景気が悪く、失業が増えたときには、民間企業に代わって政府が穴を掘ってでも公共事業を増やし、雇用を増やせばよい--。これが経済学者ケインズの影響を受けた、今の経済学の考え方です。しかし公共事業は経済の働きをゆがめます。それは不況期でも変わりません。
記事によると、各地で花火大会の運営費が増加し、主催者を苦しめているそうです。人件費の上昇に加え、会場の設営に使う鉄パイプやフェンスの価格も上がっているためです。
資材の価格高騰もそうですが、人手不足や賃金上昇に火をつけたのは、アベノミクスの柱の一つである公共事業です。それは予想以上の効果を発揮したといっていいでしょう。しかし忘れてならないのは、賃金は労働者にとっては収入ですが、払う側にとってはコスト(人件費)だということです。
花火大会の例でいえば、賃金上昇は警備員など労働者にとってはうれしいことですが、主催者にとっては悩みの種です。もし資金不足で大会中止に追い込まれれば、花火を楽しみにしていた人たちは悲しむでしょう。それは社会にとって良いことでしょうか。
一部の自治体では、ふるさと納税による寄付金を花火大会に活用するそうです。ああよかったねと喜ぶわけにはいきません。もし花火大会のコストが膨らまなければ、そのお金は他の用途に使えたのですから。
政府が関与しない民間事業であれば、賃金高騰には一定の歯止めがかかります。採算を無視することはできないからです。ところが政府はとにかく予算を消化しないといけないので、高い賃金でも人を雇います。これが賃金を過度に押し上げます。
もし失業者のあふれた不況期ならどうでしょう。どうせ遊んでいる労働力だから、政府が雇っても民間から人材を奪うことにはならない、というのがケインズを始祖とするマクロ経済学の考えです。残念ながら、それは正しくありません。
マクロ経済学の落とし穴は、物事をあまりにも単純化しすぎることです。国全体で人手が余っていたとしても、あらゆる産業分野でそうだとは限りません。人手不足の分野はつねに存在します。公共事業がそうした分野の人材だけを器用に採用しないことは事実上不可能ですから、不況期であっても、民間から人材を直接・間接に奪うことに変わりはありません。
政治家に公共事業大盤振る舞いの口実を与えてきた20世紀の遺物、ケインズ経済学。財政破綻の足音が近づいてきた今、そろそろ別れを告げるべきでしょう。(2017/07/30)
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