「マッチポンプ」とは、マッチをすってつけた火を自分で消火ポンプで消すという意味で、そこから「自分で起こしたもめごとを鎮めてやると関係者にもちかけて報酬を得ること」(大辞林)を指します。中央銀行が不動産市場の過熱を冷ますために利上げに踏み切ったり、注意を呼びかけたりする姿は、まさしくこの言葉にぴったりです。
世界の不動産市場にファンドマネーの流入が加速し、不動産価格が高騰しています。この状況を欧米主要国の中央銀行は警戒しています。しかしそもそも、不動産市場に流れ込む大量のマネーを生み出したのは誰でしょうか。
もちろん、中央銀行自身です。2008年の金融危機から9年間も、世界的な低金利が続いてきました。それは各国中央銀行の政策によるものです。金融危機が去った後も、低金利に加え、量的緩和政策まで繰り出し、マネーを際限なくあふれさせました。
記事にあるように、カナダ銀行(中央銀行)は今月、住宅市場を冷ますために7年ぶりの利上げに踏み切りました。英断のように見えますが、むしろ遅きに失したというべきでしょう。昨年9月、UBSが発表した「住宅バブル崩壊リスクが高い世界の主要都市指数」で、首位はカナダのバンクーバーでした。しかも今回の利上げも0.5%から0.75%に引き上げたにすぎません。
「巨匠(マエストロ)」と呼ばれたアラン・グリーンスパン氏は米連邦準備理事会(FRB)議長の座にあった1990年代半ば、低金利政策を続け、これが自国通貨を米ドルにペッグ(連動)させる東南アジア諸国への急激な資本流入と、その反動による1997年のアジア通貨危機につながったといわれます。この途中で、グリーンスパン氏は一度だけ、インフレ圧力に対処するとして0.25%の小幅な利上げを実施しました。
これについて、三菱UFJインターナショナルのエコノミスト、ブレンダン・ブラウン氏は「放火犯人が熟練の消防夫に転じた」と皮肉り、こう続けます。「火事をもたらした最初の責任は忘れて、本格的な火事になるのを阻止するために巨匠が救援にくるという概念は、FED(=FRB)そのものと同じくらい古い」(田村勝省訳『FRBの呪いと第二次マネタリスト革命』、一灯舎)
中央銀行が本気で不動産バブルを鎮めたいのなら、申し訳程度の利上げでお茶を濁すべきではないでしょう。それさえできない、どこかの中銀は論外ですが……。(2017/07/22)
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