社会保険制度には「保険」という言葉が使われています。しかし政府が運営する社会保険は、本来の意味では「保険」ではありません。保険はもともと民間で発達したもので、経済合理性にかなった原則に基づいています。ところが民間保険をまねて作られた社会保険は、その原則を無視しています。これが先進国の多くで社会保険が機能せず、行き詰まっている理由です。
記事によれば、米国のオバマケア(医療保険制度改革法)が消滅の危機に瀕しています。収支悪化で民間医療保険会社の撤退が相次いでいるためです。全米で無保険者が急増する恐れがあるといいます。
日本を含め、民間の保険会社が販売する医療保険は、持病や既往症を持つ人は加入できなかったり、健康な人より高い保険料を支払ったりするのが原則です。病気が悪化・再発する恐れのある人と、健康な人が同じ保険料で加入できるのは不公平だからです。これを「保険技術的公平の原則」といいます。
ところがオバマケアでは、既往症による保険加入の拒否や、保険料の引き上げを禁止しました。その結果、健康状態の悪い保険加入者が増え、保険金支払いが急増。医療保険会社の収支は悪化し、オバマケア撤退が相次いでいるのです。
日本は国民皆保険制度の下、公的医療保険への加入が義務づけられているため、米国と違い、無保険者の増加という形で問題が表面化してはいません。しかし経済合理性を考慮しない本質は同じです。事実、健康な人も高い保険料を取られることに不満が強まっています。政府が運営する社会保険という20世紀型のスキームそのものが問われています。(2017/07/05)
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