資本主義はカネだけか
資本主義に対する誤解の一つは、資本主義が与えるのはお金で買える物・サービスだけであり、人の信頼や感謝、幸せといったお金で買えないものとは無縁というものだ。本書もその誤解に陥っている。
著者は、資本主義の「すきま」を埋めるものとして、贈与に注目する。一例は、親しい人から誕生日にプレゼントされた腕時計だ。店で売られている腕時計は単なる商品にすぎない。ところが「贈り物」として手渡された瞬間、自分にとって唯一無二の存在となり、壊したり無くしたりすると、相手に申し訳ないと感じ、後悔する。
著者は言う。「僕らは、他者から贈与されることでしか、本当に大切なものを手にすることができないのです」
優れた贈与によって、温かい感情的なつながりが深まり、信頼や感謝の念が生まれるのは事実だ。けれども、それは贈与に限らない。
たとえば、プレゼントの腕時計を買った時計店が気に入れば、時計を選んでくれた店主を信頼し、次からもその店を訪れるようになるかもしれない。ときには何も買わず、美しく陳列された時計を眺めるだけかもしれない。そしてある日、店が外出自粛の影響で閉店したら、寂しさに包まれ、「もっと買ってあげればよかった」と後悔するだろう。
小さな時計店に限らない。大会社が製造・運営するゲーム、書籍、映画、テーマパーク、レストラン等々にも人は愛着を感じ、携わる人々に感謝する。プレゼントではなく、自分のためにお金を出して買った本、観た映画でも、ときには人生を変えるほどの影響を及ぼす。親しい人との食事やテーマパークもそうだ。「本当に大切なもの」は贈与だけでなく、資本主義の市場取引でも巡り合うことができる。
贈与であれ市場取引であれ、強要されない自由な経済行為は、すべて人を少しだけ、あるいは大いに幸せにする。もし著者が続編を出すなら、そうしたメッセージを読者に届けてほしい。
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