2018-07-31

ふるさと納税は不健全か

2008年5月に始まったふるさと納税制度は年々、利用者数と寄付金額が増え、国民の間に定着してきました。しかし一方で、「返礼品めあてで不健全」という批判も聞かれます。ふるさと納税は不健全なのでしょうか。

ふるさと納税が広がるにつれ、都市部自治体の財政は苦しくなっています。日経電子版の記事によれば、千葉市の熊谷俊人市長は「『得をする』ということで税を支払う国民は本当に健全なのか」と憤っています。

税金は行政サービスの対価として支払うもので、返礼品を目的に払うのはおかしいと言いたくなる気持ちはわかります。しかし国民からしてみれば、行政サービスも返礼品も「得をする」ための手段であることに変わりはありません。

親であれば、いじめなどなく、充実した教育を受けられる学校に子供を通わせたい。地方のおいしい特産品を食べて喜ぶ子供の顔を見たい。どちらも「得」をしたいという気持ちであり、自然な感情です。不健全なところなどありません。

実際には教育をはじめ、行政サービスには多くの国民が不満を感じています。地元自治体に愛着などわかず、税金を払いたくないと思っても不思議ではありません。

それにふるさと納税は、返礼品目的ばかりではありません。朝日新聞によると、九州豪雨の被災7自治体には返礼品なしで計1億4千万円を超す寄付が集まったそうです。

ふるさと納税は完璧な制度ではないかもしれませんが、納税者の選択肢が増えるのは間違いなく健全で良いことです。資金流出を嘆く都市部自治体は、そうならない努力をもっとするべきでしょう。(2017/07/31

2018-07-30

公共事業がゆがめる経済

景気が悪く、失業が増えたときには、民間企業に代わって政府が穴を掘ってでも公共事業を増やし、雇用を増やせばよい--。これが経済学者ケインズの影響を受けた、今の経済学の考え方です。しかし公共事業は経済の働きをゆがめます。それは不況期でも変わりません。

記事によると、各地で花火大会の運営費が増加し、主催者を苦しめているそうです。人件費の上昇に加え、会場の設営に使う鉄パイプやフェンスの価格も上がっているためです。

資材の価格高騰もそうですが、人手不足や賃金上昇に火をつけたのは、アベノミクスの柱の一つである公共事業です。それは予想以上の効果を発揮したといっていいでしょう。しかし忘れてならないのは、賃金は労働者にとっては収入ですが、払う側にとってはコスト(人件費)だということです。

花火大会の例でいえば、賃金上昇は警備員など労働者にとってはうれしいことですが、主催者にとっては悩みの種です。もし資金不足で大会中止に追い込まれれば、花火を楽しみにしていた人たちは悲しむでしょう。それは社会にとって良いことでしょうか。

一部の自治体では、ふるさと納税による寄付金を花火大会に活用するそうです。ああよかったねと喜ぶわけにはいきません。もし花火大会のコストが膨らまなければ、そのお金は他の用途に使えたのですから。

政府が関与しない民間事業であれば、賃金高騰には一定の歯止めがかかります。採算を無視することはできないからです。ところが政府はとにかく予算を消化しないといけないので、高い賃金でも人を雇います。これが賃金を過度に押し上げます。

もし失業者のあふれた不況期ならどうでしょう。どうせ遊んでいる労働力だから、政府が雇っても民間から人材を奪うことにはならない、というのがケインズを始祖とするマクロ経済学の考えです。残念ながら、それは正しくありません。

マクロ経済学の落とし穴は、物事をあまりにも単純化しすぎることです。国全体で人手が余っていたとしても、あらゆる産業分野でそうだとは限りません。人手不足の分野はつねに存在します。公共事業がそうした分野の人材だけを器用に採用しないことは事実上不可能ですから、不況期であっても、民間から人材を直接・間接に奪うことに変わりはありません。

政治家に公共事業大盤振る舞いの口実を与えてきた20世紀の遺物、ケインズ経済学。財政破綻の足音が近づいてきた今、そろそろ別れを告げるべきでしょう。(2017/07/30

2018-07-29

何が飢餓をもたらしたか

アフリカなどでの飢餓は、現代の最も深刻な問題の一つです。飢餓は理由もなく起こるわけではありません。いくつか原因があります。その中であまり触れられないのは、外国による軍事介入です。

英シンクタンク、経済平和研究所(IEP)が先ごろ発表した2017年度「世界平和度指数」によると、危険な国のワースト10に入ったのは、シリア、アフガニスタン、イラク、南スーダン、イエメン、ソマリア、リビア、中央アフリカ共和国、スーダン、ウクライナでした。

この国々について、ジャーナリストのホイットニー・ウェッブ氏は「10カ国のうち(中央アフリカを除く)9カ国に共通点がある」と指摘します。それは「米国が中心となって展開した、国家弱体化運動や体制転換作戦という暴力を経験したこと」といいます。つまり外国による軍事介入です。

政権転覆の標的となったシリア、イラク、アフガニスタンでは政治勢力の対立が意図的に作り出され、内戦や混乱が続いています。イエメンは米国に支援されたサウジアラビアによって激しく攻撃されています。

日報問題に揺れる陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)を行なった南スーダンは、米国の軍事介入と「国家建設」が不首尾に終わり、混乱に陥りました。海上自衛隊が海賊対処で派遣されているソマリアも、米軍の空爆など軍事介入が続いています。

戦火に見舞われたこれらの国々の多くでは、国民が飢えに苦しんでいます。経済活動の基礎は平和ですから、当然といえます。

さてNHKの報道によると、国連国際農業開発基金(IFAD)のホンボー総裁は、アフリカなどの農村部で飢餓や貧困が広がっているとして、日本などに積極的な支援を呼びかけたそうです。

同総裁が具体的にあげた国は、南スーダン、ナイジェリア、ソマリア、イエメンの4カ国です。ナイジェリア以外はいずれもさきほど触れた、外国による軍事介入で平和が破壊された国です。しかし総裁は少なくとも記事上では、その事実に触れていません。

ホンボー総裁は、貧困が若者をテロに走らせているといいます。しかしテロに走らせるのは貧困ではなく、軍事介入に対する怒りと考えるのが素直でしょう。本気で飢餓やテロをなくしたいのなら、経済支援よりもやるべきことがあるはずです。(2017/07/29

雇用増は良いことか

経済統計は便利な半面、経済の本質を見えにくくします。たとえば雇用統計です。雇用の増加を示す数字が出ると、政府はそれを良いこととして強調します。しかしそもそも、雇用増はそれだけで良いことといえるのでしょうか。

厚生労働省が発表した6月の完全失業率は2.8%と引き続き低水準でした。働く意思のある人なら事実上誰でも働ける「完全雇用」状態にあります。正社員の有効求人倍率は初めて1倍を超え、企業の人手不足感が一段と鮮明になったと日経電子版の記事は伝えます。

雇用増が良いことだとすれば、日本経済は最高にすばらしい状態にあるように見えます。けれども、本当にそうなのでしょうか。

すでに報じられているとおり、2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設をめぐり、下請け業者で現場監督を務めていた23歳の男性が自殺したのは月200時間近い残業を強いられ精神疾患を発症したためだとして、両親が労災申請しました。真相究明はこれからですが、雇用され、人手不足の中で忙しく働くことが「良い」とは限らないとあらためて気づかされます。

時事通信の報道によれば、1998年長野冬季五輪でボブスレー・リュージュ会場となった「スパイラル」について、長野市は平昌五輪後の来年度以降は製氷を休止、競技場として利用しない方針を決めたそうです。「NIKKEI STYLE」のしばらく前の記事によれば、利用料収入は年700万円にすぎないのに、市が負担する維持管理費は年1億2千万円にのぼり、市民から「税金の無駄」との声が上がっていました。建設には多くの人が雇用されましたが、結果として「良い」ものを生み出したとはいえません。

五輪に限りません。ある事業が多くの雇用を生み出すからといって、雇用された人が必ずしも幸せとは限りません。価値あるものを生み出すとも限りません。経済全体についても同じです。統計で雇用が増え、失業率が下がり、有効求人倍率が上昇したからといって、それが「良い」こととは限りません。

米経済学者のスティーブン・ホーウィッツ氏は「政治家は雇用の創造ばかり気にしすぎる。気にするべきは価値の創造だ」と指摘し、こう続けます。「雇用の創造はたやすい。農場にある機械をすべて壊せば、すぐに何百万人もの雇用を生み出せるだろう。問題はそうした雇用を生み出すことで、私たちの暮らしが良くなるかどうかだ。答えはもちろんノーだ」

雇用統計の数字を見るとき、必ず思い出したい言葉です。(2017/07/29

2018-07-28

セーフガードは誰を守るか

safeguard という英単語は「保護する」という意味です。経済用語として使われる場合は、「緊急輸入制限」という意味になります。誰を保護するのでしょうか。

経済産業省ホームページによると、セーフガード(緊急輸入制限)とは「特定品目の貨物の輸入の急増が、国内産業に重大な損害を与えていることが認められ、かつ、国民経済上緊急の必要性が認められる場合に、損害を回避するための関税の賦課又は輸入数量制限を行うもの」といいます。

この説明から明らかなように、セーフガードによる保護の対象は「国内産業」です。消費者ではありません。「国民経済上緊急の必要性が認められる場合」という条件は付いていますが、これは要するに「政治的に重要な場合」という意味でしかありませんから、消費者がないがしろにされていることに変わりはありません。

政府は8月1日から冷凍輸入牛肉に対し、22年も前に導入されたセーフガードを発動し、来年3月末までに関税率を引き上げます。記事によれば、冷凍牛肉を使う頻度の高い、牛丼チェーンへの影響が大きいといいます。

牛丼チェーンの利用客の多くは、中間層以下の人々です。政府は何かにつけて庶民の味方だと公言しますが、一部の国内産業の保護を優先し、消費者にツケを押しつける政策は、庶民の味方とは正反対といわざるをえません。

しかも価格帯の高い国内産牛肉と廉価で外食や業務用に使われる輸入牛肉とは市場が競合せず、輸入が増えても国内農家が大きな打撃を被る事態は考えにくいというのですから、いったい何のためのセーフガード発動だかすらわかりません。

政府は「ルールに基づき機械的に発動」(農林水産省幹部)せざるをえないとしているそうです。ルールは秩序をつくるためのものですが、政府の硬直したルールはむしろ社会を混乱させます。(2017/07/28

2018-07-27

最低賃金上げの残酷な善意

「地獄への道は善意で舗装されている」という西洋のことわざがあります。よかれと思ってしたことが悲劇的な結果を招くという意味です。経済の分野で、最低賃金の引き上げほど、この言葉にぴったりなものはないでしょう。

最低賃金の引き上げは失業を増やします。なにも難しくはありません。ある会社で1時間に払える賃金が合計50万円で、最低賃金が時給800円のとき、雇える人数は最大625人(50万÷800)です。最低賃金が千円に引き上げられると、雇える人数は最大500人(50万÷1000)に減ります。減った分、失業が増えます。

最低賃金を上げても失業が増えたように見えないことはあります。けれどもそれは、他の条件が変わったためにそう見えないだけです。たとえば労働時間を短くすれば、最低賃金が上がっても払う賃金は増えないので、雇用を維持することができ、失業は増えません。

そうした調整ができない場合は、雇用を維持できず、失業が増えます。会社に残れる人は賃金水準が底上げされてハッピーかもしれませんが、失業した人は収入ゼロです。ひどい所得格差です。格差社会を批判する人の多くが最低賃金上げを支持するのは、不思議なことです。

残念ながら、どんなに愚かな政策でも、一定の有権者の支持があればやってしまうのが政治です。

米ワシントン州シアトル市では2015年4月以来、最低賃金を15ドル(約1670円)まで段階的に引き上げています。このほどワシントン大学の経済学者グループがまとめた報告書によれば、最低賃金が1%上がるにつれて、労働時間が3%短縮されたそうです。最低賃金引き上げは労働者にとって失うもののほうが大きいということです。

日本では日経電子版の記事にあるとおり、政府は最低賃金引き上げの中期目標として全国平均時給千円を掲げています。最低賃金引き上げが日本経済にプラスというなら、千円などとケチなことをいわず、いっそ5千円、いや1万円以上に上げればよいのです。国民の大半は失業し、無知な善意の残酷さにようやく気づくことでしょう。(2017/07/27

2018-07-26

寡占は悪か

市場に商品やサービスを供給する企業が少数しかない状態を寡占といい、特に企業が1社しかない場合を独占といいます。今の経済学の通説によると、寡占・独占が進むと企業間の競争がなくなって価格上昇や品質低下などの問題が起こるとされ、その考えを背景に、独占禁止法で寡占・独占が制限されます。しかし、この考えは本当に正しいのでしょうか。

長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FG)と同県最大手の十八銀行は25日、10月予定だった経営統合を未定として延期すると発表しました。公正取引委員会の審査をクリアできなかったためです。当初予定の4月から再度の延期です。

公取委が統合に待ったをかけたのは、統合で競争が阻害されるとみているためです。十八銀と親和銀が合併すると、県内の融資シェアが7割にのぼります。公取委によれば、他県の地銀が長崎まで越境して展開している事業性融資の規模が小さく、今後進出を計画している金融機関も見当たらないことなどから「競争圧力が極めて低い」。寡占が進めば貸出金利の上昇などを招きかねないといいます。

けれどもこの考えは、価格と需要・供給が互いに影響し合ってつねに変化することを忘れています。今は長崎県内の貸出金利が低いので、他県の地銀や金融機関はわざわざ進出してこないかもしれません。しかし、もし寡占で貸出金利が上昇すれば、それより低い貸出金利で融資を伸ばす商機が生まれます。参入が規制されていない限り、インターネット銀行を含め、県外からの進出・融資は増えるでしょう。そうなれば貸出金利はまた下がります。

寡占は市場経済にとって悪という考えを支えるのは、市場で完全な競争が成り立つには「買い手と売り手が多数存在し、どちらも価格に影響力を持たない」などの条件を満たさなければならないという、今の経済学の通説です。しかしこの条件は現実離れしていますし、そのような条件を満たさなくても、参入の自由さえあれば競争は成り立ちます。

そうだとすれば、寡占を無理に制限しなくてもよいのではないでしょうか。米経済学者のイスラエル・カーズナーは「競争プロセスの自発的なダイナミズムを促進するために必要なのは、必ずしも同じやり方で同じ生産物を生産しているたくさんの小規模な生産者ではない」として、「必要なのは、企業家的参入の自由」だと強調します(『企業家と市場とはなにか』、日本経済評論社)。(2017/07/26

2018-07-25

自由の代償、統制の代償

複数の人々がかかわる問題に対して、互いに対等な立場の人どうしで解決に取り組むと、しばしば意見の対立が起こります。一方、誰かが絶対的な権限で統制すれば、対立は起こりません。どちらが望ましいのでしょうか。

仮想通貨ビットコインが分裂騒動に見舞われています。記事によると、決済スピードを高める新たな仕組みが導入され、分裂はひとまず回避されたようですが、参加者の中には新しい仕組みに納得していない勢力も残り、8月1日に向けて分裂騒動が再燃する恐れがあるといいます。

