2021-05-14

福祉国家を支える恐怖


前回も取り上げた米エコノミストのロバート・ヒッグスは、国家権力拡大の原因や結果、影響に詳しい。彼は別の記事で、「恐怖はあらゆる政府権力の基礎である」と指摘し、その事実が国家の成立以前にさかのぼる、根深いものであることを明らかにする。

ヒッグスによれば、あらゆる動物は恐怖を感じるが、人間はおそらく最も敏感だ。恐怖は、幸福や生命に危険が迫っていると警告する役割を果たす。人間は恐怖に敏感だから自然淘汰を生き残り、繁栄してきたといえる。

しかし国家は人間のこの本性を利用する。

数千年前、国家は戦争と征服によって成立した。暴力で人々を恐れさせ、税を力尽くで取り立てる。人々の抵抗に遭い、暴力だけで税を取り立てるのはコストがかかりすぎると悟ると、宗教の力を利用した。人々が来世を信じれば、宗教は人々を恐れさせ、現世での行いを命じる力を持つからだ。やがて宗教の役割は、ナショナリズムと民主主義思想に置き換わる。

現代の福祉国家の下では、政府は人々を脅威から守らなければならないし、守ることができるという考えが広まる。貧困、飢え、障害、失業、病気、老い、水質汚染、食中毒、人種・性別・出自・信仰による差別など、人々が恐れるほとんどあらゆることを、政府は防がなければならないという。

このように、福祉国家はその存在理由を恐怖の上に築いている。政府は昔から「安全保障」と称し、暴力に対する恐怖を支配に利用してきた。「社会保障」と称して新しい恐怖を利用するのは、たやすいことだ。ヒッグスは以上のように説明する。

ヒッグスのこの文章もコロナ以前に書かれたものだが、コロナを利用し、権限拡大を目指す現在の各国政府の狂奔ぶりをみごとに予言している。

日本政府はコロナを口実に、憲法に私権を制限する緊急事態条項を明記しようとしている。政府が演出するコロナ禍という偽りの恐怖ではなく、国家権力の暴走という真の恐怖を正しく恐れなければならない。

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