バイデン米大統領が、連邦政府から清掃業務などを請け負う労働者の最低賃金を時給十五ドル(約千六百円)に引き上げる大統領令に署名した。目標とする全労働者の最低賃金引き上げの実現に向け、弾みをつけたい考えだという。
最低賃金の義務付けやその引き上げが労働者のためになると信じて、無邪気に支持する人は、日本でも文化人を含め、驚くほど多い。彼らに共通するのは、経済の仕組みに無知なことだ。
最低賃金引き上げの恩恵を受けるのは、あくまでも雇われた労働者だけだ。最低賃金が十五ドルなら、十ドル分の生産性しかない人はそもそも雇ってもらえない。もし雇えば、雇った会社からすれば一時間ごとに五ドルを失うことになるからだ。
米議会予算局(CBO)の試算によれば、最低賃金を全国的に十五ドルにすれば百四十万人の雇用が失われる。もちろん、それが一夜にして起こるわけではないものの、いずれはそうなる。失業するのは、生産性が最低賃金に達しない非熟練労働者だ。その多くは学歴の低い人や貧困層、若者だろう。
最低賃金法は一見、弱者の味方のようだが、実際には弱者を犠牲にする。経済学者ウォルター・ブロックは「最低賃金法は雇用法ではない。失業法だ。雇われない人を決める法律だ」と強調する。
ちなみに、欧州のアイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、オーストリア、ドイツ、イタリア、スイスには、政府の義務付ける最低賃金法は存在しない。日米の左翼に人気のある北欧の福祉国家も含まれるが、なぜか左翼はその賢明な判断だけは真似しようとしない。
最低賃金法は弱者に対するいじめに等しいのに、なぜ存在するのか。ブロックによれば、理由は二つある。一つは、有権者の多くが経済に無知なこと。もう一つは、犠牲の陰で利益を得る人々がいることだ。とくに労働組合である。
労組にとって、組合に属さず、安い賃金で働く非熟練労働者は、目障りな競争相手だ。非熟練労働者を労働市場から排除する手段として、安い賃金での労働を禁じる最低賃金法は都合がいい。
バイデン大統領は最低賃金の引き上げと同時に、労組の支援策を検討する特命組織も政府内に立ち上げた。近年加入者数の減少が著しい、民主党の票田である労組をテコ入れしたい思惑が露骨だ。最低賃金上げと同時だったのは、偶然であるはずがない。これでも無邪気な人々は、最低賃金を支持し続けるのだろうか。
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