分裂騒動を受け、国内の仮想通貨取引所はビットコインの入出金と決済を一時中止しました。利用者には不安を感じる人も少なくないでしょう。それは当然のことです。しかしだからといって、この騒動がビットコインや仮想通貨そのものの欠陥を示すと考えるのは正しくないでしょう。

関連記事「仮想通貨 未来を聞く」で早大ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が述べるように、中央に管理者を置かず、多くの参加者が平等に近い形でかかわるビットコインは、民主的に仕様変更についての意思決定をしようとしています。民主的な意思決定に対立はつきもので、それを混乱とみるのは適切ではないでしょう。

野口氏が指摘するとおり、今回のような騒動は、中央で管理する法定通貨ならありえません。通貨の発行について国内で一つしかない中央銀行が絶対的な権限を握っているからです。

しかしその代わり、法定通貨は仮想通貨と違い、発行量に歯止めがなく、通貨価値が毀損されがちです。中央銀行は政治から独立した建前になっていますが、現実には影響は避けられません。安い送金料で世界中どこにでもすぐに送れるといったメリットもありません。自由と統制のそれぞれにメリットと代償があり、両者を冷静に比較しなければならないでしょう。

少なくとも今のところ、ビットコインは意見の対立を抱えながらも、利用者に大きな不利益を及ぼしていないようです。昔から企業のお家騒動や独立騒ぎはよくありますが、それでその企業の商品が買えなくなったことはありません。仮想通貨が定着していけば、今回のような分裂騒動が不安視されることもなくなるのではないでしょうか。(2017/07/25

2018-07-24

自由と繁栄

自由と繁栄
豊かさを謳歌するボツワナ(Botswana)、貧困にあえぐジンバブエ(Zimbabwe)。アフリカの隣国同士の明暗を分けたのは、経済の自由を守る政策を採ったかどうか。チリとベネズエラ、韓国と北朝鮮、香港とキューバにも当てはまる真理。大きな福祉国家スウェーデンが豊かになったのは、小さな政府の時代。
Economic Policy Matters: The Example of Botswana vs. South Africa vs. Zimbabwe | Mises Wire

北欧の自由な資本主義
米国とフィンランド、ノルウェーなど北欧諸国の経済自由度はほとんど変わらない。北欧のほうが米国より市場主義的な領域すらある。もし米国が「野放しの資本主義」なら、北欧だってそうだ。米国も北欧も経済自由度で香港やシンガポールには及ばないが、世界の上位20%に入る。
Is Norway a Role Model for "Democratic Socialism"? | Mises Wire

自由主義経済のアフリカ
今のアフリカは社会主義路線を歩んだ過去と様変わり。アフリカ大陸自由貿易協定を主導するルワンダのカガメ大統領は熱心な自由貿易論者で、シンガポールの繁栄を築いたリー・クアンユー元首相を師と仰ぐ。ニジェールのイスフ大統領によれば「指導者の大半が自由貿易を望む」。
Africa's revolutionary new free trade area could lift millions out of poverty - CapX

アルゼンチンが貧しくなった理由
アルゼンチンは20世紀前半、ブラジルや日本より豊かで、米国にもそう見劣りしなかった。しかし1940年代に(左派ポピュリストで妻のエビータが有名な)ペロン大統領が就任すると、その経済政策のせいで庶民は貧しくなる。貧しい香港が自由放任政策で豊かになったのと対照的だ。
How Juan Perón's Left Populism Destroyed Argentina's Economy | Mises Wire

もう一つの憲法問題

憲法というと、戦争放棄を定めた9条ばかりが注目されますが、もっと国民が関心を持っていい条項があります。9条のように話題にならない、地味な条項ですが、それだけに問題は深刻といえます。それは84条です。

日本国憲法第84条は次のような短い条文です。「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」。ここに定められた原則を租税法律主義といいます。

租税法律主義は、世界最初の憲法といわれる英国のマグナ・カルタ(大憲章)やアメリカ独立革命当時のスローガン「代表なければ課税なし」、財政の民主的決定の原則を定めたフランス人権宣言などにさかのぼる、近代国家の最も重要な原則の一つです。

租税法律主義の目的は大きく二つあり、互いに密接に結びついています。一つは、税当局の恣意的な課税を阻止し、国民の自由と財産を保障すること。もう一つは、明確に定められた法律によって、納税者が自分の税負担を容易に予測できるようにすることです。

ところが今の日本では、少なくとも二番目の目的が事実上果たせなくなっています。課税のルールは「だれでもその内容を理解できるように、明確に定められなければならない」(野中俊彦他『憲法II』、有斐閣)のに、現実には記事にあるように、税のプロである税理士でさえ「すべての税法や細かいルールの完全把握は事実上不可能」な状態に陥っているのです。

国民は自分の税負担が一体いくらかわからなければ、税当局が恣意的な課税をした場合も、身を守れません。民主国家としてゆゆしい事態です。

税のルールがここまでわかりにくくなったのは、増税で税の種類が増え続けているうえ、政治的な都合で例外や「例外の例外」が次々に付け足されたり、税当局が都合よく解釈できるあいまいな表現が多用されたりするからです。

憲法84条を有名無実にしているこの状況に危機感を抱き、国会前でデモをする人はいません。しかしこのまま放置していれば、やがて政治は大きなノーを突きつけられるでしょう。租税法律主義の歴史が示すように、近代の市民革命が税に対する不信や怒りに発したことを忘れてはいけません。(2017/07/24

2018-07-23

誰のためのデータ保護

誰のためのデータ保護
企業に個人データの厳重な保護体制を求める欧州の新規制。弁護士相談、システム整備など数百万から数千万円の費用。違反すれば最大で世界年間売上高の4%または2千万ユーロの高い方を上限とする制裁金。コストは結局、利用者が負担することに。保護が個人を苦しめる本末転倒。
EUデータ新規制GDPR、主要企業8割が対応未了:日本経済新聞

さらば強権の欧州
EUの厳しい個人情報保護の新ルールGDPRを避け、米スタートアップ企業が欧州撤退。「欧州の利用者の皆さん、ごめんなさい。皆さんの議員と相談してください」「GDPRは少し曖昧で、かなり恐ろしい」と撤退企業。個人を保護するはずの法律が個人から便利なサービスを奪う。
[FT]GDPR回避、米スタートアップ企業が欧州撤退:日本経済新聞

巨額債務の報い
巨額の公的債務を抱え、米ドルの優位性が揺らぐ恐れありとFT記事。とはいえ米国の政府債務残高は現在まだGDP比77%で、2028年末に105%程度の見通し。一方、日本はすでに200%近く。お金を刷るという見えない増税で当面危機を避けられても、永遠には続けられません。
[FT]ドルが報いを受ける日:日本経済新聞

会社は株主のもの
「マンションは誰のものか」という問いは誰も発しません。所有者のものだとわかりきっているから。管理人が特定の所有者の権利を妨げたりもしません。ところが会社の場合「会社は誰のものか」と不思議な問いが発せられ、一部の株主は乗っ取り屋と呼ばれて権利を制限されます。
進化する物言う株主 日本株の保有額最高:日本経済新聞

イスラム資本主義という希望

イスラムの教えに沿った金融手法であるイスラム金融が最近話題になってはいますが、資本主義やそれを精神面で支える西洋の古典的自由主義は、イスラム教とはなじまないどころか、正反対だという意見が少なくありません。しかし、それはどうやら正しくないようです。

記事の筆者はトルコのジャーナリスト。たしかに現在のイスラム諸国の多くは自由のお手本とはいえないが、だからといってイスラム教を自由の敵とみなすのは誤りだと主張します。キリスト教国だって千年前は、宗教裁判で異端者を拷問にかけ処刑したり、十字軍で異教徒を虐殺したりしたのだから、と。

資本主義もイスラム教と両立するといいいます。根拠の一つは、預言者ムハンマドの人生です。ムハンマドは40歳で伝道を始める前、やり手の商人でした。市場メカニズムを理解していたムハンマドは、商業を奨励し、正直な商人を称える言葉を多く残したと筆者は指摘します。

ある逸話によれば、敬虔な信者から市場の物価高を規制するよう求められたムハンマドは「神のみが物の価を支配したもう」と否定的に応じたそうです。後世の解説者の中には、ここにアダム・スミスの「見えざる手」に似た精神をみる向きもあるといいます。

残念なことに、中世に栄えたイスラム資本主義は戦争、侵略、貿易ルートの変化などにより没落し、イスラム文明全体の凋落をもたらしました。イスラム諸国が立ち直るカギは資本主義の創造力を取り戻すことにあるという筆者の意見には、説得力があります。(2017/07/23

市場競争が貧困層を救う

市場競争が貧困層を救う
携帯サービスの普及に拍車がかかったのは、国営通信企業の民営化や外資の参入で、料金が大幅に下落したため。貧困層を救うのは税金による援助ではなく、市場競争です。
携帯サービス、最貧国でも 送金・配車… 端末普及率7割、外資が続々参入:日本経済新聞

不条理な不効率
入国管理局時代に目にした、外国人が書類に苦労する姿。窓口が開く前から長蛇の列、ようやく順番がまわっても書類の不備を指摘される。煩わしさを解消しようと起業、オンラインで外国人向けのビザ申請支援を手がける。不効率な政府が不幸にする人たちを助けるのは起業家です。
ワンビザの挑戦 不条理な送還、繰り返させない: 日本経済新聞

日本全部を特区に!
臨海部に次々建つタワーマンションやミッドタウン日比谷など再開発ラッシュで活気づく東京。それをもたらしたのはビルの容積率緩和や計画手続きを早める規制緩和。規制で「守られた」地方都市がシャッター商店街だらけとなり、活力を失うのと対照的。日本全体を特区にしよう。
TOKYO大変身 都の重心「東へ東へ」(ルポ迫真):日本経済新聞

官製値上げの結末
ビール官製値上げ1年。中小酒販店の保護を大義名分に掲げたものの、消費者のビール離れが加速。政府の市場介入が招いた典型的な悲喜劇。同じ政府が行う官製賃上げも本質は同じだと理解している人はどれだけいるでしょうか。酒も労働も値段を無理に上げれば需要はしぼみます。
誰も得しなかった ビール官製値上げ1年の無力感:日本経済新聞

2018-07-22

消防士の正体

「マッチポンプ」とは、マッチをすってつけた火を自分で消火ポンプで消すという意味で、そこから「自分で起こしたもめごとを鎮めてやると関係者にもちかけて報酬を得ること」(大辞林)を指します。中央銀行が不動産市場の過熱を冷ますために利上げに踏み切ったり、注意を呼びかけたりする姿は、まさしくこの言葉にぴったりです。

世界の不動産市場にファンドマネーの流入が加速し、不動産価格が高騰しています。この状況を欧米主要国の中央銀行は警戒しています。しかしそもそも、不動産市場に流れ込む大量のマネーを生み出したのは誰でしょうか。

もちろん、中央銀行自身です。2008年の金融危機から9年間も、世界的な低金利が続いてきました。それは各国中央銀行の政策によるものです。金融危機が去った後も、低金利に加え、量的緩和政策まで繰り出し、マネーを際限なくあふれさせました。

記事にあるように、カナダ銀行(中央銀行)は今月、住宅市場を冷ますために7年ぶりの利上げに踏み切りました。英断のように見えますが、むしろ遅きに失したというべきでしょう。昨年9月、UBSが発表した「住宅バブル崩壊リスクが高い世界の主要都市指数」で、首位はカナダのバンクーバーでした。しかも今回の利上げも0.5%から0.75%に引き上げたにすぎません。

「巨匠(マエストロ)」と呼ばれたアラン・グリーンスパン氏は米連邦準備理事会(FRB)議長の座にあった1990年代半ば、低金利政策を続け、これが自国通貨を米ドルにペッグ(連動)させる東南アジア諸国への急激な資本流入と、その反動による1997年のアジア通貨危機につながったといわれます。この途中で、グリーンスパン氏は一度だけ、インフレ圧力に対処するとして0.25%の小幅な利上げを実施しました。

これについて、三菱UFJインターナショナルのエコノミスト、ブレンダン・ブラウン氏は「放火犯人が熟練の消防夫に転じた」と皮肉り、こう続けます。「火事をもたらした最初の責任は忘れて、本格的な火事になるのを阻止するために巨匠が救援にくるという概念は、FED(=FRB)そのものと同じくらい古い」(田村勝省訳『FRBの呪いと第二次マネタリスト革命』、一灯舎)

中央銀行が本気で不動産バブルを鎮めたいのなら、申し訳程度の利上げでお茶を濁すべきではないでしょう。それさえできない、どこかの中銀は論外ですが……。(2017/07/22

強制の害悪

強制の害悪
もし自由な社会を守りたいなら、ある目的にとって望ましいからといって、強制(coercion)を正当化することはできないと認めなければならない。強制は個人から思考と価値判断を奪い、他人の目的を達成するだけの道具にしてしまう。政府に広範な強制力を与えたら最後、抑制するのは困難だ。
18 Hayek Quotes That Show the Importance of Liberty - Foundation for Economic Education

資本主義の知恵
アップルと北朝鮮の違いは何か。経営・政府中枢が計画を誤ったとき、不効率な企業は非効率な政府よりもすみやかに淘汰される。市場経済における企業が海に浮かぶ大小さまざまな多くの船だとすれば、社会主義政府は陸地に建つただ一棟のビル(single structure)。災害に遭うと全国民が長く苦しむ。
Arnold Kling, What Makes Capitalism Tick? | Library of Economics and Liberty

治安維持をビジネスに
企業がトラブル解決のために警察を呼び、暴力などが問題になると、不買運動(boycott)に遭い、株価は下落する。企業は消費者が離れないよう、正当な場合でも暴力の行使に慎重。しかし警察自身はお金を稼がないから、不買運動も株価も気にしない。仕事をなくす心配のない組織は腐敗する。
Starbucks Case Illustrates How Government Police Aren't Like Private Police | Mises Wire

革命か戦争か
革命と戦争は正反対だ。革命は権力の分散。中央集権政府から権力を個人に取り戻し、自分で自分の生活を律することができるようにする。戦争は権力の集中。個人を使い捨ての兵士としか考えないエリートが権力を手にし、国民を動員する。革命の究極の担い手は集団でなく個人だ。
Wendy McElroy: Are You Part of the Revolution or Part of the War? - Bitcoin News

選挙はくじ引きで

選挙はくじ引きで
アリストテレスやモンテスキューもまじめに論じた、くじによる選挙。汚職と無縁、コスト削減、無駄な法律がなくなる、といいことだらけ。政治の知識がない? 政治家の知識は権謀術数ばかり。官僚に支配される? 今より悪くはならない。くじ(demarchy)による民主主義(democracy)を!
Forget Electoral Democracy — Give "Demarchy" a Chance | Mises Wire

代表民主制の幻想
大衆の政治的代表になることは可能か。大衆間の利益は異なり、対立する。全員の代表にはなれないから、たいてい多数に従い少数を裏切る。有権者を代表することは難しいどころか、不可能なのである。代表民主制(representative democracy)とは支配する側とされる側の非情な関係を隠すまやかしにすぎない。
In What Way Are Political Representatives Representative? | Mises Wire

