2020-08-19

経済成長を阻害する温暖化対策のほうこそ人類を殺す…グレタさんの主張の大きな間違い

米ニューヨークの国連本部で9月、地球温暖化対策を強化するため気候行動サミットが開かれた。日本の小泉進次郎環境相は記者会見での「セクシー」発言が話題になったが、演説の機会はなし。なんといっても注目を集めたのは、若者世代の代表として招かれた、スウェーデンの高校生で環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんである。

16歳のグレタさんは各国の代表を前に、主要国が十分な温暖化対策を取っていないと怒りに満ちた声で非難。温暖化対策に本気で取り組まなければ、「あなたたちを許さない」と大人たちを叱責した。彼女の訴えに対し、大手メディアは「若者たちの怒りを重く受け止めねばならない」(朝日新聞)、「大人には、若者の申し立てに応える責任がある」(毎日新聞)などと好意的に取り上げた。


けれども、グレタさんの言い分には、大きく2つの問題点がある。いや、これはグレタさんに限らず、国連や各国政府を含め、温暖化は危機だと警告する論者のほぼすべてに当てはまる。気候変動について冷静に考えるには、これらの問題点を無視できない。

最初の問題点は、温暖化そのものについてである。国連などの公式見解は「地球温暖化が起きている。このままだと地球の生態系は破壊され、災害が増大して人間生活は大きな悪影響を受ける。温暖化の原因は、化石燃料を燃やすことで発生する二酸化炭素(CO2)であり、これを大幅に削減することが必要」というものだ。これは本当に正しいのか。

温暖化は起きてはいるものの、この100年の温度上昇のペースは、せいぜい1.5度程度。これは過去に自然変動で起きたものと大差なく、生態系や人間生活に大きな悪影響を及ぼすとは考えにくい。実際、過去100年に起きた温暖化ではなんの被害もなく、人類は空前の繁栄を享受している。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹で、エネルギー・地球温暖化問題を専門とする杉山大志氏のコラムによれば、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候のシミュレーションは「一連の過去の変化を全然再現できておらず、地球の気候の複雑さを表現できていない」。IPCC自身、科学的不確実性は大きいと認めている。したがって将来の予言も不確かだという。

温暖化の原因についても、経済活動で人為的に排出されたCO2だけでなく、それ以外の要因も大きく、実はよくわかっていない。人為的CO2による温暖化が起きたとされるのは1950年以降だが、それ以前にも地球は結構な速さで温暖化していた。海洋の内部変動や、太陽磁場の変動が大きな因子かもしれないという。

ここまでの話だけでも、国連やグレタさんら環境活動家の主張に疑問符が付くには十分だろう。


CO2を削減するコスト


しかし、さらに重大なのは次の問題点である。それはCO2を削減する政策のコストだ。

グレタさんは、10年間で温室効果ガスの排出量を半減するというよくある考え方では気温上昇を1.5度以内に抑えられる可能性が50%しかなく、人類が制御できない不可逆的な連鎖反応を引き起こす恐れがあると主張。さらに踏み込んだ対策を求めた。けれどもこれだけでは、そうした対策を採るべきかどうかは判断できない。なぜなら、どんな政策にもコストが付きものだからだ。

考えなければならないのは、かりに彼女の提案する政策を実行した場合、コストを上回るメリットがあるかどうかである。ここで言うコストとは、単なる金銭的費用だけではない。政策を実施した結果、失われる利便や恩恵を含む。経済学で言う「機会費用」だ。

グレタさんは、大人たちが話すのは「お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり」と非難した。けれども、もし大規模な温暖化対策によって経済成長が妨げられ、その結果、世界で何億人もの人々が清潔な水や安全な住居を失うようなことになれば、それは「おとぎ話」ではなく、現実の悪夢である。きわめて大きなコストであるのはいうまでもない。

産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料で供給されてきた安価なエネルギーのメリットは明らかだ。「人々は苦しんでいます。人々は死んでいます」というグレタさんの演説とは裏腹に、世界で人の寿命は伸びているし、特に途上国では今後も大きな改善が見込まれている。乳幼児死亡率は低下が続いている。安い電力のおかげで洗濯機が普及し、中産階級の女性は洗濯から解放された。

もちろん人間の生活水準が向上した原因は経済成長だけではない。それでも経済成長が大きな要因であることは間違いない。もし厳しい温暖化対策で経済成長が阻害されれば、そのマイナスの影響は小さくない。とりわけ途上国の人々は深刻な打撃を被るだろう。

先進国の人々もコスト増から逃れられない。ただでさえ鈍い経済成長にブレーキがかかるだけでなく、税負担もある。日本政府は化石燃料の需要を抑制するため、「炭素税」の導入を検討中だ。

ところが環境活動家はこれらのコストに口を閉ざしたままだ。政策に伴う多大なコストが知れ渡れば、政治的な支持を得られなくなってしまう。フランスで燃料税の引き上げをきっかけに国民の怒りに火がつき、反政府の「黄色いベスト」運動が広がったことは記憶に新しい。

そこで環境活動家は冷静なメリットとコストの比較を避け、グレタさんのように「私たちは、大量絶滅の始まりにいるのです」と恐怖心を煽り、感情に訴える。政治的に巧妙な手法といえる。けれどもその結果、過剰な温暖化対策が実現し、経済の発展が阻まれれば、甚大なコストは世界の貧しい大人や子供に一番重くのしかかる。

グレタさんら12カ国の少年少女16人は、国連子どもの権利委員会に「気候危機は子どもたちの権利の危機だ」と訴え、救済を申し立てた。アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコの5カ国に対し、気候危機に関する法律や政策を見直し、最大限の努力をするよう要請している。

先進国であるドイツやフランスはまだしも、決して豊かとは言えないブラジルやトルコにまで厳しい温暖化対策を課し、その結果として経済成長を阻害するのは、あまりに過酷というものだろう。

グレタさんは国連での演説で、温暖化で環境が破壊されれば、「その結果と生きていかなくてはいけないのは私たちなのです」と述べた。しかし温暖化のリスクは、温暖化政策で経済が破壊されるリスクと冷静に比較しなければならない。温暖化は少なくともこれまで人類を殺しはしなかった。経済成長を否定する温暖化対策こそ、子供を含む世界の人々の命を危うくしかねない。

Business Journal 2019.10.14)

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