2020-10-17

マルクス・シドニウス・ファルクス『奴隷のしつけ方』

巧妙な管理、今も変わらず

今は古代や植民地時代のような公的な奴隷制は存在しない。強制労働や強制結婚の被害者を「現代の奴隷」と呼び、その数は世界で4000万人を超えるというが、世界人口全体に占める割合は限られる。多数派である一般の人々は「奴隷でなくて良かった」と自分の幸運を噛み締めることだろう。

しかし人々は、自分が完全な奴隷ではないものの、半ば奴隷状態の「半奴隷」であることには気づかない。人々は所得や資産の多くを税金として奪われている。日本人の場合、事実上の税金である社会保険料と合わせ、平均で所得の44%と半分近くを取られるから、まさに半奴隷と呼ぶにふさわしい。

半奴隷の正しい自覚(?)をもって読むと、じつに味わい深いのが本書だ。解説者を名乗る本当の著者ジェリー・トナー教授が、研究に基づき奴隷所有者の思考や行動を想像し、その内容を架空の人物、古代ローマの貴族マルクスに語らせるという凝った作りになっている。

マルクスは言う。態度がよく、熱心に働く奴隷が欲しいなら、教育が重要だ。多くの場合、すでに奴隷だった者より新たに連れてこられたばかりの奴隷を買うほうが教育しやすい。「馬を見てもわかる。老いぼれ馬より子馬のほうがずっと素直ではないか」(第Ⅱ章)。なるほど、だから今の政府も従順な半奴隷を育てるために、親に義務まで課して子供の教育に熱心なのだ。

マルクスはこうも言う。子供を持つことが奴隷たちの得になるように配慮するといい。子供が生まれれば若い奴隷を確保できる。「その世代は親の世代の奴隷が解放されたり命を落としたりして人数が減ったとき、それに代わって家を支えてくれる」(第Ⅲ章)。今の政府も婚活支援に予算まで付けて、子供を増やそうと必死だ。そうしないと税金が取れなくなってしまうからだ。

マルクスはさらに助言する。奴隷の逃亡を防ぐには「顔に烙印を押すのが手っ取り早い。烙印があれば、人目につかずに逃げるのはほぼ不可能である」(第Ⅴ章)。今の日本ではさすがに顔に烙印は押せないが、将来マイナンバーに顔認証が組み合わさり、そこに預貯金口座が紐付けられたら、烙印以上の効果があるだろう。

最後にマルクスは、奴隷たちが声を潜めて密談することを許してはならないと警告する。「その目的は反乱かもしれない」(第Ⅷ章)からだ。だから今の政府も、テロ対策を名目に、ちゃんと共謀罪を用意している。昔も今も、奴隷管理の巧妙なノウハウに変わりはないのだ。

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