主観価値説によれば、商品の価値は人々がどれだけ大きな効用(満足度)を得るかによって決まる。今、「大きな」と書いたけれども、効用は人の主観に基づく心理的なものだから、物理的な大きさと違って、ある効用が他の効用よりどれだけ大きいかはわからない。わかるのは、どちらが大きいかだけだ。
数量を示す数字を基数といい、順序を示す数字を序数という。効用の大きさは、基数で示すことはできない。序数でしか示せない。
たとえば、Aさんは小説のジャンルで一番好きなのが推理小説、二番目がSF小説、三番目が歴史小説だ、と言うことはできる。けれども、推理小説による満足がSF小説の何倍か、SF小説による満足が歴史小説の何倍かは、他人にはもちろん、本人にもわからない。もし誰かが「歴史小説より推理小説のほうが百倍好き!」と言ったとしても、正確に計算して言ったわけではない。
また、効用は数量で表せないから、足し合わせることはできない。Aさん、Bさん、Cさんで構成するXというグループ全体の満足度がどれだけか、構成メンバーの満足度を足し合わせて計算することはできない。Pさん、Qさん、Rさんで構成するYというグループとで、どちらが満足度が大きいか、比較することもできない。
世界各国の幸福度に関する調査がよく話題になる。主観的に自分が幸せだと思う人の割合を調べており、満足(幸福)は主観だという考えを取り入れている。ただし、ランキング一位のフィンランドの人たちが、五十八位の日本の人たちより幸せだと、客観的に示しているわけではない。幸せは足し算できないし、割り算して一人当たりの平均値を出すこともできないからだ。あくまで一種のお遊びと考えたほうがいい。(この項おわり)
0 件のコメント:
コメントを投稿