最近流行の現代貨幣理論(MMT)によれば、お金が物々交換から生まれたという通説には歴史上、証拠がないという。しかし、わざわざ遠い昔のことを調べなくても、物々交換からお金が生まれる実例は、現代にある。
ネットフリックスの短編ドキュメンタリー映画『物ブツ交換』(2018)で描かれるのは、ジャガイモがお金の役目を果たす社会だ。東欧ジョージアで、一人の商人がミニバスに古着や中古の日用品、玩具などを積み、田舎の村に売りに行く。
到着すると、村人たちがミニバスに寄って来て、商品を物色する。中年の女性がスカーフを手に取り、「いくら?」と尋ねると、商人は「ジャガイモ5キロと交換だ」。国の通貨ラリでも払えるが、村人の多くはジャガイモを袋に入れて持って来る。商品とジャガイモの物々交換だが、ジャガイモは事実上、通貨の役目を果たしている。
ジャガイモは固くて潰れにくいし、収穫から一定の期間、保存することができる。また、それを過ぎると腐ってしまうから、お札と違って、政治家の都合で大量に発行されて価値がなくなる(インフレになる)心配もない。だから通貨になりやすい。
とはいえ重たいし、いちいち重量を測らなければならないのも不便だ。この村の貨幣経済が未発達であることは間違いない。それは貧しさの裏返しでもある。村の老人は訥々とこう語る。「子供の頃の夢は、教育を受けることだった。大学を卒業したかったが、かなわなかったよ。そんなチャンスは俺には巡ってこなかった」
ソ連崩壊から三十年。構成国の一つだったジョージアは社会主義から脱し、経済は発展しているが、生活水準は先進国にはまだ及ばず、地域によっても格差が大きいようだ。市場経済を通じて村の人々が早く豊かになり、信頼できる便利な通貨でショッピングや旅行を楽しみ、教育を受けられるようになってほしい。
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