政府に天使はいない
公務員も民間人も人間だ。どちらも自分の利益に関心がある。人は政府の仕事に就いたとたん天使にはならない。しかも権力は普通の人間を腐敗させるだけでなく、腐敗した人間を引き寄せる。有権者が誠実に社会全体のためを思っても、その善意(good intentions)が政策として実現するとは限らない。
TGIF: A Public Choice Perspective on Trade | Sheldon Richman

ディープ・ステートの正体
陰謀論でいうディープ・ステート(deep state, 国家内国家)とは行政国家のこと。多くの人は行政法や行政国家という言葉を知らないが、官僚支配に対し健全な懐疑心を抱いている。司法によって官僚の権限を制限するのも一つの手だが、省庁の大半を廃止すれば、行政国家の問題は消え失せる。
Administrative Law Is the Real “Deep State” | International Liberty

2018-07-21

マスク氏の素顔

マスク氏の素顔
イーロン・マスク氏の富は政府との癒着で築かれる。これまで受け取った補助は50億ドル超。スペースXは契約の80%を米政府から得る。香港が電気自動車所有者への税控除を打ち切ったとたん、テスラの販売はゼロ近くに落ち込み、デンマークでも補助金削減で売り上げが急減した。
Elon Musk, Crony Capitalist | Mises Wire

偽りの資本主義
多くの人は縁故資本主義と本来の資本主義を混同している。本来の資本主義は市場で自由に売買する個人の財産権を尊重し、縁故資本主義は特定の個人・企業に特権を与え他の人に害を及ぼす。企業が政府の力を借り弱者や貧者を搾取すると、その分だけ本来の資本主義から遠ざかる。
Cronyism Feeds on the Success of Capitalism—but It Should Not Be Confused with Capitalism Itself - Foundation for Economic Education

関税の不公正
関税は官民癒着(cronyism)そのもの。特定の産業や企業の利益を優先し、他の産業や消費者の利益を犠牲にする。特定の製品に課税すればその製品を必要とする企業・消費者に害を及ぼす。しかも対象を政治家・官僚が決めるのだから最悪だ。中小企業は除外を求めロビー活動する余裕もない。
Trade Exclusions Are Crony Capitalism Within Crony CapitalismThe American Spectator

WHOは必要か
アフリカでエボラ熱が流行した2014年、世界保健機構(WHO)は対応が遅れる一方、タバコの広告(promotion of tobacco products)を非難。欧米だけでなく、エボラ熱で2500人以上が死亡したギニアのタバコ広告まで問題に。職員の出張費用はマラリア、結核、エイズ、肝炎、精神疾患、薬物乱用の対策費より大きい。
Who Needs the WHO? Not the World’s Poor - Foundation for Economic Education

市場は人を助ける

市場は人を助ける
アダム・スミスが述べたのは、人は非情なまでに利己的(ruthlessly selfish)だとか、利己的でなければならないとかではない。彼は歴史上、人の同情心について最も熱心に語った一人なのだから。スミスは単に、人が家族や自分の面倒を見る性質は、市場ではすべての人のためになると述べたにすぎない。
Quotation of the Day... - Cafe Hayek

人は協力を好む
キケロいわく、人間には同情と協力を好む性質がある。愛と友情を好む自然の本能ゆえに、人間は恐怖や私益からではなく正義によって結束する。人間は話す能力によって、生まれつき親族だけでなくあらゆる人との愛を求める、社会的動物である。この本能こそ人間関係の核である。
Why the Founders' Favorite Philosopher Was Cicero - Foundation for Economic Education

人間の本質
古代ローマの政治家・哲学者キケロいわく、人間の本質は絶え間ない闘争ではない。平和な協力(peaceful cooperation)である。人は互いに奉仕の義務を交換し、役務と財産を与え受け取り合うことで、相互の絆を強める。キケロのいう義務は個人間のもので、国家が一方的に強制するものでないことに注意。
5 Reasons We Should Still Read Cicero - Foundation for Economic Education

資本主義は貧困を生まない
資本主義は誰かの計画で創設されたのではない。人間の本性から自然に生まれる。資本主義は貧困(poverty)を生まない。中国やインドなど資本主義を取り入れた国は貧困が減っている。資本主義は勝者と敗者を生むかもしれないが、それはどの経済制度も同じ。資本主義は豊かな勝者を増やす。
4 Common Capitalism Myths Debunked - Foundation for Economic Education

保護主義は国民を保護しない

保護主義は国民を保護しない
保護主義者によれば、国内企業は強大な外国企業に太刀打ちできないので、その圧力を食い止めるために貿易障壁(trade barriers)が必要だという。しかし実際には、強大なライバルとの競争こそが生産性と生活水準を高める。国内企業の生産性が海外企業より低いなら、貿易障壁を高めてはいけない。
How foreign competition helps domestic firms - CapX

国際収支のナンセンス
すべての人を身長の高さによって二つのグループに分け、その間のお金の流れを計算しても、経済的な意味は何もない。同じく、すべての人をある国(たとえば日本)と他の国の人に分け、その間のお金の流れを計算しても、経済的な意味は何もない。その無意味な数字が国際収支だ。
The Balance of International Payments Is Economic Nonsense

経済に勝敗なし
企業家の洞察には価値がある。しかし経済学への理解(understanding)は別だ。ビジネスマン出身の政治家の多くは企業経営のつもりで、GDPや輸出額などで他国を打ち負かそうとする。だが市場シェア争いと違い、経済成長はゼロサムではない。中国が成長しても損はしない。むしろ自国も得をする。
Why Businessmen Don't Make Good Politicians | Mises Wire

欧州が始めた貿易戦争
EUは今回米国に対し報復関税をかける前から、米製品に高い関税をかけていた。バーボンなど非課税製品への課税以外に、オレンジジュースなどすでに高税率の製品まで税率を引き上げたがっている。そのうえ食品の品質や安全基準など非関税障壁も厳しい。これで自由貿易だろうか。
The European Union Started This Trade War - Foundation for Economic Education

移民問題の解決法

移民問題の解決法
移民政策(immigration policy)を改善する一つの方法は自由貿易。貿易ができれば、人々は外国の資本、製品、サービス、経営ノウハウを自国にいたまま利用できる。わざわざ母国の家族や文化から遠く離れ、慣れない外国で暮らさずに済む。保護主義で物の流入を妨げれば、代わりに人が入ってくるのだ。
4 Ways to Improve Immigration Policy — Without Growing Government | Mises Wire

難民にプログラミング技術を
プログラミングを教えることは、最も価値ある贈り物の一つだ。人が誰かの助けになり、独立して生きることを可能にするのだから。オランダの難民キャンプでプログラミングを学んだ難民の多くは、再び独立した生き方を求めるようになった。
Gijs Corstens, Why We're Teaching Refugees How to Code (2017.5.27)

2つのグローバリズム
グローバリズムという言葉は二つの正反対の意味に使われている。一つは良い経済的グローバリズム(economic globalism)。政府の排除を意味し、技術革新と貿易の自由を促し、人々が自由に協力し合う。もう一つは悪い政治的グローバリズム(political globalism)。政府による支配、規則、中央計画、強制の拡大を意味する。
The Difference Between Good Globalism and Bad Globalism | Mises Wire

市場の「勝者」と「敗者」
自由貿易を行うなら、貿易で得をする「勝者(winners)」が、損をする「敗者(losers)」に補償せよという意見がある。その理屈だと、マクドナルドで食事をする人は地元の食堂に補償しなければならない。就職に成功し「勝者」となった女性は、職にあぶれた「敗者」の男女に補償しなければならない。
Should Those Who Gain from Women Entering the Workforce Compensate the 'Losers'? - Cafe Hayek

資本家より強い消費者

資本家より強い消費者 
資本は生産の手段だから、消費者を満足させなければ価値を持たない。煙草製造機が価値を持つのは、消費者が煙草を買って吸いたがるから。突然煙草に興味をなくせば、製造機はたちまち価値を失う。資本家は消費者の前に無力。消費者は王様で、商品・サービスの価値を左右する。
Is There a Difference Between Economic Power and Political Power? | Mises Wire

消費者に仕える
アマゾンは「消費者主権」を完璧に体現している。これは企業が大きな利益をあげるには、消費者に最良の製品を、一番安い値段で、最善のサービスで提供しなければならないということだ。つまり消費者を市場の王様として扱うということだ。
The Secret to Amazon's Phenomenal Success

わかるのは自分だけ
ある人には家を買うことが正しい選択かもしれないし、他の人には買わないことが正しいかもしれない。しかし何が最善の選択かを決めることができるのは個人だけだ。他人の思考に侵入できない限り、最善の行動を確かめることはできない。
Buying Avocado Toast Is More Prudent than Buying a House

双方が満足なら
取引する双方が幸せになるなら、取引する物の「真の」価値は、取引した事実に比べ、大したことではない。好み、欲求、必要は主観的である。価値観の違いがあるからこそ、人は物を作り、それを取引するのだ。
Eric Clifford Graf, Don Quijote, Man of Free Markets (2017.5.9)

学者になるには

学者になるには
学者になりたい。でも大学で職を得る保証はない。どうする。大学など行かず、なればいい。インターネットを使えば方法は無数。夢を実現したければ、手あかのついた手段にこだわるな。個人と社会の大いなる進歩は、目的(ends)を追求することから始まる。手段(means)に従うことからじゃない。
Want to Be a Scholar? Be a Scholar. You Don't Need Academia's Approval. - Foundation for Economic Education

教員免許はいらない
米アリゾナ州のデュセイ知事(Doug Ducey)は最近、伝統的な学校で教えたことのない個人でも、最低5年の実務経験があれば、公立学校で雇えるとする法律を承認した。すでに認めている数学や理科だけでなく、全科目について経験豊かな人が教師となれる。
Licensing Is Preventing the Best Teachers from Teaching

論理的であるためには
論理的であるためには、注意深く、事実を自分で確かめること。あいまいな表現を避け、完全な文で話し、意思を明確に伝える。論理の目的は物事の真理に到達すること。だから本当に論理的な人(logical person)は、論理は真理に根ざすものであることを忘れず、単なる詭弁のために用いたりしない。
The 10 Habits of Logical People - Foundation for Economic Education

少子化の本当の原因
19世紀後半まで、子供は生産的なので価値があった。仕事をし、技能を身につけ、家族や事業のために働いた。子供は資産(assets)だった。しかし何かの価値を強制的に減らせば、人はそれを作らなくなる。これが〔政府が子供を「保護」するため労働を禁じた〕20世紀に子供に起こったことだ。

企業の責任は利潤追求

企業の責任は利潤追求
企業は利潤追求だけでなく社会的責任(social responsibility)を果たせといわれる。しかし経営者や起業家は責任の内容をどうやって知ることができるのか。株主価値の増大というたった一つの目標でさえ成功は難しいのに、目標が多くなったら失敗は明らかだ。株主に自分の考えを押しつけることにもなる。
Corporate social responsibility vs laissez-faire?, Alberto Mingardi | EconLog | Library of Economics and Liberty

ハゲタカ投資家は悪くない
ハゲタカは醜いが自然界で重要な役割を果たす。動物の死体に巣食う病原体を強い胃液で殺す。同じくヘッジファンドなどハゲタカ投資家(vulture capitalists)も経済において役に立つ。企業再生に取り組み、無理な場合は資産を売却し、人材と資本を非効率な不振事業から効率の良い新事業に再配置する。
Without “Vulture” Capitalists, Our Economy Would Rot - Foundation for Economic Education

敵対的買収って何?
敵対的買収(hostile takeover)というおかしな言葉。株式の売り手と買い手の間に敵対関係などない。真に敵対的なのは会社を食い物にする経営者だ。経営者の報酬が不当に高ければ、乗っ取り屋の出番。有害な経営者を首にし、会社の価値を高める。政府は乗っ取りを規制し、経営者の報酬高騰を嘆く。
Economic Warfare | Mises Institute

インサイダー取引の効用
インサイダー取引者は、私的な情報に基づいて行動し、金融資産の将来価値(future value)を価格に反映させる。相手が自発的に受け入れる価格で資産を売買する。資産の最終価値を損ないもしないし、偽って押し上げもしない。金融市場全体を傷つけもしない。
Insider Trading Should Be Legal

近未来の国家モデル

近未来の国家モデル
自由の賛同者が政府の適切な規模と領域を決める、夢のような世界が存在する。ドナウ川にあり、セルビアもクロアチアも領有権を主張しない島、リベルランドである。ヴィク・イェドリチカ率いるリバタリアンのグループが、2年前に建国した。
Liberland Could Be Liberty's Role Model Society

無税国家への競争
ほぼ無税で規制のない国は実在する。ケイマン諸島(Cayman Islands)をはじめとするカリブ諸国。天然資源がなく、近隣の国と競争する手段は政府の統治。住民を引きつけるには自由を重視し、暴政を控えるしかない。ケイマン諸島には法人税、キャピタルゲイン課税、所得税、売上税、資産税がない。
How To Build a Better Tax Haven | Mises Wire

所得税のなかった国
米国はグラント政権下の1873年、所得税(income tax)を廃止。1894年に一時復活した以外、その後40年近く所得税はなし。この時期、米国は世界一の経済大国に成長する。インフレはなく、政府債務はごくわずか。しかし今は様変わり。ドルの価値は1913年から99%以上減少。世界一の借金大国に。
There Is No "Patriotic Duty" To Pay More Tax | Zero Hedge

合法というだけ
暴力をちらつかせて税金を払えという政府の職員(state agents)と、600ドルの身代金を求めるハッカーの間に道徳的な違いはない。それどころかほとんどの身代金ウイルスは、毎年の税金よりはるかに小さな額しか払わなくてよい。
Hackers Have Better Customer Service Than Governments

賃金は消費者が決める

賃金は消費者が決める
経営者が従業員に払う賃金は、従業員が製品に加える価値より多くはできない。その価値を決めるのは消費者である。もしそれ以上の賃金を払えば経費を売り上げでまかなえず、損失を出し、最後は倒産する。従業員は同時に消費者だから、賃金の多さを決めるのは彼ら自身といえる。
Wages, Unemployment, and Inflation | Mises Wire

社会正義を売り込む
社会起業家とは、まるで普通の起業家に社会的意義がないような奇妙な言葉。ホームレスを雇い、高い賃金を払い続けるには普通の起業家と同じく利潤が必要。それには消費者に社会正義(social justice)の価値を認めさせ、高い代金を払ってもらうこと。つまり社会正義の強調はマーケティング戦略。
Is "Social Entrepreneurship" the Next "Social Justice"? | Mises Wire

「搾取工場」は労働者を救う
グローバル化を巡る議論に欠けているのは、労働者自身の声だ。たしかに中国の工場の労働条件は苛酷で、先進国の我々は決してやりたいと思わないだろう。しかし現地の労働者の考えは違う。彼らはもっと厳しい農村の生活から逃れて来たのだ。
Chelsea Follett, How China's Factories Are Liberating Women (2017.5.27)

