資本主義と地球環境の保護は両立できない、という主張が勢いを増している。
マルクス経済学を専門とする大阪市立大准教授の斎藤幸平によれば、資本主義は自然を徹底的に利用して利潤を追求するため、たとえ回復不可能なほど環境が破壊されても、自らブレーキを踏むことはない。「大量生産、大量消費の資本主義に緊急ブレーキをかけて、限りある資源を公正にシェアしていくシステムに移行しなければならない」という。
けれども資本主義が物を大量に消費し、環境を破壊するという主張は、現実に反する。
資本主義の総本山である米国の経済では、意外なことに、「脱物質化」が進んでいる。生産物一単位あたりに使われるものが減っているだけでなく、使われるもの全体が減っているのだ。
人口は増え、生産される物とサービスは大幅に増えたにもかかわらず、2015年の米国の鉄鋼消費量はピーク時より15%減少、アルミニウムは32%減少、銅は40%減少した。農家が使用する肥料は25%、水は22%減っているが、肥料の標的法と灌漑が向上したおかげで、食料生産量は増えている。エネルギーシステムでキロワット時間あたりに生成される二酸化炭素などの排出物は減っている。2008年からの十年で、米国経済は15%成長したが、エネルギー消費量は2%減少した。
米国経済が生み出す製品が減っているからではない。むしろ増えている。たしかにリサイクルは行われているが、それが増えているからでもない。ジャーナリストのマット・リドレーによれば、「イノベーションによって生み出された倹約と効率のおかげだ」。
リドレーはこの事実を踏まえ、「より多くの資源を使わなければ成長は不可能だと言う人たちは、単純にまちがっている」と断じる(『人類とイノベーション』)。
イノベーションのおかげで物の消費が減った例は、私たちの身近にもある。スマートフォンだ。CNBCの記事が伝えるように、スマホが普及したおかげで、いらなくなった物がたくさんある。音楽プレーヤー、電子計算機、クレジットカード、付箋、紙の本、カレンダー、地図、カメラ、目覚まし時計などだ。
必要最小限の物だけで暮らす、最近流行のミニマリストにとっても、スマホは数少ない必需品の一つだ。イノベーションが、物にこだわらない生き方を可能にする。
そのイノベーションを可能にするのは、自由な市場経済、つまり資本主義だ。地球環境を守るのは、市場経済とイノベーションを否定する社会主義ではなく、資本主義である。
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