旧ソビエトのベラルーシが旅客機を強制着陸させ、反体制派のジャーナリスト、ロマン・プロタセビッチを拘束したとして、欧米諸国から「国家によるハイジャック」(フォンデアライエン欧州委員長)と非難を浴びている。
ベラルーシは、ギリシャからリトアニアへ向かっていたアイルランドのライアンエア機に対し「爆弾が仕掛けられたとの情報がある」として緊急着陸させたが、爆弾は見つからなかった。着陸後、プロタセビッチの身柄を拘束した。
日本を含む主要七カ国(G7)の外相らは、ベラルーシ当局を「最も強い言葉で非難する」との共同声明を発表。「メディアの自由への深刻な攻撃だ」と指摘し、ベラルーシで拘束されている「全ての他のジャーナリストや政治犯の即時かつ無条件の解放」を求めた。
ベラルーシのルカシェンコ政権は、ジャーナリストの拘束を目的に着陸を強いたとの見方を否定している。しかし、かりに事実としても、欧米諸国にそれを居丈高に非難する資格があるとは思えない。八年前、欧米自身がほとんど同じことをしているからだ。
2013年7月、南米ボリビアのモラレス大統領(当時)を乗せてロシアを発った大統領専用機が、オーストリアのウィーンに予定外の着陸を余儀なくされた。米政府の情報収集活動を暴露したとして訴追されたエドワード・スノーデンが同乗している可能性があるとして、フランスとポルトガルが領空の飛行許可を取り消したためだ。スノーデンは乗っていなかった。
ジャーナリスト、グレン・グリーンウォルドは、ボリビア大統領の一件に触れながら、欧米メディアのベラルーシ報道を批判する。「ジャーナリスト、とくに欧米のジャーナリストは、今回の事件がロシアの同盟国の独裁者にしかできない、前例のない暴挙だという報道をするべきではない。この戦術を始めたのは、今回の出来事を最も声高に非難している諸国なのだ」
八年前に強制着陸の標的となりかけたスノーデンは、グリーンウォルドの記事をツイッターで紹介し、こうコメントした。「反体制派を逮捕するために航空機に緊急着陸を強制するなど言語道断。これはブッシュ時代の超法規的引き渡し(国家機関による国際的な拉致)の現代版であり、どのような国旗の下で行われようと、反対すべきだ」
超法規的引き渡しとは、米中央情報局(CIA)がブッシュ(子)政権下の2001〜2005年にかけて、世界中で約百五十人ものジャーナリストや人権運動家を誘拐し、拷問したことを指す。
米国のジェン・サキ大統領報道官は声明で、ベラルーシに対し「国際規範への直接的な侮辱だ」「ルカシェンコ政権の基本的自由に対する攻撃に対抗する」と強調した。
ところで、どういう巡り合わせか、サキはボリビア大統領の強制着陸時、オバマ政権下で国務省報道官を務めていた。
当時の記者会見でサキは、米政府が強制着陸に何らかの役割を果たしたのかとの質問に言を左右にしながら、スノーデンの搭乗に関し他国と連絡は取っていたと認めた。サキはこう発言している。「繰り返しますが、彼(スノーデン)は機密情報の漏洩で訴追されていたのです」
ロシアと親しいベラルーシが反体制派を拘束するための強制着陸は許しがたい暴挙だが、米政府の国民監視を暴いた反体制派をとらえるための強制着陸は問題なし。欧米諸国や主流メディアの政治的な基準によれば、ハイジャックには良いものと悪いものがあり、言論の自由にも良いものと悪いものがあるらしい。
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