アパルトヘイトと最低賃金法
アパルトヘイト時代の南アフリカで、白人労働者で構成する労働組合は最低賃金法(minimum wage law)の制定を政府に働きかけた。狙いは黒人労働者との競争を排除することだった。黒人の賃金率を市場よりも人為的に高く設定することで、黒人失業者を生み出した。
Taxi Unions Are Using Apartheid-Era Tactics to Crush Uber

新聞と真実

新聞と真実
伊大手紙、ベテラン記者を解雇。コラムで今の新聞記事は多くが偽ニュースと書いたため。コラムによれば「大半の新聞が欲しがるのは真実ではなく、スクープ(scoops)。つまり他紙が話題にするニュースだ。もし真のニュースより偽ニュースのほうが話題になるなら、そちらを欲しがる」
Italian Journalist Fired for Saying ‘Newspapers Care Nothing for the Truth’

ジャーナリズムの形
社会が必要としているのは新聞という形式ではなく、ジャーナリズム。これまではジャーナリズムと新聞は、たまたまほとんど同義だった。しかしその偶然が終わるとき、人々は新しい形のジャーナリズムを求める。それは紙かもしれないし、別の形のものかもしれない。
Why Newspapers Are Going Out of Business | Mises Wire

政治の危機なんか怖くない
報道をにぎわす政治の危機とは、権力者の危機にすぎない。社会は危機に陥ってなどいない。市民は政府の介入に妨げられながらも、合意に基づく協力と取引によって日々を送っている。騒いでいるのは政府関係者だけで、普通の人々ではない。
Richard M. Ebeling, The Government's Crisis Is Not Your Crisis (2017.5.26)

戦争の「楽しみ」
大国なら、戦場から遠く離れた国民の多くは戦争で不便を感じず、自国の陸海軍(fleets and armies)の活躍を新聞で気楽に楽しむ。税金が若干高くなってもこの楽しみで十分償われる。戦争が終わると国民は不満になる。各地を征服し、国威を発揚する夢が消えるからだ。アダム・スミス『国富論』より。
Adam Smith on the Glory of War, David Henderson | EconLog | Library of Economics and Liberty

市民を守る最善の方法

市民を守る最善の方法
市民を守る最善の方法は、彼らへの爆撃をやめることだ。欧米に対するテロをなくすには、欧米自身がより大規模なテロに関与しないことだ。人々にこの問題を理解させる最善の方法は、犠牲者の名前を知らせ、単なる数字として扱わないことだ。
Memo to US-led Iraqi coalition: ‘Best way to protect civilians is to stop bombing them’ (2017.5.26)

警察国家への道
マンチェスターでの自爆攻撃(Manchester attack)後、英国がしそうな反応は他の欧州諸国同様、警察権力、監視、反移民政策、中東での軍事攻撃の強化だ。軍事攻撃の対象は本来「イスラム国」(IS)のはずだが、実際はISと戦うシリアなどの軍隊を狙うだろう。
‘Likely response for Manchester attack – more aggression in Mideast, anti-immigrant policies’

過失か故意か
米軍の兵器が中東などで拡散しているのは、国防総省の怠慢なのか、それとも意図的な計画なのか、はっきりしない。政府監査に基づくアムネスティの調査によると、イラクとクウェートで10億ドル分以上の武器や軍装備品が失われている。
Well-Calculated Negligence? Why Pentagon Continues to 'Lose' Arms in War Zones

「国体護持」が和平のカギ
北朝鮮政権はますます緊張を強めている。彼らが恐れるのは、体制変革を狙った米国主導の国際的な陰謀があるのではないかということだ。体制変革は、自分たちの存在を脅かす最悪の脅威である。
'N. Korea impasse unchanged: More military posturing, sanctions to come'

ビットコイン人気の背景

ビットコイン人気の背景
米国は国債のデフォルト(債務不履行)に向かっている。これはビットコインなど仮想通貨の価値を高めているとみられる。仮想通貨は金と同じく、政府や中央銀行の介入にさらされないからだ。通貨危機のときほど仮想通貨の利用は拡大する。
Tho Bishop, How Washington's Reaction to Trump's Budget Justifies the Rise of Bitcoin (2017.5.25)

ビットコインを選んだ理由
なぜ大規模サイバー攻撃を行ったハッカーは、身代金をビットコインで払うよう求めたのか。国家間での外為レートがない。第三者に取引を邪魔されない。利用や送金に上限がない。他の通貨はどれも政府に追跡され、操作され、制限されている。
Government Has Done Nothing Good for Bitcoin

ラスベガスの仮想通貨
ビットコインの発行上限は2100万枚弱で、ラスベガスの社交クラブ「レジェンド・ルーム」は自社で発行する仮想通貨「LGD」の上限を3000枚とする。イエレン(Janet Yellen)米FRB議長やドラギECB総裁にはできない金融引き締めだ。
Hayek and Satoshi Meet in Vegas

中央銀行が生む格差
大銀行もときには破綻する。しかし中央銀行(central banks)はその気になれば、破綻銀行を救済できる。より大きな銀行に吸収させ、さらに大きな銀行を作る。だから大銀行関係者を含む上位1%の超富裕層は中央銀行が好きなのだ。大銀行は中央銀行のマネー操作で潤い、庶民はインフレのしわ寄せを食う。
The Central Bank Effect: The Best Friend of The One Percent

軍事介入が壊したリビア

軍事介入が壊したリビア
誰がリビアをテロリストの拠点や訓練場に変えたのか。「アラブの春」の最中、NATOによるリビアの「解放」をメディアはほめそやしたが、今や破綻国家だ。軍事介入で一番得をしたのは、リビアで勢力を増した「イスラム国」やアルカイダだ。
The Manchester-Libya Connection and the Question That Needs to Be Asked

危険なイデオロギー
9/11のハイジャック犯だけでなく、「イスラム国」兵士やイラク、シリア、イエメンなどでの外国人自爆テロ犯の大半がサウジアラビア出身である。サウジのイデオロギーは、「イスラム国」やアルカイダ、他の同様の集団を作り出す。
America’s cash cow: ‘Trump does not value the Saudis, only their money’

自由の戦士とテロリスト
シリアで虐殺が起こると加害者は自由の戦士とされる。マンチェスター、パリ、ブリュッセル(Manchester or Paris or Brussels)だとテロリストだ。テロの脅威と戦うイラン、ロシア、シリアは悪者にされ、脅威を増幅するサウジ、カタール、クウェート、トルコは持ち上げられる。
Manchester Terrorist Atrocity - Enough Is Enough

イランは悪魔か?
イランは民主的である。ネオコンには残念だろうが、米欧の敵と言われても実際には多元主義と政治的自決を強く擁護している。その統治体制(法学者の統治)がどう思われようと、制裁とデマ情報の中で民主主義を築いてきたことは事実である。
Iran voted Rouhani again – now what? The $350-billion question for Trump

ロシア報道の無知

ロシア報道の無知
聖ワシリイ大聖堂の絵でクレムリンを示す米タイム誌の誤りは、ワシントン記念塔やスミソニアン博物館のイメージでホワイトハウスを暗示するのに似ている。こうした無能、惰性、無知は米欧のロシア報道ではあまりにありふれている。
Sorry, Time, but Putin doesn’t work in a cathedral

特別検察官の過去
特別検察官に任命されたミュラー氏は2001年にFBIの長官になったが、2005年にかけてFBIや司法省は、クリントン財団の資金調達に関連する数多くの法律違反とみられる行為を摘発できなかった。
Past Records Cast a Shadow on US Special Counsel's Inquiry Into Trump

正直すぎる告白
キャスター「米国は外国の選挙に介入したことがあるのですか」ウルジー元CIA長官「ああおそらく……ただ国益のためでしょう」キャスター「でも今はやっていませんよね?」ウルジー「うーんムニャムニャ、正当な理由(good cause)があるときだけですよ。民主主義のためです」。正直すぎる。
Former CIA Chief Admits US Meddling In Foreign Elections "For Their Own Good" | Zero Hedge

欧州支配の機構
米国以外の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、本当は同盟国ではない。衛星国だ。米国の関与がなければNATOは成立しない。トランプ氏は大統領選中、NATOは時代遅れで、米国の安全保障に寄与していないとはっきり述べていた。それは真実だ。
'NATO, an American-made mechanism for geopolitical control of Europe'

イスラムと市場経済

イスラムと市場経済
今日米国のものとされる市場経済の思想は8〜13世紀のイスラム黄金時代に生まれた。中世イスラムの学者は現代のキリスト教徒文化人よりはるかに経済活動と富の蓄積に好意的だった。著名な学者イブン・ハルドゥーンはイスラム法に従い、政府は重税を課してはならないと信じた。
Why the Laffer Curve should really be called the 'Khaldun Curve' - CapX

イスラムの小さな政府
イスラム文明の黄金時代には市場経済が発達し、政府の役割はきわめて小さかった。学校、病院、道路さえも民間の資金でつくられる。大学もすべて民営で、カリキュラムも学位もなかった。大学とは知識を売りたい者が学びたい者に売る場所でしかない。成功は知識への需要次第だ。
Islam and the Discovery of Freedom - Foundation for Economic Education

アラビアンナイトの英雄
千一夜物語で描かれたとおり、イラクのバグダッドは長い間、世界で最も豊かな都市の一つだった。千一夜物語で主人公の多くは商人兼資本家で、富の追求を通じて自分も社会も豊かにする。起業家を英雄として描く東洋の伝統は、企業人がしばしば悪役になる現代西洋とは対象的だ。
The Middle East Shows Free Exchange Is as Old as Civilization - Foundation for Economic Education

イスラムと米国の価値観
調査によると、米国に住むイスラム教徒の多くは米国の価値観を受け入れ、原理主義を拒否し、宗教を超えた友情と愛情を築いている。宗教的理由によるテロに対する反対意見は、一般の米国人以上に多い。最もしばしばテロの犠牲者になるのは、世界中のイスラム教徒だからである。
US Muslims Are Continuing the Long American Tradition of Religious Moderation - Foundation for Economic Education

デフレ心理は誰が起こしたか

日銀が物価目標の達成時期をまた先送りしました。これで6回目です。日銀によれば、物価上昇を妨げているのは「デフレ心理」だといいます。英語圏の報道で deflationary mindset と訳されていることからもわかるように、合理性を無視した、がんこな思い込み(マインドセット)というニュアンスがあります。

黒田東彦総裁によれば、デフレ心理とは、企業や家計に根強く残る「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行」です。例として、企業が「人手不足に見合った賃金上昇をパートなどにとどめる一方で、省力化投資の拡大やビジネスプロセスの見直しにより、賃金コストの上昇を吸収するなどの動き」を挙げています。

しかし、それがデフレ心理だとすれば、別に不合理とは思えません。将来が不透明なとき、人間の行動は慎重になるものです。家計では、厚生年金保険、健康保険、介護保険などの社会保険料負担が今後も増大する見通し。給与所得控除や配偶者控除の縮小で税負担も重くなります。これでは節約志向になるのも当然です。消費者がそうなら、企業もおいそれと価格転嫁できません。

政府支出の膨張にいつまでも切り込まず、社会保険料率の引き上げや増税で乗り切ろうとする政府の安易な姿勢が、国民の不安を募らせています。これがデフレ心理の正体です。そして日銀は、大量の国債買い入れという事実上の財政ファイナンスによって、政府の安易な姿勢を助長しています。つまりデフレ心理の責任の一端は、日銀自身にあるのです。(2017/07/21

よりによってあの国で

よりによってあの国で
中東のテロの多くに影響を及ぼしたワッハーブ派(Wahhabi Islam)誕生の地サウジで、トランプ大統領が過激派やテロとの戦いを話すとは皮肉だ。大統領はイランがテロを支援していると非難したが、イランは「イスラム国」と戦う中東の少数の国の一つである。
'Trump talks about fighting extremism from birthplace of Wahhabism'

政治的都合
トランプ米大統領が真剣なら、演説で「イスラム国」に最も抵抗している両国に言及しただろう。イラク(government of Iraq)とシリアだ。しかし何も言わなかった。イランを最大のテロ支援国として描こうとしたが、その実例を何もあげなかった。
‘Arab NATO’ reserve force to fight terrorism is ‘myth & propaganda’

 (一部の)テロとの戦い
トランプ米大統領が戦いたいと言うイスラムのテロとは、米国の同盟国や関係者、企業を脅かすテロのことだ。サウジアラビアが国家ぐるみで支援するテロではないし、サウジがイエメンで実行するテロ作戦でもない。
Trump talks tough on extremism in Middle East - but it's guns, oil, and money that matter

 「すばらしい仕事」
最も反動的な二つのアラブ国家、サウジアラビアとエジプトは現在、親密な同盟国だ。トランプ米大統領が称賛するエジプトのシシ大統領は、同国初の民主政権をサウジの助けを借りて転覆し、数百人もの抗議者を射殺、数千人を投獄・拷問した。
The Great White Father Comes to Saudi Arabia

国際収支はいらない

国際収支はいらない
経済に対する誤解の根源、国際収支(balance of international payments)。取引相手の所在地に経済的な意味はない。取引主体を国家で分けた結果、重商主義という誤った考えを生んだ。輸出は善、輸入は悪という誤解。アダム・スミスが『国富論』で重商主義の誤りを指摘し、自由貿易を説いたのは240年も前なのに。
Against the Whole Concept and Construction of the Balance of International Payments

貿易赤字は「モノ黒字」
貿易赤字は悪いことのように言われる。しかし「差し引きでモノを多く手に入れたのはどちらか」に着目すれば、貿易赤字とは「モノ黒字(stuff surpluses)」である。米国の対中貿易赤字が年3750億ドルなら、3750億ドルのモノ黒字ということ。それはめでたいことで、中国を非難するのはおかしい。
The 'mercantilist-in-chief' still suffers from upside-down thinking about imports, exports, and trade deficits ('stuff surpluses') - AEI

悪い貿易赤字
政府は国内外の借金先に、国家の「十分な信頼と信用(full faith and credit)」を約束できる。これは将来の税金を担保にすることを意味する。貿易収支の赤字は〔通常は悪いことではないが〕政府の無責任な借り入れと支出によって生み出される場合がある。
Trade Deficits Don’t Matter – Unless Caused by Government

関税と貿易収支
国の貿易収支と経済の豊かさ、関税率(tariff rate)は無関係。シンガポール 、スイス、香港は関税ゼロで大幅な貿易黒字。イタリアとアイルランドはどちらもEU加盟国で低関税、貿易黒字だが、25年前にイタリアの半分だったアイルランドの1人当たりGDPは、今やイタリアの2倍近くに。
Destructive information - Washington Times

官民癒着は儲かる

官民癒着は儲かる
大企業は大きな政府と癒着し、救済、補助金、保護など縁故による不労収入を得ようとする。これは労働と資本の配分を歪め、生活水準を低下させる。犯罪が社会には悪くても犯罪者には良いのと同様、官民癒着(cronyism)は経済に悪くても当事者には良い。
The ROI for Cronyism is Huge

