2018-07-24

もう一つの憲法問題

憲法というと、戦争放棄を定めた9条ばかりが注目されますが、もっと国民が関心を持っていい条項があります。9条のように話題にならない、地味な条項ですが、それだけに問題は深刻といえます。それは84条です。

日本国憲法第84条は次のような短い条文です。「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」。ここに定められた原則を租税法律主義といいます。

租税法律主義は、世界最初の憲法といわれる英国のマグナ・カルタ(大憲章)やアメリカ独立革命当時のスローガン「代表なければ課税なし」、財政の民主的決定の原則を定めたフランス人権宣言などにさかのぼる、近代国家の最も重要な原則の一つです。

租税法律主義の目的は大きく二つあり、互いに密接に結びついています。一つは、税当局の恣意的な課税を阻止し、国民の自由と財産を保障すること。もう一つは、明確に定められた法律によって、納税者が自分の税負担を容易に予測できるようにすることです。

ところが今の日本では、少なくとも二番目の目的が事実上果たせなくなっています。課税のルールは「だれでもその内容を理解できるように、明確に定められなければならない」(野中俊彦他『憲法II』、有斐閣)のに、現実には記事にあるように、税のプロである税理士でさえ「すべての税法や細かいルールの完全把握は事実上不可能」な状態に陥っているのです。

国民は自分の税負担が一体いくらかわからなければ、税当局が恣意的な課税をした場合も、身を守れません。民主国家としてゆゆしい事態です。

税のルールがここまでわかりにくくなったのは、増税で税の種類が増え続けているうえ、政治的な都合で例外や「例外の例外」が次々に付け足されたり、税当局が都合よく解釈できるあいまいな表現が多用されたりするからです。

憲法84条を有名無実にしているこの状況に危機感を抱き、国会前でデモをする人はいません。しかしこのまま放置していれば、やがて政治は大きなノーを突きつけられるでしょう。租税法律主義の歴史が示すように、近代の市民革命が税に対する不信や怒りに発したことを忘れてはいけません。(2017/07/24

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