おとぎ話の世界で、ある晩、人々が眠っている間、天使が不思議な力を使い、全員の財布の中身を一瞬で二倍に増やしたとしよう。他の条件に変化がなければ、お金の購買力は半分になる。けれども、朝になって財布の異変に気づいた人々が不満を漏らすことはないだろう。皆平等にお金が増え、購買力の低下を埋め合わせることができるからだ。
しかし現実の世界では、こうはならない。お金を発行する政府(中央銀行)は、国民のお金を同時に同じだけ増やしてはくれない。時間差があるし、額も均等ではない。
政府によって新たに発行されたお金を最初に手に入れるのは、政府自身だ。次に、政府と事業や預金といった取引関係のある企業や団体、銀行など。続いて、その取引先へと順次渡っていく。政府と深いつながりのない普通の人々は、お金を受け取れるとしても、届くのは最後のほうだ。
この間、他の条件に変化がなければ、お金の流通量の増加とともに、物価はしだいに上がっていく。言い換えれば、お金の購買力が下がっていく。政府やその親しい関係者は購買力が下がる前にお金を使うことができるのに対し、普通の人がお金を手にする頃にはその購買力は下がってしまっている。
おとぎ話の世界で天使がお金を増やす場合は、社会の全員が購買力の低下というコストを平等に負担する。しかし現実の世界で政府がお金を増やす場合は、コストは普通の人々に偏って押しつけられる。これは事実上、税金と同じだ。(この項つづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