競争は正々堂々と
米ジョージア州は官民癒着に対し断固とした姿勢を示し、政府の資金でタクシー会社を救済することを拒否し、ライドシェア(相乗り)企業の参入の権利を支持した。タクシー業界はサービスでなく政治力でライドシェア企業に勝とうとしていた。
Sorry Crony Cabs, You Have To Compete Just Like Everyone Else

格差を生み出すもの
大きな政府は勝者と敗者を生み出す。企業や業界と仲良くなり、規制で競争を排除し、補助金を与える。勝者と敗者はわかりにくい場合もあるが、勝者は政府と癒着した少数の集団で、敗者は政府への影響力がほとんどかまったくない人々だ。
Patrick Tyrrell, 8 Big-Government Policies That Hurt the Poor (2017.5.23)

特権社会への逆行
今の欧米諸国は前近代に逆戻りしたかのように、自由競争で稼ぐより特権にありつくほうが得だ。経済が停滞し富の格差が広がるのは、特権を求める「レントシーキング(rent-seeking)」が横行するから。政府は職業の許認可や知的財産の特権化でサービスの供給を減らし、一部業者に特権を与える。
How bureaucracy and crony capitalism stifle innovation | Matt Ridley

2018-07-20

自由貿易をかたる保護主義

安倍晋三首相は今月上旬、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉が大枠合意した際、記者会見で「保護主義の動きがある中、自由貿易の旗を掲げる意志を示せた」と強調しました。しかし国内生産者に対する補助金とワンセットなら、自由貿易とは呼べません。

記事によれば、日欧EPA発効に向け、政府・与党は農業対策の策定に入りました。目玉とされるチーズを巡っては、農家に対する現行の交付金にさらに支援額を上乗せする案などが浮上しているそうです。その原資はもちろん国民の税金です。

貿易のメリットとは、安くて品質の良い商品を買う選択肢が広がり、国民の暮らしが豊かになることです。EU産チーズには輸入枠が設定され、そもそもわずかな輸入量しか見込めませんが、国民が享受するそのわずかなメリットさえ、対策費のために税金を取られれば吹き飛んでしまいかねません。

関連記事「未発効TPPは6500億円 」によると、日欧EPAより先にまとまった環太平洋経済連携協定(TPP)は具体的な発効時期が見えていないにもかかわらず、6575億円の対策費が執行段階に入ったそうです。手回しのよさに恐れ入ります。

過去にはもっとすごいのがあります。関連記事にあるように、政府は1993年に合意したウルグアイラウンドによるコメの部分開放などを受け、総事業費6兆100億円もの対策をまとめましたが、全国49カ所の温泉施設の整備費なども紛れ込むという税金のむだ遣いだったのです。

対策費を名目とする税金のばらまきが「自由貿易」の代償だと言われたのでは、自由貿易は立つ瀬がありません。補助金とセットの貿易政策は自由貿易ではありません。自由貿易の名をかたる保護主義です。(2017/07/20

二流の自由

日本国憲法で、基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」(第11条)として守られることになっています。ところが実際には、人権にはしっかり守ってもらえるものと、それなりにしか守ってもらえないものがあります。しっかり守ってもらえるのは精神的自由、それなりにしか守ってもらえないのは経済的自由です。

精神的自由とは思想、信教、言論、出版、学問の自由などです。 一方、経済的自由とは職業選択の自由や財産権です。 憲法の学説や裁判の判例では、自由を制限する法律が違憲かどうかを判断する際、制限されるのが精神的自由の場合は厳しめに判断するけれども、経済的自由の場合は緩やかめでいいとされています。これを「二重の基準」といいます。

「二重の基準」の根拠の一つは、裁判所の審査能力です。裁判所は法律の専門家だけれども、経済問題の専門家ではない。だから専門家である政府の考えを尊重し、経済を規制する法律には原則として合理性があると考え、デフォルトで合憲とみなそう--。やや荒っぽく言えば、そういうことです。

記事によれば、一部医薬品のインターネット販売を禁じる旧薬事法は合憲と判断した東京地裁の判決で、裁判長は「副作用のリスクに照らせば、薬剤師の判断のもとで販売させる規制には相応の合理性がある」と述べたそうです。まさしく、「デフォルトで合憲」の世界です。

しかし、裁判長はあまりに世間知らずではないでしょうか。薬剤師がお客の相手をすれば副作用のリスクは減ると思っているようですが、ネット販売の方が購入者に事前に詳しい質問をすることができ、副作用を防ぎやすいとの指摘もあります。昼時の混んだドラッグストアなどで薬剤師が長時間対応するのは現実に難しいでしょう。そもそも買いに来るのが本人とは限りません。

議員や官僚は裁判官より経済の実務には詳しいかもしれません。しかしだからといって、国民全体のためになる立法をするとは限りません。議員や官僚にとってより大切なのは、後援者の利益や天下り先の確保だからです。基本的人権なのに大切にされない二流の自由。それが経済的自由の現実です。(2017/07/20

共産主義の実現

共産主義の実現
強度の累進税。相続権の廃止。亡命者および反逆者の財産の没収。国家資本および排他的独占をもつ国立銀行(national bank)によって信用を国家の手に集中。すべての児童の公共的無償教育……。先進国でほぼ実現されつつある諸政策。いずれもマルクスとエンゲルスが『共産党宣言』で掲げた目標。
Top 10 Goals in the Communist Manifesto, Accomplished in America | The Daily Bell

共産主義の責任
ナチズムの場合、90歳の元党員の責任が追求される。ところが共産主義は「過ち」でしかない。1960年代、Tシャツに毛沢東やゲバラ(Mao and Che)の顔をプリントする学生がいた。まるでヒトラーの肖像を飾るようなものなのに。彼らは今、自分たちの世代は道徳的に優れていたと子供に教える。
Why Is the EU Celebrating Karl Marx's Birthday? - Foundation for Economic Education

払う価値ある犠牲
スターリンはたまたま怪物になったマルクス主義者ではない。マルクス主義者だから怪物になったのだ。何百万ものソ連国民の死は、農業の集団化、私有農場の廃止、社会主義の実現という目的を達するため払う価値のある代償(price worth paying)と考えた。革命によるテロを肯定したマルクスのように。
Karl Marx is a titan of terror whose communist ideology murdered millions | Daily Mail Online

マルクスはグローバリスト
マルクスはグローバリスト。世界国家(one-world state)を目標とし、民族運動を嫌った。民族や階級による個人の違いはなくなると考えた。マルクスによれば、人間に個人差はない。違いがあるのは教育のせいだ。同じ教育を受けさえすれば愚か者も文豪になれる。この考えは今でも教育界を支配する。
Marx the Globalist | Mises Wire

消費で経済は成長しない

消費で経済は成長しない
経済の進歩とは財産の形を変え、将来、より多くのものを生む何かにすることだ。それには生産的な企業に投資し、消費財の生産高を高めなければならない。消費とは財産の破壊だ。経済繁栄のカギは消費の刺激でなく、貯蓄と投資を促し、将来、より多くの消費を可能にすることだ。
Economic Myths #2 – Consumption Boosts Growth | The Ludwig von Mises Centre

デフレで豊かになろう
経済全体の回復を支えるのは、金融緩和による物価や資産価格の上昇ではない。貨幣を操作せず、起業家が消費者の一番望む分野に資源を振り向けるようにすること。そうすれば物が増えるにつれ物価は下がり、少ない収入でも価値が高まる。一握りの富裕層でなく誰もが豊かになる。
Economic Myths #1 – Rising Prices = Economic Recovery | The Ludwig von Mises Centre

平等の国の現実
かつてソ連の社会主義政府は国民に約束した生産拡大を断念。前年度の失敗した生産計画を小直しし、翌年度に流用。新しいアイデアや革新(new ideas or innovations)はむしろ厄介扱い。中央銀行の最大の仕事は破綻企業の救済。経済計画は事業の成功でなく、失敗を組み込む。独裁者以外の国民は等しく絶望。
Socialism Always Ends in Disaster - Gold Telegraph

国家が崩壊する理由
国家は貨幣や資源の不足で破綻することはない。国家が崩壊するのは、大胆な資本投下によって実体経済を活気づける投資家が、資本を他の国に移してしまうからだ。投資家が逃げ去るのは、たいてい腐敗した政府のせいである。
John Tamny, Crossing the Congo Is a Journey Across Hell on Earth (2017.5.21)

2018-07-19

政府の「市場ごっこ」

政府の「市場ごっこ」
官僚が定める価格や手数料は、実際の市場価格と違い、人を慎重に行動させる強い動機にならないし、〔市場から〕多くの情報を得ることもできない。税や公定手数料を巡る政治的争いは避けられず、結果は経済合理性(economic rationality)からかけ離れたものになる。
Why Environmentalists Need to Understand Economics

民間人登用の限界
官庁の部門の長にビジネスマンを任命し、改革を唱えるのは無駄である。企業家の素質が本来備わるのは、人格(personality)ではなく、市場社会の枠組みに占める地位である。政府機関で働く元企業家は、もはやビジネスマンではなく、官僚である。
Why Businessmen Fail at Government

政府に「顧客サービス」は無理
政府の運営方法は企業とは違う。政府機関は、事業にとどまれるよう消費者の需要(consumer demand)を満足させるという難しいテストを受けなくてよい。競争は禁止されている。消費者が満足しているかどうかを判断する手段がない。
Government Agencies Don’t Offer “Customer Service”

社会保険は保険ではない
一部の加入者が保険をかけたくない状況、それどころか決して適用されない一定の偶発事象(男性の妊娠費用など)まで広くカバーするよう保険に求めると、保険制度を過大な保険料と相互補助(cross-subsidies)の複雑なシステム、つまり福祉制度に変えてしまう。
Whatever You Call This Health Care Mess, It's Not Insurance

社会主義という不正義

社会主義という不正義
社会主義の最大の売り、それは経済的平等(economic equality)の約束。イデオロギーにうぶな多くの人々は、それをすばらしい正義だと信じる。しかし現実には、個人の才能や環境は千差万別。この違いを無視して政府の力で経済的平等を実現するという思想ほど、不公正で罪作りなものなはい。
Economic Equality—Socialism’s Unattainable, Undesirable Pie in the Sky

社会主義は道徳を破壊する
社会主義は暴力によって支えられているだけでなく、道徳的に腐敗している。 嘘、盗み、監視が横行し、人間どうしの信頼は消え失せる。 人々の絆(brotherhood)を育むどころか、あらゆる人々を疑い深く、怒りっぽくする。
Under Socialism, Morality Is Scarcer than Bread

人にやさしい政策
独占企業の国有化。小売大手の公有化。福祉目的の土地収用。不動産投機の禁止。教育制度の拡大。学校の無料化と奨学金・教育補助金の充実。環境保護と国民の健康増進。いいね! 政府の新しい政策パッケージ? いいや、国家社会主義ドイツ労働者党、別名ナチ党(Nazi Party)の1941年綱領。
The Demands of Antifa and the Original Fascists Have a Lot in Common - Foundation for Economic Education

ベネズエラの教訓
若者はひどく理想主義的で、社会主義の甘いささやき(siren call)にとらわれやすい。米国の不完全な市場経済と民主主義を見て、ベネズエラのような社会主義国はより良い生活を送らせてくれると思い込む。しかしそれは誤りだとベネズエラの人々は気づいた。
What Venezuela Can Teach Young Socialists

2018-07-18

雇用の強制

雇用の強制
政府、骨太方針で「65歳以上を一律に高齢者と見るのは、もはや現実的ではない」。企業が本当に自らの意思で高齢者を雇うのなら結構。しかし事実上の強制は明らか。企業は代わりに若者を雇わなくなり、世代間の感情対立が激化。生産性が落ちて高齢者自身も貧しくなるでしょう。
浮上する「70歳定年制」: 日本経済新聞

誰が小学生を殺したか
大阪北部地震で女児らが犠牲になった小学校のブロック塀倒壊。異様に高かった道路からの高さ。耐震規制の対象は校舎や体育館のみ。学校は安全のためブロック塀下の通路を通るよう指導。これは危険な公道という欠陥商品を放置した行政のしわ寄せ。民間なら即アウトの案件続々。
倒壊のブロック塀「通学路から非常に高く危険」 | NHKニュース

仮想通貨の暗鬱な未来
仮想通貨で自主規制案。匿名性の高い通貨を排除。仮想通貨の魅力の一つである財産のプライバシーが消滅。交換会社は人員増やシステム投資が必要に。財務が強固な大手でなければ事実上操業困難で、スタートアップは参入できず。輝かしく見えた仮想通貨は一転平凡な規制業種に。
仮想通貨 顧客保護へ一歩 自主規制案 追跡不能な通貨排除 交換会社淘汰へ:日本経済新聞

公正は不公正
企業に投資する目的の一つは技術の習得であるはず。ところが米トランプ政権は中国企業による投資を「不公正(unfair)」と非難し規制へ。政府は言葉の意味など気にしません。シェイクスピア「マクベス」の魔女のように、公正(fair)なものも違反(foul)と呼んで平気です。
対中制裁「次は投資規制」 米通商代表、月内に発表:日本経済新聞

チーズはどこへ消えた?

