『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』(大森立嗣監督)の主人公、典子(黒木華)は二十歳の春、母に勧められてお茶を習うことになります。興味のなかったお茶の魅力に気づき、惹かれていく典子。それからの人生でさまざまな悲しみに出会ったとき、お茶が心の支えとなります。何か大切なものを失った日であろうと、ありのまま受け止め、ひたすら生きれば、どんな日もかけがえのない絶好の一日——。稽古場に掲げられた「日日是好日」という言葉を、年齢を重ねた典子は噛みしめます。
映画ではお茶の道具がいろいろと登場しますが、印象深いのは、初釜で使われる、その年の干支にちなんだ茶碗です。十二年に一度しか使われません。習い始めの頃それを聞いた典子は、戌(いぬ)の絵のついた茶碗を手にしながら驚きます。それから十二年後、典子は昔と同じ戌の茶碗を見つめます。十二年周期のサイクルを永遠に繰り返す時間に比べ、限りある人の一生。だからこそ大切に味わう価値があります。
季節は毎年同じように巡ってきても、去年の人はもうそこにいないかもしれません。典子が父を亡くしたとき、お茶の先生が一緒に縁側に座り、散る桜を見つめながら言葉少なに慰めます。このシーンをはじめ、見事な演技を見せる先生役の樹木希林さんも先日、惜しくも世を去りました。その所作、表情は、人生という時間を大切に生きなさいと語りかけるようです。
<東京・シネスイッチ銀座>
(note 2018/11/10)
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