝統的な反戦感情に訴えている。
プーチンの激しい言葉遣いによって、米国はただちに南側諸国に対し、反ロシア制裁に従うよう圧力を強めるだろう。この脅威にうまく対抗するには、ロシアは南側諸国からの支持を失わないためにも、思想を実用的な支援と組み合わせなければならないだろう。貧しい国が重要なエネルギーと食糧資源を利用できるようにしてやるのだ。先日、ウクライナの住民投票を非難する国連安保理決議で中国、インド、ブラジルが棄権したのは間違いなく、これら諸国がロシアの今後の行動に期待したからだ。
冷戦の終結とソ連の崩壊後、社会主義を放棄したロシアは、数十年にわたり南側諸国や西欧の反体制陣営で発揮してきた強力な思想の訴求力を失っている。 今回のプーチンの演説で最も注目すべき点は、思想的な対立を前面に押し出したことである。この新たな戦いは、民主主義、自由、主権を擁護する西側諸国の姿勢が空虚な偽善だと示すもののようだ。反植民地主義と保守主義を組み合わせたメッセージは強力な手段だが、プーチンが遠回しかつ微妙に訴えた、人々の力こそがディープステートに最後に対抗する唯一の手段だという考えは、さらに強力である。プーチンがディープステートを人類の敵とみなしたことは、彼の究極の思想的遺産かもしれない。もし米国が自身をただの普通の国だと認め、自国民の繁栄だけを考えていたら、こんなことにはならなかっただろう。
(下記を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Vladimir Putin’s Battle Cry Against the Deep State [LINK]
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