三度目の緊急事態宣言により、東京、大阪、京都、兵庫の四都府県では酒類やカラオケ設備を提供する飲食店に休業要請し、それ以外の飲食店には午後8時までの営業時間短縮を求めるという。協力金は出るとはいえ、それだけではとても家賃や人件費をカバーできない店も少なくないだろう。
以前からコロナ対策と称し、各地で飲食店の時短営業や酒類提供の制限が広がっていた。そうしたなか、飲食店の闇営業がひそかに人気を集めているらしい。マネーポストの記事によると、都内の飲み屋で、8時を過ぎて店をのぞいたところ、奥の従業員控室に通され、店員のふりをして酒や食事を楽しんだという。なるほど、その手があったか。
闇営業というと、コロナ騒動に伴う巣ごもり需要もあって、ネットフリックスの配信で視聴者数を伸ばした韓国ドラマ『愛の不時着』が思い浮かぶ。
舞台のひとつとなる北朝鮮では、市場の店先に並べている品物とは別に、「南の町」から届いた化粧品やシャンプー、おしゃれな下着などを隠していて、こっそり販売する。南の町とは、政治的理由から貿易を禁じられている制限されている韓国のことだ。ウェディングドレスを闇で売る店も登場する。
列車が停電のため立ち往生すると、飲食物などの商品を背負った人々が一斉に駆け寄り、乗客に売って回る。あれも一種の闇市だろう。主人公の北朝鮮の軍人ジョンヒョクは毛布を買い求め、韓国から迷い込んだ財閥令嬢セリに優しくかけてやる。闇営業がなければ、厳しい寒さで凍えていただろう。
『愛の不時着』はフィクションだが、実際に北朝鮮では闇市が人々の命や暮らしを支えている。国内総生産(GDP)の推計からは経済の停滞が続いているにもかかわらず、以前ほど多数の餓死者が伝えられないのは、国中に広がる闇市で食べ物が手に入るからだといわれる。
日本に戻ろう。コロナ下の飲食店の闇営業はけしからんと怒る人がいる。でも、なぜいけないのか。
危険だから? コロナによる死亡者の大半は高齢者だ。かりに居酒屋で若者や働き盛りの人が感染しても、彼ら自身の命の危険はまずないし、家族など身近に高齢者がいなければ、感染させる心配もない。
国が禁止しているから? たいていの人は国のルールを破ったりせず、心静かに過ごしたいと願う。でも、ルールに従うばかりでは自分や家族の暮らしを守れないときもある。だから北朝鮮の人々は国の禁じる闇市で物を買う。
北朝鮮の人々に、闇市に行くなと言う日本人はいないだろう。もしそうなら、なぜ居酒屋の闇営業やその客を責めるのか。居酒屋に行かなくても死ぬわけじゃないから? 北朝鮮でも化粧品やシャンプーが買えないからといって、死ぬわけじゃない。人々が闇市に行くのは、人間らしい生活がしたいからだ。
前出の記事で、飲食店の闇営業を利用した女性会社員は「仕事柄、打ち合わせが20時を過ぎることは多いので、“闇営業”だろうがなんだろうが、開いていてくれてありがたいです」と語る。
闇営業や闇市は、人間が人間らしい生活を営むための希望の灯だ。理不尽な政府や自粛警察に負けず、寒い夜の原野に燃えるたき火のように、人々にぬくもりを届けてほしい。
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