2021-06-01

危うい民主十字軍


バイデン米大統領は、ジュネーブで6月に開くロシアのプーチン大統領との初の首脳会談で、人権問題を提起する意向を示した。ロシアによる反体制派ナワリヌイ弾圧の問題などを取り上げるらしい。プーチン政権に近いベラルーシのルカシェンコ政権が旅客機を強制着陸させて反政権派を拘束した問題に関しても、会談で懸念を伝える方針という。

また、バイデンは「民主サミット」の開催を目指している。民主主義という「価値観」を共有する国々と協力体制を構築し、中国やロシアに対抗して「民主主義対専制主義」の構図を描く狙いらしい。「民主同盟」といった組織を作ることも念頭にあるようだ。

日本のメディアも「民主主義は善玉、専制主義は悪玉」というわかりやすい構図は大歓迎だ。朝日新聞は「民主連合の価値自覚を」と題する社説で、「北朝鮮と中国に向き合う日米韓の結束の価値はいっそう増す」と書く。善玉は民主主義の日米韓、悪玉は専制主義の北朝鮮と中国というわけだ。

しかし専門家の見るところ、民主主義連盟といった組織の設立はもちろん、民主主義サミットという催しでさえ、実現には問題がある。仲間にしたい国が、文句のない民主主義国とは限らないからだ。民主主義国かどうかは事実上、米国が独断で決めるにしても、困難に直面するのは間違いない。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国のうち、少数民族政党を弾圧するトルコのエルドアン政権が、非の打ちどころのない民主主義だとは言いにくいだろう。他のNATO諸国でも、とりわけハンガリーポーランドは、人権抑圧でトルコにさほど劣らない。

アジアでは、日米豪とともに中国を包囲するQuad(クアッド)の一員であるインドのモディ政権が、反イスラム色の強い政策を打ち出し、強権の度合いを強めている。米国が中東で親密な関係を築くサウジアラビアやエジプトは、やはり強権体制で知られる。

米シンクタンク、ケイトー研究所の上級フェロー、テッド・カーペンターは「ロシアと中国に対抗する民主十字軍という考えはきわめて危険」と指摘する。米国の強硬姿勢によってすでに中露との間に大変な緊張が生じている。バイデン政権はこの緊張を和らげなければいけないのに、危機を引き起こしかねない政策を追求したがっている。民主サミットや民主同盟といった計画は「早くやめるほど良い」。

冷静で正しい見方だ。民主主義対専制主義という単純な図式に基づいて国家間の対立を煽ることが、世界の平和に役立つとは思えない。

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