2021-03-25

経済的自由の復権

John Ingram | The Egg Merchant | The Metropolitan Museum of Art

財産権、職業選択の自由、営業の自由といった経済的自由は、憲法が保障する他の人権に比べ、保護される度合いが小さい。職業選択の自由などを保障した日本国憲法22条の条文には「公共の福祉に反しない限り」という但し書きがあるし、財産権を定めた29条も、財産権の内容については「公共の福祉に適合するやうに」法律でこれを定めるとしている。

日本国憲法で、人権の制約根拠である「公共の福祉」という言葉が登場するのは、一般論を述べた条文を除けば、経済的自由に関する上記二つの条文だけだ。つまり経済的自由は憲法の条文からして、他の権利よりも容易に制限されうる、もろい人権ということだ。

けれども憲法の歴史上、最初からそうではなかった。近代的憲法原理を確立したとされるフランス人権宣言(1789年)で、財産権は「不可侵かつ神聖な権利」(17条)とされた。

ところが19世紀後半から20世紀にかけて、財産権はそもそも社会的に制約された、法律による広汎な規制に服する権利と言われるようになる。ドイツのワイマール憲法(1919年)では、財産権は「義務を伴い、その行使は、同時に公共の福祉に役立つべきである」(153条3項)とされた。このワイマール憲法の考えを日本国憲法も引き継いでいる。

フランス人権宣言から百年余りで、財産権が神聖でも不可侵でもなくなった背景には、社会主義国家主義の台頭がある。財産権を公共の福祉の名の下に初めて制限したワイマール憲法の制定からさらに百年がたち、経済の自由に対する制限を誰もが当然と思うようにさえなった。

コロナ対応を錦の御旗に、一片の命令によって人々の営みがいともたやすく制限される状況をおかしいと思うのなら、長らく蹂躙されてきた経済的自由の復権を目指さなければならない。

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