MMTを支持する中野剛志氏も、お金を発行した結果、その価値が下がることは、次のように認めている。
インフレとは物価が上がることですが、裏返せば、貨幣の価値が下がることです。つまり、ハイパーインフレになれば、お札はただの「紙切れ」になってしまいます。〔略〕ハイパーインフレはさすがに困ります。
ところがおかしなことに、中野氏が問題視するのはハイパーインフレだけだ。むろん、ハイパーインフレは良くない。けれども、国民にお金の価値の下落というコスト、つまりインフレ税を払わせる点では、そこそこ大幅なインフレはもちろん、緩やかなインフレ(マイルドインフレ)だって同じだ。
マイルドインフレは、ある意味では、ハイパーインフレよりたちが悪い。ハイパーインフレは誰が見ても異常なので、食い止めようとする意思が働きやすい。ところがマイルドインフレの場合、むしろ正常であり望ましいという考えが、政府や経済学者によって流布されている。だから長く続きやすい。これは政府にとって望ましい。インフレ税を長期にわたり、じっくりと搾り取ることができるからだ。
ハイパーインフレはさすがに困る、裏を返せばそれ未満のインフレは問題ないという中野氏やMMT論者の考えは、旧来のリフレ派と同じく、「百姓は生きぬように、死なぬように」と言い放つ封建領主と変わらない。納税者の権利という発想は一ミリもない。
最後に「今の日本はデフレだから、インフレ税の批判は当てはまらない」という意見にあらかじめ反論しておこう。論拠はいくつかあるが、ここでは一つだけ挙げる。「今の日本はデフレ」という認識がそもそも怪しい。アベノミクス以来の金融緩和を背景に、マンションや株式といった資産の価格は上昇が続いている。それが物価に反映されないのは、政府の統計に資産価格が含まれていないからにすぎない。(この項おわり)
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