先日、日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)で大枠合意した際、「政治的事情に基づいて、政府が関税や輸入制限など多数の規制をかけるようでは、とても胸を張って自由貿易とは呼べません」と辛口のコメントをしました。その見方は間違っていなかったようです。

今回の記事にあるように、EU産チーズは主に29.8~40%の関税がかかっていますが、大枠合意では低関税輸入枠をつくります。税率を段階的に引き下げて16年目にゼロにし、枠の数量は2万トンから16年目に3万1千トンまで引き上げます。対象はモッツァレラなどソフト系チーズです。

しかし消費者への恩恵は限られそうだと記事は指摘します。枠を超えた分は今の高関税が残るうえ、そもそも3万1千トンという輸入枠自体、チーズ全体の消費量の7%(想定ベース)にすぎないからです。安くふんだんに手に入ると思っていた欧州産チーズがどこに行っても見当たらず、困惑する消費者の姿が目に浮かびます。

今回の大枠合意は、チェダーなどハード系チーズの関税撤廃に応じる代わりにソフト系の関税を一定程度残した環太平洋経済連携協定(TPP)との「バランス」も考慮されたそうです。本当の自由貿易なら、消費者はそのような政治判断に基づいてチーズを選んだりしません。

日欧EPAの目玉とされるチーズですら、その実情はこうなのですから、他は推して知るべしでしょう。とても米国の保護主義を上から目線で批判する資格はありません。もっと立派な「自由貿易の旗」を掲げてもらいたいものです。(2017/07/18

政対官の八百長

政対官の八百長
首相周辺に仕える官邸官僚の力増す。各省が競って人員を送り、内閣官房の定員は2001年3月末の約370人から18年3月末には約3倍の約1120人に膨張。「政治家対官僚」という対立の構図はしょせん八百長。政治家も官僚も権限と予算の拡大が大好きで、ぐるになり国民の自由を奪う。
(政と官 ゆがむ統治)(2)官邸官僚増殖、しぼむ改革論:日本経済新聞

政府は未来を予測できるか
東京都、マンション規制が議論に。これまで本格的な規制に踏み込めなかったのは、都心で住宅がどの程度必要なのか目標が定まらなかったためだとか。それはそうでしょう。どんなに優れた官僚集団も、消費者が将来何をどれだけ必要とするか、正しく予測することはできません。
東京都心、手探りのマンション規制(真相深層):日本経済新聞

税金でキャッシュレス
政府、中小小売店や飲食店のキャッシュレス化支援へ端末配布やポイント補助案。消費増税による消費者の負担を和らげる狙い。でも端末やポイント補助の原資は結局税金。店舗側も税務署に売上が筒抜けになる脱現金をどこまで進めたいか疑問。蜘蛛の巣の張った端末が目に浮かぶ。
中小の小売店や飲食店、キャッシュレス化支援 政府:日本経済新聞

シェア禁止の世界
通信の自由侵害の懸念をよそに、政府有識者会議が海賊版サイト規制へ検討着手。家や車は所有者が自由にシェアできるのに、著作権の名の下に許されない本の世界。いつもは反権力を気取る出版業界から「早く規制を」と期待の声。海賊たちの冒険物語が許されるのは漫画の中だけ。
海賊版サイト遮断に期待と懸念 法整備の議論始動:日本経済新聞

規制は暴政

規制は暴政
収入を補助するだけでは貧困対策にならない。政府の規制は生活コストを押し上げる。都市計画(zoning laws and urban growth boundaries)で住宅は値上がりする。規制で保育費が高くなる。農業政策で食料が値上がりする。再生可能エネルギーへの補助政策は物価を押し上げる。ライドシェアへの規制で移動コストが高くなる。
The War On The Poor Has Many Fronts And Armies, Professor Krugman | Cato @ Liberty

移民規制は地方に任せよ
米議会で審議中の新移民法案は、就労ビザの規制を各州に委ねる。連邦政府は引き続き入国審査と保安検査を担当するものの、州が移民の身元を確認し、州内での活動を規制する。全米共通で画一的な移民法は役に立っていない。連邦政府は各州に就労ビザの規制を任せてみるべきだ。連邦制度で現在各州は教育、福祉、麻薬政策を実験的に委ねられ、成功を収めている。新移民法案はそれらの実験に移民政策を加えるものだ。
Alex Nowrasteh, The States Should Decide Who Gets a Visa

次はナイフ規制?
ロンドンの1〜3月殺人件数、ニューヨークに並ぶ。銃規制で殺人が減るという通説が正しいなら、ありえない事態。英国は1920年代以前、銃規制がなかったにもかかわらず、殺人発生率は低かった。最近はナイフによる殺人事件が増加。ついにキッチンナイフ(kitchen knives)の規制を求める声も。
London Homicides Now Matching Those in NYC | Mises Institute

規制より厳しい措置を
「規制(regulations)を歓迎」とフェイスブックのザッカーバーグCEO。それは政府への迎合でなく本音。市場で会社の地位を守るには競争を制限するほうが楽だから。挑戦するベンチャーは資本力が弱く、規制の重荷に耐えきれない。フェイスブックの支配を許したくないなら、自由競争が最善。
Don't Regulate Facebook — That's What Zuckerberg Wants | Mises Wire

2018-07-17

民泊新法で民泊滅ぶ

民泊新法で民泊滅ぶ
民泊撤退ビジネスにぎわう。民泊をやめた物件を借り上げ月決め賃貸マンションにする「撤退110番」。中古家具がまとめて出品された個人間売買サイトの「民泊撤退セール」。民泊新法による煩雑な手続きやコスト増で継続断念相次ぐ。「透明な市場づくり」が招いた皮肉な光景。
民泊「撤退」ビジネスにぎわう 会議室転用や家具処分:日本経済新聞

自由なき解禁
民泊新法の施行でエアビーの掲載停止相次ぐ。掲載中の約2万件に対し停止中が約12万件。要件満たさないと刑事罰もあり、副業解禁のかけ声と裏腹にサラリーマンの民泊経営は困難に。料金トラブルや近隣住民とのトラブルなど民間で解決可能な問題にかこつけた規制がつぶす未来。
民泊で小遣い稼ぎ 要件満たさないと刑事罰も|マネー研究所|NIKKEI STYLE

民泊規制の町
個人の民泊断念相次ぐ。「家主不在は1時間まで」など自治体の厳しい規制が障害に。それでも中央政府による全国規制よりはましです。人は規制のメリットとデメリットを比べ、差し引きでメリットの大きな町に住むことを選び、デメリットの大きな町を敬遠し、立ち去るでしょう。
個人の民泊、規制が障壁 「家主不在は1時間まで」: 日本経済新聞

価格競争は善
民泊、6月解禁でホテルの価格競争促す。営業日数など制約は多いものの、既存ホテルの足元を揺るがす。価格競争はホテル従業員に低賃金を強いる? 人々の宿泊費が下がれば、節約したお金が投資から生産に回り、生活コストを安く。それは賃金の下がったホテル従業員も助けます。
民泊、価格競争促す ホテル宿泊料9%減:日本経済新聞

著作権は何のため

著作権法第1条には同法の目的がこううたわれています。「この法律は〔略〕文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする」。しかし本当に「文化の発展に寄与」しているのか、疑問に思うときがあります。

著作権を法律で定める理由として、こんな説明がされます。音楽や小説、絵画といった著作物は自然に生まれるものではなく、著作者が労力をかけて創作するものである。創作した著作物が利用されるときに正当な対価を得られることは、創作に携わる人の創作活動や暮らしを支えるために大切だ。次の世代が創作を志す意欲にもつながる--。

一見もっともらしいのですが、考えてみると奇妙です。著作権の保護に関する法律が欧州で初めて作られたのは、せいぜい18世紀から19世紀にかけてのことです。つまり、それ以前の芸術家や文学者は著作権法で保護してもらえませんでした。

アイスキュロス、シェイクスピア、ミルトンといった文学者も、バッハ、モーツァルト、ベートーベンなどの作曲家も、ダ・ビンチ、レンブラント、ゴッホといった画家も、その創作物は著作権法で守ってはもらえませんでした。それにもかかわらず、旺盛な創作意欲で、後世の私たちにすばらしい作品の数々を遺してくれたのです。

芸術家には貧しさに苦しんだ人もいますが、誰もがそうだったわけではありません。シェイクスピアは故郷で大きな屋敷を買うほど金持ちになりました。戯曲を出版して稼いだからではありません。人気劇団の株主だったからです(河合祥一郎『シェイクスピアの正体』、新潮文庫)。

ひるがえって現代。記事にあるように、音楽教室での先生や生徒の演奏について著作権使用料を徴収するという日本音楽著作権協会(JASRAC)の決定が波紋を広げています。同協会の運営方針の是非だけでなく、著作権制度そのものを問い直すときに来ているのかもしれません。(2017/07/17

学校が子供を苦しめる

学校が子供を苦しめる
ある研究者によると、注意欠如・多動性障害(ADHD)と呼ばれた子供たちの行動、気分、学習は、旧来型の通学をやめると全般に改善した。アンスクーリング(unschooling)のように子供が自分の学習をコントロールできる場合、結果は特に良好だった。
Is School Driving Kids Literally Crazy?

学習の自由、学校の不自由
写真家アンセル・アダムスの父は息子が12歳のとき、なじめない学校をやめさせ、自宅学習に変更。好きなことを自由に学ばせた。国際博覧会のパスを渡し、「お前の学校だ」。息子は家族で訪れたヨセミテ渓谷(Yosemite Valley)に魅せられ、写真を撮り始める。創造力は自由で花開き、強制でしぼむ。
Ansel Adams Was Unschooled (How to Solve America's Creativity Crisis) - Foundation for Economic Education

さらば学歴競争
労働市場における大卒者の価値は、仕事に役立たない専攻科目ではなく、辛抱して卒業した事実にある。経済学者のいうシグナリング(signaling)効果だ。これは果てしない学歴競争につながり、社会にとって大いなる浪費である。学校教育中心の社会はもういらない。職業現場の訓練を見直そう。
What’s College Good For? - The Atlantic

大学以外の選択
経営者はたしかに大学の序列を気にするが、それは企業価値を生む人材の目安として便利だからにすぎない。知的職業に就く準備をするため、大人として最初の4年を大学で過ごすのが最善とは限らないし、価値創造能力を示す唯一の道でもない。まずは自分のウェブサイトを作ろう。
Best Alternative to College: Launch Your Career Now - Foundation for Economic Education

2018-07-16

物価安を素直に喜ぼう

物が安く買えるのは、うれしいものです。ところが今の日本は、この素直な気持ちを口に出すのがはばかられるような空気があります。「デフレ脱却」がお国の目標として掲げられているからです。物価安を無邪気に喜ぶのは、経済に無知な証拠なのでしょうか。

政府・日銀はデフレから早く脱却しなければならないと主張してきました。デフレとは物価が持続的に下がることです。日銀は4年前に物価2%上昇の目標を掲げ、量的金融緩和やマイナス金利など前例のない政策を動員してきましたが、当初期限としていた2年を大幅に過ぎた今も、達成のメドすら立っていません。

そもそもデフレはなぜ良くないのでしょう。政府・日銀によれば、経済成長を妨げるからだといいます。たしかに1930年代米国の大恐慌など、デフレと経済の縮小が同時に起こったこともあります。しかし他の国や時期を見ると、むしろそうでない場合が多いのです。

国際決済銀行(BIS)が2015年3月に公表した報告書によれば、38カ国・地域について1870年までさかのぼって調査した結果、デフレ時に経済成長率が大きく低下したのは大恐慌のときだけだったそうです。

もしそうだとすれば、これまでさまざまな副作用を伴いながら推し進めてきたデフレ対策はいったい何だったのかという話になりますが、それはここでは立ち入りません。少なくとも、物を安く買うことに後ろめたさを感じなくてよいことは確かです。

記事によると、ガソリンや航空機の燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)に原油安の恩恵が広がり、値下がりしているそうです。あなたが日銀総裁でなければ、渋い顔などする必要はありません。物価安を素直に喜び、夏を思い切り楽しみましょう。(2017/07/16

経済統計は政府の仕事か?

国内総生産(GDP)、失業率、物価指数--。政府はさまざまな経済統計を定期的に集計・公表し、世間はそれを当然のように受け止めています。しかし経済統計の作成とは、そもそも政府がやるべき仕事なのでしょうか。

経済統計というと、政治的に中立な無味乾燥なデータというイメージがあるかもしれません。しかしそれは違います。いずれもはっきりした政治の意図によって生み出されたものです。一言でいえば、経済政策の正当化です。

経済統計の歴史はそれほど古くありません。GDPの前身である国民所得が米国で普及したきっかけは、1930年代の大恐慌でした。のちにノーベル賞を受賞する経済学者クズネッツがルーズベルト政権の求めで国民所得を試算し、報告書にまとめたところ、大恐慌の始まった1929年から1932年までの間に半減したことが明らかになったのです。

この衝撃的な報告書は市販され、不況にもかかわらずベストセラーになりました。ルーズベルト大統領はこのデータを追い風に、公共事業を柱とするニューディール政策を推し進めたのです。しかし、公共事業が不況克服に役立ったかどうかは、経済学者の間で議論が分かれます。

政府にとって、統計は政策を正当化する口実にすぎません。だから定義を自分に都合よく変えることもあります。

クズネッツは国民所得に政府支出を含めませんでした。軍事費や経済活動の前提にすぎないインフラ整備費は、国民の豊かさを測るにはふさわしくないと考えたからです。しかし公共事業を拡大し、第二次世界大戦に向けて軍備を強化していたルーズベルト政権は、それでは都合が悪いので、政府支出を加えました(ダイアン・コイル『GDP』、みすず書房)。

この名残で、今でもGDPには政府支出が含まれます。だからどう見ても無駄な公共事業でも、GDPに計上されて経済成長率が高まったことになるのです。

記事によると、GDPを集計する内閣府ではエコノミスト不足に悩んでいるそうです。しかし最近は民間に膨大なビッグデータが蓄積され、政府の統計よりも役立つ分析がいくらでもできます。政府がわざわざ税金を使って経済統計を作成すること自体、考え直すときではないでしょうか。(2017/07/16

現金廃止論の矛盾

現金廃止論の矛盾
現金は犯罪者が利用するから廃止せよといわれる。しかし紙クリップや歩道、弁護士だって犯罪者に使われるが、誰も廃止せよとはいわない。資金洗浄(money laundering)やテロ支援に一番利用されるのは銀行で、二番目は会計事務所。現金は三番目にすぎない。なぜ銀行や会計事務所を廃止しないのか。
The War on Cash Is Even Worse than It Seems | Mises Wire

現金放逐への懐疑
キャッシュレス先進国のスウェーデンで懐疑論。世論調査で70%近くが現金を選択肢に残すのに賛成。「通貨が完全にデジタル化されたら、システムを止められたとき自分を守る術がない」と反対派。他国に侵略されるリスクに加え、自国政府がいつも割合善良(benign)である保証はない。
'Being cash-free puts us at risk of attack': Swedes turn against cashlessness | World news | The Guardian

現金は監視されない
日本とともに現金使用率の高いドイツ。キャッシュレス化に反対する議員(緑の党)は「現金は監視されないから」。ナチスと東ドイツの恐怖政治の記憶が背景に。資金洗浄に悪用されるとの意見には、だからといって現金を廃止するのは「小鳥を撃つのに大砲(cannon)を使うようなもの」。
Germany Is Still Obsessed With Cash - Bloomberg

現金廃止で起こること
現金廃止で起こること。⑴経済のプライバシーが危うくなる。政府が銀行に顧客の身元確認や取引記録の提供を求めれば、丸裸にされる⑵マイナス金利による法に基づかない課税から逃れられなくなる⑶現金取引に頼る中小事業者に不便を強い、取引コストの上昇で貧困層を苦しめる。
The Curse of the War on Cash | Cato Institute

2018-07-15

お金は市場が育む

私たちは子供の頃から、お金は政府が発行するから信頼され、通用するのだと教えられてきました。しかしそれは正しくありません。

人類の歴史上、長らくお金として使われた金(きん)は、政府が作ったものではありません。他の金属や布、穀物などもお金として一時使われましたが、金が一番愛用され、最後に残りました。お金は市場が生み、競争によって育まれたのです。

政府・中央銀行が発行する紙幣は、金との引換券にすぎませんでした。この仕組みを金本位制といいます。金本位制は1971年のニクソン・ショックまで続きました。つまり、お金が政府の権威以外に何の裏付けもない紙切れ(不換紙幣)になってから、まだ50年も経っていません。

そして今、市場がお金を育む時代が、再びやって来ようとしています。仮想通貨の隆盛です。民間で発行されたさまざまなお金がしのぎを削る姿は、少し前まで想像もしなかったものです。記事が伝える激しい値動きや、発行方針の対立による分裂の危機に不安を感じる人も少なくないでしょう。

しかしだからといって、政府に仮想通貨の規制や「ルール」の整備を求めるのは正しくないでしょう。政府が市場経済を規制してうまくいったためしはないからです。政府自身、わずか半世紀足らずの不換紙幣の時代に大量のお金を刷りまくり、その価値をおとしめたことを思えばなおさらです。

