2020-10-03

ブロック『不道徳な経済学』

転売屋は悪くない

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、「転売屋」によるマスクの転売が社会の非難を浴び、政府が一時、転売の禁止に乗り出す騒動になった。嘆かわしい限りだ。

もちろん、嘆かわしいのは転売屋のほうではない。経済の道理をわきまえず転売屋に罵声を浴びせる一般大衆、人気取りで転売規制に乗り出す政府、それらをたしなめるどころか一緒になって転売屋を罵るメディアや文化人だ。とても市場経済の国とは思えない。

転売屋は、世間から「不道徳な人」だと思われている。だからこそ、あれほど容赦なく罵倒されるのだろう。これに対し本書で経済学者のウォルター・ブロックは冷静にこう指摘する。「不道徳な人」は実は社会に利益をもたらしており、もし彼らの行為を禁じるならば、私たち自身が損失を被ってしまう、と。

ブロックは一章を割き、「飢饉で大儲けする悪徳商人」を以下のように理路整然と擁護する。この議論はマスクの転売屋にも当てはまる。

歴史上、飢饉が起こるたびに、扇動家たちは「悪徳商人の買い占めによって食糧価格が高騰し、罪のない人たちが餓死していく」と声を張り上げ、死刑さえ要求してきた。常日頃、「人権」だとか「市民の自由」だとか騒ぐリベラル派からも、わずかな抗議の声さえ聞こえない。

だが商人は自分の利益だけのために行動するにもかかわらず、そのことによって皆を幸福にする。

豊作で食糧の価格が平年より安いときに、商人は食糧を買いだめする。その結果、市場に出回る食糧は減り、価格は上昇する。すると消費者は食べる量を減らし、少し多めに食料を貯蔵しておこうと考える。商社は海外から農産物を輸入し、農家は作付面積を増やし、建設業者は食糧倉庫をつくり、問屋はより多くの食糧を手元に置こうとする。

こうした「見えざる手」の効果によって、自分の利益を追求する商人の行動は、社会全体で豊作の年により多くの食糧を貯蔵するようにさせ、「結果として来るべき不作の年の影響を軽減する」とブロックは説明する。

マスクも同じだ。転売屋の買いだめでマスクの価格が上昇すると、政府の号令などなくても、消費者はマスクの無駄遣いを控え、備蓄し始める。マスクの製造・販売にかかわる企業は利益獲得のため、マスクの供給拡大に乗り出す。こうしてマスク不足の影響が軽減される。

コロナ騒動は、自由や市場経済の価値に対する日本人の無知を無残なまでにさらけ出した。そんな最中、「転売屋は社会に役立つ」という挑発的なサブタイトルをあえて付け、本書を再発売した出版社の気概に拍手を送りたい。

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