2020-05-20

『記者たち』〜記者よ、政府を疑え

2016年の米大統領選挙でトランプ陣営がロシア政府と共謀して得票を不正に操作したという「ロシア疑惑」は実際にはなかったことが、モラー特別検察官の捜査によって結論付けられました。過去2年以上にもわたり大手メディアが洪水のように垂れ流してきたロシア疑惑報道は、フェイク(偽)ニュースだったことになります。


何がいけなかったのでしょう。米国の大手メディアが報じるロシア疑惑のニュースはどれも、情報源が政府関係者でした。政府関係者は中立公平な人物とは限りません。一般の人々と同じく、自分の利益のために行動する生身の人間です。メディアを通じて自分に都合の良い情報操作をしようと考えても不思議はありません。

2003年のイラク戦争開戦時、大半の米メディアはその危険に対する注意を怠りました。イラクが大量破壊兵器を保有しているという米政府高官らの情報を鵜呑みにして報道し、開戦を正当化する役割を演じてしまったのです。しかしその中で唯一、政府の主張を疑い、異を唱えた報道機関がありました。『記者たち』(ロブ・ライナー監督)で描かれる中堅新聞社ナイト・リッダーです。

同社の記者、ランデー(ウディ・ハレルソン)とストロベル(ジェームズ・マースデン)は政府と大手メディアの主張が嘘であることに気づき、同時テロ後の米国内に愛国心が沸き上がる中で孤立に悩みながらも、真実を訴えていきます。彼らの情報源は、大手メディアが気にも留めないような末端の政府職員たちでした。政府上層部にコネがなかった分、情報操作に惑わされずに済んだと言えます。

ライナー監督みずから演じる、同社ワシントン支局長ウォルコットの言葉は印象的です。「政府が何か言ったら、必ずこう問え。『それは真実か?』」。米政府の言うことを疑わずロシア疑惑を報じ続けた米メディアや、それを右から左に伝え続けた日本のメディアは、この問いを噛み締め、読者・視聴者の信頼回復に努めなければならないでしょう。

<福岡・KBCシネマ>
note 2019/04/07)

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