経済学者ハイエクはニクソン・ショックの5年後、市場競争は「政府がこれまで生みだしてきたよりも良い貨幣を生みだすように思われる」(『貨幣論集』春秋社)と述べています。仮想通貨の時代は始まったばかり。目先の動きに一喜一憂せず、その進化を見守りたいものです。(2017/07/15

2018-07-14

資本主義は女性にやさしい

資本主義は女性にやさしい
フェミニズムは男性上位(patriarchy)を資本主義や欧米社会と結びつけたがる。実際には資本主義の発達した国ほど女性差別は少ない。女性差別の少ない上位20カ国のうち19カ国は欧米諸国(1カ国はシンガポール)。女性差別の多い20カ国のうち15カ国はイスラム諸国、5カ国はアフリカ諸国だ。
Western Capitalist Countries are the Best Places to be Born a Woman | Mises Wire

女性を解放する資本主義
世界中のどの個人も他人と同じではない。この違いのおかげで、人はそれぞれ最も素質と関心のある分野に専念できる。資本主義の下ではこの分業が高度に発達する。その結果、女性は伝統的な家事から解放された。男女の心身の違いを法律で否定しようとせず、違うことを楽しもう。
The Liberation of Women | Mises Wire

資本主義は共感を育む
資本主義は弱肉強食ではない。むしろ共産主義社会のほうが他人を気にかけない。資本主義は共感の範囲を他人に広げる。誰もがある日、友人になりうる。ビジネスを行うにはよそ者を信用しなければならない。だから資本主義が発達するほど見知らぬ人への共感と利他主義が強まる。
https://fee.org/articles/people-are-less-selfish-under-capitalism/

愛される資本主義
マクドナルドは世界で毎日6800万人のお客があり、200万人近い従業員が働く。英国で従業員の平均年齢は20歳で、うち43%は21歳以下。多くの人々が初めて働く職場の一つだ。大きな富をもたらし、若者には次の仕事への足がかり(stepping stones)ともなっている。自由な資本主義が若い起業家を生む。
Millennial entrepreneurs understand the power of profit - CapX

2018-07-13

庶民を苦しめる安売り規制

政治家はよく、政治は庶民や貧しい人の味方だと大見得を切ります。しかしもしそれが本当なら、どうして安売りを禁じ、庶民や貧しい人を苦しめるような規制を行うのでしょうか。

記事によれば、1~6月のビール系飲料(ビール、発泡酒、第三のビール)の課税済み出荷量は、前年同期比1.3%減の1億9025万ケースでした。原因は、6月に施行された酒類の安売り規制でビール系飲料の小売価格が大幅に上昇したことです。

今回の規制は、大手量販店などの安売り攻勢に苦しむ中小の酒店を守るため、自民党の「街の酒屋さんを守る国会議員の会」が中心となり、昨年の参院選直前に議員立法で実現させたものです。つまりは選挙対策です。

量販店などとの競争で中小の酒店の多くが経営不振に陥っていることは事実でしょう。しかしだからといって、政府が市場に介入し、量販店などに安売りをやめさせれば、安価な発泡酒や第三のビールを楽しむ庶民や貧困層の暮らしが苦しくなります。

中小酒店の経営も苦しいかもしれません。しかし自分が苦しいからといって、他人を犠牲にして自分が救われていいということにはなりません。

政治家はよく、市場原理は庶民や貧しい人を不幸にすると言います。しかし不幸にするのは市場原理ではありません。市場原理を無視した政治です。(2017/07/13

人道的介入の偽善

人道的介入の偽善
シリアのアサド政権に対する攻撃が人道的に不可欠なら、なぜ米国はサウジアラビアがイエメンの子供を飢えさせるのを助けるのか。人道的介入という善意はリビアを混乱に陥れ、イスラム原理主義をはびこらせた。ウクライナへの介入の結果内戦となり、米ロの不吉な対立を招いた。
The Humanitarian Trap | The American Conservative

軍事行動のコスト
トランプ米大統領は、化学兵器の使用に「何かしたい」と考え、シリアの空軍基地に巡航ミサイルを59発打ち込んだ(費用は8900万ドル)。空爆はせいぜい象徴的な意味しかなかったが、確かなことが一つ。軍事行動のコストは膨大だ。
The American Way of War Is a Budget-Breaker

意図とは逆の結果
アフガン、イラク、シリアなどでの壮絶な軍事行動は、意図とは逆の結果をもたらしている。「テロとの戦い」の目的が欧米でテロをなくすことだったとすれば、完全な失敗とみなさなければならない。英仏独など欧州全域でテロは拡大している。
The ‘War On Terrorism’ Isn’t Working

軍事介入政策の帰結
欧米は中東で他国民を攻撃し、血生臭い混乱を起こしている。自業自得の事態(blowback)を招いてもおかしくない。欧米は自分の外交政策についてよく考えなければならない。シリア、リビア、イラク、アフガニスタンなどの争乱になぜ関わる必要があるのか。
Manchester Arena attack: ‘We caused bloody chaos, not surprising there’s blowback’

2018-07-12

ロボットは仕事を奪わない

ロボットは仕事を奪わない
今ある職業の半分以上は、20年前には知られてさえいなかった。140年間以上のデータによれば、技術は破壊するより多くの雇用を生み出す。高い技能を必要としない仕事が消え去るとは嘘で、他の仕事が生まれる。技術が取って代わるのは、最もつまらなくて危険できつい仕事だ。
Robots Do Not Destroy Employment, Politicians Do | Mises Wire

知識人の本音
知識人(intellectuals)は進歩が嫌いだ。自称「進歩派」の知識人ほどそうだ。進歩の成果が嫌いなわけではない。その証拠に、大半の評論家やその支持者は筆と墨ではなくPCを使うし、麻酔抜きの手術など望まない。彼ら口舌の徒が嫌いなのは、人間は自分で世界を理解し良くできるという考えだ。
Quotation of the Day... - Cafe Hayek

再分配はいらない
機械の所有者が富の再分配(redistribution)に反対すれば、ほとんどの人がひどい貧困に陥るだろうと述べた、故ホーキング博士。しかし機械の所有者が富を手にするのは、人々が求める物を機械によって安く作り、売るから。だとすれば人々は貧困に陥るのでなく、むしろ豊かになるはず。
It Doesn't Take a Genius to Understand Economics | Mises Institute

国家の嘘
政府の言葉に要注意。企業は商品を「投げ売り(dump)」しない。消費者が欲しい値段で売る。品不足の際、企業は「便乗値上げ(price gouge)」しない。需給に応じた値を付ける。公共事業は「雇用創出(create jobs)」しない。民間で生まれるはずだった雇用を減らす。ニーチェいわく、国家が何を語ってもそれは嘘だ。
Statism’s First Casualty Is the Truthful Use of Language

転売ヤーは許せない?

歴史上、商人はしばしば不当に軽蔑・差別されました。アリストテレスは利潤目的の商業を非難に値する職業と述べましたし、荻生徂徠は商人を「骨折らずして、坐して利を儲(もうく)る者」と批判しました。農民と違い、商品を右から左に動かすだけで労せずして利益を得る、非生産的な存在として憎まれたのです。

今でもこの時代錯誤な偏見は消えていません。よく非難の対象になるのは、「転売屋」「転売ヤー」とさげすまれる、コンサートやイベントのチケットを転売する企業や個人です。記事によると、総務省とぴあは2018年にも、マイナンバーカードの認証機能を使ってチケットの高額転売を防ぐ新システムを稼働するそうです。このニュースに対し、SNSでは人々が「転売屋完全終了」「転売屋ざまぁ」などと快哉を叫んでいます。

とても市場経済の国とは思えません。チケットの転売は、それがいくら高値であろうとも、違法ではありません。違法でない限り、当事者の自由に委ねるのが市場経済の鉄則です。コンサートなどの主催者が正規の購入者以外の入場を禁止するのは勝手ですが、それに政府が肩入れするのはおかしなことです。

音楽業界の中には「チケットはアーティストがかかわる特殊な商品」と言い、だから高値転売は許せないと憤る人がいます。しかしゴッホやモディリアーニの絵画だって、「発売」当初をはるかに上回る値段で取引されています。それが画家をおとしめることにはならないでしょう。

安く入手した商品を高く転売することは、いつの時代も一定の人々にとって不道徳で許しがたい行為なのかもしれません。しかしもしそうなら、自分が転売を利用しなければいいだけの話です。自由を許さない、不寛容で息苦しい社会では、やがて文化そのものがやせ細ってしまうでしょう。(2017/07/12

経済はグラフで表せない

経済はグラフで表せない
現実の経済はあまりに複雑で、単純な需給曲線では正しく表現できない。グラフは不確実性や起業家の思惑、市場の絶え間ない変化を考慮しない。ところが政府や中央銀行はその単純な枠組みに基づき、さまざまな政策を立案する。そしていつも現実の経済が予想外の動きをして驚く。

主流経済学の落とし穴
現在主流の新古典派経済学は19世紀物理学の模倣である。エネルギーの概念を効用に置き換え、浪費の最小化という同じ原理を当てはめる。そして資本主義の「無駄」をなくそうとする。しかし現実には経済を取り巻く資源や技術は一定ではなく、起業家の創造により絶えず変化する。
Four Hundred Years of Dynamic Efficiency | Mises Institute

経済学と物理学
人間はロケットを宇宙に送ることに成功したが、経済政策は有害無益のまま。人間は分子と違い経験から学ぶので、政策に対する反応は時とともに変化する。経済学は物理学とは異なる。人間はロケットを操作できても、人間を操作することはできない。それが経済学の教える原理だ。
Economics Is Not Rocket Science — It's Even More Complicated | Mises Wire

迷走する擬似科学
主流のマクロ経済学には深い欠陥があり、〔ポール・ローマーなど〕マクロ経済学者の一部ですらそれを認め始めている。その特徴は非常識なほど過度の集計、とっぴな政策提言、現実の人間に関係あるとは思えない高度な数学モデルなどだ。
3 Ways the Critics Get Praxeology Wrong

2018-07-11

自由が特権になる国

日本国憲法第22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」として、経済の自由を保障しています。「公共の福祉」による制限がどこまで認められるかは議論があるものの、間違いなくいえるのは、「自由が原則、制限は例外」ということです。

ところが日本の現実を見ていると、まるで逆に「制限が原則、自由は例外」であるかのような錯覚にとらわれることがあります。その典型が、地域を限定して規制緩和を進める「国家戦略特区」です。

加計学園問題では、特区の枠組みで同学園のみ獣医学部新設が認められたプロセスが不透明だと野党側は批判し、政府はこれを否定します。しかしそもそもこのような問題が起こるのは、教育、医療、農業といった分野を中心に規制の蔓延を許し、例外的にしか経済の自由を認めていないからです。

特定の分野とはいえ、規制が当然視され、自由がある種の特権になってしまっているともいえます。特権は必ず政治的腐敗の温床になります。

加計問題をきっかけに規制緩和を悪者扱いする風潮には、危うさを感じます。大切なのは、自由が特権になってしまっている日本のおかしな現状に気づくことです。(2017/07/11

2018-07-10

人災としての河川氾濫

天災にはたいてい、人災の側面があります。しかも皮肉なことに、災害から国民を守るはずの政府が原因であることが少なくありません。九州北部を襲った豪雨災害も例外ではなかったようです。

記事によると、今回、福岡、大分両県を襲った記録的豪雨に伴う河川の氾濫は、2012年の「九州北部豪雨」と同じく、流倒木が川をせき止めたことが原因となりました。流倒木の多くはスギです。針葉樹のスギは根の張り方が広葉樹より浅く保水力が低いとされ、大雨が降ると山の表層ごと崩落します。

これらのスギは自然に生えたものではありません。スギの植林は戦後の国策でした。木材需要の増加を見越し、政府が補助金を出して山主に植林を推奨したのです。その結果、針葉樹林が全国各地に広がりました。

ところがその後、安い輸入材との競争が厳しくなり、日本の林業は衰退。森林の多くが間伐されないまま放置され、これも山の地表が崩れやすい要因になりました。

国土交通省の九州地方整備局や福岡県は5年前の豪雨災害後、川幅拡幅や川底掘削など公共工事で対応を進めていますが、いまだに完成されていない場所が多いそうです。「想定外」の豪雨に工事だけで対応するのは、費用も時間もかかりすぎます。

根本の原因である、スギ植林という国策がもたらした山の地盤の劣化を食い止めない限り、悲劇はまた繰り返されるでしょう。林業に対する政府の介入を減らし、もっと自由な産業にすれば、大切な資産である山を保全する意欲は自然に高まるはずです。(2017/07/10

自治体サービスはなぜ改善しない

自治体サービスはなぜ改善しない
もし行きつけのバーガーキングでサービスや値段が気に入らなくなれば、近くのマクドナルドやウェンディーズに乗り換えればいい。自治体の公共サービスだとそうはいかない。町を引っ越すコストは大きいから「足による投票」はできない。だから公立学校はサービスを改善しない。
Voting with Our Feet? Local Government "Services" and the Supposed Tiebout Effect | Mises Institute

人を幸せにしない組織
今の社会でただ一つの組織だけ、他人を幸せにせず、自分だけを幸せにできる。それは政府である。政府は税を強制的に集め収入を得る。建前上、政府は市民に公共財(public goods)を供給するが、その価値が払った税を上回る保証はない。現実には税の方が公共サービスの価値をしばしば上回る。
Quotation of the Day... - Cafe Hayek

もう一つの民主主義
もう一つの民主主義がある。2〜4年にわずか1度でなく、24時間365日投票できる民主主義。それは市場経済だ。完全に自発・自律的で、重大な決定に優れる。経済の民主主義で投じた票は商品・サービスに直接影響を及ぼすが、政治の民主主義は長い目でほとんど物事を変えない。
The Marketplace — America's Other Democracy | Mises Wire

義務教育という牢獄
ドラマ「13の理由」で、主人公の女子高生はいじめから逃れる手段がなく、自殺に追い込まれる。米国で高校は義務教育のため、いじめられる生徒には事実上の牢獄だ。親の同意や屈辱的なお役所手続きなしには、学校やクラスを替われない。
Thirteen Other Reasons Why Schools Are Creating a Lost Generation

2018-07-09

「濡れ手に粟」は悪くない

「濡れ手に粟」は悪くない
相場変動などによる「棚からぼたもち」の利益はしばしば不労所得、不公正と批判される。しかし予想外の利益は未来の不確実性から生じるもので、生産のリスクに自分の財産をさらした株主に帰属するのが当然。予想外の利益や損失を否定すれば、起業家と市場経済は存在できない。
"Windfall Profits" Aren't a Problem | Mises Wire

起業促す政策を
高齢化が進むにつれ、起業に最も適した年齢層(20代後半〜40代前半)の割合は減る。その中で起業を増やすには政策が必要。個人・法人減税、キャピタルゲイン課税の軽減や撤廃、起業や事業拡大を楽にする規制緩和、資金調達を容易にする金融制度改革、移民規制の緩和などだ。
Demographics and Entrepreneurship: Mitigating the Effects of an Aging Population | Fraser Institute

商人の経済
慣習や命令に基づく原始経済には農民、兵士、行政官はいるが、商人(traders)はいない。一方、現代の経済には商人があふれる。原材料の商社、株取引のブローカー、多数の部品やサービスの提供業者、海運会社、ネット通販や家電量販店。取引が自発的である限り、あらゆる人に利益となる。
The Beauty of Trade, Contributing Guest | EconLog | Library of Economics and Liberty

資本主義なくして起業なし
アンケート調査によれば、起業には前向きなのに、資本主義は嫌いな米ミレニアル世代。この相反する感情(ambivalence)は、資本主義が価値の創造ではなく搾取だという誤解から生じる。資本主義とは自由な市場経済のこと。資本主義に対する過剰な規制は起業を促さず、むしろ妨げる。
More Proof Millennials Are Deeply Confused About Capitalism - Foundation for Economic Education

2018-07-08

マルクスの反動思想

マルクスの反動思想
マルクス主義とケインズ主義は社会変革をめざす進歩的運動ではなく、自由に向かう運動を阻止し国家の支配を再建しようとする反動的試みだった。ケインズ主義は(輸出は善、輸入は悪とみなす)新重商主義であり、マルクス主義は実際に、さらに容赦ない国家の支配を特徴とした。

社会主義という反動思想
社会主義は進歩思想ではない。産業革命がもたらす変化に対する反動思想だ。工場で多くの女性が働いて経済的に自立し、古風な道徳観の持ち主を不安にさせた。社会主義者エンゲルスは、妻が稼ぎ夫が家事をするのは馬鹿げているだけでなく、男らしさ、女らしさを奪うと嘆いた。

ナチズムの恐怖、社会主義の恐怖
ハンガリーの首都プダペストにある博物館「恐怖の館」は、ナチスドイツとソ連社会主義政権それぞれの占領時代に使われた拷問器具など、恐ろしい残虐行為について展示する。ここではあらゆる国家主義が悪だと学ぶことができる。どのように名乗ろうと大きな政府は人を抑圧する。

大義の代償
2012年に死去した英国の著名な歴史家、エリック・ホブズボーム(Eric Hobsbawm)は1989年にベルリンの壁が崩壊するまで、共産党員であり続けた。もしもソ連による社会主義の実験が成功していたら1500万〜2000万人といわれる犠牲者は正当化できるかと問われ、「できる」と答えたのは有名である。

資本主義を責めないで

ドイツ・ハンブルクで開催中の20カ国・地域(G20)首脳会議に対し、反資本主義を掲げるデモが過激化しています。記事によると、デモ隊は「格差だけを生む資本主義は機能しない」などと怒りの声を上げたそうです。しかし、もし彼らが本当に貧しい人々の立場から発言しているとしたら、資本主義に責められる理由はないはずです。

なぜなら資本主義は少なくとも産業革命以降、庶民の生活水準を大幅に向上させてきたからです。資本主義は富裕層を生みましたが、庶民の暮らしも豊かにしました。格差を生んだかもしれませんが、絶対的貧困も減らしています。問題は格差ではなく、貧困のはずです。

産業革命当時の工場労働は過酷だったかもしれません。しかしそこで働くことを選んだ人々は、農村でもっと貧しく、苦しい暮らしをしていたのです。資本主義は彼らを救いました。

資本主義における産業構造は、消費者、つまり私たち自身の必要や好みに応じて、絶え間なく変化します。企業には栄枯盛衰があり、その過程で賃金が下がったり職を失ったりする労働者も出てきます。それはたしかにつらいことです。しかし、だからといって政府が企業に賃下げや人員整理を禁止しても、解決にはなりません。むしろ将来払うツケを大きくするだけです。

痛みを小さくし、つらい期間を短くする最善の道は、企業がすみやかに成長分野に転じられるよう規制をなくし、労働市場を柔軟にすることです。すなわち、資本主義をさらに徹底することです。資本主義を責めたり恥じたりするのでなく、擁護しなければなりません。(2017/07/08

2018-07-07

ベーシックインカムの桃源郷

ベーシックインカムとは、すべての人に無条件に、基本的な生活を営むためのお金を一律に支給する社会政策の構想です。メリットとして、生活保護の対象に含まれないワーキングプアの救済のほか、社会保障の簡素化による行政コストの節約などが主張されています。しかし、そううまくいくのでしょうか。

今週、「やさしい経済学」で連載されている「ベーシックインカムを考える」(萱野稔人・津田塾大学教授)が参考になります。大きな壁は財源です。すべての日本国民に1人当たり毎月15万円を支給すると仮定した場合、15万円×12カ月×1億2000万人で、総額216兆円もの財源が毎年必要となります。

これは現在の社会保障給付費(2016年度予算ベースで118.3兆円)の2倍近い額です。萱野氏が述べるとおり、これだけの財源を今の日本政府が確保するのはほぼ不可能でしょう。あらゆる社会保障の給付をベーシックインカムに一本化し、行政コストを減らしても、せいぜい2兆円程度しか節約できないといいます。

補足すると、貧しい人が本当に必要とするのはお金ではありません。豊かに暮らすために必要なのは、衣食住をはじめとする物やサービスです。お金はそれらを手に入れる手段にすぎません。お金を着たり食べたりはできません。

ベーシックインカムの財源を確保するために企業や個人に対し増税すれば、その分、経済の生産力は落ちます。物やサービスを生み出すのは企業だし、企業に必要な投資資金を直接・間接に提供するのは個人だからです。生産力が落ちれば、物やサービスの供給は減り、物価は上がり、同じ額のお金で買える物やサービスの量が少なくなります。

貧しさをなくすのに必要なのはお金ではなく、物やサービスであり、それを生み出す生産力だということを、ベーシックインカムを推進する論者は忘れています。ベーシックインカムに限った話ではありませんが、お金をばらまいてもユートピアはやって来ないのです。(2017/07/07

貿易を戦争とみなす人々

関税は下がっても
TPP11関連法が成立、年内にも発効。農作物や工業品の輸出入の関税を引き下げる一方で、関税引き下げで「打撃」を受ける畜産農家への補助を条文に明記。関税引き下げで肉や野菜が多少安くなっても、農家への補助金のために増税されたら、果たして国民の暮らしは楽になるのか。
TPP11関連法が成立 国内手続き完了、年内にも発効:日本経済新聞

貿易を戦争とみなす人々
対米報復関税、7カ国とEUで3兆円に拡大。1930年代、恐慌に陥った米国はスムート・ホーリー法で2万品目の輸入関税を平均60%まで引き上げ。欧州などが一斉に報復関税を発動し米国の輸出は3年で半減。歴史の教訓を忘れ、政治家は貿易を戦争とみなす政策で世界を混乱に陥れる。
「自国第一」の連鎖 対米報復関税、7カ国・地域3兆円:日本経済新聞

貿易赤字は損という嘘
中国から米国への輸出額が全品目中トップでも、追加関税の標的にならないスマホなど携帯電話。付加価値の大半を商品企画・設計、販売・アフターサービスを押さえる米国が握るため。貿易赤字を損失とみなし非難するトランプ大統領の主張が、実は正しくないと知っている米政府。
深まる相互依存 国際分業、亀裂に身構え:日本経済新聞

貿易摩擦の行方
米中貿易摩擦で市場に緊張。上海株は1月の直近高値から2割超下落、日本株も連れ安。今後のシナリオ。⑴株安を食い止めようと金融緩和に走りバブル崩壊を招く⑵トランプ米政権がさすがにまずいと保護主義を撤回し世界経済危機を回避--。歴史上、⑵の劇的展開の例はあまりなし。
米中貿易摩擦、身構える世界 米制裁関税6日発動期限:日本経済新聞

2018-07-06

自由貿易って何?

自由貿易とは、国語辞典「大辞林」によれば、「国家が商品の輸出入についてなんらの制限や保護を加えない貿易。輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態」をいいます。日欧が大枠合意への道筋を付けたという経済連携協定(EPA)は、どう見ても、この定義には当てはまりません。

記事によれば、交渉が難航していたチーズは、日本側が一定枠を設け15年かけて関税を無税にするそうです。15カ月ではありません。15年です。そのとき日本がどんな政権になっているか見当もつきませんが、チーズ好きとしては、政治環境の変化で関税ゼロが反故にならないことを祈るばかりです。

一方で、政府・与党は農業団体などの反発を和らげるため、今秋をめどに支援策をまとめ、12月の補正予算案編成をめざすそうです。15年間もかける関税撤廃に対し、あきれるくらい電光石火の早業です。しかも、もし15年後に関税がゼロにならなくても、このお金は返ってきません。

政治的事情に基づいて、政府が関税や輸入制限など多数の規制をかけるようでは、とても胸を張って自由貿易とは呼べません。むしろ次のように表現するのが適切ではないでしょうか。「国家が輸出入品目・数量・相手国・決済方法などを指定して貿易を統制・管理すること」。これは「管理貿易」の定義です。(2017/07/06

2018-07-05

社会保険はなぜ行き詰まる

社会保険制度には「保険」という言葉が使われています。しかし政府が運営する社会保険は、本来の意味では「保険」ではありません。保険はもともと民間で発達したもので、経済合理性にかなった原則に基づいています。ところが民間保険をまねて作られた社会保険は、その原則を無視しています。これが先進国の多くで社会保険が機能せず、行き詰まっている理由です。

記事によれば、米国のオバマケア(医療保険制度改革法)が消滅の危機に瀕しています。収支悪化で民間医療保険会社の撤退が相次いでいるためです。全米で無保険者が急増する恐れがあるといいます。

日本を含め、民間の保険会社が販売する医療保険は、持病や既往症を持つ人は加入できなかったり、健康な人より高い保険料を支払ったりするのが原則です。病気が悪化・再発する恐れのある人と、健康な人が同じ保険料で加入できるのは不公平だからです。これを「保険技術的公平の原則」といいます。

ところがオバマケアでは、既往症による保険加入の拒否や、保険料の引き上げを禁止しました。その結果、健康状態の悪い保険加入者が増え、保険金支払いが急増。医療保険会社の収支は悪化し、オバマケア撤退が相次いでいるのです。

日本は国民皆保険制度の下、公的医療保険への加入が義務づけられているため、米国と違い、無保険者の増加という形で問題が表面化してはいません。しかし経済合理性を考慮しない本質は同じです。事実、健康な人も高い保険料を取られることに不満が強まっています。政府が運営する社会保険という20世紀型のスキームそのものが問われています。(2017/07/05

2018-07-04

資本主義と宗教

資本主義と宗教
ウェーバーの主張と異なり、資本主義の隆盛をもたらしたのはプロテスタントの信仰ではなく、宗教離れである。江戸時代の日本が新教国オランダの商人を歓迎したのは、宗教色が薄かったから。プロテスタントの元祖ルターを生んだドイツはオランダの繁栄をよそに貧困に苦しんだ。
The Role of Calvinism in the Dutch Golden Age | Mises Wire

資本主義を生んだカトリック
プロテスタントが資本主義の精神を築いたというウェーバーの見解には問題がある。近代資本主義が始まったのは18〜19世紀の産業革命期ではなく、中世、特にイタリアの都市国家においてである。これら都市国家で複式簿記は生まれた。むろんプロテスタントではなくカトリックだ。
The Economics of Calvin and Calvinism | Mises Institute

カルヴァンの寛容
宗教改革の指導者ルターもカルヴァンも自由主義者ではなかったものの、国家権力と道徳の間に一線を引く役割を果たした。カルヴァンはプロテスタント他宗派に比べ商業に寛容な態度を示し、私有財産権を擁護した。拠点としたジュネーブには多くの商人が住みつき、商業が栄えた。
From the Reformation to Austrian Economics | Mises Wire

宗教的無関心の利点
宗教改革がもたらしたのは三十年戦争をはじめとする恐ろしい長期の戦争。近代の寛容な世界に至る道がこれしかなかったかは疑問だ。フランス、スペイン、イタリアで力を持ち続けたカトリック教会を打ち負かしたのは他の宗派ではなく宗教的無関心で、まったく血を流さなかった。
Hard Questions About the Protestant Reformation – Econlib

米原発閉鎖の教訓

米スリーマイル原子力発電所が運転許可の期限まで15年を残し、2019年に閉鎖されるそうです。退場を迫ったのは、安価なシェールガスの増産です。日本と同様、米国でも原発は政府の後押しで推進されてきましたが、目算が狂った格好です。ここから学ぶべき教訓は何でしょうか。

記事によれば、米国の原発の発電コストは2014年までの12年間で約35%上昇する一方、卸電力市場での取引価格の低下で、既存原発でも競争力の維持が難しくなっています。米国は世界最大の原発大国ですが、2010年代に入り、経済性の悪化を理由に閉鎖を決める原発が相次いでいます。

米国でも原発は自由な市場経済に基づいて経営されてはいません。政治力のある大企業が政府から融資保証の形で多大な支援を受け、建造します。それでもシェール革命のような市場の変化に対応できず閉鎖に追い込まれ、これまで直接・間接に投じた税金を無駄遣いすることになりました。政府を通じて原発に回したお金を民間で有効に使っていれば、エネルギーやその他の産業がより発展したでしょう。

日本でも米国のように電力自由化が進めば、発電コストの高い原発はさらに苦境に立つ可能性があります。エネルギー安全保障の観点から、政府が支援し続けるべきだという意見もあるでしょう。しかし結局、経済合理性を無視した事業は行き詰まり、利用者や納税者に負わなくてもよかったはずのコストを押しつけ、国の経済力を弱めます。これがスリーマイル原発の教訓ではないでしょうか。(2017/07/04

2018-07-03

金密輸増が映すマイナス金利のひずみ

金の密輸入が急増しています。密輸であげた利益は反社会勢力の新たな資金源ともなっており、税関当局は監視を強化しているようです。しかし、取り締まりの強化だけでは解決できないかもしれません。今の財政・金融政策の方針が背景にあるからです。

密輸入が増えた原因は(1)消費税率の引き上げ(2)金価格の上昇--の2つとみられています。記事にあるように、日本国内の貴金属販売店では、金の投資用地金や金貨は消費税込みの価格で取引されるので、消費税を払わないで金を密輸入して国内で売却すれば、消費税分がもうけになります。2014年に消費税率が5%から8%に引き上げられ、密輸の「うまみ」が増した格好です。

今後、消費税率がさらに引き上げられたり、金価格が高騰したりするようだと、密輸はさらに増える可能性があります。どちらもその可能性は小さくありません。政府は消費税率引き上げを2019年10月に実施する方針に変わりはないとしています。金価格上昇を支える世界的な金融緩和は、米国が利上げに転じてはいるものの、地政学リスクもあり、先行きは不透明です。

密輸が増えるのは、国内で金の需要が高まっているからでもあります。銀行に預けていても手数料を差し引けば実質マイナス金利なら、金購入に回してみようと考える人が増えるのは無理もないことです。本人確認の基準などをさらに厳しくすれば、購入者の利便を損ないかねません。金密輸の増加は、出口の見えない金融緩和のひずみを映しているように見えます。(2017/07/03